
はじめに
Leica M9との出会い
仕事でもLeica M9で撮影するように
瞬間のドラマをものにできることがLeica Mシリーズの魅力
いまもレンズは最初に買った3本で
ドイツへの里帰りからはじまった「A MOMEMT」シリーズ
最後に

舞山秀一(まいやま ひでかず)
1986年よりCDジャケットでアーティスト、雑誌で俳優やモデル、広告キャンペーン等数多くコマーシャル撮影を手掛けきたが、2010年以降、写真作家としての活動を積極的に取り組み、国内外数多く展覧会を開催。
2004年より日本広告写真家協会・正会員。
2014-2023年九州産業大学芸術学部客員教授就任。
HP : www.maiyama.net
今回この記事を書くにあたって、私とLeicaのことをあらためて振り返ってみました 。
写真家として約38年、本格的にLeicaを使い始めたのは、2011年の春にLeica M9と出会ってからです。それ以降作品も仕事でも、数多くの国のいろんな場所でLeica M9と共に過ごしてきました。
私のLeica M9についての想いをお話しさせていただくことで、その魅力がみなさんに伝わればうれしく思います。
Leica M9と出会う以前の1980年代から2000年代頃まで、仕事では主に中判(120)や大判(4x5&8x10)のフィルムカメラを使っていました。Leicaは、M6は持っていても積極的には使ってはいませんでした。
フィルムからデジタルの時代になってからも、当初はLeaf aptus 54sやPhase one p45+等ハッセルブラッドのVマウント中判デジタルカメラバックを使っていて、35mmサイズのデジタルカメラをちゃんと使い出したのは、Canon EOS-1DXmark IIやNikonでD3sが出て以降だったと思います。同時に大三元と言われるレンズも手に入れ、撮影のフットワークが一気に軽くなったことを覚えています。そこで日々気になっていったのが個性の欠如です。
そんな時出会ったのが写真家の萩庭桂太さんです。忘れもしないそれは2011年の春、彼とは初対面でたまたま隣の席になり、「初めまして」と挨拶を交わした彼がおもむろにテーブルに置いたカメラが、Leica M9だったのです。 私がLeica M9の写りについて尋ねると、「凄く良いし、写真を撮っている感覚が確実に有る」とLeica M9の良さを熱く語ってくれて、35mmデジタルカメラで撮る時に感じていた撮らされる感覚を見透かしたようなアドバイスに、翌週にはLeica M9を2台とレンズ3本を購入していました。
Leica M9を買った翌年、Leica M MONOCHROMも購入したのですが、実はこのLeica M MONOCHROMの導入も、ライカストア銀座に遊びに行った時に偶然にも萩庭さんに会ってしまって、おすすめ上手な彼はまたもや私に「Leica M MONOCHROMは舞山さんが持つべきカメラだよ」と! 翌週からニューヨークに撮影旅行に行く予定だった私は、その場でLeica M MONOCHROMの購入に至ったわけです。
Leica M MONOCHROMでも作品を撮っているものの、若干強めに感じるLeica M MONOCHROMのディティールより、不思議とLeica M9をモノクロームに変換したときの甘く曖昧な感じがフィルムライクで気に入っていて比較的Leica M9の使用率が高いです。
以前から作品展ではLeica M9で撮った写真をB1サイズに大きくプリントしていますが、私にとって画素数の少なさは全く問題なく、かえってLeica M9のグローバルシャッターであるCCDのシャープなのに階調が滑らかで豊かなところを気に入っています。
A MOMENT ♯118(Drift#36) Wien Austria 2012
Leica M9・Leica Summilux-M f1.4/50mm ASPH.・絞りF1.4・1/350秒・ISO160(ウィーン)
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A MOMENT ♯119 Hoi ang Vietnam 2018
Leica M9・Leica Summilux-M f1.4/35mm ASPH.・絞りF1.4・1/1000秒・ISO160(ベトナム)
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Leica M9を買った当初はなかなかレンジファインダーの感覚に慣れず 、初心者に戻った感覚を味わいましたが、スナップで数多くの作品作りをして 、レンジファインダーに慣れてからは、ファッションや広告、グラビア、ポートレート撮影といったどんな現場もLeica M9で撮ることが増え、写真スタイルの変化は、Leica M9の力を借りたところが凄く大きいと思います 。
レンズも、はじめに買った3本だけですが、それだけで全てこなすようになったのは、巨大なズームレンズをつけた一眼レフカメラを使うよりも、画角力も付いてカメラを覗かなくても絵作りが容易になった。その上Leica M9で撮影すると被写体に威圧感がなく撮影しやすい。
それはスナップ撮影でも同じで、 一眼レフだと「狙っている感」が出るけれど、Leica M9だと景観に自然に溶け込んで、被写体にカメラを意識させないのが良いのです。
A MOMENT ♯120 Venice ITLIA 2017
Leica M9・Leica Summilux-M f1.4/50mm ASPH.・絞りF4・1/1000秒・ISO160(ベニス)
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私のスナップの撮影スタイルは、好きな構図を定めて、そこで起こるドラマを待ち、その表情を狙うのです。構図は探していれば見つかるけど、ドラマは待つしかなくて、表情は狙いが決まっていないと撮れない。その3つの要素が揃ってこそ自分の写真だと思っています。
技法的に解説されることが多い構図だけど、自分にとって心地よい構図というのを見つけることが大切で、その上それを意識して撮影し続けるということが不可欠。自分の好きな構図が一貫していれば、俗に言う黄金比とか一般的な構図の良さに引っ張られることよりも、ああこれがこの人の癖だしある意味個性なんだなと他人に伝わります。自分の居心地良い絵柄の中で、ドラマを待ちその表情を撮る。たまたま居たその場所その時間に、起こった出来事の表情を記録するのは、写真にしかない芸術性だと思います 。世の中で起こっている決定的瞬間を配き見するような、そんな写真を撮るにはM型Leicaが合っていると思うのです。
レンジファインダーは、ファインダーを覗いたときにピント合わせのための二重像のところを見なければ、パンフォーカスで見えていて、つまり「そこで起きている出来事」を見ることができ、もしかしたらピントが合ってないかもしれないけど、シャッターは切れます。それよりも目の前で起こっていること、瞬間のドラマをものにできることが魅力なのだと思います。一眼レフだと、カメラを覗くとピントが合っていないということが情報として目の中に飛び込んできます。要するにここぞというタイミングでアウトフォーカスでは、シャッターが切れないのです。一眼レフはカメラを覗いて構図やフォーカス、絵作りを始めがちですが、レンジファインダーはその全てがファインダーを覗く前から構図、距離、狙いなど始まっていて、覗いた時はシャッターを切るだけ。それが、自分の撮影スタイルにもぴったり合っています。
A MOMENT ♯121 (Drift #7)Prague Czech 2012
Leica M9・Leica Summilux-M f1.4/50mm ASPH.・絞りF4・1/500秒・ISO160(プラハ)
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レンズは、最初に買った3本をずっと使っています。ズミルックスM f1.4/35mmと、ズミルックスM f1.4/50mm、アポ・ズミクロンM f2/75mmの3本しか使わないことで、どれも覗かなくても画角認識は出来ます。つまり覗かなくても3つの構図が作れるってことです。
私はほぼ絞り開放で撮っています。絞ってもF2.8まで、これはよく晴れた日に順光で狙うと絞りF1.4で1/4000秒では露出オーバーになってしまうからで、特別にパンフォーカスで絵作りしたいとき以外はいつも開放です。そんな開放にこだわる理由も2つあります。一つは、ターゲットを明確にしたい。もう一つは、絵では描くのが難しい距離による光学的ボケの美しさです。
私が持っているズミルックスやズミクロンは、中心部はキレの良い解像感があるのに、周辺が少し落ちたり、緩かったりと、現代の画面周辺の隅々まで歪みもなく解像感優れているレンズと比べると描写に少し甘さがあるけど、それがアナログ的で気に入っている部分でもあります。
A MOMENT ♯122 Rockefeller Center NewYork 2012
Leica M9・Leica Summilux-M f1.4/35mm ASPH.・絞りF1.4・1/1000秒・ISO160(ニューヨーク)
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Leica M9を使い出して1年ほど経ったとき 、当時ドイツのチームに在籍していたサッカーの長谷部誠選手の撮影で、ヴォルフスブルクの街へ行く機会に恵まれ試合風景用の一眼レフに加えて、ドイツへの里帰りだとポートレート用にLeica M9も持っていったのです。
調べてみるとベルリンまですごく近いことがわかり 、撮影のあとにオフを作って行ってみることにしました 。私はヴィム・ヴェンダース監督の映画「ベルリン天使の詩」が好きで、ベルリンの街をカメラを通して感じたいと思っていたので、実際に訪れてみると、映画の思い出が走馬灯のように浮かんで、映画の雰囲気を肌ですごく感じたんです。
ベルリンの街には、あっちこっちに凄い数の天使がいて、建物や置物、教会も当然天使だらけ、あらゆるところで天使を感じ、それくらいこの街の人々は天使が好きなんだなと実感しました。
映画の中で天使は人の目には見えず、ただただ人々を見守るのですが、天使の見守る行為、見ているのに気付かれないということが、誰も見向きもしない旅行者として、ベルリンの街を歩き回る自分の写真行為と一緒だと思いました。
異邦人である自分が、カメラを通して見守る街の風景やドラマは、映画で描かれている天使と同じだと感じ、ベルリンで過ごした時間は心地よい時間でした。M型のレンジファインダーでこそ生まれた視点と言って間違いないです。カメラを覗くのはシャッターを切る瞬間だけで、ノーファインダーで、被写体をよく観察し、構図を決め、そこで起こるドラマを頭で描く通りに切り取っていく。
このときのLeica M9で撮り歩いたドイツでのストリートフォトが、長年撮っているシリーズ「A MOMENT」 のスタートで、コンセプトとなっています。
A MOMENT #104 Tiergarten Berlin 2012
Leica M9・Leica Summilux-M f1.4/50mm ASPH.・絞りF3.4・1/500秒・ISO160(ベルリン)
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A MOMENT ♯059(die Stadt von Engels #25)Berliner Dom Berlin 2012
Leica M9・Leica Summilux-M f1.4/50mm ASPH.・絞りF1.7・1/750秒・ISO160(ベルリン)
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実を言うと、そろそろ新しい機種、Leica M10やLeica M11に買いかえようかと思ったこともあります。しかし、いろいろ撮り比べてみてもまだLeica M9が良いと思ってしまう。
明確に言葉には出来ないのだけれど、ひとつにはCCDセンサーの描写が好きなのだと思います。 CMOSセンサーよりも、CCDのほうがピクセルとピクセルの境界がにじんでいる印象で、センサーの限界感がフィルムライクに感じるんです。それと、単純にシャッターのストロークが深く、シャッターが切れる感じが良い。
CCDは、ノイズが出るからあまり感度を上げられなかったり、バッファも小さく7枚シャッターを切ったらしばらく書き込みに時間が掛かりパシャパシャと軽快に撮れない。
私はどちらかというとせっかちなほうだと思いますが、もともと連写で撮ったりはせず、構図を決め狙ってハンティングするみたいにターゲットを待って撮るスタイルの私にとって、Leica M9のスピード感は合っているんだと思います。私の大好きなアンリ・カルティエ゠ブレッソンもきっとそこで起こる決定的瞬間を待って撮っていたと思うのです。
A MOMENT ♯123 Venice ITLIA 2012
Leica M9・Leica Summilux-M f1.4/50mm ASPH.・絞りF1.4・1/500秒・ISO160(ベニス)
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2018 A MOMENT ♯043 Abbazia di San Miniato al Monte Firenze 2017
Leica M9・Leica Summilux-M f1.4/50mm ASPH.・絞りF2.8・1/4000秒・ISO160(フィレンツェ)
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Photo & Text by 舞山秀一(まいやま・ひでかず)