はじめに
基本仕様とデザインバリエーション
軽量・機動力に優れたタイプⅠ
真鍮製で所有欲をくすぐるタイプⅡ
あの名作レンズに近い外観サイズ
操作性に優れたフォーカシングレバー
着脱可能なフォーカシングノブ
こだわりのマイナスねじ仕様
各モデルに似合いそうなボディは?
試写作例
作例に使用したレンズ
まとめ
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作『人生に必要な30の腕時計』(岩波書店)、『ツァイス&フォクトレンダーの作り方』(玄光社)など。編集企画と主筆を務めた『Leica M11 Book』(玄光社)も発売中。
今回ご紹介する製品は、フォクトレンダーブランドのVMマウントレンズ、ノクトンVintage Line 28mm F1.5 Asphericalです。フォクトレンダーブランドからはライカMマウント互換のマニュアルフォーカスレンズが数多くリリースされていますが、本製品はヴィンテージラインと名付けられたシリーズに位置付けられています。その定義としては、歴史的な名品とされるクラシックレンズのスタイリングを彷彿させる外装に、現代的な撮影機材にマッチする性能を組み合わせたもの。すなわち、見た目はクラシカルだけれど撮影結果はコンテンポラリーな結果が期待できるレンズということですね。
まずは本製品の基本仕様を確認しておきましょう。ノクトンVintage Line 28mm F1.5 Asphericalは、フルサイズ用の28mm広角レンズとしては非常に明るいF1.5を実現しながら、フィルター径をφ43mmに抑えるとともにマウント面からの製品全長も45.5mmと短く、全体的に引き締まったスタイルを実現しています。クラシカルなデザインの鏡筒には、両面非球面レンズ2枚を採用した8群10枚構成の光学系を搭載。F1.5の開放絞りから安定した画像が得られるとのこと。すなわち、大口径・コンパクトで引き締まったサイズ感・優秀な光学性能という3つの要素を併せ持つハイグレードな広角レンズということですね。外装の素材と色で4種類のデザインバリエーションが用意されていて、そのスタイリングの多様さに目移りしてしまいます。本製品にはタイプⅠおよびタイプⅡの分類がありますので、その違いを見ていくことにします。
まずは1970年代のモダンクラシックレンズを想起させるタイプⅠ。外装の金属にアルミを採用することで250gと軽量・機動力に優れているのが特長です。仕上げはマットブラックペイントとシルバーの2種類から選択可能。最短撮影距離は、距離計に連動する0.7m(装着するカメラにより異なる)から更に繰り出せるヘリコイドの採用により0.5mを実現。この仕様はレンジファインダー機の不得意とする近接領域に一歩踏み出せるので、ライブビュー機能を搭載したライカMデジタルでの運用に役立ちます。
続いて1960年代初頭の名レンズを彷彿させるデザインのタイプⅡ。外装の金属に真鍮を採用し、330gと手応えのある重量感が所有欲をくすぐります。仕上げは光沢のあるブラックペイントとシルバー。フォーカスリングの窪みと細かいローレットの組み合わせに加え、レンズ基部の格子状に刻み込まれたパターンがレトロな雰囲気。しかも実用してみると手が滑りにくく使いやすいですね。見た目も重さもオールドレンズ風ですが、最短撮影距離に関してはタイプⅠと同様に0.5mを実現しています。
ノクトンVintage Line 28mm F1.5 Asphericalの外観が目指した『歴史的な名品とされるクラシックレンズ』には特定のモデルがあるのでしょうか? これは推測するしかない領域の話ではありますが、個人的には古いズミルックスM 50mmあたりがトリビュートされている気がします。左がズミルックスM 50mmの第2世代で右がノクトンのタイプⅠ。双方のサイズ感がほとんど同じですよね。タイプⅡに関しては、通称“貴婦人”と呼ばれるズミルックスM 50mmの初期モデルがお手本なのではと思います。
ピント調節は、フォーカスリングを2本の指で挟んで回すだけでなく、人差し指1本をフォーカシングレバーの窪みにあてて動かすことで迅速かつ確実にピント合わせをすることが可能。このレバーはタイプⅠとタイプⅡの双方に装備されていますが、タイプⅡには窪みの底面にマイナスねじの頭が見えます。
タイプⅡはフォーカシングレバーのネジを外し、フォーカシングノブを装着することが可能な仕様です。フォーカシングノブは全長約14mmの金属製で、レンズマウント6時位置で1m近辺にピントが合い、フォーカススケールを読み取らなくてもノブの角度でおよそのピント位置を知ることができるアクセサリーです。
フォクトレンダーのレンズは、マウント部にもマイナスねじを用いているのが特長。基本的にプラスねじは生産性を上げるために大量生産品に使われるもので、昔のレンズには使われていませんし、今でもスイスの高級腕時計にプラスねじなんて1本も使われていませんよね。そんなこだわりを貫く姿勢は素晴らしいと思います。
外装やカラーで4種類のバリエーションから選べるノクトンVintage Line 28mm F1.5 Aspherical。それぞれのレンズとどんなボディを組み合わせるといい感じになるのかを、手元にあるカメラでコーディネートしてみました。こういう遊びができるのもフォクトレンダーの出している交換レンズの面白さだと思います。
タイプⅠのシルバーに、ライカM7のブラッククローム。あえてシルバーのレンズを装着するハズし系のコーディネートなので好みの分かれるところだとは思いますが、意外にイケてるのではないかと思います。モダンクラシックの直線的なレンズデザインとライカM7のモダンなスタイルとの相性もいいですね。
タイプⅠのマットブラックペイントに、ライカM4ブラッククロームの組み合わせ。ブラックペイントよりも少し曇った感じの艶感を持つレンズと、後期生産のライカM4のガンメタリックっぽい質感がマッチしていて何だか撮る気が湧き上がってくる精悍な組み合わせ。フォーカシングレバーも1970年代の気分です。
タイプⅡのシルバーとくれば、ライカM3でしょう。シングルストロークのモデルであればトリビュートしたと思われるレンズとの時代感もバッチリ。ツノのようなフォーカシングノブは、写真家D・Dダンカン氏がライツに別注した伝説のレンズを思い起こさせてクラカメフェロモンがむんむん立ち上ってくる感じですね。
タイプⅡのブラックペイントに、ライカM10-Pをコーディネート。ライカMレンズでも限定生産で現行の光学系に真鍮鏡筒&ローレット仕上げでfeet表示を赤くした特別モデルなどが時折リリースされますが、それに近い感じ。コンテンポラリーな機材でレトロな雰囲気も楽しめます。試写はこの組み合わせで行くことにしましょう。
ライカM10-P・ノクトンVintage Line 28mm F1.5 Aspherical
マニュアル(絞りF5.6・1/125秒)・ISO100・AWB・JPG-L
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まずはF5.6で遠方の被写体を撮影。何も心配しないでいい堅実な描写です。
ライカM10-P・ノクトンVintage Line 28mm F1.5 Aspherical
マニュアル(絞りF5.6・1/125秒)・ISO100・AWB・JPG-L
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続いて中距離〜近傍のレンジで撮影。逆光ですが何の問題もなく写ります。
ライカM10-P・ノクトンVintage Line 28mm F1.5 Aspherical
マニュアル(絞りF1.5・1/500秒)・ISO400・AWB・JPG-L
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最短撮影距離を絞り開放で撮影。28mmの広角でも背景は大きくボケていきます。
ライカM10-P・ノクトンVintage Line 28mm F1.5 Aspherical
マニュアル(絞りF5.6・1/360秒)・ISO1600・AWB・JPG-L
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ふたたび絞りをF5.6に。明暗差のある被写体も繊細でシャープに描画してくれます。
ライカM10-P・ノクトンVintage Line 28mm F1.5 Aspherical
マニュアル(絞りF5.6・1/90秒)・ISO3200・AWB・JPG-L
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歪曲収差を感じさせず気持ち良く直線が交差し、グレーのトーンも滑らかです。
ライカM10-P・ノクトンVintage Line 28mm F1.5 Aspherical
マニュアル(絞りF5.6・1/125秒)・ISO3200・AWB・JPG-L
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F5.6だとパリッとした被写体の印象がそのままキャプチャーできる感じがします。
ライカM10-P・ノクトンVintage Line 28mm F1.5 Aspherical
マニュアル(絞りF1.5・1/125秒)・ISO1600・AWB・JPG-L
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絞り開放でもピントの合った部分はクッキリ。日没直後の空のトーンもキレイです。
ライカM10-P・ノクトンVintage Line 28mm F1.5 Aspherical
AE(絞りF1.5・1/125秒)・-0.3EV補正・ISO5000・AWB・JPG-L
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広角レンズで背景をアウトフォーカスにしたいなら、このレンズは適任ですね。
ライカM10-P・ノクトンVintage Line 28mm F1.5 Aspherical
AE(絞りF1.5・1/125秒)・ISO6400・AWB・JPG-L
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開放絞り値がF1.5なので、ISO感度を5ケタまで上げずに夜景を安心して撮れます。
ライカM10-P・ノクトンVintage Line 28mm F1.5 Aspherical
AE(絞りF1.5・1/6秒)・ISO6400・AWB・JPG-L
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月明かりを頼りに絞りは開放F1.5、シャッター速度1/6sで手持ちに挑戦。
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大口径・コンパクトで引き締まったサイズ感・優秀な光学性能という3つの要素を併せ持つ広角レンズ、ノクトンVintage Line 28mm F1.5 Asphericalにはクラシカルな外観でカメラをコーディネートする楽しみがあります。今回の撮影ではデジタルのM型ライカを使用しました。本レンズの光学設計は、距離計連動式のデジタルおよびフィルムカメラでの使用を前提に最適化されていますが、マウントアダプターの使用によるミラーレスデジタルカメラでの撮影も想定してあり、距離計連動式カメラの枠を超えて様々なプラットフォームでの撮影にも対応。ボディ内手ぶれ補正機構を内蔵したカメラを使用したい場合などには、ライカ以外のカメラも有効な選択肢になると思います。
Photo & Text by ガンダーラ井上(がんだーら・いのうえ)