はじめに
レンズ概要
NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR Sの作例
猛禽類
サーフィン
風景、スナップ
夕日、月
テレコンバーター装着時の画質比較
800mm単体
Z TELECONVERTER TC-1.4x使用
Z TELECONVERTER TC-2.0x使用
まとめ
作例に使用したレンズ
作例に使用したカメラ
宇佐見 健(KEN USAMI)
1966年、東京都出身。日本大学芸術学部写真学科卒業後、専門誌、広告代理店を経て独立。水中から陸上のあらゆる被写体、天空のオーロラまで幅広いフィールド・分野を撮影。全天球360度カメラからハイエンドデジタルカメラと守備範囲が広くカメラ雑誌・Web媒体等で新製品機材インプレやHow to記事等も執筆。
JSPA会員。
カメラグランプリ外部選考委員(2010年〜)。
RICOH360°フォトコンテスト2024審査員。
Instagram: https://www.instagram.com/usa3ken/
ニコンZシリーズ用交換レンズの中で最長焦点距離の超望遠レンズNIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S。位相フレネルレンズ採用や開放絞り値をF6.3におさえ、同社一眼レフ用800mm比では約48%の軽量化を実現して登場したのが2022年4月。S-Lineの800mm単焦点レンズでありながら90万円を切る実勢価格が気になる存在なのはニコンユーザーだけではないでしょう。
Zマウントフルサイズ(FX)フォーマット対応の単焦点800mm超望遠レンズ。
単体重量2,385グラム、全長385mmの小型軽量な鏡筒により同焦点距離クラスの常識を覆す機動性を実現。
各種機能割り当て可能なコントロールリングのほかにL-Fnボタンは鏡筒を上下左右4カ所と左側面に1つ配置し、縦/横位置の撮影ポジションに制限されない操作性を確保。任意のピント位置を簡単に登録できるメモリーボタンを搭載。光学手ブレ補正とカメラボディ内の手振れ補正との組み合わせた補正効果は最大5.5段相当。
優れた光学設計と諸収差補正、ナノクリスタルコートをはじめとした先進技術によりNIKKOR Z レンズ群の中でも高い基準を満たすS-Lineの一本。
スイッチ類はAF/MFの切り替えとフォーカス距離リミッターのみとシンプル。手ブレ補正のオン/オフやモードはカメラのメニューから設定。
任意のピント位置を一押しで登録できるメモリセットボタン。呼び出しは機能を割り当てた任意のFnボタンで行う。
必要に応じてNDなど46mm径のフィルターを一枚ドロップイン可能。
Nikon Z9・NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S
絞りF8・1/2000秒・ISO1600・AWB
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12-3メートルほど離れた位置からの撮影。拡大表示すると羽毛の細部まで極めてシャープで、さすがSラインのレンズと納得の描写性能です。
身近な公園の池でも出会えるカワセミは人馴れした個体ならば思いのほか近づけますが、ストレスを与えないよう撮影距離に余裕を持って接したいものです。その点でも800mmという焦点距離はとても有利です。
動きのないシーンを短時間で撮るなら手持ち撮影でも良いでしょう。しかし飛び立つ瞬間など次のアクションまで構図をキープしながら「分」を超え時間を待つのは正直辛いです。カメラを構える一連の動作を繰り返すのは思いのほか腕力を早く消耗させます。池のほとりなどに腰を据えて「待ち」を伴う撮影なら、やはりビデオ雲台やジンバル雲台など動体撮影にも対応しやすい雲台と三脚を利用した方が無難です。
森林公園や自然観察園など広いエリアを探鳥に近いスタイルで移動しながらの撮影にもこの取り回しの良さは魅力的です。筆者も、一日の行動範囲の広がりを実感できました。このような撮影では一脚を使用すると傾斜地などでも素早く対応でき便利です。
Nikon Z9・NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S
絞りF6.3・1/2000秒・ISO1000・AWB
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移動の途中でしたが飛来するカワウに気づき急いでカメラを向けました。装着していた一脚は移動のために縮めていましたが、そのままカメラを構えて手持ち撮影。レンズと一脚ならとっさの場合にはそのような使い方もアリでしょう。
Nikon Z9・NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S・1200mm相当(DXモード)
絞りF6.3・1/1000秒・ISO180・AWB
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距離が遠かったのでDXモードに切り替えて撮影。1200mm相当の画角でアオサギの周囲に点在していたカモを画面内から追い出し、主役1羽だけの静寂な雰囲気の画面構成にできました。
次の作例で撮影している猛禽類は、昨年から数回撮影に協力いただいている鷹匠さんの調教での飛翔シーン。作例というよりも、筆者の技量で800mmでも追えるのか?というチャレンジ的な要素が強い撮影です。結果は普段使用してきた200〜400mm程度の焦点距離と比べればフレーミングが追いつかずNGカットを量産しましたが、かろうじて完敗は防げたかな?という惨状。猛禽類も本気モードで飛べば疲れるため勝負は極めて短時間。負けはしたけど800mmで追い回すのは想像以上に楽しいひとときでした。日々このレンズでの撮影に専念できれば、使いこなせるまでさほど時間は掛からない自信はあります。
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Nikon Z9・NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S
絞りF10・1/2500秒・ISO900・AWB
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獲物に見立てて鷹匠が振り回すルアーと激しくチェイスするジアセイカーハヤブサ。文字通り地面スレスレを高速で飛び、一瞬で急転回する様は圧巻です。
Nikon Z9・NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S
絞りF6.3・1/3200秒・ISO900・AWB
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鷹匠の合図で止まり木から飛び立つハリスホーク。瞳検出は正面顔へのピント合わせてくれるので、向かってくる飛来シーンでも超望遠レンズの絞り開放を躊躇なく使えるのはありがたいことです。
AFを食いつかせることができればほとんど全シーンで被写体を正確に捉えることができていることは専用アプリのNX StudioでAFでフォーカスポイントを表示させると一目瞭然。
撮影協力
鷹の庵 https://www.instagram.com/takanoan/
近づける撮影距離に限界があるサーフィンも超望遠レンズの本領を発揮できる恰好の被写体。午後の斜光線により常に逆光となる環境でも露出補正を割り当てたコントロールリングは撮影姿勢のまま直感的な操作が可能。ライダーの表情を見せたり逆にシルエット気味にしてダイナミックな飛沫のフォルムを強調が自在に行えます。海面の強い太陽光反射が入る場面ではやはりPFレンズの弱点かわずかなフレアの影響かコントラストの低下が見受けられたケースもありますが、個人的には許容範囲だと思います。
Nikon Z9 ・NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S
絞りF6.3・1/2500秒・ISO1250・AWB・+1.7EV補正
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Nikon Z9・ NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S
絞りF6.3・1/2000秒・ISO1400・AWB・+0.7EV補正
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上の2枚は同じようなシーンでも狭い画角ゆえに画面に入る海面や波の割合が影響して露出補正量の差は約1EVもあります。一脚で機材重量を支え、レンズに添える左手はコントロールリングを指一本でも操作できるように上から被せるように鏡筒に添えて撮影しています。
Nikon Z9・NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S
絞りF6.3・1/2500秒・ISO1400・AWB・+0.7EV補正
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派手なエアリアルと盛大なスプラッシュを期待した通り克明に写せています。拡大表示で氷の彫刻やまるで砕けたガラス片のように止まった肉眼では見ることのできない瞬間を細部まで確認してみてください。
Nikon Z9・NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S
絞りF6.3・1/2000秒・ISO1400・AWB・+1.3EV補正
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回転式三脚座は縦/横位置切替の操作がスムーズに行えて好印象。
撮影協力
サーフィン/ライダー:Ryo Kobayashi(@kobayashi_kbr_ryo)
800mmで風景やスナップ的な撮影はできるのだろうか?とあえて明確な被写体は想定せず持ち出してみましたが、このボリュームなのでストラップで肩から提げて街をぶらつくとか、電車やバスで移動というのは不可能ではないけど目立ちすぎてオススメできません。学校周辺や住宅地などではあらぬ誤解を招かないよう気をつけるべきでしょう。
Nikon Z9・NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S
絞りF8・1/800秒・ISO360・AWB・+0.3EV補正
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黄色の柱と30km先の東京スカイツリーを圧縮!というやや無理矢理な作例写真のつもりでしたが、拡大すると100mも先の竿から垂れるテグスがしっかり確認できるレンズの解像性能に目を奪われます。
Nikon Z9・NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S
絞りF22・1/250秒・ISO360・AWB・0.3EV補正
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固定翼から回転翼へと飛行モード転換中のオスプレイ。回転翼の先端が少し切れましたが、機体を画面いっぱいに収めることができました。シャッター速度を下げてプロペラのブレを出すため、回折現象の影響は避けられない大きく絞り込む露出設定になりましたが、機体にプリントされた小さな文字や、リベットの丸みまで判別できる描写力です。
夕日や月は超望遠レンズで取り組みやすく迫力もある被写体。日中のような高い位置の太陽にレンズを向けるとカメラにダメージを与えかねないので注意が必要ですが日没間際であれば撮影が可能です。心配な場合はNDレンズを併用するのもよいでしょう。
Nikon Z9・NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S・1200mm相当(DXモード)
絞りF11・1/3200秒・ISO100・AWB
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駐車場に駐車した時点で日没にギリギリ間に合うタイミングだったので、海沿いの手すりを利用した半手持ち撮影です。テレコンを装着する時間も無かったためDXモードに切り替え再びシャッターを切り始めたところ大きさを増した太陽に鳥の群れが絡んでくれました。
今回は2種類のテレコンバーターを持参しつつも、野鳥や海辺など現場ではあえて使用を控えました。小型軽量化されたとはいえ、たとえば100-400mmズームに着脱するようなスピード感では組み替えを行えず、特にホコリっぽい風が吹く環境ではリスクが大きいと判断したためです。そのためお見せできるのは比較的条件の良い日にテレコン装着時の画質を比較するためだけに人工構造物を撮影しておいた画像。3カットすべて絞り開放でのAE撮影で、ピントは中央より右上にある横断幕の「高さ制限6.2m」の文字付近です。画像拡大で御覧なる場合はこのピント位置周辺を見比べていただくのが良いと思います。
Nikon Z9・NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S
絞りF6.3・1/800秒・ISO125・AWB
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Nikon Z9・NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S
絞りF9・1/800秒・ISO250・AWB
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Nikon Z9・ NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S
絞りF13・1/800秒・ISO560・AWB
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NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR Sは、所有すれば新たな領域を切り開くことができるレンズです。特に超望遠の魅力は、他の焦点距離では味わえない迫力や細部の描写力にあり、このレンズでは非常に高い解像性能を持ち、卓越した取り回しの良さもあり満足度の高い撮影結果をもたらしてくれます。そしてそれが撮影者の創作意欲を大いに刺激するはずです。
もちろん超望遠レンズゆえの狭い画角でEVFに被写体を「捕捉」し「追従」ができてこその話ではありますが、この部分は経験を積んで自らスキルアップをするしかありません。ある程度の撮影経験を積んだなら、臆することなく取り組んでみることをオススメします。たとえばこのレンズが野鳥撮影やスポーツ写真を始めるきっかけであっても大いに結構だと思います。以前、やはりPFレンズを採用した一眼レフ用AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VRを初めて試写した時にも、その軽快な取り回しの良さと極めてシャープな描写に「これからの超望遠レンズはすべてPF仕様で良い!」と強く感じたことを思い出しました。
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Photo & Text by 宇佐見 健(うさみ・けん)