伝統ある標準大口径レンズの存在
「よくこのサイズに収めた」と思わず感心する、完成度の高いコンパクトボディ
作例「大きくとろける、極上のボケ味」
NoctiluxではなくNOKTONの画
まとめ「F1.2だからこそ見える世界」
作例に使用したレンズ
作例に使用したカメラ
1963年、石川県小松市生まれ。デザインプロダクション勤務を経て、1994年フリーに。アートディレクター、コマーシャルフォトグラファーとしての活動を主体とし、フォト・ドキュメンタリーをテーマに写真創作に取り組み、写真展開催、写真集制作など自身写真作品を発表し続ける。
受賞歴:日本APAアワード2013,2024入選、金沢ADC・会員特別賞、準グランプリ、ほか多数。
個展:2011年 SNAPS ITALIA(新宿)、2014年 SCILIA SNAPS 2013(湘南)、2018年 SNAPS (表参道、代官山)、2019年 SNAPS ITALIA LUCI E OMBRE(金沢)、2019年 能登(六本木)。二人展:2025年 Duetto Fotografico(新宿)。
写真集:「SNAPS ITALIA」「SNAPS MOROCCO」ほか
ウェブサイト:https://www.toshimitsutakahashi.com
Instagram:https://www.instagram.com/toshimitsu.takahashi/
Leica M10-P・NOKTON 50mm F1.2 Aspherical II VM
絞りF1.2・1/1500秒・ISO200
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
レンジファインダーで標準50mm。ストリートスナップで、絞りをF8やF11など、ある程度絞り込み、距離は目測で合わせパンフォーカス気味に撮るスタイルであれば、レンズは開放F2のズミクロンや、F2.8のエルマーあたりを選べばいいでしょう。
一方で、被写体を際立たせ、背景をぼかして立体感のある描写を目指すのであれば、開放F1.4のズミルックスやカール・ツァイスのゾナーなどを選ぶのも良い。ひとまず、レンズの選択肢はこのあたりで完結するでしょう。
そんな中、1966年にさらに明るいレンズとして登場したのが「初代NOCTILUX 50mm F1.2」。ズミルックスよりも半段明るいF1.2というスペックを誇りますが、当時はまだフィルム全盛の時代。F1.2という開放値から生まれる表現というよりも、暗所でもシャッタースピードを確保するという実用性に重きが置かれていたレンズだったかもしれません。
非球面レンズを採用し、高い開放値を確保しながらもコンパクトさを兼ね備えたその設計思想は、今回レビューするNOKTON 50mm F1.2 Aspherical II VMにも通じるところがあります。
しかしながらデジタル中心となった現在、暗ければ感度を上げる事も自在で、F1.2に求められるものは明るさだけではなく、大口径から生まれる巨大なボケやF1.4では得られないその描写ではないでしょうか。
「僅か0.2。その0.2でどこまで違う世界を生むのか?」じっくりと当NOKTON 50mm F1.2をレビューしていきます。
まずは外観と操作性から見ていきましょう。今回レビューする NOKTON 50mm F1.2 Aspherical II VM は、名称の「II」が示す通り、第二世代のモデルです。公式の作例を見る限り、光学設計は初代モデルを踏襲しているようですが、改良点として全長が短くなり、さらに約25gの軽量化が図られています。
実際にM型ライカに装着してみると、F1.2という開放値を持つ大口径レンズとは思えないほどの控えめな佇まい。重さは僅か322gで、見た目の印象よりも手に取るとやや重みを感じますが、サイズ感はF2クラスのレンズに匹敵します。
レンジファインダーでの撮影において「目立たず、さりげなく」というスタンスを大切にする方にとって、このレンズは非常に好ましいサイズといえるでしょう。
そして特筆するのがその操作性です。ヘリコイドはとても滑らかでトルク感は軽すぎず重すぎず。さらにその回転角はまさに絶妙そのもの。ブライトフレームを覗きながら二重像を合わせる操作も非常にスムーズです。
また、絞りリングのクリック感も上質で「カチッ、カチッ」決まり、撮影する気持ちを高揚させてくれます。
やはりマニュアルレンズはこの操作感こそ大事なところでしょう。その点で、コシナ・フォクトレンダーは、使い手の感覚をよく理解したものづくりをしているメーカーだと改めて実感します。
それでは、いよいよ写りを実写とともにご紹介していきます。やはり気になるのは、F1.2という開放値が生み出す描写力でしょう。今回はすべて開放F1.2で撮影。使用したカメラは Leica M10-P です。
ピントは非常に浅く、わずかなズレでも印象が変わるため、レンジファインダーの距離計を使って合わせる緊張感はなかなかのもの。それもまた、このレンズを使う楽しみのひとつかもしれません。
それでは、じっくりとご覧ください。
Leica M10-P・NOKTON 50mm F1.2 Aspherical II VM
絞りF1.2・1/1500秒・ISO200
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
まず驚かされるのは、そのボケの美しさ。特に前ボケの柔らかさが際立ち、自然な周辺減光と相まって、ピントを置いたランプを引き立てています。
Leica M10-P・NOKTON 50mm F1.2 Aspherical II VM
絞りF1.2・1/2000秒・ISO200
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
Leica M10-P・NOKTON 50mm F1.2 Aspherical II VM
絞りF1.2・1/1000秒・ISO200
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
正面からの構図ですが、歪みは感じられず非常に素直な描写です。暗部にもしっかりトーンがあり、階調も丁寧に再現されています。
Leica M10-P・NOKTON 50mm F1.2 Aspherical II VM
絞りF1.2・1/90秒・ISO400
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
開放とは思えないほど、ピントは驚くほどシャープです。角度によってはわずかにフリンジが見えることもありますが、気になるレベルではありません。何より、ボケの柔らかさが奥行きを生み、被写体を美しく引き立ててくれます。
Leica M10-P・NOKTON 50mm F1.2 Aspherical II VM
絞りF1.2・1/90秒・ISO500
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
金沢の歴史あるお茶屋「懐華樓」にて、出番を待つ芸姑さんを撮影させていただきました。ポートレート撮影においても、このレンズの魅力はしっかりと発揮されます。柔らかなボケが、芸姑さんの艶やかな佇まいを美しく引き立ててくれます。
また、もう一歩寄りたいという場面でも、最短撮影距離70cmは大きなアドバンテージとなります。たとえばNoctiluxは最短撮影距離が1mのため、レンジファインダーで「あと少し寄りたい」と思うシーンでも、NOKTONの寄れる性能が実に頼もしい存在です。
Leica M10-P・NOKTON 50mm F1.2 Aspherical II VM
絞りF1.2・1/250秒・ISO200
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
同じく懐華樓でのシーンです。まさに像が溶ける、美しいボケ味。
Leica M10-P・NOKTON 50mm F1.2 Aspherical II VM
絞りF1.2・1/500秒・ISO200
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
風に揺れる柳を捉えました。マニュアルフォーカスで、一枚の葉にピントを合わせるのはもちろん簡単ではありません。何枚か撮影して選んだカットですが、背景の柔らかさがあるからこそ、ピントのシャープさがより際立っています。
Leica M10-P・NOKTON 50mm F1.2 Aspherical II VM
絞りF1.2・1/90秒・ISO640
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
暗いシーンでF1.2のハイスピードを活かすべく、金沢にあるミュージックバー「Asile(アジール)」を訪れました。様々なカクテルを生み出すバーテンダーでもある店長に、写真映えする一杯をお願いしたところ、「SHISO Julep」を出してくれました。紫蘇の透け感もよいですね。点光源の口径食も見られますが、一段も絞れば解消します。
Leica M10-P・NOKTON 50mm F1.2 Aspherical II VM
絞りF1.2・1/90秒・ISO1000
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
Leica M10-P・NOKTON 50mm F1.2 Aspherical II VM
絞りF1.2・1/2000秒・ISO100
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
今回はあえて遠景もF1.2の開放で撮影してみました(普通はしませんね)。それでも驚くほど解像力が高く、周辺減光はありますが、むしろ良い味わいになっています。抜けの良さや透明感も感じられ、開放ならではの表現が楽しめました。余談ですが、遠くに白山を望むこの風景は我がホームグラウンドです。
Leica M10-P・NOKTON 50mm F1.2 Aspherical II VM
絞りF1.2・1/3000秒・ISO100
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
NOKTON 50mm F1.2 Aspherical II VMは御覧頂いた通りどのシーンにおいても隙のない素晴らしい描写力を持っています。
私自身、初代Noctilux 50mm F1.2を再現した「周ノクチ」と呼ばれているLIGHT LENS LAB 50mm f/1.2 ASPH "1966"を所有しています。当レンズがどこまでオリジナルのNoctiluxを再現しているかはさておき、NOKTONの画とは同じ50mm F1.2でありながら全く違うものです。
簡単に言ってしまえば「周ノクチ」はこんなによく写りません。ピント面はやや甘めでフレンジもありますし、グルボケこそ控えめですが歪曲も多少目立ちます。しかしながらその画は私が今まで使ってきたNoctiluxの画そのものに感じます。感覚的な表現ですが、ベールに包まれたようなヌメリと、なんとも言えない凄みがあるのです。もちろん、それが良い時もあれば、好ましくない場合もあります。
そういった意味でもNOKTON 50mm F1.2は何も裏切ることのない素晴らしい描写であると言えます。シャープに立ったピント面と、溶けるように柔らかいボケの対比、そして抜けの良い画質による質感表現は、惚れ惚れします。
もちろん、高品位なミラーレスレンズまで見渡せば、さらによく写る50mm F1.2も存在するでしょう。それは逆にもう味気なく感じることもあるかもしれません。
「よく写ればすべてよし」というのがレンズ選びの答えではありません。そう一番思っているのはライカを愛用する皆さんではないでしょうか。
当NOKTON 50mm F1.2はとても優等生の写りでありながら、F1.2でしか得られない表現力と味わいも併せ持った、いい落とし所のレンズではないでしょうか。
Leica M10-P・NOKTON 50mm F1.2 Aspherical II VM
絞りF1.2・1/90秒・ISO200
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
Leica M10-P・NOKTON 50mm F1.2 Aspherical II VM
絞りF1.2・1/180秒・ISO200
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
Leica M10-P・NOKTON 50mm F1.2 Aspherical II VM
絞りF1.2・1/350秒・ISO200
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
繰り返しになりますが、F1.4を使い慣れたユーザーにとっては「たった0.2の差で何が変わるのだろう」と感じることも多いでしょう。私自身もそうでした。同じ被写体を絞りを変えて撮り比べてみても、大きな違いは感じにくいものです。
しかし、実際にそのレンズを手に取り、街を歩いて撮影してみると、まったく別の世界が見えてきます。被写体や光の条件によって、その表情は変わり、浅い被写界深度と大きなボケによってF1.4では捉えきれない世界が広がるのです。
ぜひレンジファインダーカメラで、NOKTON 50mm F1.2の豊かなボケの世界を味わってみてください。
» 詳細を見る
» 詳細を見る
Photo & Text by 高橋俊充(たかはし・としみつ)