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2024.12.12
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Leica M11-D 実写レビュー × 藤井智弘 |背面モニターを持たないデジタルM型Leica

Leica M11-D 実写レビュー × 藤井智弘 |背面モニターを持たないデジタルM型Leicaキービジュアル


ライター藤井智弘(ふじい・ともひろ)イメージ
■フォトグラファー紹介

藤井智弘(ふじい・ともひろ)

東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1996年に写真展を開催後、写真家になる。各種撮影、カメラ専門誌やWEBでの撮影や執筆、写真講師等で活動。作品では、国内や海外の街を撮影している。公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員。DGPイメージングアワード審査員。
ホームページ:https://fujiitomohiro.amebaownd.com
Instagram:https://instagram.com/fujiitomohiro
X:https://twitter.com/FujiiTomohiro

はじめに

Leica M11-D 本体

控え目でシンプルな外観を持つLeica M11-D。Leica M11-Pと同様、トップカバーに「Leica」の文字が入り、Leicaの伝統が感じられます。

3世代目となる背面モニターのないデジタルM型Leica

Leicaはカメラのハイブランドでありながら、他社ではあまり見かけない個性的なカメラをラインナップしています。例えば35mmフルサイズのコンパクトデジタルカメラ、Leica Qシリーズ。そして2024年で誕生70周年を迎えたレンジファインダーのLeica Mシステム(通称M型Leica)など。レンジファインダーのデジタルカメラも現在はLeicaだけです。さらにLeica QシリーズとM型Leicaには、モノクロ専用機があるのも特徴。今ではペンタックスにもありますが、元祖はLeicaです。そしてM型Leicaには、デジタルカメラながら背面モニターを持たない機種もあります。その最新モデルが、2024年登場のLeica M11-Dです。

背面モニターのないデジタルのM型Leicaが登場したのは、ちょうど10年前となる2014年の「Leica M Edition 60」が初です。1954年のM型Leica1号機となる、Leica M3の登場から60年を記念した、全世界限定600台のモデルでした。

レギュラーモデルでの背面モニターレスは、2016年のLeica M-Dから。Leica M(Typ240)をベースに、DNG式のRAW専用機でした。約2年後の2018年に、Leica M10-PをベースにしたLeica M10-Dが発売されました。本体上面には巻き上げレバーをイメージするサムレストがあるのが特徴です。スマホアプリ「Leica FOTOS」と接続することで、撮影した画像の閲覧や各種設定ができ、DNGだけでなくJPEGの記録も可能になりました。そして背面モニターレス3世代目となるのが、今回のLeica M11-Dです。

Leica M11-D 本体:正面

正面はファインダー窓と距離計窓、ブライトフレーム切り替えレバーとレンズロック解除ボタンがあるだけ。ボディカラーはマット調のブラックペイントのみ。

Leica M11-D 本体:背面

Leica M11-D最大の特徴である背面。モニターがなく、メニューボタンもありません。ISO感度ダイヤルとサムホイールのみ備えます。

Leica M11-DのベースモデルはLeica M11-P

Leica M11-DのベースモデルはLeica M11-Pです。撮像素子は6000万画素の高解像ながら、JPEGでもDNGでも3600万画素、1800万画素にも変更できる「トリプルレゾリューションテクノロジー」を搭載。256GBの内蔵メモリーもあり、SDカードを装填することでダブルスロットのように使用できるなど、基本的なスペックは、Leica M11-Pを踏襲しています。

Leicaはどの機種もボタンを極力少なくし、多機能でもシンプルな操作性を実現しています。Leica M11-Dはさらにシンプル。背面にボタンは一切ありません。サムホイールと、背面中央に大きなISO感度ダイヤルを備えるだけ。まるでフィルムカメラのようです。上面はLeica M10-Dで話題となったサムレストも装備せず、電源レバーを兼ねたシャッターボタンとシャッターダイヤル、ファンクションボタンのみ。とても最新のデジタルカメラとは思えないほどスッキリしています。

撮影した画像データの閲覧は、Leica M10-Dと同じくスマホアプリのLeica FOTOSでLeica M11-Dと接続します。またライカM11-Pではメニュー画面から行っていた各種設定も、Leica M11-DではLeica FOTOS上で行います。画素数やホワイトバランスの設定はもちろん、JPEGのフィルムモード(仕上がり設定)もLeica FOTOSで選択できます。個人的には、撮影中にLeica FOTOSを起動させて設定変更するのはスマートな操作とは感じられないので、撮影前に「今日はこの設定で撮影する」と決めてしまう方が撮影に集中できると思います。それは背面モニターを持たないLeicaらしい使い方と言えるでしょう。

Leica M11-D 本体:上から

Leica M11-Pをベースにしていますが、ISO感度ダイヤルが背面に移動したため、左肩には何もありません。そのせいか、一層シンプルに見えます。

左:Leica M11-D、右:フィルムカメラ Leica M6

左がLeica M11-D、右がフィルムカメラのLeica M6。背面のISO感度ダイヤルがよく似ています。露出計のないM型Leicaの背面はフィルムインジケーターでした。Leica M11-DがLeicaの伝統を受け継いでいることがよくわかります。

撮影時にはLeica FOTOSに接続しないのがオススメ

手にした感触も、背面にモニターもボタンもないので、デジタルであることを感じさせません。重量はなぜかLeica M11-Pのブラックより9gほど重くなっているのですが、シンプルな分、とても軽く感じます。レザーもよく手に馴染み、マット調のブラックも精悍さが漂います。さすがLeicaと唸る仕上がりの良さ。撮影へのテンションも上がってきます。

先に述べた通り、DNGだけでなくJPEGでも記録できます。当然ですが同時記録も可能。しかし、個人的にはJPEGよりDNGをメインにするカメラのように感じます。通常のデジタルカメラのように、シャッターを切ったらすぐに背面モニターで確認するということはできないため、後処理を考慮する方が安心感が高いように思います。Leica FOTOSでいちいち確認するのは手間がかかり、そもそも背面モニターレスの意味がありません。普段はJPEG派の人も、DNGとJPEGの同時記録がおすすめです。

Leica FOTOSは、撮影の合間に休憩したときや、撮影後の帰宅時に接続して、どんな写真が撮れているのか確認するとよいでしょう。撮影開始から帰宅まで一切Leica FOTOSと接続せず、帰宅後にパソコンで確認するのも、もちろんあり。フィルムカメラのように、撮影後にフィルムを現像してようやく撮影結果がわかるように、デジタルでもそれに近い感覚が楽しめます。そして気に入ったカットは、ネガから暗室でプリントを作るように、DNGファイルから現像時に調整を加えて作品に仕上げていくプロセスを味わう。それもLeica M11-Dを使う醍醐味のひとつと言えます。

Leica M11-Dとスマホアプリ Leica FOTOS

スマホアプリのLeica FOTOSでLeica M11-Dと接続すれば、撮影した画像データの閲覧や各種設定、さらにリモート撮影も行えます。しかし撮影中は接続せず、写真を撮ることに専念する方がLeica M11-Dらしい使い方です。

高画素6000万画素の高解像力

画質はLeica M11やLeica M11-Pと同じ。6000万画素は非常に高精細で、被写体の細かい部分もしっかり解像します。とはいえ、レンジファインダーのピントは二重合致式のMF、ボディ側にもレンズ側にも手ブレ補正もありません。6000万画素もあるとピントやブレがシビアになるので、撮影時は不安になってきます。しかも背面モニターがないので、撮影後にすぐピントやブレの確認はできません。

しかしLeicaの二重合致式距離計はとても正確。SUMMILUX-M f1.4/50mm ASPH.の絞り開放でも確実なピント合わせができました。また手ブレに関しては個人差がありますが、私の場合は50mmレンズ使用時で1/125秒までなら、ほぼブレることなく撮れました。しっかりカメラをホールドすれば、1/60秒付近でもブレない確率が上がります。高感度にも強いので、ブレを抑えたい状況では、ISO感度を上げて速いシャッタースピードを得るのがコツだと言えます。

また「シビアでファイルサイズも大きい6000万画素は必要ない」という人は、3600万画素や1800万画素に設定するといいでしょう。トリプルレゾリューションテクノロジーは複数の画素をひとつの画素にするので、単純に画素数を減らすのではなく、ダイナミックレンジや高感度に有利なのもポイントです。

6000万画素にもなると、レンズの性能も厳しくなってきます。今回使用したLeica MレンズはAPOタイプではありませんが、絞り開放でも優れた描写力を発揮し、6000万画素の解像力を生かした写真が撮れました。Leicaはレンズ性能の高さも見逃せないのです。

Leica M11-D 作例:国技館の屋根と青空

Leica M11-D・Leica SUMMILUX-M f1.4/50mm ASPH.
絞り優先AE(絞りF8・1/500秒)・ISO64

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秋らしい雲を見つけ、国技館の屋根を入れて撮影しました。6000万画素は高精細で、屋根の細かい部分や質感をしっかり再現しています。

Leica M11-D 作例:玩具のカメ

Leica M11-D・Leica SUMMILUX-M f1.4/50mm ASPH.
絞り優先AE(絞りF1.4・1/500秒・-0.7EV)・ISO64

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料亭の前で見つけた玩具のカメ。絞り開放で近付き、背景の石畳をぼかしました。6000万画素でもLeicaの二重合致式距離計は高い精度でピントが合わせられます。

Leica M11-D 作例:夜の台東区

Leica M11-D・Leica SUMMICRON-M f2/35mm ASPH.
絞り優先AE(絞りF11・1/80秒)・ISO6400

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街灯の光条を出すために、絞り値はF11を選択。手ブレを防ぐために、感度はISO6400に設定しました。ややノイズ感はあるものの、建物のディテールは潰れず、シャープな写りが得られました。

フィルムカメラに近い、撮影のリズム

Leica M11-Dを使用していると、撮影のリズムが他のデジタルカメラとは異なることに気付きました。背面モニターがあると、1枚撮っては確認し、ピントを合わせ直してもう1枚、構図を微調整してもう1枚、念のためもう1枚、と同じシーンで何枚も撮影してしまいます。しかしLeica M11-Dは、数枚撮ったらそのシーンは終了。次のシーンを狙いに歩き出します。それはフィルムカメラに近い撮影リズム。モニターで確認することがないので、潔い撮影ができるのです。写る範囲が示されるだけのブライトフレームも、出来上がりを頭の中でイメージするので感覚が研ぎ澄まされます。背面モニターのないレンジファインダー機は、決して便利なカメラではありません。しかし頭の中で仕上がりを想像しながら撮影するのは、通常のデジタルカメラとは異なる楽しさが確実にあります。

また28mmより焦点距離の短いレンズを使用する場合は、アクセサリーシューにEVFのVisoflex 2が装着でき、Leica M11-Dでもミラーレス機のような使い方ができます。もちろん、そのように使うのも構いません。しかし、せっかくモニターを持たないカメラなので、フィルムM型Leicaのように、光学式の単体ファインダーを装着する方がLeica M11-Dには似合うように感じます。EVFのような正確な構図決定は難しいですが、やはり、ここでも出来上がりをイメージする楽しさがあるのです。

Leica M11-D 作例:晴天の神社

Leica M11-D・Leica ELMARIT-M f2.8/21mm
絞り優先AE(絞りF8・1/200秒)・ISO64

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スッキリした視野の光学式単体ファインダーでの撮影は、EVFとは異なる快適さが楽しめます。背面モニターのないLeica M11-Dとの相性は抜群。

21mmレンズの使用時は、EVFのVisoflex 2ではなく、単体の光学式ファインダーを装着しました。Leica M11-Dと超広角レンズは、この使い方が合っていると思います。

Leica M11-Dの作例

Leica M11-D 作例:街のスナップ

Leica M11-D・Leica SUMMICRON-M f2/35mm ASPH.
絞り優先AE(絞りF2・1/320秒・-0.3EV)・ISO64

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街を歩いていて、惹かれた光景に出会ったらすぐLeica M11-Dを構えて撮影。背面モニターで確認することはなく、その場を立ち去る。そうした軽快なスナップが楽しめるのが、Leica M11-Dの魅力です。

Leica M11-D 作例:ししおどし

Leica M11-D・Leica SUMMILUX-M f1.4/50mm ASPH.
絞り優先AE(絞りF2.8・1/320秒・-1.3EV)・ISO400

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濡れた石や葉の質感がとてもリアル。6000万画素を持つLeica M11-Dは、軽快なだけでなく被写体の質感再現にも優れています。

Leica M11-D 作例:売店のダルマ

Leica M11-D・Leica SUMMILUX-M f1.4/50mm ASPH.
絞り優先AE(絞りF4・1/500秒・-0.7EV)・ISO400

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お寺の近くの売店に並んでいたダルマ。深みのある写真にするため、あえてやや露出アンダーになるのをイメージして露出補正値を決定。フィルムカメラのような撮影感覚が楽しめます。

Leica M11-D 作例:土手を走る1台の自転車

Leica M11-D・Leica SUMMILUX-M f1.4/50mm ASPH.
絞り優先AE(絞りF8・1/1600秒)・ISO200

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河原の土手を1台の自転車が走り抜けていく瞬間を撮影。6000万画素ありながら、ダイナミックレンジは広く、空や草の階調は豊かに再現されています。

Leica M11-D 作例:参道を歩く人

Leica M11-D・Leica SUMMICRON-M f2/35mm ASPH.
絞り優先AE(絞りF8・1/200秒)・ISO64

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逆光に輝く路面と影。あまりにまぶしく、人の動きはほぼ勘に頼ってシャッターを切りました。その場で結果がわからないのは、不安でもあり、楽しみでもあります。

Leica M11-D 作例:照明と風車

Leica M11-D・Leica SUMMILUX-M f1.4/50mm ASPH.
絞り優先AE(絞りF1.4・1/640秒・-0.7EV)・ISO64

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Leicaファンの特徴のひとつはシャッター音にこだわりを持つ人が多いこと。Leica M11-Dのシャッターは「コトッ」と囁くような、耳に優しい音。撮影している感触が伝わりながら、さり気ないスナップができます。

まとめ

まるでフィルムのM型Leicaのような、シンプルなLeica M11-D。

Leica M11-Pと同様に赤いバッジを持たず、目立たないブラックボディは、さり気なく街を撮り歩きたくなるカメラです。常に「写真の本質」を追求しているLeica。あえて背面モニターを排除する姿勢も、Leicaにとってひとつの答えなのです。

作例に使用したカメラ

【商品情報】Leica M11-D

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作例に使用したレンズ

【商品情報】Leica ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.

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【商品情報】Leica ズミクロンM f2/35mm ASPH.

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Photo & Text by 藤井智弘(ふじい・ともひろ)

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