HDコーティングを採用してリニューアルするフルサイズセンサーカメラ用のLimitedシリーズ、HD PENTAX-FA 31mmF1.8 Limited、HD PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited、HD PENTAX-FA 77mmF1.8 Limitedの実写レビューです。
1997年にFA 43mmF1.9 Limitedが登場して以降、最初のLimited シリーズとして発売された3本は、PENTAXを代表する単焦点レンズとして、20年以上の長きにわたって愛好家の高い支持を得てきました。
発売当時はフィルムカメラが主だったことを考えると、フルサイズセンサーカメラ用という書き方にも違和感を抱く、大ベストセラーレンズのリニューアルモデルを、実写レビューを中心に紹介します。
目次
特徴・操作性
HD PENTAX-FA 31mmF1.8 Limited 実写レビュー
HD PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited 実写レビュー
HD PENTAX-FA 77mmF1.8 Limited 実写レビュー
フリンジ
まとめ
今回リニューアルされたHD PENTAX-FA Limitedシリーズの特徴は、品名にHDの文字を冠することからもわかるとおり、PENTAX の最新コーティング技術であるHDコーティングが施されていることです。
定評のあるレンズ設計はそのままに、従来のコーティングと比べて50%ほど反射率を低減出来るHDコーティングを採用、難しい光線下でもよりクリアでコントラストの高い抜けの良い描写が期待できます。
レンズの味わいはそのままに、フィルム時代よりもシビアな画質が要求されるデジタルカメラに対応したリニューアルと言えるでしょう。また、最前面のレンズには、撥水・撥油性、耐擦傷性を備えたSPコーティングが採用されています。
レンズ先端の名板に刻まれたHDの文字以外の外観上の違いはほとんど無く、HDコーティングを施されたレンズにはお馴染みの赤いラインもありません。ただ、HD PENTAX-FA 43mmF1.9 Limitedは、あらたに七宝焼きを施したフィンガーポイントが追加され、他の2本と同等のデザインとなりました。
また、各レンズとも新たに円形絞りを採用しているので、夜景撮影の際などの点光源のボケが丸く綺麗に出来る絞りの選択肢が増えています。こういった細かい部分も手を抜かずに現代のトレンドを導入しているあたりに、PENTAXのレンズ作りに対する真摯な姿勢が見て取れます。
さて、あらためてHD PENTAX-FA Limitedシリーズのレンズを見てみると、20年以上前のデザインであるにも関わらず、全く古さを感じさせません。当時の他のAFレンズを見ると、どこか今のカメラには似合わない古臭さを感じる事が多い事を考えると、これはなかなか凄い事ではないでしょうか。作りの良さや、フォーカスの操作感の良さは今でも十分通用するレベルで、Limitedシリーズが時代を超えて特別なレンズである事を実感できます。フィルムからデジタルの時代になって、カメラやレンズの世界は大きく様変わりしました。それでも、生き残り愛され続けたPENTAX-FA Limitedシリーズのレンズは、数字に表れない実写における空気感や立体感を重視するPENTAXの哲学そのものなのかもしれません。
フィルター径 | 58mm | 最短撮影距離/最大撮影倍率 | 0.3m/0.16倍 |
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最小絞り | F22 | 絞り羽根 | 9枚(円形絞り:F1.8-F3.5) |
長さ | 69mm | 重量 | 341g |
春うららの里山を散歩しながらテスト撮影を行いました。この時期の里山を代表する花、カタクリです。
下を向いた形の花は、多少撮影に苦労しますが、テストボディに選んだPENTAX(ペンタックス) K-1 Mark IIのフレキシブルチルト式液晶モニターが極端なローアングルを可能にしてくれました。31mmという絶妙な画角とF1.8という明るさのおかげで、背景の雰囲気を伝えながら、カタクリの花を的確にフォーカス出来たと思います。
さわやかな春の日差しに照らされた草花の趣が、高いコントラストを持つレンズ性能と高画素機の再現性のおかげで、リアルに描写されました。
東京都下の多摩地区や武蔵野ではよく見かける名もなき石塔です。普段ならきっと気付かないであろう車道の片隅に、今でもひっそりと信仰が生きている雰囲気を出したくて、敢えて背景に人工物が写るようフレーミングしました。
背景を活かした写真を撮りたい時、31mmという画角は、被写体との距離感がちょうど良く、背景にもまとまりをだせて使いやすいと感じました。微妙に落ちる周辺光量や絶妙な柔らかさを醸し出す収差のおかげか、時代を感じる写真になったと思います。
個人的に好きな「さとうさとる」という児童作家の作品に「つばきの木から」という物語があります(小学校の教科書にも載っていたのでご存じの方も多いでしょう)。
椿の木に登った少年がそこから落ちる際の想像をめぐらす話なのですが、実際に木登りが出来るほどの椿の大木はあまり見かけないようです。
あまり春の花という印象のない椿ですが、黒く硬い葉の質感と背景の暖かい光との対比が美しく見えてレンズを向けました。比較的明暗差の大きいシチュエーションですが、レンズの粘りのせいか、カメラのダイナミックレンジのお陰か、明るい部分も暗い部分もいずれも納得できる描写で写しとめることができました。
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フィルター径 | 49mm | 最短撮影距離/最大撮影倍率 | 0.45m/0.12倍 |
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最小絞り | F22 | 絞り羽根 | 8枚(円形絞り:F1.9-F3.5) |
長さ | 27mm | 重量 | 155g |
今回のテストでは、3本のレンズを取り換えながら画角の変化を楽しみながら撮影しました。
HD PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited は、31mmと比較して画角が狭くなる分、構図をシンプルにまとめやすくなります。標準レンズは、場合によっては広角レンズのようにも、中望遠レンズのようにも使える汎用性の高いレンズです。
広角の31mmほど開放での周辺光量低下は大きく無いので、ぱっと見には優等生な写りですが、ボケの感じなどにPENTAXのレンズらしい個性が感じられ、高解像度なレンズではありませんが、立体感や奥行き感が伝わるまさに実写にフォーカスして設計されたレンズだと感じます。
ボケに強い個性を感じるレンズです。とろけるような柔らかな美しいボケというよりは、ピントが合っていない部分も何が写っているのか形の輪郭がわかる感じのボケ方だと思います。例えば、ヤシカ/CONTAX時代のZeissレンズのような雰囲気です。
以前PENTAX-FA 43mmF1.9 Limitedの設計には、コンピューターを使っていないという話を聞いた事があります。真偽のほどは定かではありませんが、そんな伝説を信じたくなってくるどこか懐かしい感じの写りです。
デジタルになってもその個性が写りに活かされているあたりに、PENTAXのカメラ作りへのこだわりを感じます。
神社でお参りをして階段を降りて行くと、傍らに咲く椿の木から大量の花が落ちていました。
開放では少し眠目の写りをするHD PENTAX-FA 43mmF1.9 Limitedですが、このカットでは絞りをF8まで絞って撮影しており、絞り込むとグッとシャープネスが増して画が立ち上がって来ます。
それでいて立体感は申し分なく、ガリガリと硬くなったりもしないあたりがLimitedシリーズの真骨頂で、印刷とは違う写真らしさが漂う画作りと言えるでしょう。
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フィルター径 | 49mm | 最短撮影距離/最大撮影倍率 | 0.7m/0.14倍 |
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最小絞り | F22 | 絞り羽根 | 9枚(円形絞り:F1.8-F4) |
長さ | 48mm | 重量 | 270g |
中望遠レンズのHD PENTAX-FA 77mmF1.8 Limitedは、43mm以上に構図や背景をシンプルにまとめやすくなり、開放では薄い被写界深度を利用して背景をボケの中に溶かしてしまう事が出来るようになります。
開き始めた新緑の葉をシンプルな構図で捉えましたが、定評のある緑色の再現性にプラスして、Limitedシリーズのレンズらしい豊かな諧調と立体感で葉の柔らかさまで伝わる写真となりました。先ほどの43mmとは違いボケは柔らかく美しいもので、中望遠らしいイメージに設計されていると感じました。
道端に生えるただの雑草が素晴らしくフォトジェニックな被写体になるのが写真の面白いところで、背景の崩れた塀と生命力に溢れた手前の雑草の対比に心動かされてシャッターを切りました。
ボケはじめの美しさがこのレンズの最大の特徴で、長所だと思います。そんなレンズの長所を活かせる写真が撮れてホッとしました。
しかし、PENTAXの緑色の再現は本当に綺麗ですね!緑だけで食っていけそうな程、魅力的に感じます。
31mmでも撮影したカタクリの花を、HD PENTAX-FA 77mmF1.8 Limitedの大きなボケを活かして撮影しました。
この写真を撮った時少しだけ残念に思ったのは、もう少し近接に強ければ、例えば最大撮影倍率が0.25倍程度のマクロ撮影ができれば言うこと無しだったのに、ということです。
同時に使っていると、Limitedシリーズ3本全て欲しくなってきます。そうすると、マクロっぽく使えるレンズがあれば撮影の幅がさらに広がるのに、と欲張りな欲求が出て来るのです。
しかし、このあたりはコンパクトさにもこだわったLimitedシリーズのコンセプトとはトレードオフな関係なので難しかったのかもしれません。
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FA Limitedシリーズは、明暗差の激しい逆光などのシチュエーションではパープルフリンジが発生します。HDコーディングを施されたHD PENTAX-FA Limitedシリーズもこの部分は同様でした。
今回の撮影では、失敗と言っていいほど大きくフリンジがのったカットは100カットほど撮って数枚でした。とは言え、目立つケースもあったので後処理を覚悟するか、そういった被写体は避けるなどの工夫が必要かもしれません。
以下は逆光のシーンで大きくパープルフリンジが出たカットで、可能であればLighatroomなどを使って除去した方がいいと思います。