Leica ズミルックスM f1.4/50mm レビュー × 写真家 赤城耕一 | 名玉レンズの復刻版を徹底解説

目次
はじめに
名玉レンズの復刻版をLeicaが出す理由
今回の復刻レンズは初代1stレンズがベースになっているはず
現行の5世代目となる本レンズの使用感は
Leica Summilux-M 50mm F1.4(復刻版)の作例写真
まとめ
作例に使用したレンズ
作例に使用したカメラ
はじめに
Leica社のLeicaレンズ開発に賭ける情熱は、今ふうにいえば多様性すら感じるほどで、ひたすら高性能を求めるという王道の開発の方向とは別に、過去の名玉とよばれるレンズを次々と復刻していることである。
Summaron-M 28mm F5.6やNoctilux-M50mm F1.2、Summilux-M 35mm F1.4などがこれらに該当し、Summilux-M 50mm F1.4が、今回新たに加わることになった。
鏡筒が太めになり、1stとは印象が異なる。刻印のフォントも現代的なものになっている。
名玉レンズの復刻版をLeicaが出す理由
復刻の理由としては往時のLeicaレンズの味わいを再びという声がユーザーから少なからずあったということもあるだろう。デザイン的に凝ったものであることも見逃せない点である。
ただ、これらの古いレンズは発売から時を経ているため、経年変化による硝材やコーティング、クモリやキズなどの影響で、本来のポテンシャルを十分に発揮することができる個体はそう多くはなく、これからも少なくなってゆくだろう。
また製造時から経た年月を考えれば、これまで一切のメンテナンスが行われていないということも考えづらい。そうした要因で個体差が生じていることも考えられる。
シルバークロームのLeicaM11-Pに装着してみる。全体にクラシカルな雰囲気が強調される。ブラックボディに装着しても似合うはずである。
実際これらのマイナス要件によって、「オールドレンズは描写が軟らかい」などという、妄想的な判断が下されていることもあると想像される。
もっとも復刻レンズはこれらの往時の名玉といわれる味わいを再現はしているものの、描写に忠実かといえばそうでもなかろう。
復刻にあたっても、往時と同じ硝材を入手したり、同じ加工やコーティングを施すことは難しいだろう。ただ、同じ基本構成のレンズならば、描写ニュアンスとしては傾向は似ているだろうし、最新の超絶高性能のLeicaレンズと比較して、往時の流れを汲む異なる描写を楽しむことができるはずだ。
本レンズのベースとなった、初期型のSummilux 50mm F1.4と復刻バージョンを比較すると、さまざまな違いがある。
専用のフードはスリット入りで、1stのタイプとは異なるが実用面としてはこちらの方が効果はあるかもしれないし、デザイン的にも悪くはない。
今回の復刻レンズは初代1stレンズがベースになっているはず
復刻版は全長は2mm短いが、質量は450gと、初期型の325gよりも重い。復刻版の最短撮影距離は0.7mだが、初期型は1mである。復刻版のフィルターアタッチメントはE46(46mm)だが、初期型はE43(43mm)である。
このため、初期型に用意されたフードは装着できず、復刻版に用意されたフードは初期型に装着できない。似ているようで別モノという印象が強いのだ。
ご存知のとおり、Summilux-M 50mm F1.4と同スペックのレンズは、Summilux-M 50mm F1.4 ASPH.が現行品として用意されている。
1949年に登場したLeicaスクリューマウントのSummarit 50mm F1.5はハイスピードの標準レンズとして登場している。
このレンズは英国のテイラーアンドホブソンのXenon 50mm F1.5の流れを汲むものとして知られており、当時としては微量光下での撮影目的のために開発されたと推測される。当時はフィルムの感度が低く、大口径レンズは夜間や室内では非常に有効だったのである。
最短撮影距離は0.7m。レンジファインダーの連動範囲内である。1stでは1mだったので自由度が増した。
デジタル時代の現在では、ISO感度設定は自由自在であり、むしろ開放絞り近辺の設定においてクセのある描写を楽しむレンズとして知られている。
1959年にはズマリットの改良型として、初代Summilux 50mm F1.4が登場する。最近では1stとも呼ばれる。LeicaのヘビーユーザーたちはこのSummilux 50mmF1.4の1stを「貴婦人」という愛称で呼んでしまうほど、ルックスが美しいことでも有名である。今回の復刻レンズはこの初代の1stレンズがベースになっているはず。
筆者はどうにも照れ臭くて「貴婦人」などとは呼びづらいが、実際に手にしてみると、そのモノとしての品格の高さは、現代のLeicaレンズにはみられない唯一無二のものであることが確かで、今回の復刻レンズにしても、Leica社はおそらくこの鏡筒の仕上げの美しさを再現することに苦労したはずである。
TECHARTのマウントアダプター「LM-EA9」を使用し、ソニーα7CRに装着してAF化してみたが、これも問題なく使用できる。0.7mよりもさらに寄ることができる。
現行の5世代目となる本レンズの使用感は
鏡筒の全体の体躯は小さいのにどっしりとしているし、フォーカスリングの仕上げ、ローレットの加工や文字のエングレーブ、メッキの仕上げをみると、貴婦人かどうかは別の話になるが、描写とは関係ないところまで、写りとは無関係、無駄とも思えるような手間をかけていることがよくわかる。
断っておくが、無駄とは褒め言葉であり、レンズが持つ本来の光学性能、機能の高さに加えて、道具としての充実度、存在感がきわめて高いということである。現行製品の鏡筒の仕上げとは異なるわけで、Leica社の注目もここにあったはず。
筆者は1stの使用経験はあるものの、その経験は正直浅い。以前お借りしたものを短時間使用しただけということもあるが、先に述べたように発売から60年以上を経ているレンズの描写を判断するのは難しい。ただ、使い心地は悪いものではない。
ちなみに巷に流布されている情報を、ウラをとらずにそのまま書いてみると、1stにも前期型と後期型があり基本構成は5群7枚と変わらないが、後期型のほうが高性能であるとされるが、前期のほうが味わいがあるという人もいる。
この高性能という意味も個人の判断によるものだから名言することは避けたいが、前期の描写が悪いということではないので念のため。
1961年からほぼ形を変えず、後期型に切り替わるとされているので、前期型の製造本数はあまり多くはないだろう。
しかし、ライツは1966年まで改良したことを明かさなかったというが、今回の復刻レンズは前期と後期、どちらのニュアンスを取り入れているのかはよくわからないが、現代のレンズとは描写は違う。
前期と後期、具体的な特徴としては、後期では鏡筒が2mmほど短く、硝材の進化やコーティングが改良されたと言われている。
1stの後期は、のちの2ndと光学設計は同じと言われているのでまた話は少々ややこしくなる。デザイン面ではフォーカスリングのローレットの位置が山側にあるもの谷側にあるもの、ブラックペイントのものもあるから、どのように区分すればいいのかわからなくなる。
2世代目は先に述べたように1世代目の後期と同じとされる、5群7枚構成、3世代目は同じ構成のまま、フードが組み込まれ最短撮影距離は0.7mとなる。
4世代目ではレンズ構成は5群8枚となり、非球面レンズが採用されフローティング機構が採用され、335gと軽量化される。そして現行の5世代目になるわけだ。
Leicaのデジタルカメラは、センサー前のカバーガラスの厚みを配慮し、オールドLeicaレンズでも素の性能を損なわないように考えられている。これはひとつの見識だが、カバーガラスの厚みでレンズの描写は変わるからである。とくに広角から標準までの焦点距離では性能の変化が大きくなる。新旧製品関係なく、LeicaレンズをLeicaカメラで使用することは描写の基準としての意味があるわけだが、この復刻レンズでもカバーガラスの厚みは考慮されているだろう。
Leica Summilux-M 50mm F1.4(復刻版)の作例写真
SONY α7CR・Leica Summilux-M 50mm F1.4
TECHART LM-EA・絞りF1.4・1/3200秒・ISO200
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LM-EA9を使用して、最大にフォーカスリングを繰り出して撮影。球面収差の増大のためにハイライトは大きく滲むがイヤな描写ではない。
SONY α7CR・Leica Summilux-M 50mm F1.4
TECHART LM-EA・絞りF2・1/2500秒・ISO100
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この条件だとAFは迷うかもしれないと予想したが、意外にもスッと合焦した。タル型の歪曲収差があるが、あえて補正はしなかった。気になるほどではない。
SONY α7CR・Leica Summilux-M 50mm F1.4
TECHART LM-EA・絞りF2・1/4000秒・ISO100
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仁王像にも顔認識してしまうところが面白い。肉眼だともっと明暗差はあったけれどなかなか階調の繋がりがいい。
SONY α7CR・Leica Summilux-M 50mm F1.4
TECHART LM-EA・絞りF2・1/4000秒・ISO100
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今年は桜が長続きしたので、多くの撮影もしたが、中庸な撮影距離でも絞りを開くと被写界深度は浅めである。
SONY α7CR・Leica Summilux-M 50mm F1.4
TECHART LM-EA・絞りF4・1/2000秒・ISO100
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絞りF4程度で合焦点の画質は十分すぎるくらいになる。基本設計は古いのだがここまで写れば問題ない。
SONY α7CR・Leica Summilux-M 50mm F1.4
TECHART LM-EA・絞りF2・1/250秒・ISO100
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絞り開放で最短撮影距離。ハイライトの滲みがキレイ。この光線状態では、合焦点は結構シャープな再現だ。
Leica M11-P・Leica Summilux-M 50mm F1.4
絞りF16・1/500秒・ISO200
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絞り込んでパンフォーカスを狙う。なかなか緻密な描写でカメラのポテンシャルを生かし切れる。
Leica M11-P・Leica Summilux-M 50mm F1.4
絞りF11・1/500秒・ISO200
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至近距離でも絞れば、きっちりとしたシャープネスを得ることができる。シャドーの描写もいい。
Leica M11-P・Leica Summilux-M 50mm F1.4
絞りF4・1/4000秒・ISO200
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スナップでも絞りを開いて撮影したくなる。現実離れした雰囲気を出したい時には面白い。
Leica M11-P・Leica Summilux-M 50mm F1.4
絞りF2.8・1/4000秒・ISO200
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F2.8くらいで画面の均質性が良くなるので、周囲に主題があってもシャープに再現できる。
Leica M11-P・Leica Summilux-M 50mm F1.4
絞りF11・1/500秒・ISO100
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画面全体にコントラスト良好、優れた描写である。
Leica M11-P・Leica Summilux-M 50mm F1.4
絞りF8・1/2000秒・ISO200
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郊外の住宅街では少し引いた距離感で撮影できる。絞り込んで緻密性をみた。
Leica M11-P・Leica Summilux-M 50mm F1.4
絞りF1.4・1/1250秒・ISO400
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晴れた日。コンクリートのディテール再現もいい。都市風景にも適したレンズだ。
Leica M11-P・Leica Summilux-M 50mm F1.4
絞りF1.4・1/1250秒・ISO400
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被写体まで少し距離があると開放絞りでもあまり滲まないようだ。
まとめ
今回の試用はLeicaM11-Pとソニーα7CRで撮影しているが、いずれも1stのニュアンスを汲む描写であることは確認できた。
開放絞りではハイライトの滲みが少し大きい。また最短撮影距離では球面収差が増大するためかハイライトは滲む。加えてコントラストは少々低い。
また画面中央と周辺部の描写の違いがそこそこに大きい。像面の湾曲が大きいからであろうと想像される。ボケの大きさは撮影距離によって異なるけれど、高周波成分の箇所はややクセが出る。絞り値によってもボケの大きさとともに再現は変わる。開放絞りでは周辺光量の低下が認められる。周辺の点光源をみると口径食も確認できる。
こうして羅列すると欠点はそこそこあり、残存する収差は少ないとはいえないけれど、これを欠点として忌み嫌うのか、味方につけて表現に応用するのか、撮影者の判断によるものとなるはずだが、本レンズに興味を示す人には釈迦に説法だろう。
本レンズのベースになった1stが登場した時代は「レンズの味わい」などという、よくわからない情緒性に浸る余裕はなかったはずだ。
つまり、仮にレンズに欠点があったとしても、それをどう作画に生かすか、あるいは撮影者側がどうコントロールするか、技量を求められた。
この復刻Summilux-M 50mm F1.4は現行製品として登場したことで、当時の写りのニュアンスを伝えてくれている。さらにデジタルによる解釈が加わることで、新しい価値観が生まれるかもしれない。
作例に使用したレンズ
【商品情報】Leica ライカ ズミルックスM f1.4/50mm
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作例に使用したカメラ
【商品情報】Leica M11-P
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【商品情報】SONY α7CR
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Photo & Text by 赤城耕一(あかぎ・こういち)

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