宇佐見健 × Canon(キヤノン)EOS R3実写レビュー、後編ではEOS R3の目玉機能のひとつ「被写体認識AF」をメインにテストしていただきました。
被写体AFは、昨今のミラーレスカメラが性能の高さでしのぎを削る機能。はたしてプロカメラマンのシビアな使い方に対応出来るのか!?
宇佐見健カメラマンによるレビューをお楽しみ下さい。
メガネ着用でもしっかり仕事をしてくれる視線入力
被写体AFの実力はいかに?
いざ、サーキットで乗り物優先AFをテスト!
ツバメをドットサイトで狙う、実験的試み!ミラーレス機での飛びモノ撮影の結果は。
まとめ
キヤノンのフルサイズミラーレス一眼EOS R3は一眼レフEOSシリーズのフラッグシップ機EOS-1DX MarkⅢで好評の諸機能と操作系を継承しつつ、自社新開発の新型裏面照射積層CMOSセンサーを搭載。進化したトラッキングAF性能や高速連続撮影の強化など数々の革新的な機能を搭載したミラーレスRシステムの最上位機種。
前回は視線入力の使い始めの感触をお伝えした。当初はこの機能をいかに自分の眼に慣らしてAFポインターを自在に操れるようにするかが使いこなしのカギと考えていたのだけれど、実際に使ってみると銀塩時代のEOSに搭載された視線入力機能とは異なりキャリブレーションは簡単で学習機能も段違いに良いことを実感。昔の視線入力はメガネとの相性が悪く、少々期待外れだった印象を引きずりすぎていた(反省)。
そもそも20余年前の一眼レフとはシステムに違いがあり過ぎる現代の最新ミラーレスを比べることに意味は無いことかもしれない。しかしピントを合わせるための「お作法」として見た場合、固定されたAFフレームの指定だけが行える銀塩時代の視線入力撮影に対して、被写体を見ながら自由な構図と自由な位置でAF測距でき、被写体が移動してもカメラ任せの追尾に任せられるEOS R3とでは「視線入力」という機能名称が同じだけで全くの別モノ。どうせならもっと今風のネーミングに変更してくれても良かったのにと思う。
まめにキャリブレーションを繰り返したこともあってか、使い分けている2本のメガネのどちらでも視線入力のレスポンスは満足できるレベルまできたが、たまに挙動が怪しくなるのはファインダーアイピースに確実に密着できないようなアングルで撮影する場面くらい。アイポイントが離れるのと、メガネのレンズが接眼部に対して平行でないことが原因と思うのでこれは仕方がないこと。邪魔なメガネを一時的に外して裸眼で撮影することは他のカメラでもたまにある。そのような時にEOS R3では裸眼で登録しておいた視線情報のおかげで普通に視線入力を使えるのは便利に思う。
これからのミラーレス一眼は被写体検出の対象種類数や的確な部位へのAF捕捉と追尾しつづけるトラッキングの精度が競争の1つのテーマになることは間違いないはず。現時点ではEOS R3が人物以外で検出可能対象の被写体種類は動物系(犬・猫・鳥)と乗り物系(バイク・車)とライバル機に比べて少ない印象も否めない。被体写検出が出来なくても視線入力でカバーできるのは分かるが、視線入力はEVFの使用が前提。だからこそ背面液晶でのライブビュー撮影では被写体検出機能が活きるので検出可能な対象は多いにこしたことはない。せめて航空機くらいは加えて欲しく、今後のアップデートに期待したい。
なんにしても使いものになるAF機能か否かは、飛んだり走ったり素早く予想できない動体に食いついて追随し、連続撮影で歩留まりの良い結果を得られるか次第。EOS R3のトラッキングはEOS iTR AF Xと少々長ったらしい名称で言葉に出すのも文字で書くのも不便だが、前回掲載した野鳥撮影の際ではしっかり追従できていて好感触。
今回テストした乗り物優先の検出対象の説明には「フォーミュラー、ラリーカーなど」とあり小さなカートの記載は無かったが、試してみると即座にサーボAFの青枠が車体部分に食いつき追従を開始した。
テスト撮影ではほぼ直線に近いコースをカメラ方向に走行してくる様子を連続撮影。被写体ブレがあると微妙なピンボケとの見分けが難しくなるため高速のシャッター速度にしている。テスト機材と設定は以下の通り。
レンズ:RF100-500mmF4.5ー7.1L IS USM
・AFモード:サーボAF
・ドライブ設定:H+
・サーボAF特性:Case1「汎用性の高い基本的な設定」
*被写体追従特性と速度変化に対する追従性:0(初期設定)
・検出する被写体 乗り物優先
・スポット検出(ヘルメット):する
・被写体追尾(トラッキング):する
・追尾する被写体の乗り移り:緩やか
・露出:シャッター優先1/2000 AE F7.1~8.0 ISOオート(ISO500~640)
・メモリーカード:Angelbird AV PRO CFexpress SE 512GB
動画は連続撮影時のライブビュー表示を録画したもの。
*HDMIケーブルで出力して録画しているため、カメラに表示されるライブビュー表示とは内容やレイアウトが一部異なる。
画面右奥から左方向にカートが進入してきた時点で既に車体の検出は出来ているが、植え込みに遮られた段階で一旦途切れている。左奥で車体が重なった際にはサーボAFのエリアが3台の車体をまとめて捕捉。その後に一度先頭車を検出したあと瞬間的に2番手の車体を捕捉するが直ぐに先頭車両に復帰。以降はフレームアウトする最後のコマまでAF追随できていた。
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
直線に入り車体が正面を向く少し前からフレームアウトするまでの間シャッターボタンを押し続けた。ピントNGは41コマ目のみ瞬間的に2台後方のドライバーのヘルメットに合焦(後ピン)したのと、61?62コマ目が明らかな前ピン(合焦点なし)となった2件で計3枚と少ない。
なお、ピント合焦OKだった84枚の中でスポット検出(ヘルメット)の成功は4?25コマ目までの連続した22枚と、66?82コマ目までの連続した17枚だった。
次の3画像は撮影時に使用したAFフレーム(赤枠)を表示したEOS専用のPC用アプリDigital Photo Professionalのクイックチェック画面。正常にAF追随して高速連写中の41コマ目だけ一瞬ピントが2台後ろを走行するドライバーのヘルメット部分に移り、42コマ目で再び先頭車に復帰したことがわかる。
次の4枚も同様にDigital Photo Professionalのクイックチェック画面でNG2枚を挟みその前後2枚(計4枚)の連続写真。
61、62コマ目でピントが大きく外れている。この時のAFフレームを確認してもOKカットと変わらぬ位置にある。(上のライブビュ―の記録動画でもAFフレームは青いフレームのままで測距状態を保っているように見える)
掲載画像以外にも異なる車体/ドライバーで複数回撮影をした。AFフレームが車体とヘルメットで乗り移りを繰り返すことはあったが、連続撮影中にここまで大きくピントが外れてしまうNGは無かった。技術的なことはわからないが演算で何かしらエラーが出てしまったという事だろうか。
まったくピントの合ってない画像は使いようがないけれど、高速連写のおかげもありNGカットより遥かに多くのOKカットを得られた。捉えたらゼッタイに離さないということは無かったが、食いつきも離れたあとの復帰もはやく優秀だと思う。
ヘルメットのスポット検出はメーカーサイトの説明にもある通り、形状やデザインなどの要素で検出不可なこともある。これはEOS R3だけのことではなく、にたような機能を謳う他メーカーのライバル機も含めて同じこと。車体のピントを重要としたいならばスポット検出をオフにすればOK。
次の動画はヘアピンカーブの走行を連続撮影した画像のAFフレームを表示した再生画面をコマ送りしたもの。撮影レンズやカメラの設定内容はカート撮影とほぼ同じ。
乗り物優先のAF追随中にヘルメットを捉えるスポット検出に切り替わる様子がわかりやすい。同じ条件で2パターンの撮影をしたところ、ゼッケン23のライダーのヘルメットは高確率で検出したがゼッケン5番のライダーのヘルメットは一度もスポット検出できず車体の一部をヘルメットと誤認識する瞬間も見うけられた。ヘルメットのデザインはシンプルな方が検出しやすいのかもしれない。それこそこのような検出がうまくいかない場面では小範囲に絞ったAFエリアでの視線入力が威力を発揮するのだろう。
バイクレースでの検証もピントの具合を確認するために高速シャッタ―速度で撮影したが、サーキットでの撮影はスピード感を出すため流し撮りが主流。電子シャッター撮影ではEOS R3は撮影中もEVF像が消失しないブラックアウトフリーのため、流し撮りが行いやすい。流し撮りに対応の手振れ補正モードを搭載する超望遠レンズや望遠ズームも軽量で扱いやすいラインアップが増えてきたので気軽に楽しめると思う。
単純な左右方向の平行移動ではなく距離感の変化も伴うカーブ流し撮りは奥行きもあり後続者を絡めればバトルの迫力が出しやすい。レンズの振り方もコツがあるが、被写体の動きが全て見えるブラックアウトフリーEVFのEOS R3なら歩留まりも良いのでどんどんチャレンジするべき。
次の作例は高速で滑空するツバメの正面撮影にトライした。
用水路の水面に沿うように接近してくる一瞬を500ミリで正面から狙う。急降下から滑空を始めて毎回違う軌道で飛んでくる小さなツバメの姿をEVFを覗いて捕捉することじたいが困難。そこで周囲の状況を広く見ながら画角内に被写体を追い込めるドットサイトを利用。つまりライブビューは一切見ず、最新のEOS iTR AF Xの被写体補足とAF追随性能が頼りの撮影方法。自分は素通しのガラス上に映る照準マークにツバメの姿を重ねてシャッターを切ることだけに集中した。
レンズ:RF100-500mmF4.5ー7.1L IS USM 500mmに固定
三脚:ジンバル運台を使用
AFモード:サーボAF
サーボAF特性:Case3「急に現れた被写体に素早くピントを合わせたいとき」
*被写体追従特性と速度変化に対する追従性:2(初期設定)
検出する被写体:動物優先
瞳検出:する
追尾する被写体の乗り移り:1(初期設定)
露出:マニュアル SS 1/1600 F8.0(一部9.0) ISO2000
データ形式:RAW(Digital Photo Professionalにて現像時にトリミング)
上記の撮影設定は基本的に全てのショットで共通。絞り値F9.0のカットは単純に撮影途中で1/3段ずれていたのに気がつかず撮影していたため。
DigitalPhotoProfessionalのRAW現像時のキャプチャー。左に縦に並んだサムネイルがトリミングをしていないフルの画面で、右側にはAFフレームが分かるように拡大表示している。
EVFより狙いやすいとはいっても手ごわい相手にそれなり失敗写真も量産したが、再生画面を拡大して狙い通りツバメの表情がわかる画像を確認できた時には「おぉ!」と思わず声をあげてしまった。
AF測距点を確認するとツバメを補足できているし、ドットサイトでの補足が不安定(自分の腕前の問題)で画面隅で捉えている場合もトラッキングが追随しているのでAFは食いついたまま。これならトリミングすればじゅうぶん使える。ドットサイトが必要な特殊な撮影方法ではあるけれどミラーレス機の被写体検出が優秀ならば超望遠レンズでこんな動体撮影も可能という一例として紹介した。
各社の上級機が30メガや40メガピクセルを超える機種が多くなっている中でEOS R3は2410万画素。画素数だけをみると少々控えめな感じもするが、ISO2000の高感度の画像をクロップしても予想した以上の画質レベル。今回の作例でも小雨の中を濡れながら飛んでいるツバメの様子もしっかり写して止めているし、結構大胆なトリミングにも耐えている。
現時点ではEOSミラーレス一眼の頂点に立つ高速連写機EOS R3。動体撮影適応力も描写性能も撮影者の期待にじゅうぶん応えてくれる頼もしいカメラだと思う。
ポテンシャルは高いのでいろんな動体撮影にチャレンジしたくなる気にもさせてくれる。ミラーレス機は飛びモノに不利などというイメージは完全に払拭されたと思う。
・乗り物優先AF(車、バイク)は高い精度で動作、高速連写と併せて多数のOKカットが得られた。遠く離れた状態でも被写体検出がしっかりと捉えてくれる。
・被写体検出は野鳥の撮影でも威力を発揮、画面隅で捉えている場合もトラッキングが追随
・検出対象がライバル機に比べて少ないのは少し不満、今後のアップデートに期待
・視線入力のキャリブレーションは簡単、銀塩時代のEOSに搭載されていたものより学習機能も段違いに良い
・キャリブレーションを繰り返す事でメガネをかけた状態での視線入力のレスポンスも満足できるレベルに
・ピントはカメラに任せて構図やシャッターチャンスに意識を集中できる
・EVFブラックアウトフリーの効果もあり安定した被写体追従ができるので流し撮りが行いやすい