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2022.07.11
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Canon RF800mm F5.6 L IS USM レビュー 【 前編 】× 落合憲弘 | 最旬キヤノン超望遠RFレンズを味わい尽くせ!

Canon RF800mm F5.6 L IS USM レビュー 【 前編 】× 落合憲弘 | 最旬キヤノン超望遠RFレンズを味わい尽くせ!キービジュアル

一般にイメージするプロカメラマンが使うレンズといえば、単焦点の超望遠レンズではないでしょうか?

今回のプロフェッショナルレビューは、そんなプロカメラマンを象徴するレンズ、超望遠レンズの中から、性能的にも価格的にも最高峰に位置するCanon(キヤノン)RF800mm F5.6 L IS USMをセレクト。お馴染み落合憲弘カメラマンに使ってもらいました。

アマチュアはあまり手にする機会の少ないレンズですが、野鳥撮影をはじめ一部ユーザーにはかかせないレンズでもあります。そんな最高クラスの超望遠レンズを、経験豊富なプロカメラマン落合憲弘さんにレビューしてもらいます。

後編はこちら


ライター落合憲弘(おちあい・のりひろ)イメージ
■フォトグラファー紹介

落合憲弘(おちあい・のりひろ)

1963年、東京生まれ。1988年よりフリー。学生の頃より歌って踊れる(撮って書く)スタイルを標榜し「写真に一途ではない」姿勢を悪びれることなく貫いた結果、幸か不幸か見事、器用貧乏に成り下がり今日に至る。人目を忍ぶ趣味、多数。コロナ禍の影響、甚大。2022年カメラグランプリ外部選考委員

800mmで街スナップを敢行。「軽っ! 軽っ? か、軽くな・・・いや、おも、重くはない! でも、おも、おもっ、重〜いっ!!!!」

ん? ん? あれ? 意外に軽いじゃん。

たぶん、大げさに身構えていたせいなのだと思う。Canon(キヤノン)の「RF800mm F5.6 L IS USM」を初めて手にしたとき、最初に「軽い」と思えた自分に、まずはビックリしてしまった。

カタログデータによると、このレンズの重さは3140g。およそ3キログラムだ。超望遠レンズとしては軽いような気がする数字だが、ステーキだとしたらさすがに食いきれない。そして、ボディと合わせりゃ概ね4kg超えになるということで、片手で支えるには「普通に重い」と判断しても「この軟弱者めがっ!」などと罵倒される筋合いはないだろう。コンパクトな4kgではなく、長尺の4キログラムなのだ。

個人的事情の中でいえば、最近「Nikon(ニコン)Z 9+NIKKOR Z 400mmF2.8 TC VR S」のコンビを手持ちで使い、その重さに"負けた"記憶が鮮明だったので、無意識のうちに警戒レベルがMAXに振り切っていた可能性もある。それに比べりゃ軽いからねー・・・っていおうとしたら、今回使用したカメラボディ「EOS R3」とのコンビにおける総重量が4155gであるのに対し「Z 9+NIKKOR Z 400mmF2.8 TC VR S」総重量は4290g。なんと、現実にはほとんど差がなかったのだ。おっかしいなぁ。アレはあれだけ重く感じたのに、どうしてコレはこんなに軽い(軽く感じられる)んだろう?

ちなみに、Nikon(ニコン)Zの800mm「NIKKOR Z 800mmF6.3 VR S」は、PFレンズの採用もあり2385gの軽さを誇る。Z 9との組み合わせ重量は、わずか3725gと超軽量級だ。いうまでもなく本来、比較すべきはコチラなのでお間違えのないように。いつか使ってみたいね。

いざ、フィールドに出てCanon(キヤノン)EOS R3+RF800mmF5.6 L IS USMを手持ちで振り回し始めると、「軽っ! 軽っ? か、軽くな・・・いや、おも、重くはない! でも、おも、おもっ、重〜いっ!!!!」みたいな感じで印象が二転三転。カメラを構え、ファインダーを覗いたままシャッターチャンスを待つ、あるいは縦横無尽に動く被写体をひたすらに追う・・・なんてことをしていると、やっぱり左腕にとっては「決して軽くはないレンズ」だった。

でも、今回は手持ちだけで乗り切っている。三脚や一脚は一切使っていない。重さに負けそうになったら、構えることをやめ、カメラを持った右手をだらんと下げ、レンズフードの先端を軽く地面に触れさせた状態で息を整えつつ左腕を休ませる。そんなリラックスタイムを挟むことで、さほどの苦労は伴わずに手持ち撮影の継続は可能だった。総合的には、やっぱり「意外に重くなかった」といっていいのだろう。

さて、この800mmレンズをまず連れ出したのは、街中のスナップ撮影だ(え?)。28mmとか35mmレンズだけで満足しているようじゃ、スナップ撮影を楽しみ尽くしているとはいえない。だからワタシは、まずは800mmで街を切り撮ることに決めた。新境地の開拓でもある。

RF800mm F5.6 L IS USMを手に取って歩く筆者の画像

白くて長い謎の物体を手に街を徘徊する男。あたかも小ぶりなバッグを提げているかのように、右の腕が白いヤツを軽々と…いや、プルプルしながら保持しているようにも見えるが、見事に町並みに溶け込んでいるので不審なニオイは皆無だ。しかし、どういうわけか道行く人は視線を合わそうともしない。恥ずかしがり屋さんなのか、関わり合いになることを恐れているのか…。よーし! 通報される前に、おうちへ帰るぞっ!?

Canon EOS R3・RF800mmF5.6 L IS USMで撮影した人ごみの画像

Canon EOS R3・RF800mmF5.6 L IS USM
絞りF5.6開放・1/1000秒・−1.3EV露出補正・ISO320・WB太陽光・JPEG

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800mmスナップが教えてくれたこと。それは、切り撮る風景のどれもが、奥行き感とバッサリ縁が切れていることのツラさだった。極端な圧縮効果は楽しくもあるのだが反面、平面的な写真ばかりになりがち。それが結構ツラい。やってみて初めて分かりました・・・。

ところで、この作例では、ポールや人物のボケが、背景を横切る影のボケと重なっている部分で不自然に太っているように見えるのだが、これは画処理の影響なのかな? そういう意味では「クセのある描写を見せる仕上がり」になってしまっているのだけど、レンズのせいじゃない(と思う)。輪郭強調処理にとっては、ちょっとイジワルな条件で撮っちゃったかなぁー。ゴメンね、EOS R3。

Canon EOS R3・RF800mmF5.6 L IS USMで撮影したヘリコプターの画像

Canon EOS R3・RF800mmF5.6 L IS USM
絞りF5.6開放・1/4000秒・+2.7EV露出補正・ISO1600・WB太陽光・JPEG

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ふと見上げた、白くて明るい曇り空にいたのは空色のヘリコプター。咄嗟に+2.7の露出補正をかけて撮影してみたら、コントラストの低下を感じさせない想像以上にヌケの良い仕上がりが得られてビックリだった。これは、紛れもなくレンズの実力。もちろん、間に挟まれている空気の層がクリアであったこともプラスに作用しての結果ではあるのだけど、800mmでコレだから、肉眼では米粒レベルの小さなサイズ。そんな距離を経ての撮影であることを考えれば満点の仕上がりだ。

Canon EOS R3+RF800mm F5.6 L IS USMを構える筆者の画像
Canon(キヤノン)EOS R3+RF800mm F5.6 L IS USMを構える筆者

ベースレンズの素性の良さを「固定式エスクテンダー」という新たな発想で拡張した新展開

このレンズを知って目からウロコだったことがある。キヤノン自身が謳っている「軽量化と高画質を高次元で実現しているRF400mmF2.8 L IS USMの光学系を受け継ぎ」の部分だ。RF800mmF5.6 L IS USMは、「RF400mmF2.8 L IS USMの後部に最適な拡大光学系を配置」して「長焦点距離化した」レンズだというのである。つまり、このレンズってRF400mmF2.8 L IS USMに「エクステンダー RF2×」を装着したようなモノ・・・。そう言われれば、外観もまるっきりそんな感じじゃあーりませんか。今さらながら「いや、この手があったか!」ってなもんです。

とはいえ、拡大光学系はエクステンダーのような「脱着前提」「複数レンズへの対応前提」ではなく「キッチリ専用のガッチリ固定配置」モノなので、パートタイム装着とは次元の異なる徹底した"最適化"が行われているハズ。RF400mmF2.8 L IS USMにエクステンダー RF2×を装着した状態で撮るよりも良好な結果が得られるようになっているであろうことは想像に難くない。それが、あからさまに見て取れる差として現れるのかどうかは別にして・・・。

なんだかビックリだった。過去に同じような例が存在するのかどうか知識不足で確定的なことはいえないのだけど、ともあれシンプルにチャレンジング。ベースレンズの良さを新たな発想で拡張したかのような展開である。同様の手法は、本レンズと兄弟的な存在であるといってもいい「RF1200mmF8 L IS USM」にも見られ、そちらでは「『RF600mmF4 IS USM』の光学系を受け継ぎ、レンズ後部に最適な拡大光学系を配置」したものと紹介。1200mmレンズとしては、見事に小型で軽量に仕上げられている。

RF600mm F4 L IS USM、RF1200mm F8 L IS USM、RF800mm F5.6 L IS USM、RF400mm F2.8 L IS USMの画像
写真左から、RF600mm F4 L IS USM、RF1200mm F8 L IS USM、RF800mm F5.6 L IS USM、RF400mm F2.8 L IS USM

EOS Rのシステムって、R3やR5、R6の被写体認識AFが見せる、高い認識率とイイ感じのユルさを兼ね備える被写体種別判定の線引き(動物優先でも人物を過不足なく認識してくれたり、動物優先ならば昆虫などもまぁまぁ認識するなど、被写体の種別判定に人間の感覚にマッチするような柔軟性が備わる。その代わり、ロードローラーのフロントマスクを「顔」として認識したりもしちゃうのだが)のように、"使う人の思いに寄り添うことのできるアナログ的な感覚"が、そこここにさりげなく活かされていると思う。そして、RF800mmF5.6 L IS USMとRF1200mmF8 L IS USMを生むに至った発想の根幹にも、同じ血潮が流れているんじゃないかと思うのだ。混沌としている今の世の中において、そういう発想を持てること、そしてその発想をそのままカタチにするチカラを持っていること。それがキヤノンの強みであり"底力"なのかも知れないね。

Canon EOS R3・RF800mmF5.6 L IS USMで撮影した太陽と雲の画像

Canon EOS R3・RF800mmF5.6 L IS USM
絞りF32・1/8000秒・−3EV露出補正・ISO100・WB太陽光・JPEG

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雑多な街の中でも、夕方、西の空に目をやれば、こんな劇的な場面に出会えることがある。芸達者な雲に救いを求めつつ"勝負"してみた結果がコレだ。刻々と変化し続ける雲の表情と、それに伴い決してひとつのカタチに落ち着くことのない太陽の見え方。それらをまとめて「絵にする」感覚は、まさしく被写体との"勝負”そのものだ。ちなみに、この場面では、EOS R3のAFがピント合わせにかなり苦労していたことに、ちょっと意外な思いを抱くことにもなっている。

Canon EOS R3・RF800mmF5.6 L IS USMで撮影した月の画像

Canon EOS R3・RF800mmF5.6 L IS USM
絞りF5.6開放・1/2000秒・−0.3EV露出補正・ISO640・WB太陽光・JPEG

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ほぼ同じタイミングで東の空を見ると、そちらでは満月チョイ欠けの月が徐々に高度を上げつつあった。沈む太陽と昇る月。その両方を目の当たりにできるからこそのマジックアワー。実は同時進行であるこれら自然風景をまったく違う空間での出来事であったかのごとく切りとる、超ワガママなクロップラインは、800mmの画角が視覚を超越していることを明確に示すと同時に、撮影者の有する"絵心"を無慈悲に炙り出すことにもなり得る。心してかかろう。

Canon EOS R3・RF800mmF5.6 L IS USMで撮影した飛行機の画像

Canon EOS R3・RF800mmF5.6 L IS USM
絞りF6.3・1/1000秒・+0.7EV露出補正・ISO2500・WBオート・JPEG

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レンズ本体は防塵・防滴に配慮した構造を採用。完全な防水構造ではないことから、本格的な雨天の下では適切なレインカバーの使用が必要になるが、同じく防塵・防滴に配慮した作りのEOS R3とのコンビでは、悪天候下での撮影にも多大なる安心感を得ることができた。スッコーンと抜けた青空もいいけれど「傑作は雨の日に生まれる」ものでもあるのだから、悪天候に対する"余裕"は不可欠ってこと。

Nikon NIKKOR Z 800mmf/6.3 VR Sの商品画像
Nikon NIKKOR Z 800mmf/6.3 VR S

現時点、ニッコールZの中では一番”長い”レンズ。PF(位相フレネル)レンズを要所に配し、800mm単焦点としては飛び抜けて小さく軽く仕立てられている(全長わずかに385mm、重さはなんと2.4kgを切る!)のと同時に、70万円台にギリ収まる実勢価格も、本記事の中においては激安に感じられてしまうという隠れた(?)逸品だ。800mmレンズのC vs N対決は今、それぞれに極端な個性をぶつけ合うカタチで繰り広げられているということで、このレンズ、Z 9とのコンビで使ったら結構ヤバそう。ああ、使ってみてぇぇ~

作例に使用したカメラ

Canon EOS R3

【商品情報】Canon EOS R3

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Canon EOS R3バナー画像

作例に使用したレンズ

Canon RF800mm F5.6 L IS USM

【商品情報】Canon RF800mm F5.6 L IS USM

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Canon RF800mm F5.6 L IS USMバナー画像

記事内で紹介したレンズ

Canon RF1200mm F8 L IS USM

【商品情報】Canon RF1200mm F8 L IS USM

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Canon RF1200mm F8 L IS USMバナー画像

まとめ

・長尺でありながら、およそ3キログラムの重量は軽量な部類、意外に重くなかった
・800mmのスナップはやはり少し無理がある(笑)
・悪条件下でもコントラストの低下を感じさせないヌケの良い描写
・「固定式エスクテンダー」という新たな発想
・防塵・防滴に配慮した構造が、悪天候に対する"余裕"を生む
後編はこちら

Photo & Text by 落合憲弘(おちあい・のりひろ)

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