“X-Sシリーズ”最新機の登場
静止画、動画、それぞれのユーザーに配慮が見られるX-S20の立ち位置
被写体検出AFを搭載し、X-S10から手ブレ補正効果が向上、撮影可能枚数も増加
いざ、X-S20を携えて街へ
X-S20 作例集
作例に使用したカメラ
富士フイルム X-S20
作例に使用したレンズ
富士フイルム フジノンレンズ XF30mmF2.8 R LM WR MACRO / フジノンレンズ XF8mmF3.5 R WR / フジノンレンズ XF18mmF2 R
まとめ
東京生まれ。出版社を経てフリー。エディトリアル、コマーシャルで活動。またカメラ・写真雑誌、WEBマガジンで写真のHOW TOからメカニズム論評、カメラ、レンズのレビューで撮影、執筆を行うほか、写真ワークショップ、芸術系大学で教鞭をとる。使用カメラは70年前のライカから、最新のデジタルカメラまでと幅広い。著書に『赤城写真機診療所MarkⅡ』(玄光社)、『フィルムカメラ放蕩記』(ホビージャパン)など多数。
2020年に登場した富士フイルムX-S10の正統な後継機がX-S20だ。小型ボディ+握りやすいグリップ+上位機なみの高機能が“X-Sシリーズ”のいちばんの特徴だ。X-S10とX-S20のデザインはよく似ており、判別はロゴを見ないとわからないくらいである。X-S10のデザインの完成度の高さを表しているといえる。
見た目は小さいが、X-S20は価格的にも機能的にもミドルクラスの仲間に加えて良いモデルで、機能としては充実している。小さいながらも、操作性に配慮、作り込みにも凝縮感を感じるのは特筆したい点だ。
X-S20の主な特徴は、画像処理エンジンの刷新、被写体検出AFを搭載したこと、バッテリー容量増加に伴う撮影枚数の増加と動画の長時間記録ということになる。
ボディサイズは127.7×85.1×65.4mm。重量は約491g(バッテリー、メモリーカード含む)X-S10は約465g(バッテリー、SDメモリーカード含む)だからわずかに重いが特に問題はなかろう。X-T5と比較しても明らかに引き締まって、運動神経が良さそうなイメージだ。
筆者は富士フイルムXシリーズはX-Pro2、X-E4、X-T5を愛用しているが、いずれもボディ上部にシャッタースピードダイヤルがある。
正直にいえば、絞り優先AEやプログラムシフトを生かした、プログラムAEモードを使用することが多いので、実際にシャッターダイヤルを有効活用しているとは言い難いのだが、ある意味ではデコレーション的な意味、年配者にとっては安心感につながっているように思う。
野暮で色気のない撮影モードダイヤルがボディ上で存在を主張しているのは筆者は好まない。これもXシリーズを使う強い理由にもなっている。
X-S20では撮影モードダイヤルが、ボディ上部の平凡な位置にある。実用面という意味ではこちらの方がありがたいというユーザーも多いのであろう。このあたりは好みの問題であり、繰り返すが実用面での差異は一切ないと考えて良いだろう。
ボディにはモードダイヤルとファンクションダイヤル。背面にはリアコマンドダイヤルを備えているが、これはX-S10と同じである。モードダイヤルには新たに「Vlog モード」が追加され、自分撮りに適した設定に変更可能。X-S20の立ち位置をより明確にしたモードだ。静止画、動画を手軽に行き来したいユーザーも納得だろう。
なお動画撮影時の熱問題に配慮し、ボディ冷却のため冷却ファン「FAN-001」の装着にも対応。電源はボディから供給する。動画の連続撮影時間は6.2K/30pで約120分(顔検出OFF)と本格的な使用ができる。
モードダイヤルにVlogが追加されている。
コマンドダイヤルは大きさのわりに表記はなく色気に乏しいが、デザインに落ち着きをみせている。
ボディ上部左のコマンドダイヤル。
デフォルトではフィルムシミュレーションの切り替え用になっていたが、好みで割り当てが可能だ。
ボタン類の配置もX-S10と同じでX-S10ユーザーはそのままスムーズに乗り換えることができよう。各ダイヤルはわずかにサイズが大きくなり、より操作性に配慮された。
EVFは約236万ドットの0.39型有機ELを搭載、最上とは言えないまでも視認性は良い。ファインダーアイピースはボディ中央に位置しており、ファインダー倍率は0.62倍とボディのサイズ感からすれば頑張っているほうだと思う。背面LCDは3.0型で約184万ドットのバリアングル。
ボディ頭頂部には内蔵のフラッシュを搭載、GNは約5(ISO 100/1m)と光量は大きくはないが、ISO感度設定を変えるなどすれば有効に使えるし、キャッチライトを入れたり日中シンクロでも有効だろう。
バリアングルのLCD。
自由なアングルが得られるが、どちらかといえば、Vlogに力を入れている本機だから自撮りのために役立ちそうだ。
被写体検出AFは、動物、鳥、車、バイク、自転車、飛行機、電車、昆虫、ドローンを検出。ディープラーニング技術により「昆虫」は「鳥」、「ドローン」は「飛行機」の検出設定で対応できる。検出能力はX-H2、X-H2S、X-T5にも並ぶ高い性能だ。
なお、カメラがシーンを自動判別し設定を自動で選択するAUTOモードに、「AUTO 被写体検出機能」が追加され、自動で被写体を検出し、ピントを合わせたまま追従させることもできる。ここまでくると撮影者は被写体にレンズを向けるだけである。
手ブレ補正機構もX-S10から引き続き搭載、補正効果は最大7段分でX-H2、X-H2S、X-T5と同等となっているというから驚かされる。つまりボディのサイズを変えずにX-S10から1段分手ブレ補正効果が向上していることになるわけだ。
Xシリーズのフジノンレンズはいずれも優秀だが、小型軽量のタイプのレンズはO.I.S(手ブレ補正機構)非内蔵のレンズも多く、これはとてもありがたいし撮影の自由度が高まっている。
画質面での期待も大きい。センサーは第4世代の「X-Trans CMOS 4」(裏面照射型・有効約2,610万画素)を採用。第5世代の画像処理エンジン「X-Processor 5」を搭載している。
静止画記録にHEIFとTIFFが追加され、富士フイルムXシリーズの大きな特性であるフィルムシミュレーションは全19種類を搭載した。
ISO設定の範囲はISO 160~12800(拡張でISO 80~51200)。シャッター速度はメカシャッターで最高速1/4,000秒、電子シャッターで最大1/32,000秒。日中晴天下に大口径レンズの絞りを開いて撮影したいような場合には有利である。
コマ速度は電子シャッター設定時に最高約20コマ/秒(1.25×クロップ時は約30コマ/秒)。撮影目的で設定すればいいだろう。
なおバッテリーは大容量の「NP-W235」に変わった。このために撮影可能枚数は、X-S10の2倍超となる約800枚というからこれは頼もしい。
メディアスロットはシングル。
バッテリー室内に同居しているのは高級感が損なわれるので少し不満。
スペースの問題だろう。
FUJIFILM X-S20・XF30mmF2.8 R LM WR Macro
F9・1/3000秒・ISO400・フィルムシミュレーション:PROVIA
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
畑の上を舞う鳥よけの凧。
カメラは形から鳥と判断して、勝手に補足してフォーカシングを行ってくれた。
筆者は、今年X-T3からX-T5に買い替えたこともあり、X-T5の使用が多くなり、いわゆる「3ダイヤルオペレーション」に慣れきってしまっているようなところがある。前機種X-S10の使用経験もあるが、小型軽量モデルという以外には、さほど強い印象を持ってはいなかった。
そんなこともありダイヤルの表記に色気のないX-S20の使用は少し不満、いや不安に感じていたが、実際に使用してみると、言うのも恥ずかしいが、いつものXシリーズの仲間だという印象を持った。直感的な操作でも迷わず使うことができる。取り説要らずなのだ。
ダイヤル、ボタンの設定も、ファンクションをうまく使いながらマメに自分の好みにすることで、自分なりの使いやすいカメラになる。
フォーカスを自動選択にしたまま、X-S20を携えて街にでてみる。今回は小さめの単焦点レンズのみを使用してみたが、携行が負担になることがない。
あまり撮影時間もなかったので、アサインメントの機材の入ったカメラバックのサイドポケットにX-S20を入れ、移動しながら、ここぞというときにポケットから取り出して撮影というやり方も試みた。筆者がよく行うコンパクトカメラの撮影方法である。これを可能にするのは小さなX-S20だからである。
気になったモノや人にレンズを向けてみると、X-S20のフォーカスエリアは被写体の適宜な部分にさっと飛び、さっとフォーカスを合わせる。特に人間の場合は後頭部にもフォーカスエリアが飛んではりつくような印象だ。
こちらの読み通りになることも多く、時として怖いくらいである。アサインメントに使用しているX-T5とおなじ感覚だ。人物撮影などでは、まずフォーカシングに失敗するようなことは皆無になることだろう。
FUJIFILM X-S20・XF30mmF2.8 R LM WR Macro
F4・1/2400秒・ISO200・フィルムシミュレーション:クラシッククローム
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
人物の後ろ姿でも、フォーカスエリアは人物のところにはりつく。
あとは人物の動きでシャッターを切るのみである。
FUJIFILM X-S20・XF30mmF2.8 R LM WR Macro
F3.6・1/900秒・ISO200・フィルムシミュレーション:PROVIA
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
撮影距離はマクロ領域。
カメラ任せでもこちらがいちばん望む位置に合焦してくれた。
素晴らしき判断力だ。
FUJIFILM X-S20・XF30mmF2.8 R LM WR Macro
F4・1/1100秒・ISO200・フィルムシミュレーション:PROVIA
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
この条件でもフォーカスエリアはさっと花の位置に飛んで合焦する。
メカシャッターもそのまま載せてきているのは個人的には歓迎で、撮影条件、好みの違いで電子とメカで使い分けるのも楽しい。もちろん自動切り替えの設定もできる。
フィルムシミュレーションは撮影のたびに逐一設定するというよりもカメラ内RAW現像で異なるフィルムシミュレーションを反映させることができるので、撮影はRAW+JPEG設定をおすすめしたい。
FUJIFILM X-S20・XF8mmF3.5 R WR
F8・1/1000秒・ISO400・フィルムシミュレーション:ACROS
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
煙突のある風景。
フィルムシミュレーションはアクロスモード。
ハイライトの描写がなまめかしい再現である。
画質はいずれの機種でも定評のあるXシリーズである。もはや話題にもなることはないが35mmフルサイズと比較して、画質がどうのという話はもう出てくることはないだろう。
小さなボディなのに、上位機並みの機能を入れてきたのは評価したい点。機能面でも万能性を感じるカメラであるし、APS-Cセンサーのサイズ、特性を生かした、小回りのきくスポーツカーのような位置づけをすることができるだろう。
FUJIFILM X-S20・XF18mmF2 R
F8・1/400秒・ISO400・フィルムシミュレーション:Velvia
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
見た目にもモノトーンな光景だったが、カラーの再現性と階調の再現がいい。悪条件でこそ真価が発揮できるのは優れたカメラ、レンズである証明だ。
FUJIFILM X-S20・XF30mmF2.8 R LM WR Macro
F3.6・1/450秒・ISO800・フィルムシミュレーション:PROVIA
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
窓際にある花。レフや補助光を使用していないが、再現性はよく色乗りもいい。
FUJIFILM X-S20・XF18mmF2 R
F2.8・1/240秒・ISO1600・フィルムシミュレーション:PROVIA
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
左側にある窓から自然光が差し込んではいたものの、店内の蛍光灯を主にした撮影になった。肉眼よりもしっかりとした再現性に驚く。
FUJIFILM X-S20・XF30mmF2.8 R LM WR Macro
F3.2・1/750秒・ISO200・フィルムシミュレーション:PROVIA
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
見た目では暗く、日陰の条件でもコントラストがしっかりしており、適宜な色再現性が得られる。
FUJIFILM X-S20・XF30mmF2.8 R LM WR Macro
F5.6・1/950秒・ISO6400・フィルムシミュレーション:Velvia
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
ISO6400設定で。明暗差のある条件だが、超高感度領域であることを感じさせない。うまくノイズを抑制してくれているのであろう。
» 詳細を見る
Photo & Text by 赤城 耕一 (あかぎ・こういち)