新デザイン・新UI。高純度なLeica体験が得られるコンパクトカメラ
センサー&レンズは前機種踏襲。画作りを確立しつつあるLeica
Leica M11・Leica Q3・Leica SL3に通じる操作性
格上げされたファインダーに拍手
初心者でも、上達しても使えるダイヤル操作
まとめ
作例に使用したカメラ
鈴木 誠(すずき・まこと)
ライター。カメラ専門ニュースサイトの編集記者として14年勤務し独立。会社員時代より老舗カメラ雑誌やライフスタイル誌に寄稿。現在は楽器やオーディオ&ビジュアルの専門誌にも関わる。趣味はドラム/ギターの演奏とドライブ。日本カメラ財団「日本の歴史的カメラ」審査委員。YouTubeチャンネル「鈴木誠のカメラ自由研究」https://www.youtube.com/@suzukimakoto
「それって、Leica Q3ですか?」そんな声を掛けられるぐらい、Leica D-LUX8のスタイリングはフルサイズ機のLeica Q3にそっくりです。いや、実際大きさは全然違うのですが、比較対象がないと一見わからないぐらいだという声を多く聞きました。そんな“リトルQ3”にお気に入りのレザーストラップを通し、楽しく過ごした数日間についてレポートします。
D-LUXシリーズというのは、Leicaのデジタルカメラの中でもコンパクトかつ手頃なラインで、協力会社のベースモデルをライカ流デザインに仕立てたものであることが知られています。これまでは、ベースモデルが他社製品にあることで“ライカ純度”的にあまり注目されてきませんでしたが、今回は事情が違います。このD-LUX8は熟練した“ライカ使い”の理性をも吹き飛ばし、サブ機として多く買い求められているのです。
その理由は、何よりこのデザインに尽きるでしょう。スタイリングについては先に述べた通り、Leica Q3(下の写真右)という35mm判フルサイズセンサーと28mmの単焦点レンズを搭載するモデルによく似たもので、その可愛らしさから筆者は勝手に“リトルQ3”と呼んでいます。
古くからLeicaを知る方は、フィルムメーカーではないのに“Leicaの色”という表現には疑問を感じるかもしれません。しかし近年、Leicaは自分達の色や画作りを推しています。「LEITZ PHONE 3」というAndroidスマートフォンや、iOSカメラアプリ「Leica LUX」など、Leicaのカメラと共通した画作りモード(フィルムモード)を搭載し、明確に“Leicaの色”を定義しつつあります。
Leica D-LUX8もその流れを踏襲し、5種類のフィルムモードを搭載。STD(標準)、VIV(ビビッド)、NAT(ナチュラル)、BW Nat(モノクロ)、BW HC(モノクロHC)を選べます。
今回はカラーを「標準」、モノクロは「モノクロHC」で撮りました。“HC”とはハイコントラストの意味です。
Leica D-LUX8
DC VARIO-SUMMILUX f1.7-2.8 ASPH.(24mm相当)・絞り優先AE(絞りF1.7・1/6,000秒・-0.3EV)・ISO 200
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Leica D-LUX8
DC VARIO-SUMMILUX f1.7-2.8 ASPH.(24mm相当)・絞り優先AE(絞りF8・1/1,000秒・+0.3EV)・ISO 200
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Leica D-LUX8
DC VARIO-SUMMILUX f1.7-2.8 ASPH.(37mm相当)・絞り優先AE(絞りF5.6・1/1,600秒・+0.3EV)・ISO 200
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イメージセンサーは4/3型CMOSセンサー。総画素数は2,177万画素、有効画素数は4:3で1,680万画素、3:2で1,620万画素、16:9で1,500万画素、1:1で1,260万画素です。ISO感度の設定範囲はISO 100〜25,000(静止画)。動画記録は4K/30pやFHD/60pに対応します。レンズは35mm判換算24-75mm相当F1.7-2.8の「Leica DC VARIO-SUMMILUX」で、望遠域まで開放F値が小さめのズームレンズです。
レンズの明るさもあり、暗所でもISO感度を抑えて撮影できるシーンが多いです。ISO 6400などの高感度になると下に掲載した通り、撮って出しのJPEGではノイズや色味の変化が目立ちます。RAWデータも記録しておき最新のノイズ低減処理などを掛けてみるのも手でしょう。
Leica D-LUX8
DC VARIO-SUMMILUX f1.7-2.8 ASPH.(24mm相当)・プログラムAE(絞りF1.7・1/60秒・-0.7EV)・ISO 400
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Leica D-LUX8
DC VARIO-SUMMILUX f1.7-2.8 ASPH.(24mm相当)・プログラムAE(絞りF1.7・1/40秒・±0EV)・ISO 6400
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AF動作速度は十分に快適で、カメラの小ささも相まって背面モニターを見ながら片手撮りもできてしまうほど。ズーム動作は電動で、いくぶん慎重なスピードです。Leica D-LUX7などの時代には画角を段階的に切り換えるステップズームも可能でしたが、Leica D-LUX8では無段階のズーム動作のみが可能です。
レンズの鏡筒部分には従来機種の面影があり、AF/MF切り換えスイッチと、アスペクト比の切り換えスイッチが備わります。今回の作例は“ライカ判”に敬意を表して全て3:2で撮影しました。
写りに目を向けると、イメージセンサーはフルサイズ機とスマホの中間ぐらいに位置付けられるサイズですが、被写体に近づくなど多少の工夫でボケ表現を使うこともできます。花のマークが付いたAFマクロモードでは、より近接した撮影が可能です。
Leica D-LUX8
DC VARIO-SUMMILUX f1.7-2.8 ASPH.(24mm相当)・プログラムAE(絞りF4.5・1/125秒・+0.7EV)・ISO 200
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Leica D-LUX8
DC VARIO-SUMMILUX f1.7-2.8 ASPH.(24mm相当)・プログラムAE(絞りF2.5・1/125秒・+0.3EV)・ISO 200
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Leica D-LUX8
DC VARIO-SUMMILUX f1.7-2.8 ASPH.(24mm相当)・プログラムAE(絞りF5.6・1/500秒・+1EV)・ISO 200
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カラーは彩度が高い部分にもしっかりと重さがあり、コンパクトカメラといえど腰高な印象はありません。オートホワイトバランスは画面構成により多少引っ張られてしまうケースもあるので、余裕があればシーンごとに選択・固定するのが良さそうです。サムホイールボタンにホワイトバランスを割り当てるのがオススメです。ここに掲載した作例は全てオートホワイトバランスで撮影しています。
Leica D-LUX8
DC VARIO-SUMMILUX f1.7-2.8 ASPH.(24mm相当)・プログラムAE(絞りF5.6・1/125秒・-0.7EV)・ISO 200
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Leica D-LUX8
DC VARIO-SUMMILUX f1.7-2.8 ASPH.(75mm相当)・絞り優先AE(絞りF2.8・1/3,200秒・-0.3EV)・ISO 200
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Leica D-LUX8
DC VARIO-SUMMILUX f1.7-2.8 ASPH.(24mm相当)・絞り優先AE(絞りF1.7・1/2,500秒・+0.7EV)・ISO 200
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操作性は、上面と背面に注目です。Leica Q3やLeica SL3、Leica M11と共通したボタンレイアウト。特にLeica Q3とはボタン配置がほぼ同じで、いきなりLeica D-LUX8に持ち替えても迷うことがなく、操作に窮屈さがありませんでした。
左からLeica D-LUX8、Leica Q3。見事に操作性が似ています
またメニュー画面も他の現行Leicaと全く同じになり、厳選された設定項目が5ページ分、用意されています。昨今のデジタルカメラとしては驚異的にシンプルな項目数です。フジヤカメラ店で、他社のデジタルカメラと見比べてみてください。これに慣れてしまうと、項目やページ数の多いメニュー画面がわずらわしくなり、Leicaから離れがたくなってしまうかも知れません。
下の写真がLeica D-LUX8のメニュー画面。現行Leicaユーザーにはお馴染みのレイアウトです。「MENU」ボタンを押すごとにページが進んでいきますが、ある程度のカスタマイズが決まると、ここを開く機会はほぼなくなります。
撮影画面も、電子水準器やヒストグラムなど、どれを表示するかメニュー画面から選べます。
恐るべきことに、操作ボタンも従来モデルよりグッと減っています。こうしたファンクションボタンやカスタマイズ項目を増やすことは容易でも、「削る」となると相当の勇気が欠かせません。良し悪しというより好みの問題ですが、より多くの人の要望に(時には過保護なぐらい)応えつつ、買いやすい価格を武器にたくさん売れることを義務づけられたカメラには難しい芸当でしょう。「さすがLeica」と言えるポイントのひとつです。
印字がない背面ボタンは、カスタマイズ可能なファンクションボタン。長押しすると、割り当てられる機能の一覧が表示されます。「設定したいボタンを長押しする」という忘れにくい操作です。
下はカスタマイズメニュー。背面親指側に2つ並んだボタンで、片方に「フィルムモード」を割り当てて使ってみました。項目選択はダイヤルや方向キー以外に、このボタンを繰り返し押すことでも切り替わります。
背面右手側上面のサムホイールは、通常時と上面ボタンを押した状態とで異なる設定項目を割り当てられます。筆者は通常時に「露出補正」、ボタンを押すと「ホワイトバランス」の設定画面が出るようにしました。
唯一迷ってしまった操作がAF補助光のオフ設定です。捜索の結果、「MFアシスト」の中に発見しました。
そうそう、充電&接続端子もちゃんとUSB Type-Cにアップデートされていました。
このクラスのコンパクトカメラのファインダーは、表示も小さく「一応、ついてます」的なクオリティであることが多いです。しかし本機は、きっちりLeicaクオリティのファインダーを搭載してきたから驚きです。236万ドットのOLED(有機EL)で倍率は0.74倍。従来機D-LUX7は液晶かつ、カメラを速く振るとRGBの色割れが見えました。しかし私自身も、コンパクトカメラのEVFとはそんなものだろうと無意識に考えていました。
それがLeica D-LUX8では、ファインダー像のチラつきや色割れが皆無で、ドットも気になりません。普段使っているLeica Q3から持ち替えても明らかに“格下”な感じがなく、自然に持ち替えられます。恥ずかしながらLeica D-LUX8の試作機を最初に手に取った段階では、私はこのファインダーの進化を見落としていました。というのも、あまりに自然に「Leica」だったので特段気に留めなかったというのと、そもそもこの小ささのカメラになってくると、ファインダーを覗かずに背面モニターで撮ってしまう機会が増えるからです。レビュー執筆のために改めて従来機Leica D-LUX7と見比べてみて、その静かなる進化ぶりに驚いたという順序でした。
本機には独立したシャッタースピードダイヤルと絞りリングが備わっています。M型Leicaなどのマニュアル操作に慣れた人にとって直感的な操作を実現するとともに、カメラ任せで撮影したい人は「A」に合わせておけば自動的に適切な明るさで写るようにセットしてくれます。
慣れてきたらそれぞれのダイヤルをマニュアル操作してみると、シャッタースピードダイヤルを回せばシャッタースピード優先AE、絞りリングを回せば絞り優先AEになります。とてもシンプルかつ、カメラに慣れた人にとっては操作を教えやすいカメラであるとも言えます。
ちなみに本機の価格は、だいたい前機種Leica D-LUX7の発売時から10万円アップしています。スペック表を見て「同じ性能なのに10万円も高いのか」と判断すれば割高でしかないでしょう。しかし、この“リトルQ3”みたいな本格スタイリングに5万円、Leica QやLeica SLにも通じるレベルに格上げされたファインダーにもう5万円と考えれば、私は全然納得できます。むしろ、この値上がり部分にこそ“Leica”が宿っているように思うのです。
“カメラは道具”とよく言いますが、とことん撮影に集中できることが道具の理想型だとすれば、それ以外のことをユーザーに気づかわせないカメラこそ、真の道具ではないでしょうか。Leicaは少数生産の小さい会社であることを生かして、デザインや使い心地といった、スペック表やニュース記事の見出しには表現しにくい(しかし道具としての本質的な)部分をここ数年、明らかに重点強化しています。その、令和流の“Leicaらしさ”を高純度に味わえるカメラとして最も手軽な存在が、このLeica D-LUX8なのです。
Leica D-LUX8
DC VARIO-SUMMILUX f1.7-2.8 ASPH.(50mm相当)・プログラムAE(絞りF5.6・1/640秒・-0.3EV)・ISO 200
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Leica D-LUX8
DC VARIO-SUMMILUX f1.7-2.8 ASPH.(74mm相当)・シャッター速度優先AE(絞りF5・1/60秒・-2.3EV)・ISO 200
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Photo & Text by 鈴木 誠(すずき・まこと)