ずっと高倍率ズームレンズ推しだったのですが……。
システム本来の魅力を引き出す超望遠単焦点レンズ、写りの良さにシてヤられました
何気ない日常を極めて狭い画角内に切り取る楽しさ!
「今後のあなた」にピッタリのレンズと出会うタイミングを逃すな
作例に使用したレンズ
1963年、東京生まれ。1988年よりフリー。学生の頃より歌って踊れる(撮って書く)スタイルを標榜し「写真に一途ではない」姿勢を悪びれることなく貫いた結果、幸か不幸か見事、器用貧乏に成り下がり今日に至る。人目を忍ぶ趣味、多数。2024年カメラグランプリ外部選考委員
そもそもは高倍率ズームレンズ推しを標榜してきた、ここ30年の我が写真生活ではある。高倍率ズームレンズが必要十分な性能向上を果たすことに合わせ、利便性に溺れるというか易きに流れるというか、ともあれそんな諸事情を含んでの変遷だ。
そして、偶然なのか必然か、それは「写真」と「デジタル」の融合レベルとリンクしている事象でもあった。少なくとも、個人的事情の範疇においては、写真生活がデジタルに深く傾倒するに従い、高倍率ズームレンズ推しの傾向は強まっていた。
その足跡に花が咲いているかどうかはともかく、少なくとも後悔は皆無だ。時代の最先端を走っているという自惚れに近い自負があったし、だからこそ撮れた素晴らしい写真(あくまでも自称ではあるが)が山ほどあったからだ。「デジタルだからこそ」「高倍率ズームレンズだからこそ」・・・それが我が写真生活に画期的な進化&深化をもたらせ、だからこそ写真生活において過去最高の満足を得てきたことは、紛れもない事実なのである。
とはいえ、高倍率ズームレンズは、他人様にオススメできる"イチオシ”にはなり得ない。誰もがシアワセになれるレンズではないとの判断だ。ハマればハマるがハマなければ地獄。先に述べているとおり「利便性に溺れる」「易きに流れる」現実と紙一重なだけに、その実態は"崖っぷち"。とてもアブナイのである。安易に近寄らない方が無難だ。
そこで、単焦点レンズなのである。実は、西暦2024年は、私にとって新たに単焦点レンズを入手した非常に珍しいタイミングでもある。いったい何年ぶり? もう、それすら覚えていないぐらい、単焦点レンズを買うのは久しぶりだった。せっかくのこの機会、その事実を「イチオシ」の一環としてここに記しておかぬ手はないだろう。
OM SYSTEMのマイクロフォーサーズシステムのユーザーでもある私が新たな相棒として選んだレンズは「M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO」。私は、このレンズが登場した当初から、密かに欲しい欲しいと思い続けてきていた。実際に手に入れるまでに要した時間は、なんと8年(発売は2016年)。やっと買えたレンズなのである。
フードは、脱着ではなく伸縮するような形態で収納が可能。フード自体の回転操作でロックの設定、解除ができる造りになっている。装着しているボディはOM-1。
初めて使用した時、その写りの良さにシてヤラれた。とにかくよく写るのだ。しかも、ビックリするぐらい寄れる。マイクロフォーサーズのレンズとしてはかなりデカ重いが、600mm(相当)の開放F値「F4」のレンズ、すなわち「ロクヨン」と捉えれば、小さくて軽いと思い込むことも不可能ではないサイズ感。つまり、システム本来の魅力をもっとも端的に示し得る超望遠単焦点レンズだといってもいい存在だ。
登場以降、幾度も使う機会には恵まれていた。そのたびに「やっぱりいいなぁ」と感じることになった。でも、なかなか手が出せなかった。当時は、キヤノン、ニコンの一眼レフのほか、ソニー「RX10M3」やパナソニック「FZ1000」「FZ300」といった“ネオ一眼”高倍率コンデジまでを片っ端から使いまくり「次の一手」を探っていた時期。マイクロフォーサーズでいえば、オリンパス「E-M1 MARKII」を入手し本格的に仕事で使うようになっていたので、当然このレンズも入手の選択肢に入ってくるはずだった。でも、「とにかくよく写るけど価格が高い! たかが300mmF4のレンズに30万円以上も出せるかいっ!」なんていう「300mmF4」に対する前時代的な(一眼レフ的発想の)認識が邪魔をした。当時、手を出すことができなかった最大の理由は、それだ。
OM SYSTEM OM-1・シャッター速度優先AE(絞りF4・1/4000秒)・ISOオート(ISO400)・AWB
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10群17枚のレンズ構成を持つ1475g(三脚座込み)の超望遠レンズ。マイクロフォーサーズのレンズとしては、始終リッパな手応えを感じながらの撮影となるのだが、600mm相当の画角とF4の開放F値を考えれば、十分に軽いとの判断を下すことも難しくはない。
OM SYSTEM OM-1・プログラムAE(絞りF4.0・ 1/640秒)・ISOオート(ISO250)・WB晴天
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300mmの焦点距離(600mm相当の画角)にして1.4mの最短撮影距離(レンズ先端から約1.15m)を確保。これは、想像以上に"寄れる"スペックだと思っていい。超望遠レンズでありながら、マクロレンズで撮ったかのような写真までもが撮れるので、画角の縛りは強めだけれど、ある意味、万能でもある。
しかし、時は流れ、今や交換レンズを必要とするシステムは、OMとソニーαにほぼ絞られている(少数ながらニコンZもある)のが私個人の現状だ。ソニーαは、超高感度撮影やトリミング加工など、撮影データの加工耐性を主眼とした「便利撮影」に特化する使い方がメインになっている。ズームレンズで使うことが100%だ。一方のOMは、それ以外のもっとストレートなお仕事撮影に加え、お散歩撮影の領域をもカバーする存在となっており、こちらも近年はズームレンズ100%で落ち着いていた。
そこに、やっとM.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROが加わったということになる。私にとっては、漠然と抱いていた永年の思いが成就すると同時に「新たな世界の幕開け」に接しているとの自覚も明確だ。例えば、超望遠レンズの魅力に関し、遠くのものをグンと引き寄せるという感覚より「きわめて狭い画角内で自我を通すことの快感」の方が大きいとあらためて、そしてさらに強く感じるようになっているのは、その一例。「目の前に広がる光景のごくごく一部を私はこのように切り撮る! 何人たりとも文句は言わせん!!」というワガママを100%丸ごと押し通すしかない(そうしないと「写真」が撮れない、「写真」にならない)特性に七転八倒することの快感を再認識したカタチだ。
OM SYSTEM OM-1・シャッター速度優先AE(絞りF4.0・1/4000秒・-0.7EV補正・ISOオート(ISO16000)・WB晴天
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ほぼ最短距離での撮影。「超望遠単焦点レンズを用いたスナップ的な接写」なんていう、言葉にすると面倒くさそうな撮影が、お散歩のついでにホイホイ気軽にできちゃうんだからタマらない。ボケの形状と色再現(要するにボケの見え方ってこと)を気にしながら、ピンポイントのピント合わせに最大限の注意を払いつつシャッターをきった。
OM SYSTEM OM-1・プログラムAE(絞りF10.0・1/500秒)・-3.7EV補正・ISO200・WB晴天
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接写的なアプローチとは真逆ともいえるダイナミックな遠景撮影。近接撮影のカットと並べて見ると、ある意味"遠近両用"ともいえる本レンズの万能性をダイレクトに感じていただけるのではないかと思う。このカットは「何をどのように画角内に収めるべきか」をことさらに意識しながら撮っているので、スミからスミまでナメるように見てみてほしい。
OM SYSTEM OM-1・シャッター速度優先AE(絞りF4.0・1/4000秒)・-1.7EV補正・ISOオート(ISO640)・WB晴天
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ボディともども十分な防塵・防滴機能を有するので、どのような天候でも(といっても限界はあるが)まぁまぁ気兼ねなく使えるのがいい。そして、ここまで軽快に振り回せる"明るい600mmレンズ"は、システムにとっては貴重な財産であるといってもいいだろう。テレコンバーター(1.4倍と2倍をラインアップ)を併用すれば、もっと接写に強くなったり、もっと遠くを引き寄せられるようになるなど、可能性がグンと広がってくれる。
さらに、撮るべき対象をスナップ的な感覚でその都度、見つけだし、手当たり次第に切り撮るという超望遠レンズにはあるまじきアプローチも、凝り固まっていた我が写真的感覚をほぐすにはちょうどいい刺激になっている。何気ない日常の中から超望遠レンズで切り撮るべき被写体を見つけることの楽しさ、それを「写真」にすることの難しさ、撮れた「写真」が思い通り、あるいはそれを超えるカタチになっていたときの嬉しさ。行程(工程)の全てにこれほどの喜びが伴うレンズには、そうそう出会えるもんじゃないだろう。
OM SYSTEM OM-1・シャッター速度優先AE(絞りF4.0・1/4000秒)・-0.7EV補正・ISOオート(ISO1600)・WB晴天
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画角が自由にならないという縛りをことさらにもり立てる(?)超望遠レンズならではの超絶ギチギチな画角。その中で画作りをすることがだんだん楽しくなってきたら、リッパなヘンタイの一丁あがりってヤツ?? 奥行きをボケで表現することになる運命は、そのまま文句を言わずに受け入れるがヨシ。
OM SYSTEM OM-1・プログラムAE(絞りF5.0・1/640秒)・ISOオート(ISO250)・WB晴天
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600mm(相当の)レンズってのは、「カーレース」とか「野生動物」など、相当に限られた条件の中で実力を発揮することがほとんどである「尖った道具」だ。だからなのか、それらとはまったく異なるシチュエーションでは、写真の仕上がりから「超弩級の望遠効果」を感じにくいこともチラホラ。これは撮り方にもよるのだけど、「視野の一部分を切り撮る」という意味では、100mmだろうが300mmだろうが600mmだろうが、表現力そのものに差はないということなのかも知れない。
とかナンとか言いつつ、実はいよいよこのレンズを手に入れようとしたとき、比較対象というか、どちらを入手すべきか迷っていたレンズがあった。超望遠ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25× IS PRO」である。こちらは、2023年2月発売のバリバリの新製品。F4.5の固定開放F値で300-800mm相当をカバーするのみならず、内蔵されている1.25倍のテレコンを活用すれば、テレ端の画角を指1本で一瞬にして1000mm相当にできたりもする、すんげー魅力的な望遠ズームレンズだ。
発売される数年前に開発発表を聞いた瞬間から、これまた欲しくてたまらなくなっていたレンズである。しかし、発売後に製品の入手難が継続していること、80万円という価格が個人的事情において入手難を生じさせていたこと、そして何より、お仕事で使うのならともかく、お散歩写真を撮るにはいささか大げさな見た目&サイズ感であることを理由に、今回はとりあえず見送ることにしたという経緯があった。
OM SYSTEM OM-1・プログラムAE(絞りF4.0・1/640秒)・-1EV補正・ISOオート(ISO500)・WB晴天
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ピント位置と背景との距離バランスなどによって、ときおり自己主張を隠しきれないボケをみせることがある一方、ボケ再現そのものは四隅まで安定しており好印象。ピント位置で惜しげもなく見せる繊細な描写ともども、少々お高い価格に見合った実力はしっかり備えていると判断できる。
OM SYSTEM OM-1・シャッター速度優先AE(絞りF4.0・1/2000秒)・ISOオート(ISO1000)・WB晴天
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超望遠レンズって、普通は「○○の写真が撮りたい」とか「●●を記録したい」という思いがある場合に使われる・・・つまり、撮りたい被写体がきわめてハッキリしているときに買おう&使おうと思うレンズだ。でも、私はそのあたりの"常識"を無視してこのレンズを手に入れている。ナゼか? これからは、常識に囚われない生き方をするって決めたからさ(笑)。
そう、私のイチオシであるM.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROは、お仕事ではなく、まずはお散歩で使えることを重視してのセレクトでもある。これは、自らのライフスタイルが微妙に変化しつつあることを感じ取っての先取り措置だ。周囲に流されるのではなく、半歩手前のタイミングで自ら舵を切り、このタイミングでこれまでほとんど縁のなかった単焦点超望遠レンズを手に入れた。自分の未来像に照らした判断と決断だ。流されまいと足掻いてドツボにハマることだけは避けようと思ったわけである。
これまであまり縁がなかったタイプの交換レンズの入手は、私にとっては一種のけじめであり、人生の区切りでもあるとの認識だ。そして同時に、勢いを増すための補助ロケットというか、息長く続けるための増槽タンクというか、そういった効果をも発揮しうる行為であったとも考えている。あなたにも、きっと「今後のあなた」にピッタリのそんなレンズがあるはず。しかるべき時期に達したとの自覚が芽生えた時、ゼヒ自分自身のイチオシを見つけてみて欲しい。
OM SYSTEM OM-1・シャッター速度優先AE(絞りF4.0・1/1000秒)・ISOオート(ISO10000)・WB晴天
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酷暑過ぎて、カラスの親子も思わずお口アングリな2024年の夏。ワタクシゴトながら、亜熱帯化した今のニッポンでは、フルサイズ対応の600mmを振り回してスナップ撮影をするなんてムリですわ。って、そもそもフツーの人はそんなコトはしないというウワサもありますけれど、いやいや、マイクロフォーサーズのユーザーで良かったと心の底から思っているこの季節なのであります、ハイ。
OM SYSTEM OM-1・シャッター速度優先AE(絞りF4.0・1/8000秒)・ISOオート(ISO5000)・WB晴天
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等倍で見ると、複眼の造形や顔から胸に欠けての細かい毛などが繊細、かつシャープに捉えられていて我ながらビックリ。レンズとカメラ(OM-1)の性能に、完全におんぶに抱っこ状態なのに、なんだか無意識のうちに鼻の穴が広がってしまいます(笑)。もっとも、私のようなシロートには、ホバリングしてくれるコシアキトンボぐらいしか撮らせてくれない瞬間なので、事前の被写体選びは慎重に実施。オトナの工夫ってヤツですネ。
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Photo & Text by 落合憲弘(おちあい・のりひろ)