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2022.08.20
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コシナ本社 探訪記【其の三】 × 赤城耕一 | 写真趣味人に寄り添った孤高の光学レンズメーカー

コシナ本社 探訪記【其の三】 × 赤城耕一 | 写真趣味人に寄り添った孤高の光学レンズメーカー

レンズに対する深い造詣を持つコシナは、マニュアルフォーカスにこだわるメーカーであり、それ故の高い光学性能は多くのカメラファンを唸らせるものです。

「コシナ本社 探訪記」最終回となる今回は、他メーカーの技術者に「正気の沙汰ではない」と言わしめる程のコシナのレンズに対するこだわりと、コシナを語る上で外す事ができないZEISSとの協業についてうかがいます。

インタビュアーはご自身でも多くのフォクトレンダー、ZEISSレンズを使う赤城耕一さん、デベロッパーとユーザーという立場を超えたカメラ談議に花が咲きました。

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赤城耕一さん
■ライター紹介

赤城耕一(あかぎ・こういち)

東京生まれ。出版社を経てフリー。エディトリアル、コマーシャルで活動。またカメラ・写真雑誌、WEBマガジンで写真のHOW TOからメカニズム論評、カメラ、レンズのレビューで撮影、執筆を行うほか、写真ワークショップ、芸術系大学で教鞭をとる。使用カメラは70年前のライカから、最新のデジタルカメラまでと幅広い。著書に『赤城写真機診療所MarkⅡ』(玄光社)、『フィルムカメラ放蕩記』(ホビージャパン)など多数。

Voigtlander 交換レンズ・レンズアクセサリー(新品)
Voigtlander 交換レンズ・レンズアクセサリー(新品)

MFにこだわるコシナのレンズ設計の思想をフカボリ

コシナ・Voigtländer(フォクトレンダー)レンズの魅力は他のレンズメーカーではあまり重視されない、外装の質感やロータリー(回転)フィーリングなど操作系も及ぶが、本稿の3回目は20年に及ぶユーザーとして筆者がいまだに感心を持ってみているコシナ製品の思想的な背景にも迫りたい。

ご存知の通り、コシナ・フォクトレンダー、コシナで製造されているZEISS(ツァイス)はすべてMF(マニュアルフォーカス)である。これは現代のカメラに用意されたレンズ群と比較すると利便性からは遠いし、当たり前だけどフォーカシングの合焦の的確さ、責任は撮影者に委ねられる。

「AF(オートフォーカス)では不可能なレンズ設計を行なっています」佐藤和広(コシナ営業開発・広報)

これはどういうことだろう。

「AFは内部のレンズをモーターにより物理的に動かし、焦点を合わせます。このためレンズを動かす位置や、硝材の重量も無視できませんから設計が規制されることがあります。
MFなら光学設計を優先した、自由度の高い設計が可能です」三神政之(コシナ技術 開発部部長)

なるほど、コシナ・フォクトレンダーの光学性能の個性、優秀さはこうしたところにも理由もあるのだ。

筆者の場合は街中でスナップショットをよく撮影するので、条件によっては、MFに切り替えて撮影することも少なくない。

ところが、通常のAFレンズではMFに切り替えても使いやすいわけではない。フォーカスリング内からはグリースが失われてしまい、シャリシャリしたギヤの軽いフィーリングで、特定の距離に固定しようにもすぐに動いてしまうこともあるからだ。

微妙な指先のフィーリングで最良のフォーカスを追い込むことは相当に難しい。旧来のヘリコイドのあるコシナ・フォクトレンダーのレンズの方がMFでの心地よさははるかに上質であり設定した距離を固定しておいても、力を加えなければ動くことはない。

「フォーカスリングのトルクも数値化できなくはありませんが、最終的には指の感覚も重要視して決めることになります」(嶋田仁 コシナ技術 開発部)

最近では、とくにミラーレス機用の交換レンズなど、一部の製品ではMF時にも設定距離まではモーター駆動するものもあるから繊細なMFでのフォーカシングには苦労する。

MINOLTA(ミノルタ)CLE+HELIAR(ヘリアー)40mm F2.8 Aspherical L (L39)+MLリング
MINOLTA(ミノルタ)CLE+HELIAR(ヘリアー)40mm F2.8 Aspherical L (L39)+MLリング

ヘリアー40mmF2.8 L (L39)をMLリング(Mバヨネットアダプター)を介してミノルタCLEに装着。超コンパクトでクラシックな鏡筒デザイン、でも高性能光学設計。最近どういうわけか人気になっている焦点距離40mmをラインアップさせるところなどさすがである。

Voigtländer(フォクトレンダー)HELIAR(ヘリアー)40mm F2.8 Aspherical L (L39)
Voigtländer(フォクトレンダー)HELIAR(ヘリアー)40mm F2.8 Aspherical L (L39)
Voigtländer(フォクトレンダー)レンズ作例1
ライカM10-P・HELIAR(ヘリアー)40mm F2.8 Aspherical L (L39)・MLリング
絞りF4・1/750秒・-0.67EV補正・ISO400・WBオート・DNG(RAW)

標準50mmレンズよりも肉眼の視角に近く感じる40mm。見たものをサラッと撮影してゆくのに適している。

性能面でも無理なく、正統派のヘリアーらしさを堪能することができる。

純正レンズに合わせて、フォーカスリングの回転方向の合わせる恐るべき徹底ぶり

最近のミラーレス用の交換レンズではレンズ鏡筒に距離指標がフォーカスリングに表記されていないものが増え、目測による距離設定も難しくなってきた。筆者の場合は長年、自分の肉眼と体で感覚的に覚えてきたスナップ撮影方法が逆に制限されてしまうことになるのだ。

こういう話をカメラメーカーの方々にすると、決まって「いやいや、アカギさんの目測能力よりも弊社のカメラのAFの方が上ですから安心してカメラ任せにしていただいて」と言われるが、それは理屈として当たり前のこと。問題はそうではない。現代カメラとレンズのシーケンスと昔からのこちらの撮影スタイルとに開きが出てきてしまったのだ。この違和感はなかなかに解消できないでいる。

コシナが徹底しているなあと思うのは、カメラメーカーの純正レンズに合わせて、フォクトレンダーレンズのフォーカスリングの回転方向を合わせてきていることもある。マウントに合わせて、鏡筒設計を変更せねばならないのでこれは相当なコストがかかるので、普通のレンズメーカーは行わない。

最近はAFで撮影するのが普通だから、撮影者がフォーカスリングに触れる機会は大幅に減っている。フォーカスリングの回転方向までを意識して使用しているユーザーは最近少ないだろう。しかし、コシナはこのことを決して潔しとしないのである。

とあるカメラメーカーのエンジニアにこの話をしたことあるが、このエンジニアはそれは正気の沙汰でないとはっきりと言い切った。

多品種少量生産を得意とするコシナだからできることなのだが、MFであることをある意味矜持とするコシナ・フォクトレンダーレンズの存在感を示すための重要な要点になっているのかもしれない。「わかる人だけにわかればいい」のである。

SONY(ソニー)α7R Ⅳ+APO-LANTHAR(アポランター)50mm F2 Aspherical E-mount
SONY(ソニー)α7R Ⅳ+APO-LANTHAR(アポランター)50mm F2 Aspherical E-mount
Voigtländer(フォクトレンダー)APO-LANTHAR(アポランター)50mm F2 Aspherical E-mount
Voigtländer(フォクトレンダー)APO-LANTHAR(アポランター)50mm F2 Aspherical E-mount
【ALT】

SONY(ソニー)α7R Ⅳ・APO-LANTHAR(アポランター)50mm F2 Aspherical E-mount
絞りF2開放・1/500秒・+0.3EV補正・ISO400・WBオート・RAW

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APO-LANTHAR(アポランター)50mm F2 Asphericalは現在VMとE、Zマウントがあるがそれぞれのセンサー特性、カバーガラスの厚みに合わせてそれぞれ設計が異なっている。レンズの性能を最大限に発揮させるためには必要なことだとコシナの光学設計者は述べるがこれは大変なことだ。写真はEマウントのアポランター50mmF2だが、ツッコミどころのない性能だ。

コスト度外視、各カメラに搭載されたセンサーの特性に合わせたレンズ光学設計

またもう一つ重要な点がある。

コシナ・フォクトレンダーレンズには、現在レンジファインダーライカとミラーレスカメラ用のレンズマウントとしてVM(ライカMマウント)、E(Eマウント)、Z(ニコンZマウント)、X(富士フイルムXマウント)の各種マウントのレンズが存在するが、驚いたことに同じスペックのレンズでも設計が変更されたり、微妙なチューンが行われていることだ。

「各カメラメーカーによって異なるセンサー前のカバーガラスの厚みや、センサー前の集光レンズなどによって変化する光線の入り方に光学設計を合わせています」(柴田裕輝 コシナ 技術開発部)

たとえばVMマウントは今やマウントアダプターによって「ユニバーサルマウント」化しているので、あらゆるカメラに装着されて使われている。コシナからもVM-EマウントアダプターⅡも発売されているくらいだ。しかし、本来は各メーカーのカメラに搭載されたセンサーの特性に合わせたレンズの光学設計が行われていなければ、コシナの考えるレンズ性能は発揮できないだろうという考え方が根底にあるのだ。

このあたりもぶったまげてしまうような話であり、コストから考えれば本来はあり得ないはずである。しかし、この要件も、しらっとコシナはやってのけてしまうわけだ。驚きである。

Voigtländer(フォクトレンダー)NOKTON(ノクトン)D35mmF1.2、ニコンZ fc

ニコンZ fc用のために生み出されたNOKTON(ノクトン)D35mmF1.2。ニコンFマウントのニッコールオート50mmF2のオマージュである。本家ニコン顔負けの企画ではないか。APS-Cサイズ(ニコンDX)対応レンズ。

Voigtländer(フォクトレンダー)NOKTON(ノクトン)D35mmF1.2 距離指標

NOKTON(ノクトン)D35mmF1.2の距離指標、被写界深度指標。絞り数値の色と被写界深度指標の色を同一化して視覚的にわかりやすくしている。

Voigtländer(フォクトレンダー)レンズ作例2
Voigtländer(フォクトレンダー)NOKTON(ノクトン)D35mmF1.2 Z-mount
Voigtländer(フォクトレンダー)レンズ作例3
ニコンZ fc・NOKTON(ノクトン)D35mm F1.2 Z-mount・絞りF7.1・1/1000秒・-1EV補正・ISO400・WBオート・RAW

最近の多くのレンズは絞りや撮影距離で性能が変化することなく安定している。これは理想的なものかもしれないが、本レンズは撮影距離や絞りによりわずかに描写傾向が変わるのが面白い。作例は少し絞り込んでキリリとした描写を狙ってみた。

7月13日発売! Voigtländer(フォクトレンダー)NOKTON(ノクトン)23mm F1.2 Aspherical X-mountを緊急実写

35mm判換算35mm相当の画角となるMF単焦点レンズ。フォクトレンダーのXマウント用レンズとしては2本目だ。レンズ構成は6群10枚(両面非球面1枚、異常部分分散ガラス2枚を含む)。最短撮影距離は18cm。絞り羽根は12枚。絞りクリック1/3段。電子接点を有しており、ボディ側との通信が可能。Exif記録、フォーカスチェック、撮影距離連動表示、ボディ内手ブレ補正、パララックス補正に対応(一部機種を除く)。MF設計を生かしたコンパクトな設計で携行性は抜群。フォーカスリングのまったりとしたトルク感も魅力。距離指標を有しているので、日中晴天下など、絞りを稼げる状況では被写界深度を生かした目測スナップを行うことが可能。絞り開放では若干軟らかさを感じる描写だが、絞りによって鋭さが増す。撮影距離によってもわずかに性能が変化するようだ。絞り設定で描写を変化させることができる魅力的な設計だ。

Voigtländer(フォクトレンダー)NOKTON(ノクトン)23mm F1.2 Aspherical X-mount
Voigtländer(フォクトレンダー)NOKTON(ノクトン)23mm F1.2 Aspherical X-mount
Voigtländer(フォクトレンダー)作例4
FUJIFILM(富士フイルム)X-T3・NOKTON(ノクトン)23mm F1.2 Aspherical X-mount
絞りF5.6・1/1250秒・-0.67EV補正・ISO200・フィルムシミュレーションPROVIA・WBオート・RAW

窓枠を生かして構成。歪曲収差が大きいと滑稽な写真になりそうだが、本レンズの補正は見事で、真っ直ぐなものが真っ直ぐに表現される。

Voigtländer(フォクトレンダー)作例5
FUJIFILM(富士フイルム)X-T3・NOKTON(ノクトン)23mm F1.2 Aspherical X-mount
絞りF8・1/1250秒・-0.67EV補正・ISO400・フィルムシミュレーションACROS・WBオート・JPEG

都市風景。絞り込むとギンギンというかコントラストはさらに上昇して全画面に渡り均質性の高い画質になる。

Voigtländer(フォクトレンダー)作例6
FUJIFILM(富士フイルム)X-T3・NOKTON(ノクトン)23mm F1.2 Aspherical X-mount
絞りF1.2開放・1/480秒・-0.67EV補正・ISO200・フィルムシミュレーションPROVIA・WBオート・JPEG

百日紅(サルスベリ)。絞り開放では、ハイライト部分にわずかに滲みを感じさせる描写。これは意図的な設計だろう。焦点距離は短いが、ボケにはクセがない。

Voigtländer(フォクトレンダー)作例7
FUJIFILM(富士フイルム)X-T3・NOKTON(ノクトン)23mm F1.2 Aspherical X-mount
絞りF1.2開放・1/110秒・-1.67EV補正・ISO400・フィルムシミュレーションPROVIA・WBオート・JPEG

バスの強いライトが画面内に入っているのだが、大きなゴーストやフレアは出ていない。撮影距離が遠くなると開放でも合焦点は鋭い描写になる。

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Carl Zeiss(カールツァイス)と、レンズの製造・販売を協業

Carl Zeiss(カールツァイス)のブランドの製品の一部もコシナで製造、販売が行われているが、こうしたこだわりのあるところはツァイスとコシナは似ている面もあるように思うのだが、どうなのだろうか。

筆者などは「ツァイス」「T*(ティースター)コーティング」と聞いただけでレンズ神と思ってしまうような年代でもあるわけだけど、協業をしているということはツァイスもコシナの高い技術力を認めているからパートナーに選んだのである。

「T*と言ってもツァイス独自の特別なレシピがあるわけではなく、T*の品質規格に見合うコーティングを自社で作り上げる必要があります」佐藤和広(コシナ営業開発・広報)

とはいえ、どこでもツァイスレンズの製造ができるわけもなく、もともとコシナは液晶プロジェクター用レンズの開発などで写真レンズを遥かに超える何十層もの多層膜コーティング技術を有しており、T*の技術に関してもそれが活かされたということだ。

Carl Zeiss(カールツァイス)ZM(Mマウント互換)レンズシリーズ

Carl Zeiss(カールツァイス)ZM(Mマウント互換)レンズシリーズはライカ純正レンズより廉価な設定なので入手しやすい。設計はフィルムカメラ時代のものだし新しくはないが、安定感のある描写性能を感じさせる。デジタルでの使用でも問題ないだろう。あくまでも光学性能重視という設計思想のため、一部のレンズでは製造効率を無視するかのような設計が行われ、コシナでは苦労したらしいが、こうした製造上の都市伝説を産んでしまうのはいかにもツァイスらしい。

T*刻印

T*刻印は日本ではシンボライズされている。コーティングに対して絶対的な信頼があるからだろう。コシナではさまざまな分野の光学機器に携わっていたこともあり、ツァイスの求めるT*コーティングを製造することができたわけだ。

「ずいぶんと勉強させてもらいました」三神政之(コシナ 技術 開発部部長)

ZEISS(ツァイス)製造が始まった当初、その厳格な製造工程やツァイス独自の厳しい製品検査状況をコシナの工場にて見学させてもらった。

この時のことはよく覚えていて、こちらも息が詰まる思いで拝見していた。カールツァイスとの協業から20年近くを経た今は、コシナ内部ではゆとりを持ってツァイスレンズも製造されているようにみえた。

カールツァイスとコシナの協業が発表される前に筆者もオーバーコッヘンとイエナのツァイスを訪問してレンズの製造過程を拝見したことがあるが、正直、本家ツァイスの方が、製造や品質管理などはユルいのではないかと感じたくらいだった。

「こちらのやり方とはまったく異なる設計を見て、ずいぶんと勉強をさせてもらいました」三神政之(コシナ技術 開発部部長)

ツァイスによる光学設計、コシナによる製造という基本路線が取られた当初は製造には非効率に感じる設計の製品も少なくなかったようで、ツァイス技術陣との設計変更などのすり合わせに苦労したこともあったという。相手は誇り高き天下のツァイスだ。これはなかなか一筋縄にはいかないだろう。

T*刻印

ツァイスと協業しレンズ製造するにあたり、コシナ工場に導入されたカールツァイス製のプロダクト用のMTF測定器。プロダクト用に欠かせないものであり、この検査器を通したレンズであるからこそツァイスを名乗ることができるわけだ。

ライカ純正レンズとは異なる写りの雰囲気を味わえるZMレンズたち

ライカ純正のMマウントレンズは昔と異なり広角でも一眼レフと同じようなレトロフォーカスタイプ設計が中心になったことがある。これはライカM6のTTLメーターの受光素子の光路を、装着レンズの出っぱった後玉が遮ることのないように配慮をしたためだと想像できる。

それに反してツァイスのZM(Mマウント互換)の広角レンズはレンジファインダーカメラの王道である対称型設計の「ビオゴン」が中心であるものの、後玉が大きく迫り出したりはしておらずライカM6でも、現代のデジタルのM型ライカシリーズでもTTLメーターを問題なく使用することができた。後発ではあるけど、設計には妥協せずとも利便性を確保したということだろう。

こうしたツァイスの光学設計上の違いはライカ純正レンズと写りの雰囲気の違いをもたらしたし、今ではデジタルのM型ライカシリーズでも味わえるというのはとても興味深いことだ。しかもZMシリーズレンズはライカ純正レンズと比較すると廉価に入手することができるので、このことはフォクトレンダーブランドのレンズとともに大きな意味があると考えている。

ライカM10-Pに装着したBiogon(ビオゴン)T* 2/35 ZM

ライカM10-Pに装着したBiogon(ビオゴン)T* 2/35 ZM。1/3絞りでの設定が可能で、デザインは往時のライカスクリューマウントのトプコール50mmF2に似ていたりするところが興味深い。

ZEISS(ツァイス) Biogon(ビオゴン)T* 2/35 ZM
ZEISS(ツァイス) Biogon(ビオゴン)T* 2/35 ZM
【ALT】

ライカM10-P・Biogon(ビオゴン) T* 2/35 ZM
絞りF8・1/1000秒・-1EV補正・ISO400・WBオート・DNG(RAW)

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35mmレンズは筆者が最も好む焦点距離であるが、本レンズは発売時から現在まで愛用しているがとても信頼している一本だ。ギンギンのシャープネスというより階調を細かく繋いでいく。明暗差が大きい条件、地味な被写体や悪条件下で力を発揮するように思う。

ZEISS(ツァイス)Milvus(ミルバス)2.8/15 ZE、Milvus(ミルバス)2.8/15 ZF.2
ZEISS(ツァイス)Milvus(ミルバス)2.8/15 ZE、Milvus(ミルバス)2.8/15 ZF.2
ZEISS(ツァイス)レンズ作例2
Canon(キヤノン)EOS R5・マウントアダプターEF-EOS R・Milvus(ミルバス)2.8/15 ZE
絞りF8・1/640秒・ISO200・WBオート・RAW

エポックメイキングレンズ、Otus(オータス)1.4/55誕生の衝撃

もう一つツァイスが日本のカメラメーカー、レンズメーカーに大きな影響をもたらした製品がある。

これがカールツァイス120年の歴史のエポックとなる。Otus(オータス)シリーズの交換レンズの誕生だ。2014年の最初に登場したOtus 1.4/55の注目すべきは、なんとディスタゴンタイプすなわちレトロフォーカスタイプの設計だったことだ。このレンズ登場前に筆者はとある日本のカメラメーカーのレンズ設計者に標準レンズはレトロフォーカスにした方が性能よりよくなるのではという話をしたことがあるが、設計者からは「大きくなり過ぎます!」と一蹴されたことを思い出した。

ZEISS(ツァイス)Otus(オータス) 1.4/55 ZE、Otus (オータス)1.4/55 ZF.2
ZEISS(ツァイス)Otus(オータス) 1.4/55 ZE、Otus (オータス)1.4/55 ZF.2
ZEISS(ツァイス)レンズ作例4
ニコンDf・Otus(オータス)1.4/55 ZF.2
絞りF1.4開放・1/4000秒・ISO100・WBオート・JPEG

合焦点の驚くほどのシャープネスと高いコントラストはそれまでのガウスタイプの標準レンズとは一線を画する。通常のレンズよりも被写界深度が浅く感じるのは、ピントの頂点が鋭すぎるからだろう。

【ALT】

ニコンDf・Otus(オータス)1.4/55 ZF.2
絞りF1.4開放・1/4000秒・-0.67EV補正・ISO100・WBオート・JPEG

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至近距離でも性能は変わらない。描写性能を向上させるための絞り込みは不要だ。ボケ味も自然で良い感じだ。近代標準レンズの基準を作ったと言っても過言ではないだろう。

妥協のないレンズづくりができるコシナだから生まれたOtus(オータス)

Otus(オータス)の製造技術の難しさも生半可なものではなくて、相当な苦労があったというが、妥協のないレンズ作りができるコシナがあったからこそ出来上がったツァイス製品なのではないか。机上での設計理論として出来上がっても、それを実現できるかどうかはわからない。

「最初にOtusの仕様をみて、とてもではないけど、これはできるものじゃないなと、でも受け入れてみようということになったのです」三神政之(コシナ技術 開発部部長)

ここにもコシナは他の会社がやらないことをやろうとする精神が息づいているようだ。

一切の制約と妥協せずに造られた、Otus 1.4/55だが世界中の全標準レンズの中でもベンチマークともなりうる存在となるものとなる。非球面レンズや異常部分分散ガラスを贅沢に採用し、レンズ構成は10群12枚にもなった。

さらに驚いたのは、そのレンズタイプは標準レンズに多い一般的なガウスタイプではなくディスタゴン(レトロフォーカス)タイプの光学設計が採用されたことだ。このため絞り開放から全画面にわたり周辺まで画質の均質性に優れた超高性能レンズとなったのだ。各収差補正にも優れ、歪曲や色収差などを完璧といえるまで補正している。

ところが先に述べたように性能とのトレードオフで重量は単体で960g(ZF.2マウント)という標準レンズとしては脅威の大きさ重さになったが、これは商業上の製品としての制約を取り払い、光学設計のみを追求したらどのような標準レンズができるのかという意味で、光学設計者には夢の製品と言えるものであろう。もちろんツァイスのブランドがあるからこそ実現できたのであろう。

写真趣味人にとっての頼もしい存在、それがコシナだ

Otus登場後は各カメラメーカーも標準レンズのレトロフォーカス化に着手して標準レンズ全体の性能向上の役割を果たした。Otusは各方面に大きな影響を与えた。のちにOtusシリーズには28mmや85mmも加わり、これらの焦点距離の大口径レンズにおいても一つの描写の性能基準となっている。

「カメラメーカーの営業の人は、新しい標準レンズができるとそれを持ってきて見せてくれるのですけど“性能はOtus並みですから”って必ずみんな言うんです」(北原弘明 フジヤカメラ制作部)

スマートフォンの発展で、ともすればカメラ、レンズの存在意義は何かと問われることも多くなったが、趣味の世界にはなんら影響はないものだ。利便性とは対極にある製品を毎月のように発表しているコシナは写真趣味人にとって、なんと頼もしい存在であろうか。

フォーカシングをMFとすることで写真撮影の基本に立ち返えることができ、それを楽しみとしてしまうコシナ・フォクトレンダーレンズ。そして、あらゆる角度から妥協なき光学性能を追求するカールツァイス思想を取り入れたツァイスレンズは、いずれも将来にわたってその魅力は衰えることはないだろう。

ZEISS(ツァイス)レンズ作例5
Canon(キヤノン)EOS 5D MarkⅣ・Otus(オータス)
1.4/28 ZE・絞りF1.4開放・1/2000秒・-0.33EV補正・ISO400・WBオート・RAW
ZEISS(ツァイス)Otus(オータス) 1.4/28mm ZE、Otus(オータス) 1.4/28mm ZF.2
ZEISS(ツァイス)Otus(オータス) 1.4/28mm ZE、Otus(オータス) 1.4/28mm ZF.2
ZEISS(ツァイス)Otus(オータス) 1.4/85 ZE、Otus(オータス) 1.4/85 ZF.2
ZEISS(ツァイス)Otus(オータス) 1.4/85 ZE、Otus(オータス) 1.4/85 ZF.2
ZEISS(ツァイス)Otus(オータス) 1.4/100 ZE、Otus (オータス)1.4/100 ZF.2
ZEISS(ツァイス)Otus(オータス) 1.4/100 ZE、Otus (オータス)1.4/100 ZF.2

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【代替テキスト】

【 スペシャルリポート 】永久保存版! Voigtländer(フォクトレンダー)試作機の世界

1999年のコシナ・フォクトレンダーの登場から23年を経たが、この間に世の中に出なかった製品も数多くある。

興味深いのは写りとは直接関係のないデザイン面や表記、塗装や仕上げなどに何度となく細かい試作検討が重ねられていることだ。

初期のライカスクリューマウントやVMレンズはライカレンズの初期のタイプにデザイン面では影響を受けているものも見受けられたが、今となっては逆にこれがライカを刺激しているようなところもある。

また昨今のミラーレス用交換レンズは味気ない、茶筒みたいな色気のないデザインのレンズも多くなった。コストダウンや、機能面では不要という判断からである。

フォクトレンダーのMFレンズはフォーカスリングの表記やローレットも実用以上にデザイン的に重要な要素になる。これもある意味ではMFであることを利用していることになるわけだ。これもまた他のメーカーがやらないことをやるという意味でもその意義は大きい。

ULTRA WIDE-HELIAR(ウルトラワイドヘリアー) 12mm F5.6 Aspherical L39 試作品

ULTRA WIDE-HELIAR(ウルトラワイドヘリアー) 12mm F5.6 Aspherical L39 試作品。深度目盛りのデザインが量産品と異なる。

COLOR-SKOPAR(カラースコパー) 18mm F4 L39マウント 試作品

COLOR-SKOPAR(カラースコパー) 18mm F4 L39マウント 試作品(未発売)。

NOKTON(ノクトン) 35mm F1.2 Aspherical Sマウント 試作品

NOKTON(ノクトン) 35mm F1.2 Aspherical Sマウント 試作品。

ULTRON(ウルトロン) 35mm F1.7 Aspherical L39 試作品

ULTRON(ウルトロン) 35mm F1.7 Aspherical L39 ft目盛り黄色、フードのネジ位置合わせて穴あきフード 試作品。

COLOR-SKOPAR(カラースコパー) 35mm F2.5 C L39マウント 試作品

COLOR-SKOPAR(カラースコパー) 35mm F2.5 C L39マウント ft目盛り黄色の試作品。

COLOR-SKOPAR(カラースコパー) 35mm F2.5 デザイン違い 真鍮ブラックペイント

COLOR-SKOPAR(カラースコパー) 35mm F2.5 デザイン違い 真鍮ブラックペイント。

COLOR-SKOPAR(カラースコパー) 35mm F2.5 デザイン違い 真鍮ブラックペイントとクローム

COLOR-SKOPAR(カラースコパー) 35mm F2.5 デザイン違い 真鍮ブラックペイントとクローム。

HELIAR(ヘリアー) 40mm F2.8 for Close Focus Adapter

HELIAR(ヘリアー) 40mm F2.8 for Close Focus Adapter。量産品はニッケル。試作はクローム。

107-SW。BESSA-Lのコシナブランド

107-SW。BESSA-Lのコシナブランド、一部の海外で発売したモデル。

BESSA-R ゴールド

BESSA-R ゴールド。リングフォト35周年記念でプレゼントしたモデル(非売品)。

BESSA-T 101モデル試作

BESSA-T 101モデル試作。製品名文字がゴールド、量産は白。

BESSA HALF 試作品

BESSA HALF 試作品(未発売)。

BESSA 667

BESSA 667。フジフイルムGF670のVoigtländer版、一部地域で発売。

BESSA 667W

BESSA 667W。フジフイルムGF670WのVoigtländer版、一部地域で発売。

BESSA 667W

コーティング有無試作。ZEISS(ツァイス) Planar(プラナー) 1.4/85のコート有無モデル(展示室にサンプルとして展示)。

流星観測用レンズ

流星観測用レンズ。マイクロフォーサーズ用NOKTON(ノクトン)10.5mm F0.95 Asphericalをカスタマイズして製作したモデル。

コシナ本社にある、歴代製品の展示室

コシナ本社にある、歴代製品の展示室。



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株式会社コシナ 営業開発本部 営業・管理部 商品宣伝広告担当  係長  佐藤和広さん

株式会社コシナ 営業開発本部 営業・管理部 商品宣伝広告担当 係長 佐藤和広さん

株式会社コシナ 営業開発本部  技術・開発部 部長  三神政之さん

株式会社コシナ 営業開発本部 技術・開発部 部長 三神政之さん

株式会社コシナ 営業開発本部 営業・開発部 第一設計グループ  嶋田  仁さん、営業開発本部 営業・開発部 第三設計グループ  主任 柴田裕輝さん

株式会社コシナ 営業開発本部 営業・開発部 第一設計グループ 嶋田 仁さん
株式会社コシナ 営業開発本部 営業・開発部 第三設計グループ 主任 柴田裕輝さん

株式会社コシナ 営業開発本部 営業・開発部 第一設計グループ  嶋田  仁さん、営業開発本部 営業・開発部 第三設計グループ  主任 柴田裕輝さん
株式会社コシナ 営業開発本部 営業・開発部 第一設計グループ  嶋田  仁さん、営業開発本部 営業・開発部 第三設計グループ  主任 柴田裕輝さん
フジヤカメラ 制作部 北原

フジヤカメラ 制作部 北原

フジヤカメラ 制作部 北原

今回、お話を伺った2人の若手技術者。写真左から、株式会社コシナ 営業開発本部 営業・開発部 第一設計グループ 嶋田 仁さん、筆者の赤城耕一さん、株式会社コシナ 営業開発本部 営業・開発部 第三設計グループ 主任 柴田裕輝さん。

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まとめ

  • ・MF(マニュアルフォーカス)なら光学設計を優先した、自由度の高い設計が可能

  • ・繊細なフォーカシングを支えるフォーカスリングのトルクは、最終的には指の感覚も重要視して決める

  • ・純正レンズに合わせてフォクトレンダーレンズのフォーカスリングの回転方向を合わせている

  • ・各種マウントに合わせて、同じスペックのレンズでも設計が変更されたり、微妙なチューンが行われている

  • ・Carl Zeiss(カールツァイス)がパートナーに選んだコシナの高い技術力

  • ・液晶プロジェクター用レンズの開発などで培われた、写真レンズを遥かに超える多層膜コーティング技術が、T*の技術にも活かされた

  • ・ZMの広角レンズはレンジファインダーカメラの王道である対称型設計の「ビオゴン」が中心、レトロフォーカスタイプ設計が中心になったライカ純正のMマウントレンズとの写りの雰囲気の違いも

  • ・妥協のないレンズ作りができるコシナがあったからこそ出来上がった、ツァイスを代表する高性能レンズ「Otus(オータス)」

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Photo & Text by 赤城耕一
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