コンパクトで望遠撮影に強いOLYMPUSマイクロフォーサーズは、野鳥撮影向きのシステムです。
今回のプロフェッショナルレビューは、OLYMPUSをメインに野鳥撮影を行う菅原貴徳カメラマンに、フラッグシップカメラOM-1をレビューしてもらいます。
進化した鳥認識AFの使い方のコツなど、普段からOLYMPUSカメラに慣れ親しんだ氏ならではの製品レビューをお楽しみ下さい!
OM SYSTEM(オーエムシステム)OM-1の「鳥認識AF」を使いこなす
S-AF、C-AF、C-AF+TRの使い分け方とは
AFターゲット枠の決め方
鳥認識AFのON/OFFの使い分け
合焦速度を上げるコツ
OM SYSTEM(オーエムシステム)の新しいフラッグシップカメラ、OM-1。最新の機能満載の本機、市場での評価も上々のようだ。ここではAI被写体認識AF(鳥)(以下「鳥認識AF」と記す)を軸に、レビューをしていこうと思う。
OM-D E-M1Xでも搭載されていた鳥認識AFではあるが、この時は条件を選ぶ傾向が強かったので、ON/OFFの切り替えを頻繁に行って対応していた。今回のOM SYSTEM(オーエムシステム) OM-1の鳥認識AFは別物と言っていい性能で、検出・フォーカスともに精度・速度が向上しており、ほぼ常時使用している。オールターゲットにして、ほぼカメラに任せてもかなり広いシーンでの撮影をこなすことが可能だ。定評のあるM.ZUIKOレンズの解像度も、向上したOM SYSTEM(オーエムシステム)OM-1の画質が活きるのも、正確なピントがあってこそ。
とはいえ、どんな機能にも使いこなしは大切な視点であり、しっかりと特性を理解した上で、カメラと互いにサポートし合うイメージで使うとよい。特に、野鳥撮影では、鳥の動きや周囲の環境、撮りたいイメージによって最適な設定はつど変わる。適切な設定を瞬時に選べるよう、引き出しを増やし、そして整理しておくことが肝要だ。
AI被写体認識AFには、新たな認識被写体として、OM-D E-M1Xに実装したフォーミュラーカー・バイク、飛行機・ヘリコプター、鉄道、鳥 に加え動物 (犬、猫) を追加。
愛用のM.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROにOM SYSTEM(オーエムシステム)OM-1を装着。パワーバッテリーホルダー HLD-10を装着すると安定感が増す。
OM-D E-M1Xでは「C-AF+TR」にのみ対応していた鳥認識AF。OM SYSTEM(オーエムシステム) OM-1では、新たにS-AF、C-AF時にも使用できるようになっている。いずれのモードでも、ファインダー像内で認識した鳥に白枠が表示されるのは同じ。鳥との距離が近ければ(画面内の鳥が充分に大きければ)、頭部または瞳が検出され、追加表示される。そして、任意に設定したターゲットエリアと被っている白枠にフォーカスするのも同じだ。
悩む可能性があるのはC-AFとC-AF+TRの使い分けだろうか。簡単に仕様の違いを説明すると、まずC-AFの場合は、設定したターゲットエリアと白枠が被っている限り、その白枠の対象にフォーカスし続け、ターゲットエリアの外に対象が出てしまうと追従が終わる。一方、C-AF+TRでは、フォーカスの駆動を続けている限り、ターゲットエリアの外に対象が外れても追従し続ける。
筆者の場合、OM SYSTEM(オーエムシステム)OM-1では95%以上、C-AFで撮影している。OM-D E-M1Xと比べ、鳥の検出力が上がったため、ターゲットエリアを広く設定できるようになり、従ってターゲットエリアから被写体が外れる恐れがなくなったためだ。このような設定にした時、実質的にはC-AFとC-AF+TRの使用感には差がないと感じている。
残りはS-AFだが、特段使い分けているというわけではなく、秒120コマの速度で遡りが可能な「プロキャプチャー連写SH1」を使用するときに、S-AFに制限される、というだけのこと。従来機種では頻繁にAFモード、ターゲットエリアのサイズを頻繁に切り替えていたが、その煩わしさから解放されたといえる。
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【 ホンセイインコ [撮影地|撮影月|撮影時間 東京都|2月|16時]】
OM SYSTEM(オーエムシステム)OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO(焦点距離400mm[35mm換算800mm]で撮影)・絞り優先AE(絞りF4.5・1/2000秒)・ー1.0EV補正・ISO250・ドライブ:静音+連写・フォーカスモード:コンティニュアスAF+MF:WB:晴天・追尾被写体設定:鳥・手ぶれ補正:S-IS 1
画面の中で鳥が占める割合が大きい場合、鳥の「瞳」に合焦する。なお、写っているインコは本来インド周辺に住む鳥が逃げ出し定着したもの。ぼちぼち海外取材も復活させる計画だが、どうやら海外の鳥にも対応しているようだ。
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【 キアシシギ 】[青森県|5月|9時]
OM SYSTEM(オーエムシステム)OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO(焦点距離400mm[35mm換算800mm]で撮影)・マニュアル(絞りF4.5・1/1000秒)・ISO200・ドライブ:静音+連写・フォーカスモード:コンティニュアスAF+MF:WB:晴天・追尾被写体設定:鳥・手ぶれ補正:S-IS 1
逆光で、背景はギラギラの海面。背景に引っ張られそうなシーンだが、OM SYSTEM(オーエムシステム)OM-1では、少なくとも「逆光だからダメ」というようなことはないと実感。
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【 チュウシャクシギ 】[宮城県|4月|9時]
OM SYSTEM(オーエムシステム)OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO(焦点距離500mm[35mm換算1000mm]で撮影)・マニュアル(絞りF5.6・1/3200秒)・ISO500・ドライブ:高速連写 SH2・フォーカスモード:コンティニュアスAF+MF:WB:晴天・追尾被写体設定:鳥・手ぶれ補正:S-IS 2
浅瀬に降り立つチュウシャクシギ。撮影時は、広めのターゲットエリアを選択して鳥の動きを追うことに専念した一方、鳥認識AFが鳥の「頭」を検出して適切にターゲットエリアの大きさを絞ってくれたことで、翼ではなく顔にピントを合わせることができた。開けた環境では、適正露出の変化が少ないので、マニュアル露出が使いやすい。合わせてブラックアウトフリーのSH2連写も適するシーンだ。
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【 モズ 】[埼玉県|3月|16時]
OM SYSTEM(オーエムシステム)OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO(焦点距離500mm[35mm換算1000mm]で撮影)・シャッター優先AE(絞りF5.6・1/3200秒)・ISO2000・ドライブ:連写 プロキャプチャー連写SH1・フォーカスモード:シングルAF+MF:WB:晴天・追尾被写体設定:鳥・手ぶれ補正:S-IS 1
秒120コマのプロキャプチャー連写SH1で撮影したモズの飛び立つ瞬間。フォーカスモードはS-AFに固定される。なるべく多くのカットを残すためには、鳥が横方向に飛ぶシーンを狙うと良い。モズやカワセミのように、見張り場から飛ぶ習性を持つ鳥と相性が良いモードだ。OM SYSTEM(オーエムシステム)OM-1は電子歪みが小さくなったのもポイントで、鳥の羽の形がより自然に写るようになった。
原則として、AFターゲットが狭いほど撮影者の意図が強く反映され、広くなるほどカメラの判断に委ねる割合が増える。動かない鳥はスモールターゲットのような小さな枠を使い、飛翔など、小さな枠の中に鳥を留め続けるのが難しいシーンに対してはグループターゲットを使用するのが従来のパターンだった。OM SYSTEM(オーエムシステム)OM-1では、検出力の向上によってカメラを信頼できる部分が増えたため、従来よりも広いターゲットエリアで使用できるようになった。これにより、鳥が止まっているシーンを撮影中に、不意に上空を鳥が横切った場合などに、そのままカメラを向けるだけでよくなった。
ターゲットの枠は、任意の縦横比で作成したものをカスタム登録しておくことも可能だ。筆者は、画面の7割程度をカバーするものと、横一列の設定を登録している。前者は常用の設定。後者は地面や水面をいく鳥の撮影で重宝している。
1053点オールクロス像面位相差クアッドピクセルAF方式を採用。
AFターゲットの多点化に伴い、AFエリアを画面全域に加え、シングル(1×1)、エリア小(3×3)、エリア中(9×7)、エリア大(15×11)、エリア十字(9、7)、そしてカスタム設定と被写体の大きさ、動きに合わせて選択可能。
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【 セグロカモメ 】[千葉県|2月|13時]
OM SYSTEM(オーエムシステム)OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO(焦点距離400mm[35mm換算800mm]で撮影)・マニュアル(絞りF4.5・1/5000秒)・ISO250・ドライブ:静音+高速連写 SH2・フォーカスモード:コンティニュアスAF+MF・WB:晴天・追尾被写体設定:鳥・手ぶれ補正:S-IS AUTO
大型の鳥の飛翔も、森の小鳥も同じAF設定で撮影している。
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【 キビタキ 】[長野県|5月|14時]
OM SYSTEM(オーエムシステム)OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO(焦点距離500mm[35mm換算1000mm]で撮影)・絞り優先AE(絞りF5.6・1/400秒)・ISO320・ドライブ:静音+連写・フォーカスモード:コンティニュアスAF+MF・WB:晴天・追尾被写体設定:鳥・手ぶれ補正:S-IS AUTO
従来であれば、スモールターゲットを使い周囲の枝葉を避けてやる必要があった。OM SYSTEM(オーエムシステム)OM-1の鳥認識AFでは、従来のように極端に小さな枠にまでする必要はなくて、幹の合間を抜ける程度のサイズであれば問題ない。また、ターゲットエリアのサイズはそのままでも、MFで大雑把にピントを送り、鳥をカメラに「認識させる」ことで合焦を助ける方法もある。
さて、ここまで見てきたようにかなり幅広いシーンに対応してくれる鳥認識AFだが、特性上どうしても苦手とするシーンがある。その一つが群れの撮影だ。
画面内に複数の鳥がいる場合、基本的には最初に捕捉した、画面中央付近にいる鳥を追従し続けるのだが、流石に個体がシャッフルすると見失ってしまう。代わりの個体を認識するので、どの個体もピンボケ、ということはないのだが、絵としてはやはり、画面の中央付近にいる個体にピントを合わせたい。そのような時には、鳥認識AFをOFFにしてやると良い。
筆者は、OM SYSTEM(オーエムシステム)OM-1の肩にある「ISO」ボタンに鳥認識AFのON/OFFを割り当てていて、ファインダーを覗いたまま切り替えができるようにしている。瞬時に切り替える必要がある機能は、ファインダーから目を離さず触れられる箇所に割り当てると良い。
私は、OM SYSTEM(オーエムシステム)OM-1の肩にある「ISO」ボタンに鳥認識AFのON/OFFを割り当てていて、ファインダーを覗いたまま切り替えができるように設定している。
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【 ヒヨドリ 】[宮城県|4月|6時]
OM SYSTEM(オーエムシステム)OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO(焦点距離280mm[35mm換算560mm]で撮影)・マニュアル(絞りF4.5・1/1600秒)・ISO500・ドライブ:静音+高速連写 SH2・フォーカスモード:コンティニュアスAF+MF・WB:晴天・追尾被写体設定:OFF・手ぶれ補正:S-IS 2
海を渡るヒヨドリの群れ。全体としてはまとまった動きだが、個体ごとの位置関係は常に変化する。特定の個体を追う傾向のある「鳥認識AF」を敢えてOFFにすることで、画面の中央付近に入ってくる個体に合焦するような工夫をした。
OM SYSTEM(オーエムシステム)OM-1の鳥認識AFは検出速度・精度共に良いと評価している。使い込んでいくうちに得たコツをいくつかご紹介しよう。
まず、ひとつの考え方として、カメラが鳥を認識できるようにサポートしてやると良いと思う。OM SYSTEM(オーエムシステム)OM-1は、すでに繰り返しているように、鳥を検出する能力が高い。鳥の検出は基本的に「絵」で行うので、待機中の時間を使って、大雑把にでも鳥がいる、あるいは飛ぶと予測するあたりの距離にピントを送っておく。そうすれば合焦までもスムーズになるし、ファインダーで追うにしても鳥の形がわかった方が追いやすいはずだ。
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【 イワツバメ 】[長野県|5月|9時]
OM SYSTEM(オーエムシステム)OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO(焦点距離400mm[35mm換算800mm]で撮影)・マニュアル(絞りF4.5・1/4000秒)・ISO640・ドライブ:静音+高速連写 SH2・フォーカスモード:コンティニュアスAF+MF・WB:晴天・追尾被写体設定:鳥・手ぶれ補正:IS Off
事前にどのくらいの距離から撮り始めるかを決め、概ねその距離にレンズプリセットを設定。そうすることで、狙いが絞れる上、最短時間でのフォーカスが可能になる。ツバメの仲間のように、急な転回や上昇下降を繰り返す鳥相手にはどうしてもフレーミングが乱れがちになるが、OM SYSTEM(オーエムシステム)OM-1では、鳥を認識する速度が速いので、画面に収められている限り、多少アバウトに追っても大丈夫。C-AFの追従感度は+2に固定。
また、95%をC-AFで撮影と述べたが、常時AFを駆動しているわけではない。AF-ONボタンにAF駆動を割り当て、シャッターボタン半押しでのAF駆動を無効にすることで、撮影とピント合わせの作業を切り分ける。そうすることで、追っている鳥の手前を枝葉などが横切る際、一時的にAFを止めることで、障害物にピントを取られないようにするテクニックだ。
また、鳥が正面や向こうを向いている時より、横向きの方が検出されやすい。そうやって、ピントを合わせやすい鳥の向きや、枝の被り方などを理解していく。それでも合わない場合は、MFもうまく併用したい。その際は、従来機の約3倍にあたる約576万ドットに進化し、見やすくなったEVFがサポートしてくれるはずだ。
なお、枝被りシーンでのピンボケを防ぐ一番のテクニックは、枝被りを避けることである。うまく姿が抜けて見える角度を素早く見つけ、鳥を逃さないようそっと移動することや、枝の中に鳥が隠れないで済むよう、適切な距離感で鳥の行動を妨げないこと。絵としても、背景や鳥の周囲は整理されていた方がよい場合が多いので、無理に覗き込まず、次の動きを待つ余裕が大切だ。
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【 キビタキ 】[長野県|5月|5時]
OM SYSTEM(オーエムシステム)OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO(焦点距離500mm[35mm換算1000mm]で撮影)・絞り優先AE(絞りF5.6・1/60秒)・ISO1600・ドライブ:静音+連写・フォーカスモード:コンティニュアスAF+MF・WB:晴天・追尾被写体設定:鳥・手ぶれ補正:S-IS AUTO
採餌を繰り返すのち、森の中を段々と移動し、近づいてくるのがわかった。込み入った枝に入っている時には無理に撮影を試みず、撮影姿勢や設定を整えて待つ時間ととらえる。やがて目線の高さの横枝に止まってくれたので、落ち着いて撮影できた。肝心なシーンを逃さないようにしよう。
今回の使用レンズは、M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO
これまで使ってきて、野鳥撮影におけるOM SYSTEM(オーエムシステム)OM-1の対応域は間違いなく従来よりも広くなっている。
カメラに任せられることが増えた分、鳥をよく見る姿勢を忘れないようにして、いいシーンに出会えるようになっていこう。そうすれば、OM SYSTEM(オーエムシステム)OM-1が最後の仕上げを大いに助けてくれるはずだ。
・OM-D E-M1Xと比較してAI被写体認識AF(鳥)の性能が別物と言っていいほど向上
・鳥の検出力が上がったOM-1ではターゲットエリアを広く設定できるので、C-AFとC-AF+TRの使用感には実質差がない
・AFターゲット枠は鳥の検出力の向上により、従来よりも広いターゲットエリアで使用できるようになった
・群れの撮影では意図した個体にフォーカスしない事も。鳥認識AFのON/OFFをボディ肩部分にあるISOボタンに割り当てておくと、ファインダーから目を離さずにON/OFFできる
・大雑把にでも鳥がいる、あるいは飛ぶと予測するあたりの距離にピントを送っておく事で合焦速度を上げる事ができる
・鳥が横向きの時を狙う、枝被りを避ける角度を素早く見つける、などカメラが鳥を認識できるようにサポートしてやる事でより精度が上がる