超望遠レンズにおけるトレンドとのひとつとして「大幅な軽量化」が挙げられます。
外装の材質、硝材やモーター等部品の進化、従来には無かったようなレンズ構成など、様々な要素のおかげで、「とても大きく重いもの」と思われていた常識が覆され、新しい製品が登場する度に驚かされます。
今回取り上げる、ニコンの「AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR」もそんなレンズの一つです。2018年9月の発売以来、現在(2019.8.6)でもメーカーの想定を大きく上回る程の人気を博しています。
わずかな時間ながら試用できる機会を得られましたので、いつものように鉄道を被写体として撮影してきました。その時の写真を交えて紹介します。
Nikon AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR の最大の特徴は、何と言ってもその大きさと重さです。
比較のために「AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR」(右)と「AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR」(左)をそれぞれ並べてみましたが、大きさは全長が少し長い程度、重さにいたっては約1,460gと70-200mmf/2.8E FL ED VR(約1,430g)と、30gしか変わりません。
光の回折現象を利用したPF(位相フレネル)レンズと呼ばれる特殊なレンズを採用したことで、単体で強力な色収差の補正が可能なのと、それに伴い他のレンズを薄く、軽くできたおかげでこの大きさと重さを実現できました。開放F値はF5.6と大口径ではないものの、手持ちで軽々と扱え、500mmの超望遠レンズを使っていることを意識しなくなってしまうくらい気軽に使えてしまいます。
超望遠レンズの運搬というと、レンズだけでいっぱいになるくらいのバックパックや、専用ケースが思い浮かぶところですが、70-200mm F2.8クラスのレンズが入るバッグであれば、Nikon AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR なら、ぎりぎり入ってしまうのではないでしょうか。
ただし先端部の口径は105mm、フィルターサイズは95mm径と大きく、フードを逆付けで装着するとさらに幅を取ってしまうので、バッグによっては入れ方を工夫する必要があると思います。
D850に AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR を取り付けてテスト撮影に出かけました。今回、普段使いのカメラバッグにD850共々すっぽりと入れてしまうことができたのですが、普段と変わらない状況で移動できたためか疲れることもなく、終始快適に過ごせました。
朝のラッシュが落ち着き、下り線を長い12両編成で駆け抜ける京急線の電車。500mmの強い圧縮効果が効いています。
普段この場所を走ることがない、京成線の旧型車両が通過していきました。とっさに構図を変えて連写を続けましたが、AF精度・追随性能ともに申し分ありません。解像力も非常にシャープで、高画素機のD850との組み合わせても、まだまだ余裕があると思えます。今回は使用していませんが、テレコンバーターを併用しても、良好な結果が得られるのではないでしょうか。
夜の線路沿いで、手持ちで500mmレンズを使うこと自体、以前では考えられなかったことです。手ぶれ補正の効きがとても良く、公称性能の4段分よりも効いているのではないかと感じました。
動作モードは通常の「NORMALモード」ではなく、動きが激しい被写体でもファインダー像がより安定し、フレーミングしやすい「SPORTモード」を使用しました。連写中でもファインダー内の動きの変化が少なくなってとても見やすく、「NORMALモード」よりも補正効果が少々下がるとのことですが、こちらを常用でも全く問題ないと感じました。
ここで車両のヘッドライト周りに注目して頂きたいのですが、リング状の色つきのフレアが写り込んでしまっています。
PFレンズはレンズの特性上、画面内にこのような強い光源があるとフレアが発生しやすくなります。
限られた条件下での問題ではありますが、気になる時はニコン純正の画像処理ソフト「Capture NX-D」に搭載されている「PFフレアコントロール」機能で軽減することも可能とのことです。小型・軽量のメリットを取るか?PFフレアの発生を心配するか?撮影ジャンルや状況にもよりけりだと思いますが、個人的には前者によって得られる効果の方が大きいと思います。
鉄道写真において超望遠レンズの威力をより発揮できるのは、在来線や私鉄以上に線路に近づいて撮るのが難しい、新幹線ではないでしょうか。遠くへ出かけて撮影してみたかったのですが、時間の都合上、都内からすぐに行ける場所で使用してみました。
ビルの展望デッキから、ガラス越しの撮影ですが、十分シャープです。
500mm×1.5=750mm相当の効果が得られるクロップ撮影。D500やD7500等のAPS-Cセンサー搭載のカメラと組み合わせて、より小型な超望遠システムとして使用するのもアリです。
駅のホームの先端から。この場所だと500mmは長すぎましたね。
新幹線の撮影で悩まされるのが、線路際のフェンスや金網です。この場所も金網越しでの撮影でしたが、超望遠の効果で写り込むこともなく、ピントへの影響もありませんでした。
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最初にも述べたように、「超望遠レンズ=とても大きく重いもの」と思われていた常識が覆され、夜でも手持ちで気軽に撮影できるようになるなど、以前であれば難しかった撮影がより身近なものになりました。
また、今後のニコンのレンズシステムはFマウントからZマウント、つまり一眼レフからミラーレスへ徐々に移行していくことになると思いますが、このレンズならアダプター併用でも使いやすく、一眼レフで使用する時以上に身軽に撮影が楽しめることでしょう。
PFレンズ採用で小型軽量・高画質を実現した望遠レンズはもう1本「AF-S NIKKOR 300mm f/4E PF ED VR」がありますが、フルサイズ対応の望遠レンズでここまで小型な製品は、現状ニコンのこの2本以外には無いと思います。
大人気により現在も供給が足りない状態が続いていますが、実際に使用してみて納得できました。「このレンズがあるからこのシステムを使う。」と思えるレンズが各メーカーにあると思いますが、Nikon(ニコン)AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR もそんなレンズの一つだと感じました。