Voigtländer(フォクトレンダー)レンズの特徴は、ひとつひとつの設計にコンセプトがあり、各レンズごとに写りの個性がある事です。
今回は多くのフォクトレンダーレンズを使った経験のある赤城耕一さんが、気になるレンズをピックアップ!作例を交えつつ特徴や楽しみ方を伝授していただきます。
同じ焦点距離のレンズがなんで何種類もあるの?なんて野暮なことを言ってはいけません。そこには設計者のプライドと確固たる理由があるのです!
私が気になっているフォクトレンダーレンズはコレ!
APO-LANTHAR誕生の歴史
アポズミに引けを取らない描写性能を廉価な価格で実現
高性能レンズ=良い写真ができるわけではない!?
残存収差によるクセ、俗にいう“味わい” を積極的に加味
数値的な解釈を超えた“写真的描写”を個性として捉え、製品化
撮影者にとことん寄り添った製品ラインアップを構築
まとめ
2回目は、COSINA(コシナ)・Voigtländer(フォクトレンダー)のレンズの中でも、筆者が気になっているレンズをいくつか具体的に取り上げて話を進めることにする。
今こそ高性能なレンズとして話題になっているコシナ・フォクトレンダーのAPO-LANTHAR(アポランター)各種レンズだが、コシナ・フォクトレンダーが発売された初期の時代からラインアップされていた。このことは意外と知られていない。
現在ラインアップされているフォクトレンダーブランドの交換レンズ群はまず、この「アポランター」を軸として展開しているという面もある。コシナ最高の叡智を結集させた「原器」としてのアポランターの存在があるからこそ、フォクトレンダー各種レンズは性能的な信頼を得た上で、さまざまな大口径レンズや残存収差を応用した個性的なレンズを生み出しているわけだ。
コシナ・フォクトレンダーで最も古いアポランターは2001年に登場するアポランター90mm F3.5 MCであった。マウントはL39。ライカスクリューマウント互換の中望遠レンズである。
たいへん小型軽量のレンズで、形はかつてのライツのエルマリート90mm F2.8にも似ているが、さらに鏡筒が細め。誕生から20年を経ても現代の高画素のデジタルカメラでも通用する性能を有しているのには驚かされる。
アポランターが最初に搭載されたカメラは1950年代に登場するベッサII。6×9判のフィルムカメラ用だがこの一部モデルにアポランター105mm F4.5が搭載された。アポランターは新種ガラスを採用した、アポクロマート設計により、軸上色収差を低減させることが目的で、カラーフィルムでの画質向上に寄与している。さらにデジタル時代となった今、色収差をいかに軽減するかは光学設計の大きな課題となった。早くからコシナはアポランターの復活を行なっているが、これはデジタル時代を予見したものであり、コシナ・フォクトレンダーにおいて復活したアポランター初号レンズであるアポランター90mm F3.5MCは現代レンズにもひけをとらない性能を持っていた。 参照:コシナHP https://www.cosina.co.jp/news/apo-lantharの誕生の歴史/
フィルムカメラ時代のアポクロマート設計レンズは主に長焦点レンズに採用されているのがふつうで、標準や広角のレンズにはあまり採用されてはいない。デジタルカメラでは特性的に色収差が画像に悪影響を与えることが多く、レンズの焦点距離によらずアポクロマート設計が増えているのはご存知の通りだが、フィルムカメラ時代からアポランターを開発していたコシナにはすでにデジタル時代を見据えた先見の明があったのであろう。
時代に応じて、ラインアップは変化するが、これまで登場したアポランターの焦点距離は35mm、50mm、65mm、90mm、110mm、125mm、180mmの7種類である。
アポランターの存在を決定づけたのは、フォクトレンダー史上最高性能とされるアポランター50mm F2 Aspherical E-mountの登場からである。
いまだから話せるが、このレンズは筆者も開発時に数回試し撮りをさせていただいた。驚いたことに絞りは光量調整、被写界深度コントロールのためだけにあると思えるほどの超高性能で、全画面にわたってスキがなく撮影した画像を何度も見返したことを覚えている。
アポランター50mm F2 Aspherical VM、すなわちライカMマウント互換タイプも登場するが、注目されたのはライカのアポ・ズミクロンM 50mm F2 ASPH.の1/10という廉価な価格設定なのに、描写性能はまったくひけを取らなかったからだ。これはMTFにおいても実写でも確認することができる。写真レンズの描写はどこに基準を置くかをアポランターが知らしめてくれたようなところがある。
SONY(ソニー)α7R Ⅳ・アポランター50mm F2 Aspherical E-mount
絞りF4・1/1250秒・−0.7EV補正・ISO100・WBオート・RAW
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夕暮れの連絡船の港。高画素機の使用に対して、どのような描写をみせるかが興味のひとつであったが、見事にこちらの期待に応えている。
LEICA(ライカ)M Typ240・アポランター50mm F2 Aspherical VM
絞りF2開放・1/4000秒・−1.66EV補正・ISO200・WBオート・RAW(DNG)
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ライカ純正のアポ・ズミクロンM 50mm F2ASPH.に拮抗する性能をみせるアポランター50mm F2 Aspherical VMであるが、開放絞りでも怖いくらいのエッジのキレをみせる
ご存じのように、高性能のレンズを使いさえすれば、良い写真ができるかといえばそうではない。コシナは早くからこの難題についても挑戦をしていることに注目せねばならない。
これがNOKTON classic(ノクトン クラシック)の35mm F1.4 VM、40mm F1.4 VMのシリーズである。前者は現在II型となっているが、いずれもベストセラーレンズとして名高く、フォクトレンダーブランドの認知度を高めた製品だ。
おそらくは、ライカの旧ズミルックスM35mm F1.4の存在を意識しての製品化されたものかもしれないが、光学設計を模倣したのではなく、現代版に球面構成のままアレンジしたというところが重要である。
ズミルックス35mmに見られる光源が羽根の生えたように写る、このコマ収差をノクトン クラシックではうまくコントロールしていることにも注目したいところだが、絞りによって描写特性に変化が見られることも重要である。軟らかい描写を求めるときは絞りを開き、シャープネスを求めるときは絞りを絞る。ただこれだけのことだが、最近ではこうした特性は評価されない方向にあるし、アポランターの思想とも対極にある。
LEICA(ライカ)M9・NOKTON classic(ノクトン クラシック)40mm F1.4 VM
絞りF1.4開放・1/3000秒・−1EV補正・ISO200・WBオート・RAW(DNG)
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残存収差を軽減するのではなくて、写真表現に応用してしまえという考え方だが、撮影者がこの描写にハマる条件や被写体を見つけ出すという楽しみがある。アポランターとは対極の考え方だろう。
フォクトレンダー・HELIAR classic(ヘリアークラシック)50mm F1.5 VMも注目のクセ玉である。本当に突き抜けてクセのある個性的な描写をするのに、逆に高い評価を得ているのはなぜだろう。
開放時の描写は極めて個性的で、現代の50mm標準レンズの中では類似した描写をするものはおそらく1本もないだろう。非常に簡単に描写特性を論じてしまうと開放時の合焦点のハイライトの滲みはさほど大きくない。けれど、前後のボケにかなり大きなクセがあるのだ。
「ヘリアー」は3群5枚構成が基本だ。しかもヘリアータイプのレンズ構成の開放F値は2.8が限界といわれていたが、このレンズはこの定石を打ち破り、開放F値を2段明るくして登場したわけで、禁じ手を破る大胆な考え方だ。現代の大口径レンズは微量光下の撮影のために用意されたものではなく、大きなボケを得るためにあると考えてよく、本レンズはそこに残存収差によるクセ、俗にいう“味わい” を加えたわけだ。もちろんそこには万能性という目的はない。
大手のカメラメーカーでは個性的描写、すなわち描写のクセを目的とするために設計時に収差をコントロールしたレンズを商品化するのは難しい。せいぜいソフトフォーカスレンズくらいだろう。コシナは数値的な解釈を超えた“写真的描写”を個性として捉え、製品化しているわけだ。これはかなりの冒険だ。
「私も写真を撮るのが趣味なのですが、エンジニアとしての数値の追い込みと写真的描写の魅力とは異なることがあるという認識があります」(三神政之 コシナ技術・開発部長)
コシナ・フォクトレンダーとなってからヘリアー名のレンズに対する認識が大きく変化したことは、SUPER WIDE HELIAR(スーパーワイドヘリアー)15mm F4.5 Aspericalでも述べたが、コシナは再びヘリアーに新しい解釈を加え製品化した。まさにこれはヘリアーの価値創造であり、製品化できたのはヘリアークラシック50mm F1.5 VMということになる。
写真用のレンズは、シャープでボケが美しいことだけが最重要の課題ではないのは、昨今のオールドレンズの存在感、その人気が証明している。ただ、クラシックレンズは成り行きでクセのある描写をするだけで、これは設計者が意図したものではないということだ。
ヘリアークラシック50mm F1.5 VMの使いこなしは簡単ではない。私たちはレンズのクセのある描写やボケを得るためだけに、写真を制作しているわけではない。写真を創るためにクセのある描写と個性的なカタチのボケを表現の一環として利用しているのである。
LEICA(ライカ)M10-P・ヘリアークラシック50mm F1.5 VM
絞りF1.4開放・1/350秒・+0.3EV補正・ISO100・WBオート・RAW(DNG) モデル:ひぃな
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暴れ回る収差をどう使いこなすのか。使いこなすことができるのか。コシナ設計陣から挑戦状をつきつけられたような気持ちになる。クセのあるボケやにじみのために写真を制作するわけではないが、効果的に使える条件はどこかを真剣に考えることになる。
コシナのレンズにはもう一つの方向性として、他には見られない大口径レンズを用意していることが挙げられる。
ノクトン35mm F1.2 Aspherical VMの初期型はライカMマウント互換の35mmレンズで世界初の開放値F1.2を達成した。これも改良が続けられ現在はⅢ型となっている。
21mm F1.4、40mm F1.2、50mm F1.2といったスペックのレンズも意欲的な大口径の仕様だ。一般にも入手しやすい価格設定であることも驚きである。しかも当たり前だけどMade in Japan品質である。
サードパーティは純正レンズよりも劣るとされたのは大昔の話。繰り返すがMTFでも実写による判断でも、性能はライカレンズに決してひけをとらない。
SONY(ソニー)α7C・ノクトン35mm F1.2 Aspherical SE・絞りF1.2開放・1/8000秒・−1EV補正・ISO100・WBオート・RAW
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微量光下の撮影のための大口径レンズではなく、肉眼で観察するものとは異なる写真独自の世界を創るという目的のため、大口径レンズが用意されているように思う。
ノクトン50mm F1 Aspherical VMに見られるようにコシナ・フォクトレンダーシリーズはこれまでにない大口径レンズを生み出す取り組みも行われている。コシナでは、コストの高い研削非球面レンズ開発の取り組みにも熱心だ。本レンズに加えて、マイクロフォーサーズマウントのSUPER NOKTON(スーパーノクトン)29mm F0.8 Asphericalにも研削非球面レンズは採用されている。
現行のコシナ・フォクトレンダー大口径レンズの描写は素晴らしく優秀だし、絞りによって大きな性能変化が生じない。これは高度な設計と生産の技術力があるからだ。
デジタル時代のいまISO感度設定は自由自在である。大口径レンズの役割とは開放絞りで極端に浅い被写界深度を利用し、主要被写体を浮き上がらせ、大きなボケ味を得るためにある。絞りは光の強弱や被写体によって、被写界深度の効果で決める。あたりまえだが、大口径レンズのほうが絞りの選択肢は広がる。コシナ・フォクトレンダーの大口径レンズは気軽に使えるのがいい。
レンズの描写の好みは人それぞれだが、原器としてアポランターを考え、他のレンズや新旧レンズの描写を表現の違いで使い分けるというのがコシナ・フォクトレンダーレンズの正しい使い方。たとえ同じスペックのレンズであろうともそれぞれに個性を持たせる。多品種少量生産を可能にしているコシナならではのレンズラインアップなのだ。
ライカM10-P・ノクトン50mm F1 Aspherical VM・絞りF1.4・1/250秒・−0.3EV補正・ISO400・WBオート・RAW(DNG) モデル:ひぃな
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合焦点の一部を除き、ほかすべてを吹っ飛ばしてしまうほどの極浅の被写界深度をどう応用するか。このことも大きな課題だが、本レンズは従来の開放F1級大口径レンズの印象を圧倒する優れた描写性能をみせていることに驚いてしまう。
株式会社コシナ 営業開発本部 技術・開発部 部長 三神政之さん
今回、お話を伺った皆さん。写真左から、オブザーバー参加のフジヤカメラ 北原弘明さん、株式会社コシナ 営業開発本部 営業・管理部 商品宣伝広告担当 係長 佐藤和広さん、同 技術・開発部 部長 三神政之さん、筆者の赤城耕一さん
・コシナ最高の叡智を結集させた「原器」、APO-LANTHAR(アポランター)
・絞り値による描写特性を愉しめる、NOKTON classic(ノクトン クラシック)
・突き抜けてクセのある個性的な描写、HELIAR classic(ヘリアークラシック)
・ライカレンズに決して引けをとらない大口径レンズ、NOKTON(ノクトン)
・これまでにない大口径化に果敢に挑戦!SUPER NOKTON(スーパーノクトン)
・フォクトレンダーレンズの正しい使い方は、原器としてアポランターを考え、他のレンズや新旧レンズの描写を表現の違いで使い分けるべし
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