プロカメラマンの鋭い視点でカメラ、レンズのレポートをする「プロフェッショナルレビュー」。
今回は、Canonのフルサイズミラーレスカメラの最上位機種「Canon EOS R3」です。
フラッグシップ機「1」の称号が付いていてもおかしくないハイエンド機を、人物、風景から水中写真まで幅広い被写体を撮影してきたプロカメラマンに、レビューしていただきます!
進化したAF性能とキヤノン独自の視線入力搭載で、動体撮影にも真価を発揮する革新的Rシステム最上位機
EOSの伝統とテクノロジーを惜しみなく盛り込んだまさに万能機
これが目玉!銀塩ユーザーにも懐かしい視線入力機能を搭載。さらに痒いところに手が届くAF性能・操作性のブラッシュアップ
視線入力だけじゃない!EOS iTR AF Xの活用でシャッターチャンスをモノにする!
チェック!
まとめ
昨秋発売されたキヤノンのフルサイズミラーレスカメラEOS R3は、一眼レフEOSシリーズのフラッグシップ機EOS-1D X MarkⅢで好評を得た諸機能や操作系を継承しつつ、自社新開発の新型センサー搭載やAF性能の強化など数々の革新的な技術により進化したRシステムの最上位機種。
当ブログのレビューとしてEOS R3を紹介するのは初めてとのことなので先ずは主に静止画撮影性能の目玉となるポイントを今一度ざっくりと確認しておこう。
・自社新開発のフルサイズ裏面照射積層CMOSセンサーと映像エンジンDIGIC Xとの組み合わせにより画像処理の高速化を実現。
・2410万画素の高画質で電子シャッター約30コマ/秒、メカシャッター約12コマ/秒の高速連続撮影
・常用感度ISO100~102400(静止画)
・電子シャッター時EVFブラックアウトフリー
・電子シャッター時最速1/6400秒の高速シャッター
・画面の縦横ほぼ100%のエリアで測距可能なデュアルピクセルCMOS AFⅡによる約60fpsの高速AFフレームレートと最高約0.03秒のAF測距
・進化したEOS iTR AF Xによる優れた動物優先を含む被写体検出とトラッキングAF
・キヤノン唯一の技術・視線入力搭載をはじめ多彩なアプローチを可能にしたAF操作性の強化
・高精細約576万ドット OLED電子ビューファインダー
・剛性感が高く、縦/横構図切り替えでも変わらぬ操作性を得られる縦位置グリップ一体型ボディ
ボディ内5軸手ブレ補正機構とレンズ内光学手ブレ補正との協調制御により最大約8.0段の手ブレ補正効果を発揮
実際にはまだ挙げられる項目は山のようにあるが、文字だらけになってしまうのでこれくらいに。それにしても、これら一部のスペックを見るだけでも動体撮影性能の向上に関してはかなり期待値が上がるというもの。
特に待望だったEVFブラックアウトフリーに関しては「動体撮影に弱い」というミラーレス機に対するマイナスイメージを払拭するだけでなく、一眼レフと対等に渡り合える実力が備わったと考えてよいだろう。画素数の差に目をつぶりさえすれば、先行するソニーα1やニコンZ9と互角に渡り合える高速連写性能、AF・AE追従30コマ/秒を叩き出しているところも頼もしいところ。
そしてやはりこのカメラのキモは写真で最も大事なピント合わせに関わる性能の強化だ。
画面の縦横100%のAFエリアを最大1053の測距エリアに分割し、全画素で像面位相差AFを可能としたことで画面内のどこでも素早く測距が可能だ。
この細分化された測距点へのアプローチは従来のマルチコントローラーに加え、EOS-1D X MarkⅢで採用されて好評を得たAFスタートボタン兼用のスマートコントローラーも搭載。指の動きを光学式に検知するため手袋をした状態での操作にも反応する。マルチコントローラー操作のように指先に力をかけず、触れた指先を軽く滑らす動作で測距点を動かすことができ、その敏感度は好みに応じて調整可能。またスマートコントローラーはそのまま押し込むことでAF測距をスタートできるため動体撮影では一般的な「親指AF」で測距点の指定とAFスタートが指を置き換えず一つのボタンスイッチで素早く行えるようになる。
そして、まさしく目玉機能の筆頭が視線入力の搭載である。キヤノンが銀塩EOS の時代に視線入力を搭載した数機種を発売したのを記憶している人も多いだろう。筆者もEOS 7を一時期使用していた。
しかし、銀塩EOSの視線入力は画面内の狭いエリアに並ぶ幾つかのAF測距フレームのうちどれを使用するかを選択するためのもの。撮影時には選択したAFフレームを被写体に重ねなければ的確なAF測距は望めない。
これに対してEOS R3の視線入力ではファインダーのどこでも視線を注視した部分にAFポインターと呼ばれる丸いターゲットが動いて測距する。
EOS R3の視線入力は8種類あるAFエリアは全て使用でき、そのままAIサーボAFで被写体をトラッキング(追尾)が可能。被写体がフレーミング内を移動する動きに合わせてAF測距点も追随する。逆に被写体の進行方向や上にスペースを開けた構図で決め打ちしたい場合などではトラッキングをオフにすることで測距点を固定状態にしたままAF追従が可能になる。
実際の視線入力でAF撮影した作例をご覧にいれながら解説したい。
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RF100-500mmF4,5-7.1 L IS USM(500mmで撮影)・1/640秒・F7.1・ISO100・AWB・JPEG
スカイツリーや水平線の位置など構図をある程度イメージした手持ち状態でウインドサーファーが画面を横切るタイミングを待ち、フレームインと同時に視線入力で領域拡大AFを食いつかせて追尾させ、バランスの良いポジションに来た瞬間を見極めて撮影している。
視線入力を使わずゾーンAFなどでの待ち伏せなども試してみたが、海面の白波や画面奥など意図しない部分にピントを持って行かれることもあり結果的は視線入力&追尾が良い結果を残せた。
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RF100-500mmF4,5-7.1 L IS USM(500mmで撮影)・1/1000秒・F8.0・ISO400・AWB・JPEG
RF100-500mmF4,5-7.1 L IS USM(500mmで撮影)・1/640秒・F7.1・ISO100・AWB・JPEG
ミツバチは次から次へと花を飛び回る。100ミリクラスのマクロレンズで狙うとするとハチの移動を追うか、めぼしをつけた花に飛来するタイミングを待つことになる。この上下2枚の写真のポピーは4~5m離れて咲いていて、それぞれにハチが飛来したところを、あえて少し離れた場所から500mmで撮影位置は変えずに横着な撮影をしてみた。
流石に飛んでいる小さなハチを視線入力で捉えるのは難しく、花に止まったところを視線入力のスポット1点AFで測距し撮影。マルチコントローラーやスマートコントローラーで追うより視線入力が断然すばやく対応ができて効率が良かった。次々に変えて止まるような動きなら超望遠と視線入力でこのような撮り方もアリかとは思う。とにかくAFフレームの選択に指の操作が必要ないことで、被写体の種類を問わずテンポよく撮影ができるようになるのは間違いない。
キヤノン専用ソフト「Digital Photo Professional」でAF撮影時の測距点を表示させるとしっかりミツバチを捉えているのがわかる。
「視線入力する/しない」はメニュー画面からも設定できるが、初期状態でカメラ背面のセットボタンに設定機能が割り当てられているので、一押しごとに切り替えが可能だ。もちろん任意で他のボタンに割り当てを変更しても良い。
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RF100mmF2.8L MACRO IS USM・1/1600秒・F5.6・ISO500・AWB・JPEG
花びらの上を歩く幼虫の動きは遅いのだが、撮影時は風で花自体が大きく揺れていた。測距点はスマートコントローラーで合わせAFオン。トラッキングさせておけば花が揺れてもAFは食いついたままなので、揺れの少ないタイミングを見計らいシャッターを切った。カメラは縦に構えているがバッテリーグリップ一体型ボディで縦に構えても操作系が同じなのはありがたい。
視線入力は自分の視線情報をカメラに登録しキャリブレーションを繰り返すことでその精度を高めることが可能。キャリブレーションはEVFを覗き、順次表示される5カ所のポイントを注視しながらfnボタンを押す作業。一回あたりの所要時間は30秒も掛からない。
視線情報は名前をつけて6件まで登録可能。私は基本的に右目でファインダーを覗くが、撮影対象や環境に応じてレンズ度数や形状が異なる2本のメガネを使い分けているのと、稀に左目や裸眼でファイダーを覗くこともある。
実際にここまで使い分けられるかは別にして6パターンの視線情報を登録してみた。おそらく2と4は極端に使用頻度は低いと思うが、いざ使うとなった時にその場でキャリブレーションすることは現実的ではないのであらかじめ登録しておけば安心はできる保険のようなもの。視線情報の切り替えやキャリブレーションをする際に素早くアクセスできるようマイメニューに登録しておくとよい。
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RF100-500mmF4,5-7.1 L IS USM(472mmで撮影)・1/640秒・F7.1・ISO100・AWB・JPEG
密集した花壇を更に望遠レンズで圧縮して、絞らず浅い被写界深度のピンポイントで撮影。カメラは手持ちで構え、画面に取り入れる色味の配分を見ながら構図を決め、前後のボケ具合も確認しながらピントを置く場所を決めた。
マルチコントローラーやスマートコントローラーでフォーカスポイントを移動するより視線入力のほうが前の場所に戻ったり2つの場所を交互に見比べたりするのに都合が良かった。静的な被写体でも視線入力を積極的に利用して撮影効率を上げることができると思う。
視線入力による撮影は慣れると実に軽快なフィーリングでテンポよく撮影ができて楽しいが、さらにそれを上回るのが本格的に導入された被写体検出を使用した撮影。ハードルの高かった動体撮影の被写体捕捉と追尾をカメラ任せにできるので、従来機での撮影にくらべて構図とシャッターチャンスに集中する余裕が生まれるのは使うとすぐに実感できる。
既にEOS R6では人物と動物(犬、猫、鳥)の頭部や瞳の検出と追尾に対応していたが、EOS R3では「乗り物優先」の検出に対応(2022年3月のファームウエアVersion 1.5.0でEOS R6も同検出に対応済)。この乗り物とは主にクルマとオートバイなどいわゆるモータースポーツの類で、ライダーのヘルメットなど重要な部位を検出するスポット検出も設定が可能になった。今後もファームウエアのアップデートで検出可能な被写体が増えていくだろう。
欲を言わせてもらえば、検出対象項目を撮影者がいちいち切り替え操作をせずともカメラが自動でこなして欲しいところだが、それは近い将来きっと対応してくれると期待したい。原稿執筆時点ではタイミングが合わずモーターレースを被写体にした実写は未だできていないのでそれは後編の課題として今回は動体検出(動物優先)で撮影した野鳥の写真を最後にご覧いただこう。
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RF100-500mmF4,5-7.1 L IS USM(500mmで撮影)・1/1250秒・F8.0・ISO250・AWB・JPEG
巣作りの枝をくわえて運ぶダイサギの飛翔を連続撮影した画像の中から一部抜粋して掲載した。
一連のシーンは約50枚の連続撮影だったが被写体検出とトラッキングのおかげでAF追従が途切れたり、背景や他の被写体に引っ張られることもなく、全てのコマで良好なピントが得られた。その中から光の当たり方や背景が良く、広げた翼のフォルムが最も美しいカットを選んだ。
EOS R3は連写速度が早いので最速で秒間30コマの撮影が可能。被写体検出と追尾AFのお陰でピントは歩留まりが良いのでOKカット選定の自由度が高い。
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RF100-500mmF4,5-7.1 L IS USM(500mmで撮影)・1/1000秒・F7.1・ISO125・AWB・JPEG
田植え後間もない水田で獲物を探すチュウサギ。
よく見かけるシーンだがシンプルな背景の中で白い姿と水面の映りこみが美しく撮れるのもほんのひと時なので、できる限り写しておきたいと思っている。
けっこう歩き回るのが早かったりするがピントは被写体検出(動物優先)に任せて、水田奥にある農耕作業車や建築物などの色が水面に映らない構図と、被写体の動きを出すため歩む片足が水面に着くかつかないかのシャッタータイミングだけに集中できた。
使い始めて早い段階でアクセサリーシューカバーを紛失した。ラバーと組み合わせた大きな作りということもあってかカメラバッグからの出し入れや携行時にストラップなどが引っ掛かり気づかぬうちに外れてしまうことがあるようだ。パーツとして注文しようとした矢先に玄関の隅で発見して事なきを得た。購入する場合は1個1,650円(税込)。
結構高いし、防塵防滴には重要な役割も果たしているので紛失には要注意である!
・一眼レフEOSシリーズのフラッグシップ機EOS-1D X MarkⅢで好評を得た諸機能や操作系を継承
・EVFブラックアウトフリーにより「動体撮影に弱い」というミラーレス機に対するマイナスイメージを払拭、一眼レフと対等に渡り合える実力が備わった
・AF測距フレームの多点化、ワイド化により実用度が大幅に向上した視線入力AF
・撮影経験がない人でもシャッターチャンスをモノにできるチャンスを大幅に広げる被写体検出
・アクセサリーシューカバーの紛失には要注意