1979年、アメリカ・ネブラスカ生まれ。2004年、ネブラスカ大学を卒業後に来日し、2005年より写真展を多数開催。2010年にTotem Pole Photo Galleryへ加入、2012年より「随写」シリーズをはじめ、多くの作品を発表し続けている。また、東京の写真文化を日常的に取材し、「Tokyo Camera Style」と題したブログやインスタグラムを通して積極的に発信している。写真集に『Tokyo Camera Style』(Thames & Hudson社)、『随写』(禅フォトギャラリー)、『銀園』(禅フォトギャラリー)、『Nebraska, The Good Life』(ケンズ)がある。
2024年4月、このフジヤカメラのブログで書かせていただいたLeica M6レビューの中で「Leica M6は手に入れた瞬間に、あなたの人生の一部となるようなカメラだ」と述べました。今回ご紹介するカメラは、私の写真人生において最も深く、長く、大切にしてきたカメラ、Leica MPです。私は「生涯のカメラ」と呼んでいます。今年2025年で、私はLeica MPを20年間所有していることになります。人生のほぼ半分を、この1台のカメラと共にしてきたと思うと不思議な気分です。
さて、面白い写真をお見せしましょう。
これは私がLeica MPで撮影した最初の1枚です。
この写真は2005年10月のある晩、新宿の店で中古のカメラを買ってから20分後に撮ったものです。私は友人に見せるために、新しいLeica MPを持ってニコンサロンに行きました。ギャラリーのある28階で、富士フイルムのネオパン400プレストを装填し、最初の1枚はセルフポートレートがいいと、街に映る自分を撮りました。
新しいカメラで最初に撮る写真はなぜか重要に感じます。2022年、私は新型Leica M6でもフィルムの1コマ目にはミラーに映るセルフポートレートを撮っています。興味深いことに、2012年に初めてスマートフォンiPhone 4Sで撮った写真は、自分のLeica MPでした。
約20年前の秋の夜、Leica MPを自宅に持ち帰って以来、私のLeica MPは東京の街角やアメリカ・ネブラスカの畑、千葉の田んぼのあちこちにありました。海辺にも、神社仏閣にも、地下鉄や電車の中にも、数え切れないほどのお祭りにも、結婚式にも、葬式にも、そしてドイツのウェッツラー工場にも二度 (2010年に修理のために、そして2022年にLeica本社を訪問するために)行きました。
この約20年間で、私はこのカメラで少なくとも3,500本のフィルムを撮影したと思います。簡単に言えば、このカメラは私の手と目の延長です。ほぼ同じ構造のLeicaを他に3台(M6を2台、M2を1台)持っていますが、Leica MPは他とは違って私と「シンクロ」するのです。
シリアルナンバーによると、私のLeica MPは2003年に製造されたものです。Leica M6とLeica MPの標準的なファインダー倍率は0.72ですが、私のLeica MPは珍しい0.58ファインダーです。倍率が低いので、眼鏡をかけている人でも28mmと35mmのフレームラインが見やすいことでしょう。2005年当時、私は眼鏡をかけていて、主に28mmを装着して撮影していたので、0.58ファインダーのオプションは、私がLeica M6ではなくLeica MPを選んだ大きな理由のひとつでした。その後、眼鏡からコンタクトにかえたため、35mmレンズに切り替えました。0.58ファインダーは35mmフレームラインに最適だからです。
実際に使ってみると、Leica MPとLeica M6の違いはほとんどありません。どちらもライトメーターを搭載していますが、旧型Leica M6のメーターが2つの矢印が点灯して適正露出を示すのに対し、Leica MPは点灯した矢印の間にドットが表示され、露出が適正であることを教えてくれます。これは新型Leica M6に搭載されているライトメーターと同じ表示です。
Leica MPとLeica M6、M7の大きな違いのひとつは、Leica M3スタイルの巻き戻しノブです。フィルムを巻き終えたら、カメラ前面の巻き戻しレバーを下の位置に倒し、巻き戻しノブを上に引き上げて機構を作動させます。ノブを時計回りに回すと、フィルムがキャニスターに巻き戻されます。Leica M4からLeica M7までの機種に搭載されているカント付きのレバー式に比べると、フィルムの巻き戻しに少し時間がかかる可能性はありますが、その差はごくわずかです。個人的には、このカメラより速くフィルムを巻き戻す必要があったことはありません。考えてみれば、そんなに速く写真を撮る必要があるなら、おそらくデジタルカメラを使うことになるでしょう。
長年Leica M6とLeica MPの両方を所有していますが、実はLeica MPの巻き戻しノブのスタイルの方が好きです。Leica M6の巻き戻しノブレバーはずっと小さく、時々指の間から滑り落ちてしまうことがあるのです。Leica MPのローレット加工されたノブは確実で安定しています。
正直に言うと、私のLeica MPは「ノーマル」ではありません。所有してから数年後、私は初期のMPレザーレットの標準的なシャークスキンのようなカバーを、オリジナルM4バルカナイトに近いものに交換しました。その後、カメラ前面のフレームセレクターレバーとフィルム巻き戻しレバーをLeica M4のオリジナルパーツに交換しました。
またよく見ると、私のLeica MPのアドバンスレバーはLeica M6のものです。美的にも実用的な理由からも、私はLeica MPが元々持っている金属製のM3&M2スタイルのレバーよりも、プラスチック製の先端を持つM6スタイルのレバーの方が好きなのです。フィルムが今よりもっと安くて、1日に10本も20本も撮影していた頃は、日に何百回もレバーを動かし親指に水ぶくれを作って家に帰ったことも一度や二度ではありませんでした。
しかし、私はMPメタルレバーのM6カメラをたくさん見てきました。カスタマイズは人それぞれでいいのです!私がM型Leicaを気に入っている点は、自分の好みに合わせて調整できることです。
カメラストラップに関しては、私のお気に入りはLeica純正のストラップ(製品コード14312)です。ストラップはナイロン製で、ゴム製の滑り止めパッドが付いています。高級な革製のストラップの方が見た目は良いのですが、このLeicaストラップは効果的で実用的です。
私のLeica MPの標準レンズはクロームのズミクロンM 35mm F2 ASPH.です。50mmレンズのユーザーもいれば、広角が好きな人もいると思います。私は時々エルマーM 50mm F2.8もLeica MPに装着しますが、99%はズミクロンM 35mm F2 ASPH.を使っています。その光学的な完璧さは、カメラの機械的な完璧さにマッチしています。個人的に、このレンズで一生満足できます。
Leicaによると、「MP」は「Mechanical Perfection(機械的な完璧さ)」の略だそうです。私も同感です。使用すれば、完璧さをすぐに実感できるカメラです。今日、私たちのオンライン・デジタル・ライフの多くは、ソフトウェアのアップデートやパスワードの変更、システムのクラッシュ、無線LANの必要性を伴います。Leica MPはアップデートの必要もなく、ストレージの容量が足りなくなることもありません(まあ、36枚撮影するごとに新しいフィルムを入れる必要はありますが)。
私は何年もの間、多くのLeica MPオーナーに会ってきましたが、皆「MPは生涯のカメラ」だと言います。ブラックペイントのLeica MPは、おそらく「究極」のLeicaであるようです。私は時々MP仲間に「カメラを売るつもりはないか」と尋ねるのですが、答えはいつも「NO」です。
もちろんLeica MPは高価であり、簡単に買えるものではありません。私が2005年に購入した際は、Leica M6TTLを売却し、何ヶ月間も節約し貯金をしてやっと手に入れました。ある意味でLeica MPは投資です。投資というのは単なる金銭的な意味ではなく、写真を生涯楽しむための投資だと私は考えています。もしある程度の余裕があって、Leica MPを欲しているのであれば、思い切って購入することをお勧めします。後悔はしないはずです。
今回このレビューに掲載した写真は何年にもわたって撮影したものです。私の目に留まった物事や瞬間のスナップショットで、すべて自宅で現像しています。フィルムは富士フイルムネオパン400と、イルフォードHP-5で撮影しています。データは暗室でのプリントをスキャンし作成しています。
Leica MP+Leica Summicron-M 35mm F2 ASPH.(西日暮里)
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Leica MP+Leica Summicron-M 35mm F2 ASPH.(ネブラスカ)
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Leica MP+Leica Summicron-M 35mm F2 ASPH.(谷中)
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Leica MP+Leica Summicron-M 35mm F2 ASPH.(ウェッツラー・ライツパーク)
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Leica MP+Leica Summicron-M 35mm F2 ASPH.(上野)
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Leica MP+Leica Summicron-M 35mm F2 ASPH.(新宿)
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Leica MP+Leica Summicron-M 35mm F2 ASPH.(松戸)
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Leica M6のレビューの最後にも述べたように、良いカメラとは写真を撮りたくなるようなカメラで、Leica MPは良いカメラです。手に取ると手放せなくなります。また、良いカメラは手のひらだけでなく「あなた自身」にフィットします。私にとってLeica MPはそんなカメラです。
私のLeica MPは使い古され、ボディは傷だらけで、角の一部はクロームメッキが剥がれています。私たちは多くのことを一緒に乗り越えてきた、ガイドであり、真の友人なのです。欲しいなら、買っちゃえ!
Photo & Text by John Sypal(ジョン・サイパル)