雨に濡れたイチョウの葉の質感が豊かに表現された1枚は、周辺光量が落ちている事などから古いレンズで撮ったような印象を受けます。
今回は、フィルム時代に設計され、30年以上の長きにわたって販売されているPENTAX(ペンタックス)の標準レンズ「FA50mmF1.4」の実写レビューです。
Limitedシリーズにも繋がるPENTAXらしい描写とオールドレンズのような個性で、ファンの多いレンズの特徴、操作性、画質やD FA☆レンズとの比較などをご紹介します。
特徴/操作性
1991年発売でいまだ現役のベストセラーレンズ
リーズナブルな価格とコンパクトなデザイン
時代遅れ感は否めないが、小型である事で全て許せる操作性
実写レビュー
オールドレンズのような写りがカスタムイメージ「里び(SATOBI)」ともマッチ
Limitedシリーズに通ずる優れた質感描写
駆動音が気になるがPENTAXユーザーには安心感も
レンズの性能的な甘さを楽しむレンズだが、フリンジが少し気になる
画質
開放での解像感
絞った際の解像感
HD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AWとの比較
画質の違い
デザインと用途
おすすめユーザー
FA50mmF1.4を選ぶメリット、デメリット
おすすめしたいユーザー
まとめ
PENTAX(ペンタックス)FA50mmF1.4 は1991年に発売されたレンズです。
1991年と言えば、PENTAX Z-1、Nikon F801S、Canon EOS100QDなどが発売された年です。往年のカメラファンからは懐かしい!という声が聞こえて来そうな機種ばかりで、FA50mmF1.4がいかにロングセラーレンズかがわかると思います。30年以上前に発売されたレンズが、いまだに現役で新品として販売されている事は驚きです。
オールドレンズと言ってもいいようなレンズが、便利なオートフォーカスで現行のデジタル一眼レフカメラで使える事は、PENTAX(ペンタックス)FA50mmF1.4の大きなメリットと言えるでしょう。
発売された時代背景を反映するように、リーズナブルな価格と驚くほどコンパクトなデザイン持ったレンズです。
2018年に発売された高性能レンズ、HD PENTAX-D FA★50mmF1.4 SDM AWとのサイズの違いは、本当に同じスペックのレンズかと疑いたくなります。初めて単焦点レンズを購入するユーザーにもおすすめ出来る嬉しい価格設定も特筆すべき点です。
フィルム時代のZシリーズに合わせたプラスチック製の鏡筒は、今見ると逆に新鮮で、古き良きPENTAXを感じられるデザインとなっています。
幅が狭くトルク感の少ないフォーカスリングや、絞りリングの搭載、ボディ駆動のオートフォーカスなど、最近のデジタル一眼レフカメラ用のレンズと比べると時代遅れの感は否めません。
しかし、細かい部分におおらかだった時代であればこそ出来た小さなサイズのおかげで、全て許せてしまいそうです。
絞りリングが付いているおかげで、マニュアルフォーカスのカメラまで含めた機種で使用する事が出来る事もポイントで、Kマウントの多くのカメラで使用出来るメリットも小さくありません。
フィルター径 | 49mm |
---|---|
最短撮影距離/最大撮影倍率 | 0.45m/0.15倍 |
最小絞り | F22 |
絞り羽根 | 8枚 |
長さ | 37 mm |
重量 | 220g |
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今回の作例は全てPENTAXの新しいカスタムイメージ「里び(SATOBI)」を使用して撮影しました。
FA50mmF1.4は「里び(SATOBI)」との相性がとても良く、新しいカスタムイメージを試すという意味も勿論ありましたが、撮影しながらこの組み合わせが気に入ったのが里び(SATOBI)を多用した大きな理由です。
「里び」は人気のカスタムイメージ「雅(MIYABI)」の対義語ですが、60~70年台のカラー写真の風合いにも似たイメージが、オールドレンズのような描写のFA50mmF1.4とマッチしたのでしょう。
開放でオールドレンズのような柔らかい描写を見せるのは、FA50mmF1.4の大きな特徴のひとつです。
ソフトレンズで撮っているような収差の多い柔らかな写りは、現代の高性能なレンズでは逆に得難いもので、FA50mmF1.4の特徴のひとつとなっています。
F2.8~4辺りまで絞った際にはガラリとシャープな描写に変化する2面性を持っているのも特徴で、ユーザーの作画意図に応じて使いこなすのが楽しくなるレンズです。
いくつかのPENTAXの50mmを使った経験から、毎回感じるのは質感描写に優れているという事で、FA50mmF1.4も例外ではありません。
よく色のバランスや鮮やかさを言い表すのに「記憶色」という言葉が使われます。実際よりも鮮やかな記憶に残ったイメージの色といった意味合いかと思いますが、FA50mmF1.4は「記憶質感」とも言うべき、リアル以上にリアルな質感描写が得意なレンズだと感じました。
これは現行のLimitedシリーズにも強く感じられる事で、時代を超えた共通の思想を感じます。
作例を撮影した日は生憎の雨模様でしたが、雨に濡れた葉やコンクリートの質感が出て、逆にFA50mmF1.4の良さを引き出せるシチュエーションだったかもしれません。
高解像でシャープだからいいという訳では無い、レンズ性能の奥深さを感じます。
より質感を重視して撮影するなら、作例3のように描写が落ち着くF4程度まで絞って撮影するといいでしょう。
先に書いたとおり、操作性や操作感に時代遅れ感は否めません。それを実際に使って特に感じるのはオートフォーカスの駆動音ではないでしょうか。
オートフォーカスをする度に伝わって来る振動や、なかなか盛大な駆動音などに時代を感じます。しかし、今でも多くのレンズがボディ駆動方式を採用しているPENTAXを使い慣れたユーザーとしてはむしろ安心感を感じるのではないでしょうか。
とは言え、作例5のようなシチュエーションでシャッターを切るには少し勇気のいるやかましさです。
レンズのコンパクトさはシンプルな構造にあります。
オートフォーカスユニットをレンズ内に入れなければならないレンズ内モーターは、どうしてもレンズが大きくなってしまいます。
FA50mmF1.4のコンパクトさはボディ駆動方式だからこそ実現している部分もあるので、フォーカスの駆動音などは些事と考えておくのが正解と言えるかもしれません。
オールドレンズのような写りや、30年前のレンズの操作性などのレンズの特徴は、よく言えば個性、悪く言えば短所を楽しむレンズだと思います。
周辺光量の低下は写真に古臭いイメージをプラスしてくれますし、8枚という少ない絞り羽根は点光源の角が目立ちますが、それはそれでレンズの個性として考えれば表現として利用出来なくはないでしょう。
レンズに愛着を持って接し、レンズの個性を知った上で表現に活かすといった使い方は、この年代のレンズならではの楽しみ方と言えるのではないでしょうか。
そんなゆるさを楽しめるレンズですが、はっきり欠点と言える箇所が2つあります。
ひとつは最短撮影距離で、45cmは当時の標準レンズとしてはごく一般的な値ですが、今見ると少し物足りなく感じます。もうひとつはフリンジで、作例8のような明暗差のある被写体では目立つケースもあります。
デジタルカメラの無かった時代に設計されているのでこれは致し方ない事ですが、HDコーティングを施す事で改善したモデルもあるようなので、新型のHD判が出たらいいなと思います。
開放ではオールドレンズのような柔らかい描写をするレンズです。
拡大して解像感を見てみます。
開放ではかなり眠い描写です。解像感はある程度ありますが、これはレンズのというよりはカメラの性能がかなり助けている印象です。
先に述べたとおりフリンジの発生も見られ、お世辞にも高性能なレンズとは言えませんが、現行のオートフォーカスのレンズにここまで面白い写りをするモデルは少ないと思いますので、個性を楽しむという意味では大きな価値のあるレンズだと感じます。
F2.8以上絞ると解像感、コントラストとも良くなって、開放とは別のレンズのような側面を見せてくれます。この2面性もFA50mmF1.4の特徴のひとつで、幅広い表現の要因となっています。
F4まで絞った画像を拡大して解像感を見てみましょう。
同じレンズとは思えないシャープで高コントラストな描写です。
現代的なシャープな描写が好みなら、F2.8よりも絞って撮影するのが良いでしょう。
30年近く隔たりのあるレンズについて、画質を比較するのもナンセンスかもしれませんが、現代のレンズの高性能さを知るという意味でも価値があると思います。
以前同じカメラを使って撮った、FA★50mmF1.4 SDM AWの写真の拡大画像を載せておきますので、FA50mmF1.4の拡大画像と比較してみて下さい。
高い解像感、コントラスト、物の形の縁がほとんど滲まないシャープな描写に、30年のレンズ設計の進歩を感じます。
抜けのいいレンズとはこういうレンズを言うのでしょう。
しかし、こういったレンズが大半となった現代においてこそ、FA50mmF1.4のような柔らかさや眠さ、F値による画質の変化といった個性がむしろ輝きを放つ気がします。今回の作例撮りで、そんな事を強く感じました。
同じスペックとは思えない大きさから来る、写真に対するスタンスの違いもこの2つのレンズを比較する際のポイントです。
大きなレンズは性能的に高いレベルにある事がメリットですが、小さくコンパクトなレンズには、撮影に集中したり、シャッターチャンスに強くなったりといったメリットもあると思います。
フィルム時代のレンズらしい小ささは、その個性的な写りと併せて、表現する事をより楽しめる要素となるかもしれません。
FA50mmF1.4を選ぶ最大のメリットはその個性的な写りにあります。併せてコンパクトで扱い易いデザインは日常的に持ち歩いて撮影を楽しむユーザーにもおすすめです。
K-1 Mark IIなどのフルサイズ一眼用としては勿論、K-3 Mark IIIなどのAPS-Cサイズセンサーカメラに取り付けて、中望遠レンズとして使うのも面白いかもしれません。
デメリットは解像感やコントラスト、フリンジの発生といったレンズ性能の低さで、特に開放時に顕著です。こういったレンズの欠点を個性と捉えるか否かが、FA50mmF1.4を選ぶポイントと言えます。
オールドレンズを使っているような錯覚すら覚える写りの個性を使って、表現する事を楽しめるユーザーにおすすめです。
性能の高さよりも写真の個性を重視するなら、FA50mmF1.4はきっと期待に応えてくれるでしょう。
出来る限り開放で使って、写真の中にレンズという要素を強く押し出すような使い方に向いているのではないでしょうか。
フジヤカメラでは、PENTAX一眼レフ用レンズの中古商品を多数取り揃えております。在庫は日々更新されますのでどうぞこちらからご確認下さい。
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・オールドレンズのような個性的な描写が最大の魅力
・リーズナブルな価格、コンパクトなデザインは日常的に持ち歩くのにも便利
・新カスタムイメージ「里び(SATOBI)」との相性も良い・絞りリング付きでデジタルから古いフィルムカメラまで使えるカメラが多岐にわたる
・AF駆動音や幅の狭いフォーカスリングなどは時代を感じる操作感だが、PENTAX愛用者には受け入れやすいかも!?