はじめに
ルックスから見る特徴と操作性
1インチセンサーによる軽快なスナップ撮影
XシリーズらしさとX half 独自のフィルター効果を楽しむ
フィルムカメラの感覚を彷彿とさせる二つのモード
カメラ内にも機能が盛りだくさん
おわりに
使用したカメラ
東京都北区出身。写真プリントのデジタルデータ制作を現場で習得。のちに商品・製品企画、フォトギャラリー、写真教室アシスタントなどを経て講師に。カメラメーカー講師やフォトアドバイザーとして活動する傍ら、展示・イベント企画、執筆、プロデュース、コンテスト審査員など幅広く活躍。主宰するPhotoPlus+にて写真塾、ワークショップも開催している。
日本作例写真家協会(JSPA)会員。
https://linktr.ee/kobayashi.kaworu
デジタルとアナログの両方を楽しめるハイブリッドな感覚のカメラが登場しました。発表と同時に話題になっている富士フイルム X half(Xハーフ)です。
富士フイルムのデジタルカメラXシリーズと、フィルムカメラのいいとこどりをしたような仕様になっており、これまでのXシリーズとは一線を画す独自の設計とユーザー体験が大きな魅力です。
実際に様々な機能を試しながら撮影してみました。
X halfは、ハーフサイズカメラ(35mm判フィルムの半分のサイズで撮影可能なフィルムカメラ)をモチーフにしたカメラです。小さなポシェットにも収まるような、いつでも持ち歩いて撮影を楽しめるサイズで、幅105.8mm×高さ64.3mm×奥行き45.8mm、そして質量240gと非常に軽量。
裏面照射型1インチセンサーと、35mm判換算32mmF2.8の単焦点レンズを搭載し、焦点距離はレンズ付きフィルム「写ルンです」と同じです。この、広すぎず狭すぎない絶妙な焦点距離がにくい感じ。
1963年発売に発売されたFUJICA Halfをモチーフにイメージしたのかな?と感じるデザイン
軍艦部はとてもシンプル。露出補正ダイヤルとフレーム切り替えレバー、アクセサリーシューのみです。
フレーム切り替えレバーは、2in1撮影がすぐにできるようになっています
3:4アスペクト比の背面液晶・縦構図のビューファインダーは、光学逆ガリレオ式で視野率約90%ファインダー倍率約0.38倍
外装にボタン類はほとんどなく、撮影設定や操作の大半はタッチ液晶でメニュー操作を行います。背面にある2種類の液晶画面をスワイプ/フリックするだけです。はじめは、機能などの設定がどこにあるのか戸惑いますが、ほとんどの操作がこのタッチ液晶なので、使い慣れると様々な設定を直感的に変更することができます。
撮影モードがAまたはMのときに絞りリングを回すと絞り値を設定できます。
シャッタースピードはタッチパネルで操作します
固定式 LEDの内蔵フラッシュも搭載。フラッシュの下はUSB Type-Cケーブル。
充電式バッテリーは、XシリーズユーザーにはおなじみのNP-W126Sです
センサーサイズが1インチと小さいこともあり、開放F値はF2.8で、ボケを大いに期待することはできないのですが、けしてボケないわけではありません。むしろ周囲の雰囲気を取り込んだ撮影を可能にしてくれる近接撮影時の開放F2.8では広角レンズらしい描写です。
被写界深度が深くピントを外しにくいので、パンフォーカスでヌケ感ある描写が心地持ちよく、F8を固定焦点にして撮影すればスナップがはかどります。街を歩きながらスナップショットを楽しむには最高のアイテムでしょう。まさに軽快なクイックスナップを可能にしてくれるカメラです。
富士フイルム X Half・絞りF2.8・1/200秒・ISO200・+1.0EV・WB太陽光
フィルムシミュレーション:REALA ACE
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富士フイルム X Half・絞りF8・1/400秒・ISO200・+0.7EV・WB太陽光
フィルムシミュレーション:REALA ACE
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富士フイルム X Half・絞りF8・1/170秒・ISO200・WB太陽光
フィルムシミュレーション:クラシッククローム
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軒下での撮影時にLEDフラッシュを使用してみました。ちょうど良い露光加減で、室内撮影や日中シンクロなど活用できそうです。動画撮影時はビデオライトになります。
左)フラッシュoff 右)フラッシュonで撮影
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小さなセンサーサイズでありながら、原色フィルターの採用で色再現性が良く、有効画素数約1774万画素でも何ら遜色のない描写。ACROS(白黒)や、ポジフィルム調のPROVIA、Velviaなどのフィルムシミュレーションをはじめとする従来のXシリーズらしい絵作りはそのままに、ちょっと変わった点では、撮影時の露出補正はできるものの、RAW撮影ができない仕様です。当然ながらPCでRAW現像もできないですし、カメラ内でフィルムシミュレーションを変更することもできないので思い切りが必要。「JPG撮って出し」にこだわった富士フイルムらしい振り切り方といいますか。これもフィルムカメラ仕様になぞらえてのことと感じました。
富士フイルム X Half・絞りF9・1/1600秒・ISO200・-0.3EV・WB太陽
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撮影する中で一番Xシリーズっぽい画になると感じたACROSの描写
富士フイルム X Half・絞りF3.2・1/150秒・ISO250・-1.73EV・WB太陽
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美しい記憶色を引き出すならやっぱりVelvia
富士フイルム X Half・絞りF4・1/125秒・ISO800・-0.3EV・WB太陽
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情緒的な雰囲気に仕上がるクラシッククロームも人気のフィルムシミュレーション
Xhalfには豊富な撮影効果をもたらすフィルター効果が全19種あり、中でも「ハレーション」、「ライトリーク」、「期限切れフィルム」という、3つの新しいフィルターが搭載されました。
やろうと思って狙ってできなかったことが意図的にできる。俗に言う「エモい写真」を撮ろうとしても撮れないけど、普通に撮っても何となくそれっぽく写るというのが狙いでしょうか。
富士フイルム X Half・絞りF4・1/680秒・ISO200・WBオート
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ハレーション:思い切りまぶしいほどの逆光で効果が得られる
富士フイルム X Half・絞りF2.8・1/2000秒・ISO200・WBオート
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ライトリーク:フィルムカメラでの撮影時、(撮影中)にカメラの裏ぶたを開けてしまうと生じる光漏れ(感光)の状態を再現。個人的には以前より「感光エモーショナル」と呼んでいる
富士フイルム X Half・絞りF2.8・1/125秒・ISO500・-1EV・WBオート
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ニュートラル(N):期限切れフィルムを模したフィルター効果。グレインエフェクトを加えて粒状感を見せるのがそれに近い雰囲気に仕上がる
どんなシーンで使うのだろうか?と思う方は、写真に正解はないので、いろんなシーンでぜひ試してみてほしいです。
ハーフサイズのフィルムカメラの楽しさをデジタルに落とし込んだ点といえば、「2in1撮影」と、「フィルムカメラモード」。
「2in1撮影」は、先(1枚目)に撮影したコマの後にフレーム切り替えレバーを巻き上げるように送ることで、次に撮影するコマと組み合わさり、2枚1組の画像として仕上げることができます。これはハーフサイズフィルムカメラで撮影したような感覚で楽しく、何より操作が簡単でいいのです。
ハーフサイズのフィルムカメラで撮影した場合には、撮影された2コマがどのような組み合わせで写っているのか想像しながら撮影しなければならないですし、現像された際のネガカットで望んでいたコマ同士が切り離されてしまう場合もありますが、X halfではデジタルのメリットを活かし、撮影時に2コマの組み合わせを確認しながら楽しむことができるのです。
また、アプリを使用すれば後からでも組み合わせを考えて2in1のデータを書き出すこともできるのですが、撮影時の感覚で2枚それぞれの距離感を変えてみたり、撮影テーマを考えたり、似たような被写体や色合いを組み合わせたりと、撮影しながら考える良さがあります。
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コレクションのようにタイルの壁画を組み合わせてみた
フィルムシミュレーション:クラシックネガ
我々昭和世代には懐かしいですが、日付入り写真が撮れる設定もなんとなく、フィルムコンパクトカメラっぽい。というところでしょうか。改めて見ると、旅の思い出なら日付入り撮影もいいなと感じました。
フィルムシミュレーション:REALA ACE
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旅先の路地裏と街角を組み合わせて
フィルムシミュレーション:REALA ACE
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もう一つ「フィルムカメラモード」は、従来のフィルムカメラに近い撮影体験です。光学ファインダーをのぞいてフレーミング。撮影中はプレビュー表示ができず、フィルム現像前に何が写っているかわからないあの感覚を思い起こします。
撮影した画像をどうやって見るのか?というと、指定したフィルムの撮影枚数を撮り切ってから専用アプリ「X half」を介してデジタル現像され、初めて画像を閲覧できるようになります。
徹底したフィルムカメラ仕様ともいいましょうか。
左)現像中 中)コンタクトシート 右)現像済みのパトローネ
それぞれアプリ内での表示
なかなか凝った作りになっています
写ルンですをイメージしながら、フィルムシミュレーション「クラシックネガ」を使ってみたところ、しっくりとハマりました。この雰囲気は個人的にすごく好みです。
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富士フイルム X Half・絞りF5・1/500秒・ISO200・+0.7EV・WB太陽
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富士フイルム X Half・絞りF4・1/400秒・ISO200・WB太陽
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富士フイルム X Half・絞りF2.8・1/1800秒・ISO200・+0.3EV・WB太陽
カメラ内ではSNS投稿用の1:1画像やスライドショーなども生成でき、PC無しでダイレクトにスマホと連携、転送可能に。そのままSNS投稿ができたり、別売の「FUJIFILM instax Link」シリーズでチェキプリントできたりします。
スマホをはじめとするデジタルデバイスの事情を考えれば自ずとこのようなスタイルになり、またそれらを使いこなして楽しむのが本カメラの王道な使い方ともいえそうです。
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1:1比率になるように余白付の画像もカメラ内で生成できる
3コマで作れるスライドショーはリール動画として活用できそうだ
レンズ交換式ミラーレスカメラXシリーズに憧れていたけどなかなか手が出せなかった人や、スマホカメラからステップアップしてデジタルカメラを使ってみたいと思っていた人、フィルムの現像の手間を省くタイパ、コスパを意識する世代にとってはうってつけのカメラでしょう。
もちろんそれ以外にも、富士フイルムのフィルムシミュレーションを味わいたい方、気軽にスナップ撮影に出かけたい人にとってもワクワクするカメラになっています。
往年の「写ルンです昭和女子」であるわたしはこの手のコンパクトサイズのカメラが好きです。何より手軽さがいい。「小さくて軽いは正義」ですから、気負わずパッと出してサッと撮るスナップ撮影には最適です。しかも写ルンですのような表現さえ体験できる。
まずはあれこれ設定を考えず、プログラムモードだけで思い切りパシャパシャ撮って欲しいカメラなのです。
普段スマホカメラしか使わないデジタルカメラ未経験の人にとっても、X halfを使うことで、カメラで撮影することの楽しさに気づけるのではないかと思います。
しかし、実際に操作・設定しながら「メニューボタンくらいは欲しかった」というのが本音。如何せん従来のデジタルカメラのボタン操作に慣れ過ぎている我々にとっては難儀な部分だと感じました。こんなところも昭和世代な人間です(笑)。
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Photo & Text by こばやしかをる