夜空に輝く美しい星々や天の川を、風景といっしょにフレーミングする星景撮影は、誰しも一度はチャレンジしたくなる被写体のひとつではないでしょうか。特に天の川をフレーミングした星景写真は、宇宙を感じられるスケール感のある写真として人気です。
しかし、ある程度のコツや知識、適した機材が無いとなかなかうまく撮れない、少し難しい撮影でもあります。
今回のフジヤカメラプロフェッショナルレビューは、そんな星景写真の第一人者である湯淺光則さんに、星景写真向きのカメラ、レンズ、フィルターなどアクセサリーの紹介、カメラの基本的な設定、ピントと構図などの撮影のコツを紹介していただきます。
見た目以上に美しいスケールの大きな写真が撮れる星景写真に、是非チェレンジしてみましょう。
カメラは、フルサイズミラーレス機がベストチョイス
星景写真におすすめのレンズ
焦点距離14〜24mm、開放F2.8以下の明るいレンズが最低限必要
おすすめレンズ【単焦点】編
おすすめレンズ【ズーム】編
その他の筆者おすすめレンズ
三脚、レリーズ、ヒーターetc、星景撮影に必要なアクセサリー
三脚はしっかりしたもの、雲台は3ウェイタイプやギアタイプがおすすめ
いかにカメラに振動を与えないかに気を配る
結露対策としてUSB給電のヒーターバンドをレンズに巻こう
ソフトフィルターを使うのが一般的
カメラ設定
構図とピント
撮影
まとめ
山腹の空地にて。すぐ下は濃霧、雲海の中。1枚撮りとランタンの灯りのみという条件にこだわった1枚。
星空と風景などを撮影する星景写真。今回は固定1枚撮りで天の川を綺麗に撮影する方法について必要な機材を中心に解説する。
だいたいどのようなカメラでも、長時間露光が可能なら星景写真は撮影可能だが、作品にするレベルとなるとやはりセンサーサイズが大きなカメラが必要になる。中判デジタルは理想的だが、現実的には大きさ、重さはネックになるし、レンズが少ない。
一眼レフでももちろん撮れるし、APS-Cや4/3型(マイクロフォーサーズ)でもそこそこ撮れるが、現状で最適なのはフルサイズ・ミラーレスということになる。
基本的にセンサーサイズが同じであれば写りに大差はない。とはいっても星景写真の場合は高感度・長時間露光が必要なので高感度・長時間の撮影でノイズが出にくいカメラが向いている。となると、やはり画素数が多すぎない方が良い。
筆者が主に使用しているのは、SONY(ソニー) α7S IIIとCanon(キヤノン) EOS R6 だ。
SONY(ソニー) α7S IIIは圧倒的な高感度性能を売りにしている。特に星空動画に関しては、これ以外では不可能とさえ言える。旧機種のα7S Ⅱも保有しているが、α7S Ⅱの高感度で気になる画面左の熱かぶりや色の再現性で大きく改良が見られる。
Canon(キヤノン) EOS R6 は、特にスチル写真での高感度撮影時、長時間ノイズは少ない。最適な星景写真向けカメラのひとつに間違いないが、純正Canon(キヤノン)RFレンズは魚眼や超広角といった星景写真向けの明るい単焦点レンズを展開していない。現状ではサードパーティのレンズに頼る必要があるが、その点はレンズの項で説明する。
基本的には「明るい」レンズが必要となる。固定撮影の星景撮影、とくに天の川の撮影となると、F2.8が最低ラインとなる。もちろん、明るいに越したことはなく、F2以下が理想的と言える。筆者はF0.95と言うレンズも保有しているが、現実的にはF1.4が理想的と言える。ただ、星景写真では超広角や魚眼といったレンズをよく使う。こういったレンズでは明るいレンズは少ないし、かなり高価になる。
一般的に星景写真でよく使われるのは、魚眼から14mm、20mm、24mmといったところだろう。もちろん、35mmや50mmといったレンズを使っても、例えば天の川中心部などを大きく写すことができるので、迫力ある写真が撮れる。ただし、後述するように、焦点距離が長くなると、固定撮影で星を点に写すことができる「限界露出時間」は非常に短くなる。
10mmという超超広角もある、私も使っているSAMYANG(サムヤン) XP 10mm F3.5。これはEFマウントなのでマウントアダプターを使えば、キヤノンRFマウントでもソニーEマウントでも使える。F3.5とやや暗いのが難点だが、10mmのフルサイズ対応レンズでこれより明るいものはない。
具体的に筆者がよく使っているレンズは、ソニーならFE 14mm F1.8 GM[SEL14F18GM]、 FE 20mm F1.8 G[SEL20F18G]、 FE 24mm F1.4 GM[SEL24F14GM]の3本だ。
ソニーはこのあたりの明るい超広角が揃っているので、この3本はまさに星景写真向けだ。特にFE 14mm F1.8 GMは比べるもののない高性能で、ソニーユーザーならぜひ持つべきレンズだ。
もう少し長いレンズも面白い。FE 35mm F1.4GM[SEL35F14GM]、Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA[SEL35F14Z]やFE 50mm F1.2GM[SEL50F12GM]もその明るさから、表現の可能性の高さが大変魅力的だ。
ズームレンズだと、FE 12-24mm F2.8 GM[SEL1224GM]はとても魅力的なレンズだ。ズームなのでどうしてもF2.8となってしまうが、12mm F2.8というのはかなりの超広角かつ明るいレンズと言える。
キヤノンはというと、前述したように、純正RFレンズは明るい超広角の単焦点レンズが不足している。ただ、RF15-35mm F2.8 L IS USM は大変性能が良く、評価も高いレンズだ。
両方使っている人の話では、ソニーの FE 16-35mm F2.8 GM[SEL1635GM]より描写が良いと聞いている。
筆者はもともとキヤノンを主体に使ってきたので、EFマウントのレンズが多数あり、ソニーα7S Ⅲでもマウントアダプターを介して多数使用している。特に魚眼ズームEF 8-15mm F4L フィッシュアイ USMはソニー、キヤノンとも純正魚眼レンズを出していない(キヤノンの例外はあるが)現状では、よく使用する。
RFマウントのサードパーティレンズとして私がよく使っているのはLAOWA(ラオワ) 15mm F2 Zero-D。F2と明るいし、性能は十分だが、周辺がやや流れる傾向がある。これはこの手の超広角レンズでは一般的なので、性能が劣るということではない。
固定撮影でも長時間露光になるので三脚は必要。ただ撮るだけなら手持ちでも不可能なわけではないが、現実的ではない。
三脚はやはりしっかりしたものが必要。カーボンでもアルミでも構わないが、実用的には軽く強いカーボンはやはり魅力的。しかし安定度の観点からみると基本的に三脚はある程度の大きさと重さがあるものが強い。
携帯性を考えなければ、段数は少ない方が良い。使い方での大切な話になるが、必要がなければ脚は伸ばさないのが基本。パイプ径は大きい(太い)方がもちろん強い。方式はナットロックが基本、恐らくレバー式を使っているプロは少ないだろう。一部、特殊な方式のものもあるが、うたい文句ほど使い勝手は良くない。旅行用や特殊用途以外で、筆者が使っているのはすべてパイプ径32mm以上、3段、ナットロック式だ。
雲台は自由雲台を使う人が多いと思うが3軸の各軸を独立して動かせる3ウェイ雲台は風景写真や星景写真には向いている。私は微調整が楽なギア雲台を使うことが多い。
以前は大きくて重いギア雲台しかなかったので、面倒であまり持ち出さなかったが、最近のギア雲台は手頃な大きさ重さなので多用している。
雲台は自分の使い方に合った雲台であれば特に何を使用しても問題ない。ビデオ雲台でももちろん問題ない。
当たり前だが、直接指でシャッターを押してはいけない。それでは三脚を使っている意味もない。振動がないことが何より大切。
通常は外付けのレリーズやタイマーコントロールを使う。これらを使用する場合、カメラとコードでつながっているので、引っ張ったりしないように。
最近のカメラは2秒や5秒といったセルフタイマーが付いているので、それを使っても良い。これらを使用する場合、発光する場合があるので、他に撮影者がいる場合は気を付けたい。夜の撮影ではパーマセルテープなどですべて隠すのが一般的だ。たくさん撮る場合はインターバルタイマー機能も便利だろう。バルブタイマー機能も付いているカメラであれば30秒以上の長時間露光の際にも重宝する。
星景写真は高原などで撮影する機会が多く、特に晩秋などはレンズの露に悩まされることが多い。
昔はベンジンなどを使用するハクキンカイロなどをレンズに留めて使っていたが、ハクキンカイロは0度以下では使えないので注意。
現状、対策としては、USB給電のヒーターバンドをレンズに巻くのが一般的だ。
筆者も数個使用しているが、バンドの幅は細めの方が使いやすいと思う。太いとレンズの各種目盛も見えなくなってしまう。バンドが動いてピントや絞りが変わってしまうこともあるので、しっかり確認して固定する。
短時間の数枚の撮影であれば不要な場合も多いが、数時間撮影しっぱなし、と言う場合は露よけヒーターは必須アイテムになる。
星景写真で良く使われるフィルターの代表はソフトフィルターだろう。
デジタルになり、カメラやレンズの解像度も上がった今、ほぼ完璧な点光源である星は本当に点に写ってしまう。フィルターなしでは単なる小さな白い点にしか写らないので、星の色も出ないし、明るい星も目立たず、星座もわからない。そのため、星景写真ではソフトフィルターで、明るい星を中心に少しぼかして、星を目立たせ、星の色を出すということが一般的だ。
もちろん、表現なのであえてソフトフィルターを使わずシャープに撮る、ということもある。
その他で使うことがあるのは風景が明るすぎる場合に使うハーフNDとか光害カットのフィルターがあるが、長くなるので別の機会に説明したい。
フィルターは製造中止になってしまったLEEのソフトフィルターが最もお勧めだが、初心者向けにはコレがおすすめ。
色々と条件によるが、固定撮影で天の川を撮る基本の設定の目安は以下のようになる。
撮影モード:M(マニュアル)
シャッタースピード:15秒
絞り:F2以下の開放
ISO感度:ISO3200から6400
これでだいたい撮れるはずだ。シャッタースピードに関しては、レンズ焦点距離に対応して星を点に写す時間「限界露出時間」が変わってくる。「500ルール」というのを聞いたことがあるかもしれないが、現在の高性能なデジタルカメラでは、それでは星は点に写らない。
私が推奨する「200ルール」というものがある。簡単に紹介すると、「露出時間は、200÷焦点距離(秒)」となる。つまり14mmなら15秒、24mmなら8秒ということだ。
ただし、超高画素で超高解像だとこれでさえもやはり少し伸びてしまう。星は動いているのでそういう意味では固定撮影では完全な点にはならない。
本当に星が綺麗で、天の川が肉眼でもはっきり見えるようなところは、真っ暗でEVFやモニターでは何も見えず、構図にも苦労する。
例えばソニーであれば「ブライトモニタリング」と言われるブーストを使えば、星や夜の風景でも良く見えるので問題ない。
ただし、ソニーの場合は残念ながらピント合わせには使えない。この機能は名称が定まっていないので探しにくいが、例えばパナソニックLUMIX(ルミックス)のライブビューブーストなども同様の機能だ。
こういった機能がないカメラだと真っ暗な環境では見えなくて苦労する。見えにくい場合、デジタルカメラはすぐ結果が見られるので、だいたい決めたら撮ってみる。結果を見て修正してまた撮る、という原始的な手法でも、数回撮れば問題ないだろう。
ピント合わせは残念ながら入門機や入門レンズでは難しい。そもそもマニュアルでピント合わせをすることは考えられてないからだ。一定以上のフルサイズレベルのカメラ・レンズであればピント合わせで悩むことはない。
基本的に星景写真ではほとんどの場合、星にピントを合わせる。その場合は当然、無限遠(∞)だ。Carl Zeiss(カールツァイス)の高性能マニュアルレンズなどではレンズをピントリング端の∞にするだけでピントが合う。私は古くからCarl Zeiss(カールツァイス)の2本を使っているが、ただこれだけで無限遠が狂うことはない。レンズも高価なものはそれなりの機能的価値もあるということだ。
キヤノンのLレンズなど、高級レンズにはだいたい距離目盛があり、無限遠∞マークも存在するが、これは「だいたい」合ってはいるが正確ではない。自分のレンズの無限遠位置は普段から把握しておくと(場合によってはマークしておくと)ピント合わせはいつも一瞬で済む。
ただし、標準レンズ以上の望遠レンズになるとピント位置はさらにシビアになるので、その都度、確認は必要になる。
一般的には、ミラーレスの場合はライブビューで明るい星を見てマニュアルで合わせる人が多いだろう。明るい星があればオートでもピント合わせが可能だが、どこまで可能かはカメラやレンズによるので、そこは自分で確認する必要がある。
カメラやレンズの設定を確認し、三脚や雲台にガタが無いことを確認し、構図もピントも決まったら、あとはレリーズやセルフタイマーなどでシャッターを切るだけだ。
結果はもちろんすぐに確認しよう。たいていの液晶モニターでは夜はとても明るく見えるが、後でパソコンにデータ転送してみると暗すぎてがっかりすることが多い。画像はヒストグラムもしっかり確認しよう。
ひとつのアイディアとしては、適正露出の星景写真を残しておくことだ。それと比較することで適正かどうか簡単に判断できる。
Good Luck!
・現状では、フルサイズミラーレス機がベストチョイス
・焦点距離14〜24mm、開放F2.8以下の明るいレンズが必要
・三脚はしっかりしたもので、脚は伸ばさないのが基本
・雲台は自由雲台よりギア雲台をお勧めする
・星を点に写す露出時間は「200ルール」で
・ピントは基本的に無限遠。自分のレンズの無限遠を知ること
・カメラモニターでは明るく見えるので結果は正しく確認する