
はじめに
スマートで統一感のある外観
操作性
レンズ一体型ならではの精密な光学性能
AIプロセッシングユニット搭載の優れたAF性能
切り替え可能な最短撮影距離
高画素モデルならではのステップクロップ撮影機能
作例
まとめ
作例に使用したカメラ
「Cyber-shot RX1R III」は、ソニーが展開するフルサイズコンパクト「RX1シリーズ」の最新モデルとして登場しました。前モデル「RX1R II」から実に9年以上ぶりの新機種登場となりますが、その分だけ著しい進化を遂げています。外観デザインから内部構成まで刷新され、シリーズの原点である“高画質と携帯性の両立”を現代の技術で再定義した渾身の一台。
今回はその進化点と魅力を確かめていきます。
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「RX1R III」の外形寸法は113.3×67.9×74.5mm。
前モデル「RX1R II」が113.3×65.4×72.0mmでしたので、幅は同じながら高さと奥行きがわずかに増しています。一方で質量は約498g(バッテリーとメモリーカードを含む)と、約507gだった前モデルよりも軽量化されています。
後述するように、αシリーズの最新機能を積極的に取り込むことで大きく性能進化を遂げています。その一方でサイズは微増に留めつつ軽量化も実現しており、性能と携帯性の両立が図られています。手のひらに収まるサイズ感は依然として健在で、フルサイズ機であることを忘れるほどの小型さを維持しています。
デザイン面での大きな特徴は、新たに採用されたカメラ上面のフラットトップ形状です。マルチインターフェースシューや各種ダイヤル類を天面に揃えることで段差が抑えられ、前モデルのゴツゴツした印象から一転して、よりスマートで統一感のある外観になりました。
背面のボタン類やダイヤルの配置は、基本的に前モデルを踏襲しており、「αシリーズ」との共通性も感じられる操作体系です。変更点はわずかで、「メニューボタン」と「再生ボタン」の位置が入れ替えられた程度に留まります。ただし、各ボタンの形状やクリック感、ダイヤルのトルクは見直されており、実際に操作すると前モデルよりも確かな改良を感じました。
前述の通り、ダイヤル類は天面に揃えられたフラットトップ形状となっています。一見すると、前モデルのように多少ゴツゴツしていた方が操作しやすそうに感じますが、実際には本モデルの方がずっと操作しやすいのですから不思議なものです。
コンパクトながらEVF(電子ビューファインダー)を搭載しているのは、「RX1シリーズ」の大きな特徴のひとつ。前モデルではポップアップ式が採用されていましたが、本モデルでは固定式へと変更されています。速写性と堅牢性を高めつつ、外観デザインとしてもフラットなスタイルを打ち出そうとする意図が感じられます。
グリップの形状とテクスチャーにも改良が加えられています。表面の加工は指への馴染みが良く、しっかりとしたグリップ感が得られます。前モデル「RX1R II」と比べて接触面積も増しており、地味ながらホールディング性能は確実に向上しています。
コンデジだけにバッテリー室はメモリーカードスロット(SDカード、UHS-II対応)と同居しています。採用されたリチャージャブルバッテリーは「NP-FW50」で、容量は1020mAh。正直言って高機能な「RX1R III」に対しては小容量なので、予備バッテリーはできるだけ用意しておきたいところです。
なお、前モデルでは上下チルト式の可動モニターが採用されていましたが、本モデルは完全固定式となっています。しかし、このクラスのコンデジでモニターを引き出してロー/ハイアングルを狙う場面は案外少なく、この仕様は割り切りではなく、本モデルが掲げるフラットスタイルという思想を体現したものだと感じました。
「RX1R III」が搭載する撮像センサーは、有効約6100万画素のフルサイズ裏面照射型CMOSセンサーです。前モデルの約4240万画素から約1.5倍の高画素化が図られており、その解像性能は同社の高画素ミラーレス「α7R V」と同等になっています。
固定搭載されるレンズはツァイスブランドの「ゾナーT* 35mm F2」。ボディとの一体構造を前提に設計された非交換式レンズであり、ミクロン単位の精度で組み込まれています。実際に撮影した下の画像を見ても、細部まで緻密に描き分けられており、本モデルの高い解像性能を実感することができます。
SONY RX1R III ・ZEISS ゾナーT* 35mm F2
絞りF5.6・1/400秒・+1.0EV補正・ISO400・AWB
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画像処理エンジンは「α7R V」と同じ最新のBIONZ XRを搭載しています。これにより、高感度性能やダイナミックレンジの広さも同クラスの水準にあります。下のカットは常用最高感度であるISO32000で撮影したものですが、ノイズの増加は比較的よく抑えられており、ディテールも十分に維持されています。等倍拡大でもしなければ気になる粗さは少なく、PCやスマートフォンでの鑑賞であれば実用性に不安は感じません。
SONY RX1R III ・ZEISS ゾナーT* 35mm F2
絞りF2.0・1/160秒・-0.7EV補正・ISO32000・AWB
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AF性能も前モデルから大きく進化。新たに瞳AFを含む被写体認識機能が搭載され、最新の「αシリーズ」と同じ「AIプロセッシングユニット」が採用されています。被写体の形状や瞳、動きをAIで分析し、狙った対象を高精度で検出して補足し続けます。認識対象は「人」「動物」「鳥」「昆虫」「車・電車」「飛行機」に対応し、被写体をカメラ側で自動判別する「オート」も選択可能です。
「AIプロセッシングユニット」の効果は絶大で、本モデル向きの日常的に出会って撮りたい被写体でしたら、ほとんど問題なくカメラ任せで正確なピント合わせを自動的にしてくれます。これは本当に優れた機能進化と言えます。
SONY RX1R III ・ZEISS ゾナーT* 35mm F2
絞りF2.0・1/320秒・+0.7EV補正・ISO6400・AWB
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本モデルの最短撮影距離は通常時で約30cmと、現代的な固定搭載レンズとしては比較的標準的なスペックでしょう。しかし、それでも一般的なスナップ撮影において不便を感じることは少なく、十分に実用的な近接撮影性能といえます。
SONY RX1R III ・ZEISS ゾナーT* 35mm F2
絞りF2.8・1/250秒・-0.3EV補正・ISO100・AWB
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レンズ先端の「マクロリング」をマクロモードに切り換えると最短撮影距離を一気に縮められます。マクロ時の最短撮影距離は約20cmとなり、35mmレンズとしてはかなり高い近接撮影性能を発揮します。最大撮影倍率は約0.26倍で、ここまで大きく写せれば十分に実用性の高いマクロ機能と言えるでしょう。
SONY RX1R III ・ZEISS ゾナーT* 35mm F2
絞りF2.8・1/200秒・-0.3EV補正・ISO100・AWB
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「RX1R III」には、焦点距離35mmの画角をベースに、ワンタッチで50mm相当、70mm相当へ切り換えられる「ステップクロップ撮影機能」が搭載されています。有効約6100万画素という高画素センサーを備える本機ならではの使い勝手で、クロップしても解像感を大きく損なわずに撮影できるのが特徴。
もっとも、この機能をMENU画面から呼び出すのは正直面倒です。しかし、本モデルでは初期設定で「C1」ボタン(カスタム1)に「ステップクロップ撮影機能」が割り当てられており、ボタンを押すたびに35mm(約6100万画素)→50mm相当(約2900万画素)→70mm相当(約1500万画素)へ順に切り換えられるようになっています。
SONY RX1R III ・ZEISS ゾナーT* 35mm F2
絞りF5.6・1/80秒・+0.7EV補正・ISO100・AWB
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「C1」ボタンを押すごとに、もとの35mmの画角から…
SONY RX1R III ・ZEISS ゾナーT* 35mm F2
絞りF5.6・1/100秒・+0.3EV補正・ISO100・AWB
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50mm相当の画角へ…
SONY RX1R III ・ZEISS ゾナーT* 35mm F2
絞りF5.6・1/80秒・+0.7EV補正・ISO100・AWB
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そして、70mm相当の画角へと切り換えることができます。
「ステップクロップ撮影機能」は、本モデルの高画素を活かせる便利な機能ですが、クロップしっぱなしには注意が必要です。本モデルでは現在のクロップ状態(焦点距離相当)がモニターに表示されるため、誤ったまま撮り続けないよう、常に表示を確認すると安心です。
SONY RX1R III ・ZEISS ゾナーT* 35mm F2
絞りF5.6・1/125秒・-0.7EV補正・ISO2000・AWB
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「RX1R III」の描写性能は、実際に撮影を重ねるほどにその完成度の高さを実感します。レンズ構成自体は前モデルを継承していますが、有効約6100万画素の新しい撮像センサーと最新の画像処理エンジンの組み合わせにより、解像感・階調・発色のすべてが確実に進化しています。撮って出しのJPEGでも質感描写や立体感が自然に表現され、撮影後の仕上がりに満足できるシーンが多いのが印象的です。
SONY RX1R III ・ZEISS ゾナーT* 35mm F2
絞りF2.0・1/125秒・-0.3EV補正・ISO320・AWB
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開放F2.0で撮影すると、コンパクトなボディとは思えない大口径ならではの描写を堪能できます。何気ない被写体でも、前後の大きなボケによって印象的な一枚に仕上がります。ボケ味はクセがなく自然で、この美しいボケ表現と高い解像力のバランスからも、「RX1R III」に搭載されたレンズの完成度の高さが伝わってきます。
SONY RX1R III ・ZEISS ゾナーT* 35mm F2
絞りF2.8・1/160秒・±0EV補正・ISO100・AWB
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金網越しにネコに会ったので撮らせてもらいました。瞳AFは驚くほど素早くネコの瞳を検出し、高い精度でピントを合わせ続けてくれました。前モデル「RX1R II」には被写体認識機能そのものが搭載されていなかったため、この進化は大きなアドバンテージと言えます。被写体がフレーム内に入りさえすれば、あとは構図づくりに専念するだけです。
SONY RX1R III ・ZEISS ゾナーT* 35mm F2
絞りF4.0・1/125秒・-0.7EV補正・ISO125・日陰
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色仕上げ設定は、従来の「クリエイティブスタイル」から「クリエイティブルック」へと進化。さらに、新たに「FL2(Film2)」「FL3(Film3)」が追加され、「α7R V」などを上回る全12種類が用意されています。上の作例は「FL2」で撮影したものですが、ネガフィルム調らしく派手さを抑えた落ち着いた発色で、独特のトーンが心地良くスナップ撮影との相性も良好でした。
SONY RX1R III ・ZEISS ゾナーT* 35mm F2
絞りF3.2・1/200秒・-0.3EV補正・ISO100・日陰
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マクロリングをマクロモードに切り換え、さらにステップクロップ撮影(50mm相当)を組み合わせてオシロイバナを撮影してみました。この場合の最大撮影倍率は約0.37倍となり、作例の通りかなりの接写が可能になります。さらにステップクロップを70mm相当に設定すれば、約0.52倍まで拡大でき、ハーフマクロに匹敵する撮影も楽しめます。高画素化と高機能化が進んだ本モデルならではの応用性の高さを感じます。
「RX1R III」は、有効約6100万画素のフルサイズセンサーやAIプロセッシングユニットなど「α7R V」同等の主要性能を備えながら、コンパクトデジタルカメラらしい携帯性を維持している点が大きな特徴です。天面の凹凸を抑えたフラットトップデザインや固定式EVFの採用は、その思想を体現するものと言えるでしょう。
実際に使ってみると操作感は素直で扱いやすく、AFや描写性能も確実に進化しています。性能向上と機動力の両立を高いレベルで実現しており、35mm単焦点の世界を突き詰めた一台としてだけでなく、写真と丁寧に向き合いたい人に応えてくれるカメラです。
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Photo & Text by 曽根原 昇(そねはら・のぼる)