はじめに
編成写真に極上のクオリティを
ロングショットの鉄道風景にこそ解像力を
常識を覆す驚きの軽量レンズ
「なんだ、できるんだ!」このクラスでは珍しいバヨネットフード
まとめ
作例に使用したレンズ
作例に使用したカメラ
1987年兵庫県出身 日本大学芸術学部写真学科卒業
2023年 独立
幼い頃からの鉄道好きがきっかけで写真と出会い、今度は写真作品制作の舞台として鉄道と関わるようになる。幾何学的な工業製品あるいは交通秩序としての鉄道を通して、人や自然の存在を表現しようと制作活動を行なっている。
カレンダー、CM撮影などに携わるほか、鉄道誌、カメラ誌等で撮影・執筆・講師を行う。
αアカデミー講師
株式会社オフィスヤマシタ代表
日本鉄道写真作家協会(JRPS)会員
個人展示
2018年 αプラザ写真展「鉄路の瞬(またたき)」札幌・大阪・名古屋
2018年 個展「SL保存場」富士フォトギャラリー銀座
2019年 αプラザ写真展「鉄道+α」福岡
2019年 αプラザ写真展「鉄道の美しいところ」大阪、福岡、札幌、名古屋
2021年 個展「描く鉄道。」オリンパスギャラリー東京・南森町アートギャラリー
2022年 αプラザ写真展「鉄道ビジュアリズム」大阪、福岡、札幌、名古屋
ウェブサイト:http://www.daisuke-yamashita.com
SNS: https://www.instagram.com/yamadai1987/
2013年に世界で初めてフルサイズミラーレスカメラを世に出して以降、専用設計の300mm F2.8いわゆるサンニッパの登場を待ち侘びたユーザーも多いだろう。そのレンズが今年ついに登場した。
今回は、ソニーマーケティング株式会社より当レンズの貸出を受けて、鉄道写真の撮影現場で試すことができた。だれもが期待する解像力のことはもちろんだが、驚くべき軽さをもったこのレンズの実力をみていこう。
デジタルカメラが主流になって以降、超望遠域のレンズは一般ユーザー向けのものも拡充されてきており、もはや300mmは相対的には“超”がつくほどの望遠ではなくなってきている。列車の走行をつぶさに記録する編成写真というジャンルでも、この300mmが適度に遠近感を残すことができる最長焦点距離である、というのが私の認識だ。いつもはもっぱらGマスターやGタイプのズームレンズで撮っている編成写真を、FE 300mm F2.8 GM OSSで撮ってみた。するとどうだろう。ズームレンズの描写に大きな不満があるわけではないが、光学性能というのは上には上があることを実感させられる。ピント面にはキリッとシャープな線が描写され、そこから奥に滑らかなグラデーションでボケが繋がっていく。その過程全体に明瞭度が非常に高いという印象である。言葉では難しいが、EVFを覗く瞬間からすでにちがう感覚だ。
α9III・FE 300mm F2.8 GM OSS・絞りF8・1/1000秒・ISO640・WB太陽光
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編成写真を良く見せるのは、線路周辺の障害物への配慮。単焦点レンズでは、余計なものが入らないように足で前後してベストポジションを見極める必要がある。
α9III・FE 300mm F2.8 GM OSS + 2×Teleconverter・絞りF8・1/320秒・ISO250・WB太陽光
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もちろん1.4倍、2.0倍のそれぞれのテレコンにも対応。600mmではFE200-600mm F5.6-6.3 G OSSよりわずかに開放F値で有利。つまり開放でねらう分にはAFも有利ということ。陽炎の影響で、このカットは取り立ててシャープな描写とはならなかったが、被写体認識を用いたAFの挙動は迷いがなく、テレコンを通していることを忘れさせた。
当レンズは解像力の恩恵が大きいロングショットにこそ使ってみたい。そこで山に登って風景の中に列車が走る鉄道風景写真を撮ってみた。この場合はAFを使ってピントを合わすより、MFでしっかり合わして置きピンするほうが良いのだが、その際EVF内で画面一部を拡大して合わせることになる。実はこの瞬間からすでに当レンズの解像力を実感して、嬉しくなる。ズームレンズの場合は、なんとなく線路が一番シャープなところでピントリングから手を離していたこともあったが、このレンズになるとピントが合っていることを視覚的に確信することができる。それくらいシャープでピントの山がつかみやすい。そしてその感覚はそのまま撮影画像にも反映される。
α9III・FE 300mm F2.8 GM OSS・絞りF5.6・1/500秒・ISO250・WB太陽光
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300mmでも列車がこれくらい小さいサイズで入るということは、かなりの距離があるということだ。鉄道写真としてはやはり車両の情報が見える緻密な描写が望ましい。
従来サンニッパは描写力に優れている。このレンズがキャッチーだったのは、驚異的な軽さにあるだろう。ソニーAマウント用の300mm F2.8 G SSM IIが2,340g(三脚座別)であるところ、当レンズは1,470g(三脚座別)という、全く別物のような軽さである。手に持ってみると量販店に置いてあるような製品モックかと思うほどだ。レンズを振りながらシャッターを切る流し撮りも、このレンズであれば重さで悩むことはない。ちなみに鏡筒サイドのスイッチ操作で、流し撮り用に最適なモードに切り替えることができる。
α9III・FE 300mm F2.8 GM OSS・絞りF18・1/30秒・ISO250・WB太陽光
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300mmの画角は先頭部をアップで撮るには最適で、車両がデフォルメ少なく表現でき、背景も限定されるので撮影場所が選びやすい。フレーミングは難しいが、レンズが軽いのはありがたい。
サンニッパを含む望遠単焦点レンズは、各社採用するのはもっぱらかぶせ式フード。著者も一眼レフ時代にサンニッパを愛用していたが、このかぶせ式フードは決して使いやすいとは言えなかった。なぜバヨネットじゃないのか、ずっと疑問に感じていたことが、FE 300mm F2.8 GM OSSの登場で一つの解決をみた。このレンズに採用されたのは、ロックボタン付きのバヨネットフード。レンズ前端にあてがって回転させると、スルッカチャンっとロックがかかる。想像していた通り明らかに使いやすいのである。かぶせ式フードにあるようなつまみが飛び出すこともなく、収納性にも便利だ。
バヨネットフードの採用は画期的。ソニーFEレンズの400mmや600mmでも採用してはいかがだろう
このレンズは鉄道写真においても、普段からズームレンズなどで望遠域を使い慣れていて、時に描写力が期待に届かないというユーザーにおすすめ。ただ開放F5.6クラスのレンズを代替して持ち歩けるかというと、重量は大丈夫だがサイズ的にはやはり簡単ではない。携行性と天秤にかけてもなお描写にこだわれる人は、費用に見合った満足が得られるだろう。
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Photo & Text by 山下大祐(やました・だいすけ)