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2022.07.15
写真・動画の撮り方・ハウツー,

これからはじめる星景写真【 後編 】× 湯淺光則 | 赤道儀を使ってワンランク上の星景写真を撮ってみよう!

これからはじめる星景写真【 後編 】× 湯淺光則 | 赤道儀を使ってワンランク上の星景写真を撮ってみよう!

星景写真に慣れて来たら赤道儀を使った写真にトライするのがおすすめです。赤道儀を使えば肉眼では見えない、驚くほど多くの星々を美しく写しだす事ができます。

今回のプロフェッショナルレビューでは、今や星景写真には欠かせないアイテムとなった赤道儀について、星景写真におすすめのポータブル赤道儀や、撮影に欠かせない雲台を選ぶポイント、使い方などを星景写真の第一人者である湯淺光則カメラマンに解説してもらいます。

ワンランク上の星景写真をめざして赤道儀を使った写真にチャレンジしてみましょう!

前編はこちら
菅原 貴徳カメラマン
■ライター紹介

湯淺光則(NORI YUASA)

Night Photographer NORI YUASA.。リアルネイチャーフォトグラファーでありながらファンタジックなフォトも得意とする。星空を中心とした「星景写真」が得意だが、姫蛍、光るキノコなど、夜に自然に光る物を良く撮っている。ソニーイメージングプロサポート会員。星のソムリエ(星空案内人)、NORI星景写真講座主催。

星景写真作例1
Canon(キヤノン) EOS 6D・Carl Zeiss(カールツァイス) Distagon (ディスタゴン)T* 21mmF2.8・絞りF3.5・120秒・ISO1600

約30枚のパノラマ撮影。これは2014年の撮影だが、大台ケ原の白骨林は今はもうほとんど無くなってしまっている。

星景写真でポータブル赤道儀を使ってみよう!

はじめに

ポータブル赤道儀を使って追尾撮影をすると、固定撮影では得られない、星が数多く輝くとても綺麗な星空を撮ることができる。

星は点像で美しく、肉眼で見た以上に数多くの星が美しく写し出される。固定撮影に慣れてきたら、是非チャレンジしてみていただきたい撮影方法だ。

星景写真作例2
Canon(キヤノン) EOS 6D・Carl Zeiss(カールツァイス) Distagon(ディスタゴン) T* 21mmF2.8・絞りF3.5・120秒・ISO3200

風景と星空は別撮り。雪の残る兵庫県最高峰、氷ノ山とともに。

なぜ赤道儀を使うの?固定撮影との違いとは

前編の固定撮影で説明した通り、星を点として撮るには「限界露出時間」があるので明るいレンズで感度を上げてやらないと、天の川を綺麗に写すことはできない。F2.8程度の明るさでは、ISO3200以上にあげなくてはいけないので、高感度ノイズが気になる写真となる。

赤道儀は星を正確に追うので、長時間露光が可能になり、低感度で撮影することができる。SNSで見る程度なら固定撮影で問題ないが、「綺麗な」天の川を撮るにはやはり赤道儀が必要となる。

ポータブル赤道儀は難しくない!

使い方が難しそうなので、ポータブル赤道儀の導入をためらっている方も多いと思う。確かに天体写真家が本気で使うような場合は極軸合わせをはじめ、色々と敷居が高い部分もあるが広角や超広角のレンズを使って、せいぜい1分程度の露出ができたら十分な普通の星景写真を撮影する場合、面倒な設定は必要ないものが多い。

例えば、筆者の場合、極軸合わせは2秒でやってしまう。一般的には必要とされている、赤道儀の傾きを調整する微動雲台とか極軸望遠鏡なども必要ない。決して難しいことはないので、星空を美しく撮りたい方は積極的に導入して欲しい。

おすすめのポータブル赤道儀

ポータブル赤道儀の一覧表(2022年6月現在)

ポータブル赤道儀の一覧表(2022年6月現在)
ポータブル赤道儀の一覧表(2022年6月現在)

特にマニアックなものや販売中止のものは除いている。細かいスペックは載せていないが、購入の際の目安にして欲しい。順に少し説明しよう。

SIGHTRON(サイトロン)New nano.tracker(ニューナノトラッカー)

SIGHTRON(サイトロン)New nano.tracker(ニューナノトラッカー) 本体1
SIGHTRON(サイトロン)New nano.tracker(ニューナノトラッカー)
SIGHTRON(サイトロン)New nano.tracker(ニューナノトラッカー) 本体2
SIGHTRON(サイトロン)New nano.tracker(ニューナノトラッカー) 本体3

筆者が昔から使っているナノトラッカーの新型。NEWと言っても発売はかなり前になる。以前からの製品に外部電源ポートUSBが追加されている。

とにかくコンパクト。ポータブルという意味では星景写真には最適である。小さすぎて不安になるかも知れないが、筆者は昔からCanon(キヤノン)EOS 6DやEOS 5D MarkⅣなどの一眼レフに300mmレンズでも1分程度の撮影はできていた。大きく重いカメラ・レンズを使うなら強度的な不安は確かにあるが、正しく使っていたら心配はいらない。

SLIK ASTRA(スリック アストラ)ECH-630

SLIK ASTRA(スリック アストラ)ECH-630 本体1
SLIK ASTRA(スリック アストラ)ECH-630
SLIK ASTRA(スリック アストラ)ECH-630 本体2
SLIK ASTRA(スリック アストラ)ECH-630 本体3

形もシンプルだし、タイムラプスも撮れる。積載重量も5kgとなってるので、やや大型のカメラ、レンズでも大丈夫だ。

Kenko・Tokina(ケンコー・トキナー)スカイメモSW

Kenko・Tokina(ケンコー・トキナー)スカイメモSW 本体1
Kenko・Tokina(ケンコー・トキナー)スカイメモSW
Kenko・Tokina(ケンコー・トキナー)スカイメモSW 本体2

スカイメモSもまだ売ってるようだが、SWが出たので、今から買うならこちら。私的にはやや大きくて重いのはマイナスポイント。赤道儀としての実力は高いので、天体写真もやりたいという方には価格的にもお勧めできる。

Vixen(ビクセン)POLARIE(ポラリエ)

Vixen(ビクセン)POLARIE(ポラリエ) 本体1
Vixen(ビクセン)POLARIE(ポラリエ)
Vixen(ビクセン)POLARIE(ポラリエ) 本体2
Vixen(ビクセン)POLARIE(ポラリエ) 本体3

ポラリエ初代もまだ販売している。筆者はこの初代でも割高だと思っていたが、もう実売価格はこなれてきたので、狙っても良いと思う。これも弁当箱型でシンプルなので、使い勝手はいい。発売当時、フルサイズは対象外になっていたと思うが、これは重い一眼レフに重いレンズを想定しての話で、ミラーレス全盛となった今では問題なくフルサイズも使える。

【商品情報】Vixen(ビクセン)POLARIE(ポラリエ)

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Vixen(ビクセン)ポータブル赤道儀 星空雲台 ポラリエ 商品イメージ

Vixen(ビクセン)POLARIE U(ポラリエ・ユー)

VVixen(ビクセン)POLARIE U(ポラリエ・ユー) 本体1
Vixen(ビクセン)POLARIE U(ポラリエ・ユー)
VVixen(ビクセン)POLARIE U(ポラリエ・ユー) 本体2
VVixen(ビクセン)POLARIE U(ポラリエ・ユー) 本体3

ポラリエの新型。大きさ、重さも気にならず、各種の改良が施されているが、極軸望遠鏡などは別売で、スカイメモなどと比べると割高という印象はある。値段が気にならなければ、性能的にも大きさ、重さ的にも良いと思う。

Unitec(ユニテック)SWATシリーズ

Unitec(ユニテック)SWATシリーズ 本体1
Unitec(ユニテック)SWATシリーズ(写真は、SWAT-350 V-spec Premium)
Unitec(ユニテック)SWATシリーズ 本体2

ユニテック SWATシリーズ(※写真はSWAT-350 V-spec Premium)は、性能は高いがどれも星景写真用としてはオーバースペック。本格的な天体撮影用になるので、説明は省かせていただく。

この表に載せた機材はどれも一般的で評判も安定してる機種ばかりなのであとはお好みで、できれば実物を良く見て検討しよう。

ポータブル赤道儀で使う雲台

ポータブル赤道儀を使用するためには、ひらたく言うと上下に雲台が必要になる。下はポータブル赤道儀を撮影地の緯度分、傾ける必要がある。そもそも傾けて設定しなければならないのが初心者にはやっかいなところだ。上はカメラを取り付けて自由に構図をとるための通常の雲台だ。

スカイメモT雲台の装着例
スカイメモT雲台の装着例

赤道儀を傾けるための下の雲台は、普通のカメラ用の雲台を取り付けて緯度分傾けても良いが、通常のカメラ用の雲台では(上に赤道儀と上の雲台とカメラ・レンズが乗るため)強度の不安があるし、重心も高くなる上に全体のバランスも悪くなる。どうしてもカメラ用の雲台しかない場合は、かなりしっかりしたものが必要だ。

コンパクトさや安定性を考えた場合、できれば可動部を少なくして重心を下げられる、簡易なものにしたい。筆者は下に雲台は使わず、昔から使用しているナノトラッカーでもスカイメモTでも、35度に傾いたこのようなプレートを付けているだけだ。固定されていて調整はない。これで大幅に簡略化され、小さく軽く、低く、バランスも良くなる。

ナノトラッカーの35度に傾いたこのようなプレートでの装着例
35度に傾いたプレート

この35度傾いたプレートは、日本の広い範囲で簡易的に使えるが、(緯度が35度前後の場所)北海道や沖縄などに行ったときはそのままでは使えない。以前は対応した角度のプレートも売っていたりしたが、今では市販品はないようだ。緯度が極端に違う海外ではもちろん使えない。

旅行などで調整が効く雲台が必要な場合は微調整が効く専用の微動雲台やギア雲台がおすすめ。

赤道儀を傾けるための下の雲台例1
赤道儀を傾けるための下の雲台例2

上側の雲台は自由雲台を使っている方が多いと思うが、赤道儀の台座が傾いているので、雲台も傾いて取り付けねばならず、可動部が狭くなる。最近はやりの低重心で調整ノブが多いタイプだと、すぐぶつかってしまい、自由な構図で撮れない。

赤道儀と雲台のノブ部が干渉してしまう例
赤道儀と雲台のノブ部が干渉してしまう場合も。

こちらは昔ながらの重心の高いノブ1本で扱える雲台の方が使いやすい。

赤道儀を傾けるための下の雲台例2
ナノトラッカーでのセットアップ例

それでも狙っている構図にしようとするとぶつかってしまう場合がある。

対処法としてはカメラの取り付けを逆にしたり、雲台を2個取り付けたりしている方もいる。筆者としてはさすがに上に雲台2つは安定性に欠けるし、さらに高重心になってしまうのでお勧めできない。筆者はこれを解決するパーツを試しているが、やや検証不足なので今回は紹介を見送る。

星景写真作例3
SONY(ソニー) α7S III・Canon(キヤノン)EF 8-15mm F4L Fisheye USM・絞りF4・120秒・ISO1600

風景と星空は別撮り。フルサイズミラーレス専用魚眼が出ていないのでマウントアダプターにてEFレンズを使用している。

赤道儀の使い方

基本設定

簡易な機種と本格的な機種では色々と変わってくるが、基本的には日本で普通に星空を撮る場合、以下の設定は必ず必要。

Ⅰ恒星追尾(月などは別です)
Ⅱ北半球設定(南半球では回転方向が逆)

ナノトラッカーのコントローラー

ナノトラッカーのコントローラーで見てみよう。
これは一度設定したら固定で良いので、筆者は設定後、動かないようにテープで隠してある。

ナノトラッカーのコントローラー2

これが動いて南半球設定になってたりするととんでもない現象が起きる。わからない方は一度試してみれば面白いかも知れない。

星景写真用の0.5倍速という設定があるものもあるが、筆者は1度も使ったことはない。言い方は悪いが、星も風景もブレるという設定だ。

極軸合わせ

赤道儀の難しさの原点となっているのが極軸合わせだろう。理論は抜きにして、具体的には方位と傾きを合わせる必要がある。方位は真北、星の動きの中心である天の北極(北極星の近く)の方向に合わせる。北極星がわからない、という人は、さすがに星景写真をやるなら北極星くらいは見つけられるようになろう。

傾きは撮影地の緯度。私の住んでいるあたり(兵庫県尼崎市)だと約35度となる。なので、前述の35度に傾いたプレートに取り付けてあれば、傾きの調整を省略できる。日本でも、北海道や沖縄など、緯度が大きく違う地域では合わせることが必要。しょっちゅう遠くへ旅行する人でなければ、この角度は固定で大丈夫。いちいち撮影のたびに調整する必要はない。

広角、超広角のレンズを使って、30秒や1分くらいの露出をするのが一般的だと思うので、そういう場合は少々ずれていても構わない。そういう使い方しかしない場合は、「極軸望遠鏡」は不要だ。

少々ずれていても構わないというのは結構、大事な話である。初心者ほど、(感覚がわからないので)真面目にきっちり合わせようとする。きっちり合わせること自体はもちろん悪いことではないが、そんなことに労力を使うくらいなら早く写真を撮ることに注力した方が良い。星の動きは思っているより早いし、流星などを捉えられる機会も増える。星景写真と言えどシャッターチャンスは限られている。

筆者の極軸合わせの時間は2秒程度。三脚の水平もだいたいでOK。三脚ごと抱えて、だいたい北極星がプレートの大きな穴の真ん中あたりに入ってればヨシ、で終わり。

もちろん、長めのレンズを使う場合や、やや長時間の露出をやる場合は、もう少しちゃんと合わせる。ポータブル赤道儀にたいてい付属している、小さな覗き穴に北極星を入れるくらいはやる。

それでも結局、星景撮影で極軸望遠鏡は一度も使ったことがない。

星景写真作例4
Canon(キヤノン) EOS 6D・Carl Zeiss(カールツァイス) Distagon(ディスタゴン) T* 21mmF2.8・絞りF3.5・120秒・ISO1600

風景と星空は別撮り。遠くの灯りは岐阜、名古屋方面。

起動と動作確認

起動方法は機種によってさまざま。基本的には電源スイッチを入れるだけだが、スカイメモTのようにスマートフォンで初期設定が必要なものもある。

スカイメモTスマホ設定画面

スカイメモTはスマートフォンで初期設定が必要となる

スカイメモTのセットアップ例
スカイメモTのセットアップ例

正常に動作しているかどうか不安になると思うが、筆者は起動後に機材に耳をあてて動作音を確認している。機種によるが、小さくカチカチと音がしていれば、動作はしていることがわかる。それでもギアが空転していることもないことはないが、それは故障だ。テスト撮影で星が点に写っていることを確認したら、本撮影に入ろう。

ナノトラッカーのセットアップ例
ナノトラッカーのセットアップ例
星景写真作例5
Canon(キヤノン) EOS 6D
Carl Zeiss(カールツァイス) Distagon (ディスタゴン)T* 21mmF2.8
絞りF3.5・60秒・ISO3200

9枚パノラマ撮影。天の川への道。

星景写真作例6
Canon(キヤノン) EOS R6・LAOWA(ラオワ) 15mm F2 Zero-D・絞りF2・10秒・ISO6400

10枚パノラマ撮影。立ってじっとしていられたのが10秒限界なので人物部分だけ10秒後は20秒露光で後調整。

前編はこちら

まとめ

  • ・基本設定は最初にやっておけば触らなくて良い。

  • ・赤道儀を傾ける下の雲台はなるべく固定のプレートですませる。

  • ・上の雲台は自由な構図がとれるよう、雲台を選び、取り付けを工夫する。

  • ・通常の広角星景写真なら、極軸合わせはだいたいで良い。

Photo & Text by 湯淺光則
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