特徴・操作性
F0.9という圧倒的な明るさを持つX-mount の標準レンズ
シャープな描写と美しいボケを両立
コンパクトなデザインと滑らかで良好な操作性
実写レビュー
美しく大きなボケを活かした撮影が楽しい
F0.9でありながら開放でも中心部は高い解像感
コンパクトで扱いやすい操作性
VoigtlanderはFUJIFILM X-mountとの相性抜群!
画質
解像感
周辺部画質
F値によるフリンジの変化
フレア・ゴースト
比較
純正レンズ FUJIFILM XF35mmF1.4 Rとの比較
フルサイズ50mm F1.4のボケの大きさを比較
撮影のポイントと注意点
おすすめユーザー
開放F0.9による大きなボケ
レンズや写真に慣れたユーザー向き
大きなボケを活かした作画をしたいユーザーにおすすめ
作例に使用したカメラ
FUJIFILM X-H2
作例に使用したレンズ
Voigtlander NOKTON 35mm F0.9 Aspherical X-mount
まとめ
Voigtlander NOKTON 35mm F0.9 Aspherical X-mount の特徴として先ず挙げたいのは開放F0.9の明るさです。
F1.0を超える非常に明るい開放F値は、APS-Cカメラの短所としてよく言われる「ボケが小さい」というデメリットを相殺して余りあります。
又、暗所でもISO感度を低く抑える事ができるので、フルサイズカメラのような高感度ノイズの少ない写真を撮る事ができるというメリットも見逃せません。
かつては、F1.0を超えるような極端に明るいレンズの特徴として描写性能が悪いという欠点がありました。
しかし、Voigtlander NOKTON 35mm F0.9 Aspherical X-mount は、ミラーレス専用のショートフランジバック設計と、イメージサークルの小さいAPS-Cサイズ用という2点が有利にはたらき、開放でも特に中心部は非常にシャープな描写となっています。
開放F値が明るいからと言って、描写性能に妥協せずに安心して使えるレンズです。
一眼レフ時代の大口径レンズと言えば、びっくりするくらい大きいというのが常でした。
大きい事で操作性や持ち運びやすさがどうして犠牲になっていましたが、Voigtlander NOKTON 35mm F0.9 Aspherical X-mount は、コンパクトにデザインされているおかげで特殊なレンズを使っているという感覚はありません。
フォーカスリングの滑らかな動きや絞りリングのクリック感などとても良好なので、マニュアルフォーカスレンズでありながらストレスなく撮影に集中できます。
作例1:F0.9 1/280 ISO125 露出補正-0.3 フィルムシミュレーション:ETERNA
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
ファインダーで大きく美しいボケを楽しみながら撮影を進めました。
フルサイズに慣れているとAPS-Cカメラはボケが物足りないと感じる事も多いのですが、さすがに開放F0.9は35mmと短めの焦点距離でもかなり大きなボケを楽しむ事ができます。
夏場の日中の撮影ではシャッタースピード1/8000でもF0.9開放は厳しいので、NDフィルターを併せて購入することをおすすめします(今回のテストではND16を常時装着)
作例2:F0.9 1/400 ISO250 露出補正±0 フィルムシミュレーション:クラシッククローム
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
開放F0.9というと「特殊」なスペックと言っていいと思いますが、ボケ味に大きなクセもなく開放から安心して使えました。
柔らかいボケとシャープに立ち上がるピントが合った部分との対比の美しさを満喫する事ができるレンズです。
勿論、ピントにはシビアになる必要がありますが、テストボディに選んだX-H2はボタンひとつでファインダー像を拡大できる上、見え味も極上なので、ピント合わせのストレスは少なくてすみます。
作例3:F0.9 1/340 ISO500 露出補正±0 フィルムシミュレーション:クラシッククローム
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
中心部では開放から十分以上の高い解像感を持っています。
F1.0を超えるレンズは、通常開放ではかなり眠い描写である事が多いのですが、Voigtlander NOKTON 35mm F0.9 Aspherical X-mount は、ピントはシビアでも描写が大きく落ちる事は無く、このクラスのレンズとしてはかなりシャープな部類に入ると思います。
悪く言えば個性に乏しいとも言えますが、個人的にはこのスペックで安心して開放から使える描写性能は、使い勝手の面で大きなメリットを感じました。
作例4:F0.9 1/2400 ISO500 露出補正±0 フィルムシミュレーション:クラシッククローム
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
「中心部では」という注釈を付けたとおり、周辺部ではやや眠めの描写となります。
とは言え、この明るさでは中心部にピントを合わせれば周辺部はコサイン誤差でピントが甘くなるのが普通だと思いますし、開放で画面全体にピントが来るような撮り方はほぼ無いと思いますので、欠点とは言えないかもしれません。
むしろ、ピントが非常に薄い事を常に年頭に置いて、シビアなピント合わせを心がける事が重要となります。
作例5:F0.9 1/110 ISO500 露出補正±0 フィルムシミュレーション:クラシッククローム
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
F0.9という特殊とも言えるスペックのレンズでありながら非常にコンパクトにデザインされています。
サイズの面で特殊なレンズを使っている印象は皆無で、なんなら高性能なフルサイズ用の開放F1.4の標準レンズよりもずっとコンパクトなくらいです。
特に散歩や旅行でスナップ写真を撮るなら気軽に持ち出せるコンパクトさは重要で、気軽に明るくボケるコンパクトなレンズとして使って欲しいところです。
作例6:F0.9 1/850 ISO500 露出補正±0 フィルムシミュレーション:クラシッククローム
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
絞りやフォーカスの動作も他のVoigtlanderレンズと同様に滑らかで、極上の操作感を味わえます。
滑らかで十分なトルク感のあるフォーカスリングは、シビアなピント合わせが楽しく行えるほどです。
マニュアルフォーカスですので、動く被写体への正確なピント合わせが難しいのは事実ですが、静物ならファインダーできちんと確認しながら撮れるマニュアルフォーカスの方が安心かもしれません。
作例7:F0.9 1/1400 ISO125 露出補正±0 フィルムシミュレーション:STD
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
多くのVoigtlanderレンズ、FUJIFILM X-mountカメラを使って来ましたが、写真を趣味として楽しむ際にこの2メーカーはとても相性がいいように感じます。
写りという意味だけでなく、撮影のプロセスを楽しむ要素に満ち溢れていて、あまりガツガツしないで写真と向き合える気がするのです。
デザイン的にどちらもクラシックなイメージな事も、相性がいいと感じる要素のひとつかもしれません。
作例8:F0.9 1/1600 ISO500 露出補正±0 フィルムシミュレーション:クラシッククローム
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
勿論、APS-Cカメラにとって、開放F0.9という極端に明るいF値を持ったレンズが大きなメリットとなる点は見逃せません。
ここまで述べて来たとおり、ボケが大きくなるという事が最も大きなメリットですが、例えばF1.4のレンズと比べても、同じシャッタースピードなら1段以上ISO感度を下げる事ができるのは大きな長所です。
高感度ノイズはセンサーサイズが小さくなるほど大きくなるのが一般的なので、明るいレンズを使う事は画質にも影響があります。
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
開放F0.9といった明るいレンズは、往々にして開放での描写が柔らかい(悪く言えば眠い)レンズが多いですが、Voigtlander NOKTON 35mm F0.9 Aspherical X-mount は、このクラスのレンズとしてはシャープで高解像な描写特性でした。
勿論、全く眠さを感じない、例えば同社のAPO-LANTHARのような極端に高いシャープネスを示すわけでは無く、ちょうど頃合いの使いやすい柔らかさです。
解像感は十分にあるので、画像処理で硬くするといった処理もしやすいのではないでしょうか。
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
周辺部ではやや描写性能が低下します。流れるというよりは中心よりも眠くなるという表現が正しいイメージです。
作例ではコサイン誤差を避ける為に周辺部でピントを合わせていますが、それでもややふんわりした描写になっています。
実用では、描写の低下よりもコサイン誤差によるピントのズレの方が大きくなると思うので、問題にはならないでしょう。
F0.9で撮影
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
F2.8で撮影
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
F5.6で撮影
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
明暗差の大きな部分にフリンジが発生するのは多くのVoigtlanderレンズが抱える短所で、ご多分にもれずNOKTON 35mm F0.9 Aspherical X-mount も開放ではフリンジが発生するケースがあります。
画像処理で取り除く事もできますが、絞り込む事でも解消するので、参考までに絞りによるフリンジの変化をのせておきます。
個人的にF2.8ではほぼ気にならなくなりますが、F5.6まで絞ると完全に解消するようです。
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
気になるほどではありませんが、逆光でゴーストが発生する事がありました。
テストなので発生するように撮っていますがゴーストに悩まされるという程では無く、一般的には良好な部類に入ると思います。
ゴーストの発生に「適度」という言葉を使うのもどうかと思いますが、最近はゴーストを表現のひとつと捉える向きもあるので「適度」な発生です。
FUJIFILM純正の標準レンズXF35mmF1.4 Rは、リニューアルもあり性能的に安定した評判のいいレンズです。オートフォーカスで使えて明るくボケもある程度確保できるので、一般的には純正が使いやすいのが偽らざる事実だと思います。
とは言え、個性的な描写や極端なスペックが楽しめるのも標準レンズの楽しさのひとつなので、Voigtlander NOKTON 35mm F0.9 Aspherical X-mount はそういった意味で価値ある一本と言えるでしょう。
マニュアルフォーカスが苦でないなら、なかなか尖ったスペックのVoigtlanderはかなりおすすめのレンズと言えます。
APS-C 35mm F0.9
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
フルサイズ 50mm F1.4
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
フルサイズの50mm F1.4と NOKTON 35mm F0.9で同じフレーミングにした場合どちらがボケが大きくなるでしょうか?
ボケの大きさはF値だけでなく、焦点距離と被写体までの距離という3つの要素の組み合わせで決まりますが、実写では焦点距離の要素が大きいケースが多く一般的にAPS-Cカメラはボケが小さいと言われるケースが多いようです。
フルサイズの50mm F1.4とAPS-Cの35mm F0.9を比較すると、だいたい同じくらいのボケ感に見えます。やはり焦点距離が短いとボケを大きくするのは難しくなるので、そういった意味でもAPS-Cカメラ用のF0.9レンズの存在は大きな価値があると言えるでしょう。
Voigtlander NOKTON 35mm F0.9 Aspherical X-mount を上手に使いこなすポイントを2点ご紹介します。
1つはNDフィルターの使用です。日中の撮影でF0.9を開放で使おうと思うと1/8000でもシャッタースピードが足りなくなるケースがあるので、NDフィルターを用意しておく事をおすすめします。
今回のテストではND16(4段減光)を常時装着したままで行いました。
もう一つはピントについてです。F0.9の開放F値では、35mmといえどもピントはかなりシビアになるので、可能な限り拡大表示を使ってピントを合わせるのがおすすめです。
FUJIFILMのカメラはピント拡大がやりやすいですが、モデルによって方法が違うので自分のカメラでの使用方法を確認しておくと良いでしょう。
今回使用したX-H2はフォーカスエリアを選択するジョイスティックを押すとフォーカスが拡大され、とても使いやすかったです。
Voigtlander NOKTON 35mm F0.9 Aspherical X-mount を選ぶ大きなメリットは、やはりF0.9から来る大きなボケです。
被写体との距離が近い時は勿論、ある程度距離を取っても明明瞭にピントが合った部分とボケた部分を作り出せるので、表現の幅を広くする事ができます。
ボケが柔らかく美しいのもポイントで、ピントが合った部分のシャープさとのバランスが良い点も見逃せません。
操作性や性能の良さで特殊と言っていいスペックながら、一般的にもかなり使いやすいレンズに仕上がっています。
とは言え、尖ったレンズには欠点もつきもので、その最も大きな事はマニュアルフォーカスでしょう。
サッと出して手早く撮るといった使い方には向かないので、ある程度出来上がりを想像しながら撮れる写真やカメラに慣れたユーザー向けのレンズである事は否定できません。
X-mount カメラで大きく美しいボケを楽しみたいユーザーにおすすめのレンズです。
万人向けとは言えないレンズではありますが、操作などは使っているうちに慣れてしまう事も多いので、それほど心配する必要はありません。
何より尖ったスペックのレンズには、一般向けではない無いというデメリットの見返りとして、他のレンズでは撮れない一枚が撮れる大きな可能性があるのですから。
» 詳細を見る
» 詳細を見る
Photo & Text by フジヤカメラ 北原