試写時に気になっていたものの、存在をコロッと忘れていたレンズ
軽量コンパクトは最高!比較撮影やブリージングもテスト
FE PZ 16-35mm F4 Gの作例
電動ズーム搭載というのも、購入の決め手。
まとめ
作例に使用したレンズ
作例に使用したカメラ
宇佐見 健(KEN USAMI)
1966年、東京都出身。日本大学芸術学部写真学科卒業後、専門誌、広告代理店を経て独立。水中から陸上のあらゆる被写体、天空のオーロラまで幅広いフィールド・分野を撮影。全天球360度カメラからハイエンドデジタルカメラと守備範囲が広い。カメラ雑誌・Web媒体等で新製品機材インプレやHow to記事等も執筆。2010年よりカメラグランプリ外部選考委員。
Instagram:@usa3ken
今夏の凄まじい暑さにはほとほと参りました。玄関を開けたとたんに心をへし折られること数え切れず。それでも業務の撮影ともなれば機材を担いで大汗かきながら遂行するしかありません。出掛けるたびに何度機材を軽くしたいと思ったことか!
ここで言う私の業務撮影とは、情報誌や企業の広報から請け負う取材仕事のこと。施設撮影や人物インタビュー、料理写真、イベントの公式記録など多岐にわたります。正直な話これらは万能な24-105mmズームでこなせる内容だったりしますが現場で編集者からのイレギュラーなリクエストへの対応や、機材トラブルなど不測の事態も想定するとカメラ1台レンズ一本なんて装備で撮影にいくことは流石にあり得ません。
望遠側の画角を稼ぐなら高画素機でAPS-Cクロップという手段も使えますが、逆に広い画角はレンズの焦点距離に頼らざるをえないため、特に施設の撮影が絡んだ場合には 16-35mmは欠かせない存在です。しかし、この酷暑に持ち出すもカメラバッグから出すこともなく稼働率が低いFE 16-35mm F2.8 GMを帰宅後メンテして除湿庫に戻すたび余計に重く感じるのです。
EマウントのF2.8仕様のGマスター16-35mmは昨年9月に発売の二世代目FE 16-35mm F2.8 GM IIが登場しています。AF駆動系を一新して高速化と小型軽量化を両立。重心移動がない光学設計や、ブリージングの抑制、絞りリングも搭載したフルモデルチェンジ。しかし動画撮影ユーザーの利便性向上がメインで、静止画ユーザーが恩恵にあずかるメリットは限定的。小型軽量化は少し羨ましいけど高価なこともあり購入を検討する段階にすら至りませんでした。
そこで俄かに存在が光って見え始めたのが、今回私が推すFE PZ 16-35mm F4 G。実は発売開始直後にweb系カメラマガジンで実写レビュー記事も担当していたのでした。
FE PZ 16-35mm F4 Gは絞り開放値をF4とすることで更なる鏡筒のコンパクト化と単体で353gという軽量化を実現しつつも、ミドルクラスGレンズの描写性能を有していることで当時の第一印象もなかなか良かったのです。高感度設定に安心して頼れる今は、開放F4はハンデには感じないし、そもそも広角系の業務用途はある程度絞り込んで被写界深度を稼ぐ撮影がほとんど。なにより鏡筒のサイズ感と軽さは私の欲求にばっちり合致します。
試写をした時点では良いなとは感じたくらいの印象で、その後は存在自体コロッと忘れていたくらい。思い返せばあの頃はだいぶ緩くなったとはいえ、依然としてコロナ禍。ソーシャルも被写体もディスタンスを取りがちだったので、私の物欲の意識は超望遠レンズに向いていたのかもしれません。
開放F値の差があるので当然ですが、初期型のFE 16-35mm F2.8 GMと並べると鏡筒サイズの差が際立ちます。手に収まりの良い鏡筒のFE PZ 16-35mm F4は、軽量なのでフルサイズ機α7C系のフラットボディとの相性も良いはず。フィルター径はFE 16-35mm F2.8 GMが82mmに対しFE PZ 16-35mm F4 Gは72mm。PLやND、プロテクターといったフィルターアクセサリーに掛かるコストも低く済むはず。
鏡筒先端側の操作リングがフォーカスリング、その次にあるのがズームリング。A(オート)ポジションに固定するアイリスロックスイッチや、中間絞りのクリックストップをオン/オフ可能な絞りリングも搭載。電動ズーム駆動なので鏡筒中央部のスライドスイッチでは動画撮影時にスピードを一定キープしたズームミングが可能です。
連日の熱中症アラートでうかつに出掛けることもままならず、クーラーの効いた部屋のパソコン画面でいろいろと物色をしているうちに、このFE PZ 16-35mm F4 Gが気になりだし、かつてレビュー用に自分が撮影した作例写真やアザーカットを見直したりしていたら、急激に欲しくなり購入を決めました。やはり実物を手にするとイイ。FE 16-35mm F2.8 GMの約半分、これ一本で327gも軽くできるのがもう最高!
せっかくGMとGのグレードの異なる16-35mmが手元にあるので、ベタな被写体ではありますが簡単な比較撮影をしてみました。あくまでも撮影結果にどの程度の差を感じるのかを検証するのが目的です。
ほぼ同一ポジションで共にワイド端16mm、絞りF8で撮影。
色調の違いは太陽と雲の加減がオートWBに影響したものでしょう。それぞれのオリジナル画像の周辺部分の描写を見比べていただけると、FE PZ 16-35mm F4 Gの頑張りが感じられると思います。
カタログスペック上は両レンズとも16mmの画角は107°ですが、FE 16-35mm F2.8 GMの画角は明らかに狭く見えます。これはピント位置により画角が変化するブリージングの影響。一般的にブリージングは動画撮影時に問題となり静止画撮影では気にしなくて良いとされていますが、静止画でも画角を損していることケースがあることは知っておくべきでしょう。
左:FE 16-35mm F2.8 GM、右:FE PZ 16-35mm F4 G
共通撮影データ:ソニーα7RⅤ・16mmで撮影
絞り優先AE(F8.0・1/50秒)・ISO100・AWB・JPEGエクストラファイン
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続いては35mm近接撮影時に得られるボケ味を見る作例画像。と言いながら視線がいくのはどうしてもピントを合わせたミニカーのヘッドライト部分。解像力の差が如実に現れています。僅かにFE PZ 16-35mm F4 Gのほうが被写界深度が深いこともあり、ボケ味は少々硬めの印象を受けます。またエンブレム部分を見るとFE PZ 16-35mm F4 Gは1枚紗の掛かったようなボケ味で、GMレンズとは明らかな違いが確認できて興味深いところです。
左:FE 16-35mm F2.8 GM、右:FE PZ 16-35mm F4 G
共通撮影データ:ソニーα7RⅤ・35mmで撮影
絞り優先AE(F4.0・1/25秒)・ISO100・AWB・JPEGエクストラファイン
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この比較作例の被写体がブリージングによる画角変化の様子を見るのにもちょうど良かったのでオマケでお見せしましょう。
左右に並んだ左の画像は手前のミニカーにピントを合わせたもの。右の画像は一番奥のミニカーにピントを移動したことで画角変化がおきた画像です。また右側の画像に入れている縦2本の青線は、左の近距離撮影時の被写体の幅を示しています。FE 16-35mm F2.8 GM ではズーム操作をしたかと思うくらいに画角が変化し、画面から被写体がはみだしそうなほど画角が狭くなったことがわかります。一方のブリージングを抑制した光学設計のFE PZ 16-35mm F4 Gではピント位置の移動でもほとんど画角変化がありません。
次の作例2枚は発売当初の撮影。レビュー記事に使用しなかった作例です。今回久しぶりに見直した際に、描写力の高さを再認識させられました。
ソニーα7Ⅳ・16mmで撮影
絞り優先AE(F4.0・1/800秒)・ISO100・AWB・JPEGエクストラファイン
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被写界深度の深い超広角16mmでも、開放絞りF4でお地蔵さんの背景に大きすぎない自然なボケ味を得られています。
ソニーα7Ⅳ・35mmで撮影
絞り優先AE(F6.3・1/640秒)・ISO100・AWB・JPEGエクストラファイン
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さほど絞り込まずにも画面周辺部までシャープに結像し、コントラストも高く鮮やかな色再現が際立ちます。
ここからは今夏の撮影で、カメラボディはα7R Vです。
ソニーα7R Ⅴ・16mmで撮影
絞り優先AE(F11・1/60秒)・+1.0補正・ISO100・AWB・JPEGエクストラファイン
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回折現象による小絞りボケが目につき始めるであろうF11。元がシャープなGレンズなので影響は出ていても許容範囲のレベルと思う。
ソニーα7R Ⅴ・23mmで撮影
シャッター速度優先AE(1/20秒・絞りF16)・-0.7補正・ISO100 AWB・JPEGエクストラファイン
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頭上の鉄骨と歩行者それぞれが作るXの影をうまい具合にシンクロできた。
スナップはふだんは標準から望遠域の焦点距離で切り詰めた構図で撮ることが好きだけど、広角スナップも面白いと再認識。
ソニーα7RⅤ・16mmで撮影
絞り優先AE(F8.0・1/1250秒)・ISO100・AWB・-0.3補正・JPEGエクストラファイン
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大きな空と夏らしい雲を捉えるのに超広角のズーム端16mmは最適な画角。
ソニーα7RⅤ・28mmで撮影
絞り優先AE(F11・1/400秒)・ISO400・AWB・JPEGエクストラファイン
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遠近感が誇張される特性を意識して、より効果的なカメラアングルや構図を探すのが楽しいレンズです。
ソニーα7RⅤ・16mmで撮影
絞り優先AE(F11・1/10秒)・+1.7補正・ISO400・AWB・JPEGエクストラファイン
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有害光対策もGレンズだけありしっかり取られています。木洩れ日のような絡ませ方では夏の強い太陽光にたいしての耐性も高く、フレアやゴーストはさほど心配要りません。この作例では光芒を整えたかったのでF11まで絞ってみました。
ソニーα7RⅤ・35mmで撮影・絞り優先AE(F8.0・1/800秒)・ISO100・AWB・JPEGエクストラファイン
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ガッツリと太陽を入れ込んでみました。作例のように特に薄っすら灯台にのっているゴーストは撮影直後のレックビューでは逃してしまうこともあるので、過信は禁物です。
ソニーα7RⅤ・35mmで撮影
絞り優先AE(F5.6・1/20秒)・+1.0補正・ISO100・AWB・JPEGエクストラファイン
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T端での最短撮影距離は0.24mと短いため料理の撮影も着席したまま余裕で行えます。
ソニーα7RⅤ・35mmで撮影(APS-Cモード)
絞り優先AE(F4.0・1/15秒)・+1.0補正・ISO100・AWB・JPEGエクストラファイン
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壁に掛かるリースをクローズアップ。背景をスッキリさせつつLEDの光をボケとして絡ませたかったのでAPS-Cモードの52mm相当の画角で撮影しています。
ソニーα7RⅤ・24mmで撮影
絞り優先AE(F8・1/500秒)・ISO100・AWB・JPEGエクストラファイン
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ズーム中間位置の描写も優秀なレンズで、近景から遠くの屋根の瓦までしっかりシャープに撮れています。それにしても暑い暑いと言いながらも気がつけばFE PZ 16-35mm F4 Gを伴い結構な距離を歩いただけでなく展望エリア的な所へ数か所登って撮影をしていました。
もちろん軽量な機材のおかげなワケですが、普段は望遠レンズの撮影を好む自分なので16-35mmだけで久しぶりに広角レンズオンリーで撮り歩くのも新鮮で面白かったのだと思います。
ソニーα7R Ⅴ・23mmで撮影
絞り優先AE(絞りF4.0・1/160秒)・-0.7補正・ISO100・AWB・JPEGエクストラファイン
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長年風雨にさらされた木彫りの質感をリアルに描写してくれた。瞳のガラス玉にはカメラを構える自分の姿がはっきりわかる程シャープだが、そのピント位置のシャープさと適度な自然なボケ味が相まって立体感の再現もできている。
ソニーα7R Ⅴ・35mmで撮影
絞り優先AE(F8.0・1/320秒)・-0.3補正・ISO400・AWB・JPEGエクストラファイン
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開放から2段絞っておそらく一番オイシイ描写のあたり。カッチリ撮りたいという撮影者の欲求にしっかりと応えてくれる。
このレンズを購入したいと考えたのはただ軽いというだけでなく、電動ズーム搭載という点も理由の半分くらいを占めています。というのは、デジタル一眼カメラにWi-Fi通信機能が標準搭載された十数年前、ハイスタンドなどを利用したリモート撮影に取り組んでいたことがあり、長らく眠っているその頃の関連機材もう一度使ってイマドキの高画素機でも撮ってみようかなと考えたからです。
そこでさっそくハイスタンドに電動リモート雲台とFE PZ 16-35mm F4 Gを装着したα7R Vを載せ、スマホアプリのリモートでテスト撮影したのが次の写真。
レンズではなくハイスタンドがもたらす撮影効果でありますが、アイレベル撮影では撮ることできない画を得られるのです。手元のスマホ画面でズームも調整できるのはパワーズームの最大の利点です。
ソニーα7RⅤ・35mmで撮影
絞り優先AE(F5.6・1/400秒)・+1.0補正・ISO100・AWB・JPEGエクストラファイン
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「それ、今ならドローンでしょ!」というご意見はごもっとも。
以前は不動産関連や工場施設などに撮影の需用があったのですが、仕事での撮影というよりはドローンを飛ばせない環境での運用や長時間のインターバル撮影でタイムラプス動画にするなど、時間がある時に風景的な撮影で愉しんでみようかと考え中。
さて、本来は「推しのレンズを紹介せよ」との企画だったはずが、だいぶ違う方向の話になってしまいました。ここまでせっかく読んでいただいてもあまり参考にはならないと思い恐縮ですが、これも今夏の猛暑が悪いのさ!ということにさせてください。
ただ、焦点距離がまるかぶりの上位レンズがありながらFE PZ 16-35mm F4 Gを購入したことに後悔は一切ないどころか、良いモノを買った!と自信をもって言えます。
ショートズームを未だお持ちでない方、購入を検討されている方には、軽さも描写の良さもいくぶんリーズナブルな点でもFE PZ 16-35mm F4 G、自信を持って推させていただきます。
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Photo & Text by 宇佐見 健(うさみ・けん)