PL(偏光)フィルターは、被写体の反射を除去する事で、本来の色をより鮮やかに再現する事が出来るフィルターです。
回して使う必要があり、レンズに届く光が少なくなるという特性から、フィルム時代には三脚が必要になる事が多い面倒なフィルターでしたが、手振れ補正の進化と、デジタルカメラが高感度でも撮れるようになった事で、手持ちでも格段に使い易くなりました。
今回は、そんなPLフィルターの効果や特徴、使い方や選び方を解説したいと思います。
目次
■PL(偏光)フィルターとはPLフィルターは、反射光を調整する効果のあるフィルターで、ガラス面や水面などに写った光を取り除く事が出来ます。
又、表面の反射を除去する事で、本来の色を再現したり、コントラストを上げたりする事が出来るので、色の再現が重要な風景写真では、付けっぱなしで使用する方もいるくらいです。
PLフィルターの特徴の一つに、レンズに入って来る光が少なくなるという事があります(最大2段階ほど)。つまり、使うとシャッタースピードが遅くなってしまうのです。
フィルムの時代、風景写真でよく使われたFUJIFILM VelbiaのISO感度は50、さらにPLフィルターで2段階も露出が落ちると、PLフィルターの使用=必ず三脚が必要、という構図でした。
しかし、今はデジタル時代。高感度が実用的に使えるようになり、さらに手ぶれ補正が格段に進歩しました。
つまり、手ぶれを気にせず、気軽に手持ちでPLフィルターが使えるようになったのです。
PLフィルターは回転させて使います。回転させた角度によって効果を調整するのです。
勘違いし易いのは、角度によって効果が一定になるのではなく、状況によって、どの角度で効果が最大になるかは変化するという事です。
カメラを構えてからフィルターを回し、ファインダー(ないしはモニター)で実際の効果を確認しながら使う必要があり、実際に撮影する映像を見ながら撮れるデジタルカメラや一眼レフカメラでなければ使えないフィルターなのです。
PLフィルターを選ぶ際の注意点は、デジタルカメラなどオートフォーカスのカメラに使うなら必ずC-PL(サーキュラーPL:円偏光)フィルターを選ぶ必要があるという事です。
C-PL(円偏光)ではない、ただのPLフィルターを選んでしまうと、フォーカスや露出が正常に作動しない事があるので、必ずC-PL(円偏光)フィルターを選びましょう。
最近はPLフィルターと言えばC-PLフィルターをさすくらい、C-PLがスタンダードになりましたが、購入の際は念のため確認する事をおススメします(ちなみにC-PLフィルターをマニュアルフォーカスのカメラに使っても問題ありません)。
実際にPLフィルターを使ってみて、効果をみてみます。
これらの使用例に限らず、工夫しだいで面白い使い方があると思いますので、色々試してみて下さい。
PLフィルターを使うと、表面の反射が除去されるので、もの本来の色彩がより鮮やかに再現されます。
色の良し悪しでイメージが変わる風景写真で、PLフィルターを使うのが定番となっている理由の一つです。
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たわわに実った稲穂は、光を反射して白っぽく写ってしまう事が多いですが、PLフィルターで反射を除去する事でより黄金に近い、輝いた色にする事が出来ました。
これは色を誇張しているのではなく、反射して白く再現される部分が少なくなり、稲穂本来の色が写っているからです。
新緑や紅葉など、草花や木々の葉っぱ本来の色を写したい時、表面の反射を除去するPLフィルターは絶大な効果を発揮します。
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水田に茂る水草と、稲の緑本来の色が生き生きと鮮やかに写し取れました。
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ところで、この写真ではPLフィルターの効果を最大にしないで、少し反射を残したところでシャッターを切りました。
最大にして撮ると・・・
上のように少し立体感に乏しいのっぺりした写真になってしまいます。
草木の葉にPLフィルターを使うのは、非常に効果の高い手法なので、ついつい偏光効果が一番強いところを使ってしまいがちですが、ここは過ぎたるは及ばざるがごとし、ファインダーを見ながら適度な効果の部分を探りたいところです。
PLフィルターは使い方によっては作品の質を大きく上げてくれる効果の高いフィルターですが、条件によっては使わない方がいいケースもあります。
上の写真はPLの効果を最弱で、下は最強にして撮りました。
感じ方は人それぞれなので一概には言えませんが、個人的にPLの効果がほとんど無い上の写真の方が、椿の葉の硬い質感やイメージが伝わる写真になったのでは、と思います。
被写体や条件によってはPLを使わない(又は最弱にする)、という決断も必要です。
水面の反射の除去もPLフィルターの得意とするところです。
が、水面の反射は完全に取り除いてしまうと不自然になったり画に雰囲気が無くなってしまうので注意が必要です。
上がPL効果最強、下は50%程度です。
これも人それぞれだと思いますが、個人的には水の青が多く入る下の写真の方が雰囲気が出て好きです。
この写真では、PLを使って背景の緑色を濃く出したいのと、手水の水の青を残したいという2つの欲求を、バランスよく満たせるようPLの効果を調整しました。
PLフィルターは光の加減で、強く効いたり効かなかったりします。
が、ピントのあった主要被写体に効果が無くても、背景に効かせる事で表現の幅を広げる事が出来る時があります。
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背景の緑がPLフィルターの効果でより鮮やかになり、より夏の雰囲気がある写真になったと思います。
PLフィルターというと、風景写真で、ズームレンズに取り付けて使うというイメージを持つ方も多いと思います。
しかし、実は、PLフィルターは明るい単焦点レンズとの相性が思った以上にいいのです。
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明るい単焦点レンズを開放で使うと、画面上ピントが合っていないところだらけになるので、ボケた部分の色彩が重要になって来ます。
色で雰囲気を伝える必要があるからですが、色をより濃く鮮やかにしてくれるPLフィルターは、イメージに合った背景色を再現しやすく、明るい単焦点レンズとの相性が思いのほかいい事に気付きました。
反射を除去するPLフィルターの用途は野外での使用だけではありません。
家の中でも光があればどこかに反射があるものなので、PLフィルターは効果があります。
というより、家の中でこそPLフィルターを使って、栄える写真を撮って欲しいのです。
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PLフィルターを使う事で、反射に邪魔されていた木のテーブルの色や質感が出ました。
水滴のついたグラス、木製の机、ウイスキーの瓶と、3つの要素がより明確になったと思います。
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食べ物にもPLフィルターは効果的です。
テーブルや背景の反射が取れて、ベーグルの質感もより良く出ました。
想定していなかった事ですが、背景の反射が少なくなったおかげで露出が全体に均等化され、ややアンダーだった手前のベーグルも適正露出となるという嬉しい誤算もありました。
PLフィルターを使い始めて、最初は効果の強弱や、場合によっては効果自体がわからない事があります。
そんな時、効果を確認するコツを3つあげてみました。
デジタルカメラがメインとなり、アングルがファインダー以上に自由になるモニターを使って写真を撮る方も多くなったと思います。
しかし特に日中の明るい時間帯はモニターが見づらくなり、効果が出ているのかいないのか分かりずらい事があります。又、細かい効きの強弱など繊細な調整はモニターでは難しい事もあります。
そんな時は、初心に帰ってファインダーを使うのがおススメです。
密閉されたファインダーは、周囲の明るさに左右される事無くフィルターの効果をより正確に確認する事ができます。
ファインダーでも効果の強弱が分かりずらい時は、拡大機能を使いましょう。
ピントの精度を高める為に使う方が多い機能ですが、PLの効果をより細かく確認するのにも活躍します。
ただ、拡大だけで効果を調整すると、全体のバランスが悪くなる事もあるので、効果が小さくわかりずらい時などに限定した方がいいと思います。
ちょっと裏技的な使い方ですが、ファインダー上で効果がわからない場合、私は露出を見るようにしています。
通常PLフィルターの効果が一番強くなった際、露出が最もアンダーになるのが普通なので、そこが一番効いていると判断してしまうのです。
例えば絞り優先、ISO感度が固定されていたら、シャッタースピードが一番遅くなったところが偏光効果が一番強くなっていると考え、シャッターを切る、といったようにです。
先に、PLフィルターには、減光の効果があり、シャッタースピードが遅くなる事を書きました。シャッタースピードが遅くなるという事は、手ぶれしやすくなるという事です。
具体的には最大2段階程度遅くなるのですが、最大1段階程度に抑えられるものが、高透過偏光膜を使用したPLフィルターです。
最近のデジタルカメラは、ISO感度にかなり高感度が設定出来る上、手ぶれ補正があるので、この問題は以前に比べて小さくなりましたが、ISOが1段低くなればそれだけ高画質で撮れるようになるので、手持ち撮影メインなら高透過偏光膜を使ったPLフィルターを選択してもいいと思います。
今回の撮影でも高透過偏光膜を使ったKenkoTokina (ケンコー・トキナー) ZX C-PLを使いましたが、日中の野外ならともかく、屋内や夜間の撮影では非常に便利でした。
高透過偏光膜を使用したPLフィルターは手持ちで使用する際に効果のある、便利なPLフィルターですが、欠点もあります。
それは、わずかですが黄色がカブる事で、通常はあまり気付きませんが、白い雲などを撮って比較するとわかったりします。
しかし最近は、このカラーバランスに特にこだわった製品もあり、個人的に違いを実感出来た事もあるので、予算がゆるせば(少し高額)是非おススメします。
(今回使用したKenkoTokina (ケンコー・トキナー) ZX C-PLは、非常にカラーバランスの優れたC-PLフィルターです)
PLフィルターは、使うたびに回さなければならないので、回しやすさは選択の重要なポイントの一つです。
指先だけで引っかかる事無くスムーズに回せるのが理想で、そういった製品は撮影のストレスを大幅に軽減してくれます。
今回使用した、Kenko ZXはこの部分も非常に優秀で、まさに理想のPLフィルターと言ってよさそうです。
■高品質なおススメC-PLフィルター
>>> KenkoTokina (ケンコー・トキナー) Kenko ZX C-PL
PLフィルターは2枚重ねになっているフィルターの為、どうしても枠が高くなってしまい、超広角レンズなどではこの枠が写ってしまう事があります。
ガラス面や枠をギリギリまで薄くしたタイプの製品も多くあるので、の広角レンズでの使用があるなら、選択した方がいいでしょう。
最近は、PLフィルターの大半がこの薄枠モデルになっています。
PLフィルターの保管は、基本的にカメラやレンズと同じ条件で大丈夫ですが、特に熱に弱いので、例えば夏の車内などに置きっぱなしにする事は避けて下さい。
効果が弱くなる、カラーバランスが悪くなるといった事が起きるので、こういった条件で保管されたフィルターは基本的に買い替えた方がいいでしょう。
また、レンズ同様湿気の多い場所だとカビが生えますので注意が必要です。
PLフィルターは経年劣化するフィルターです。
保管状況(紫外線にどのくらい当たったかなど)によりますが7~8年程度で偏光幕が変色してしまい、カラーバランスが崩れてしまうようなので、まだ使えるようでも5年以上経過したら買い替えを検討していいでしょう。
個人的に経年劣化するほど長く1つのPLフィルターを使った事はありませんが、中古で買い取ったものなどに、明らかに変色しているケースもあるので、やはりあまり長い間使いづづけるのは良くないようです。
デジタルカメラが主流となり、画像処理ソフトを使って後から色を調整出来るようになってから、PLフィルターはやや存在感が薄くなった気がします。
ですが、後処理でPLフィルターの効果を再現する事は困難ですし、撮影時に仕上がりをイメージしながら撮るのも写真の醍醐味なので、いまだ大きな価値のあるフィルターだと思います。
新緑や紅葉、花など、本来の色を撮影する為にPLフィルターを是非活用したいところです。
Photo & Text by フジヤカメラ 北原