フジヤカメラ

 

分類

分類

2025.11.03
専門店・プロレビュー,

Sigma 135mm F1.4 DG | Art 実写レビュー× 写真家 鹿野貴司|2代目ボケマスターともいうべき究極の中望遠レンズ

Sigma 135mm F1.4 DG | Art 実写レビュー× 写真家 鹿野貴司|2代目ボケマスターともいうべき究極の中望遠レンズキービジュアル


ライター鹿野 貴司(しかの・たかし)イメージ
■執筆者紹介

鹿野 貴司(しかの・たかし)

1974年東京都生まれ。多摩美術大学卒業後、さまざまな職業を経て写真家に。広告や雑誌などを手掛けるかたわら、スナップやドキュメンタリーの作品を精力的に発表している。近年の写真展に「#shibuyacrossing」(SONYメージングギャラリー)、「煩悩の欠片を燃やして菩提の山へ走れ」(ナインギャラリー)など。昨年9月には『いい写真を撮る100の方法』(玄光社)を出版。日本写真家協会会員。
Instagram:@shikanotakashi
Twitter:@shikanotakashi

はじめに

シグマが歴代生み出してきたレンズの中で、今も「あれは傑作だった」という声を聞くのがSigma 135mm F1.8 DG HSM | Artだ。2017年に一眼レフ用として発売されたレンズだが、後にマウント部分を伸ばしてミラーレス用も発売された。僕も人物撮影でときどき明るい135mmが必要になり、そんなときはマウントアダプターでEFマウント版をソニーαシリーズにつけている。

長らくミラーレス専用設計へのリニューアルが期待されてきたが、シグマがようやくその声に応えてくれた。Sigma 135mm F1.4 DG | Art、半絞り明るいF1.4での登場だ。その代償というべきか、フィルター径はF1.8の82mmから105mmに拡大。ただし同じLマウントで重量を比較すると、F1.8の1220gに対して本レンズは1430gと見た目ほどの差はない。ちなみに全長はF1.8の138.9mmから、135.5mmとわずかに短くなっている。太くて短い形状になった結果、フロントに重心が寄って構えにくい印象があったF1.8に比べて、重量増でもずっと構えやすくなった。

Sigma 135mm F1.4 DG | Art本体の三脚座

アルカスイス互換の三脚座が付属。重量のデータが見当たらなかったので我が家のキッチンスケールで測ったところ104.5gだった。外せばそのぶんの軽量化にはなるが、左手で構えるときやレンズ交換時のサポートになるので、収納に問題がなければ着けておくほうがいいと思う。

Sigma 135mm F1.4 DG | Art本体のロゴ

ロゴや指標にはもちろん新しいフォントを採用。発表された直後は違和感を覚えたが、今となってはすっかり馴染み、製品やシグマのイメージにもマッチしているように思う。デザインは実に奥が深い。

【商品情報】SIGMA 135mm F1.4 DG | Art

» 詳細を見る

SIGMA 135mm F1.4 DG | Artバナー画像

これは2代目ボケマスターか

形状でいえば「ボケマスター」の愛称を持つSigma 105mm F1.4 DG HSM | Artを想像する人も多いと思う。僕もここぞというとき、マウントアダプターを介して今でも使用している素晴らしいレンズだ。ピントの合った部分の鋭いキレ味と、そこからの空気をも溶かすようなボケ味は、独特なものがある。本レンズも目指す方向が同じなのか、描写に関しては似通った特徴を感じる。決して気軽に持ち歩けるレンズではないが、それ以上に期待以上の写りを約束してくれる、そんなレンズといえる。

本レンズがもっともそのキャラクターを生かせるのは人物撮影だろう。というわけで今回アイドル・女優の真野琴々菜さんを被写体に、ポートレートを撮影してみた。あいにくの曇天でほぼ光がないという悪条件だったが、レンズの力で淡い光をきれいに捉えてくれた。

Sigma 135mm F1.4 DG | Art作例:ワンピースを着た横向きの女性

ソニーα7R IV・Sigma 135mm F1.4 DG | Art
絞りF1.4・1/800秒・ISO100

画像にマウスを合わせると拡大表示します

画像をスワイプすると拡大表示します

前後のボケ味がわかりやすいようなカットを。前ボケはややガサガサしているが、後ボケが溶けるように美しい。135mmになると前ボケを取り入れる状況は少ないので、この設計思想は理にかなっていると思う。

ポートレートでその真価を発揮する

135mmでポートレートを撮るとなると、被写体との物理的な距離を稼ぐ必要がある。構図にもよるが、アップでも3〜5m、全身を撮ろうとすると7〜10mは離れることになる。必然的にモデルとのコミュニケーションはとりにくくなり、それゆえに100mm以上の焦点距離を苦手とするアマチュアカメラマンも多いようだ。しかしそれはカメラを意識させないという利点にもなりうる。

Sigma 135mm F1.4 DG | Art作例:住宅街を歩く女性

ソニーα7R IV・Sigma 135mm F1.4 DG | Art
絞りF1.4・1/500秒・ISO100

画像にマウスを合わせると拡大表示します

画像をスワイプすると拡大表示します

今回の撮影でもモデルの真野さんにある程度自由に動いてもらい、それをスナップ感覚で撮ってみたりもした。前玉の巨大さからは想像しにくいが、AF駆動にはリニアモーターのHLAが用いられ、軽快にピントが合う。

Sigma 135mm F1.4 DG | Art作例:女性の横顔

ソニーα7R IV・Sigma 135mm F1.4 DG | Art
絞りF1.4・1/400秒・ISO100

画像にマウスを合わせると拡大表示します

画像をスワイプすると拡大表示します

ただしそのピントは、絞り開放+近距離では紙のように薄い。この日はほぼF1.4開放で撮影したが、気合いと精神集中が必要だった。ときにはほんの少し絞るのがいいと思う。13枚の円形絞り羽根を採用しており、ボケ味の美しさは変わらない。

Sigma 135mm F1.4 DG | Art作例:木漏れ日の中の女性

ソニーα7R IV・Sigma 135mm F1.4 DG | Art
絞りF1.4・1/250秒・ISO160

画像にマウスを合わせると拡大表示します

画像をスワイプすると拡大表示します

画面周辺のボケがラグビーボール状になる口径食も、ここまでの大口径レンズとしては少なめ。後ボケが木漏れ日という、かなり意地悪な状況なので、一般的な背景ではほとんど気にならないと思う。

Sigma 135mm F1.4 DG | Art作例:公園で立つワンピースの女性

ソニーα7R IV・Sigma 135mm F1.4 DG | Art
絞りF1.8・1/320秒・ISO160

画像にマウスを合わせると拡大表示します

画像をスワイプすると拡大表示します

全身を広めに捉えても、背景がここまで強くボケるのはポートレートで強い味方になるはずだ。被写体が浮かび上がるような立体感もすばらしい。

万能選手に明るさという武器が加わった

一眼レフが普及した1960〜70年代、135mmという焦点距離は望遠レンズのスタンダードだった。ズームレンズが一般的になるのは80年代、単焦点に置き換わって常用レンズとなるのは90年代とずっと後のことで、当時は広角の28mm、標準の50〜55mm、望遠の135mmという3本セットが当時の“大三元”、あるいは“中三元”だった。ペンタックスの一眼レフで写真を嗜んでいた祖父の遺品もまさにその3本。今は望遠といえばズームレンズが幅を利かせているが、先人たちはモデル撮影会でも風景でも鉄道でも135mmで頑張っていたのだ。

これは僕個人の主観になってしまうのだが、135mmという焦点距離はとても万能で、ポートレートだけでなくスナップや風景、静物などあらゆる撮影でしっくりくる。85mm〜100mmではある部分を凝視したような視覚効果が得られるが、屋外ではもうちょっと切り取って、構図をシンプルにまとめたいことが多い。そんなときに135mmがあると心強い。もちろん135mmをカバーするズームレンズでもよいのだが、F1.4という明るさだから撮れる写真もある。

Sigma 135mm F1.4 DG | Art作例:アンティークの人形

ソニーα7R IV・Sigma 135mm F1.4 DG | Art
絞りF1.4・1/2500秒・ISO400

画像にマウスを合わせると拡大表示します

画像をスワイプすると拡大表示します

旅先の街角で見かけたショーウィンドウ。中にはアンティークの人形たちがずらり。一見オールドレンズのような柔らかさがあるが、拡大すると人形のディテールをリアルに再現している。すさまじい描写力だ。

Sigma 135mm F1.4 DG | Art作例:石造りの階段

ソニーα7R IV・Sigma 135mm F1.4 DG | Art
絞りF2・1/1250秒・ISO100

画像にマウスを合わせると拡大表示します

画像をスワイプすると拡大表示します

F1.4というスペックのインパクトが強く、今回ほぼ絞り開放で撮ってしまったが、1段絞ると明らかに解像感がアップ。ちょっと贅沢な使い方だが、スナップや風景では“F2基本”はアリだと思う。

Sigma 135mm F1.4 DG | Art作例:後ろ姿の男性

ソニーα7R IV・Sigma 135mm F1.4 DG | Art
絞りF1.4・1/4000秒・ISO100

画像にマウスを合わせると拡大表示します

画像をスワイプすると拡大表示します

135mmという画角の狭さを生かし、シンプルに構図をまとめてみた。ソール・ライターのようなかっこいいスナップを撮るには、これくらいの焦点距離がいい(けど撮れるかどうかはまた別の話…)。

Sigma 135mm F1.4 DG | Art作例:お城

ソニーα7R IV・Sigma 135mm F1.4 DG | Art
絞りF8・1/160秒・ISO100

画像にマウスを合わせると拡大表示します

画像をスワイプすると拡大表示します

遠景でも質感や解像力のわかりやすい被写体を求めて、お城の天守閣へ。F8まで絞ってみたが、カメラのセンサーサイズがひと回り大きくなったような、キレキレの描写をみせてくれた。

ズームではなくあえて単焦点を選ぶ

サイズや重量だけを見ればつけっぱなしにして持ち歩くレンズではないが、ある程度収納できるリュックなら、収納して持ち歩くのは非現実的ではないと思う。たとえば日頃70-200mmF2.8クラスのレンズを持ち歩いているのなら、代わりにこのレンズを選ぶというのも賢い選択だ。広角側は標準ズームの望遠側でカバーできるし、200mm程度であればクロップあるいはトリミングで十分対応できるだろう。本レンズはズームレンズとは一線を画す描写性能を誇り、画素のロスを差し引いても満足のいく結果が得られると思う。

一方で唯一不満を感じたのが、最短撮影距離が110cm、最大撮影倍率1:6.9とあまり寄れないこと。描写性能とのトレードオフなのだろうが、さらに寄りたいというときは、こちらもクロップやトリミングで対応するのがよさそうだ。

Sigma 135mm F1.4 DG | Art作例:色鉛筆

ソニーα7R IV・Sigma 135mm F1.4 DG | Art
絞りF1.8・1/320秒・ISO1250

画像にマウスを合わせると拡大表示します

画像をスワイプすると拡大表示します

MFで最短撮影距離の110cmにセットして、自分が動きながらピントを合わせた。
ボケが強いのと、画角的に背景が狭まることもあり、距離以上に寄っているような視覚効果がある。

Sigma 135mm F1.4 DG | Art作例:コスモス畑

ソニーα7R IV・Sigma 135mm F1.4 DG | Art
絞りF1.4・1/400秒・ISO100

画像にマウスを合わせると拡大表示します

画像をスワイプすると拡大表示します

日が暮れた後に見つけたコスモス畑。ちょっと引いて撮影してみたが、圧縮効果とボケでうまく構図がまとまった。まさにこのスペックだから撮れた一枚だ。

まとめ

しつこいようだが、本レンズは大きくて重たい。しかしそれに見合うワンランクもツーランクも上の描写が得られるのも事実。
Eマウントにはソニー純正のFE135mm F1.8 GMというレンズがあり、本レンズ同様に素晴らしい描写を誇る。何より本レンズよりコンパクトで、可搬性を重視するならこちらに軍配が上がる。
しかしズームレンズでは撮れない表現を期待するなら、描写性能を限界まで追い求めた本レンズではないだろうか。

作例に使用したレンズ

【商品情報】SIGMA 135mm F1.4 DG | Art

» 詳細を見る

SIGMA 135mm F1.4 DG | Artバナー画像

作例に使用したカメラ

【商品情報】SONY α7R IV ボディ

» 詳細を見る

SONY α7R IV ボディバナー画像

Photo & Text by 鹿野貴司(しかの・たかし)

ブランド

Page Top
Page Top