Leica Mマウント互換の大口径中望遠レンズ、コシナ・フォクトレンダー APO-ULTRON 90mm F2 VMが登場しました。いやー手にして驚きました。これが小さくて軽いんですよ、本当に。全長63.3mmしかありません。重量は340g。レンズ構成は7群8枚。
同じスペックのLeica APO-SUMMICRON-M f2.0/90mm ASPH.も小型軽量化を追求していますが、全長78mmで重量は500gあります。レンズ構成は5群5枚。けっこうずっしりしています。
Leica M11-Pに装着した、APO-ULTRON 90mm F2 VM。フードやフィルターなどのアクセサリー非装着時は少し明るめの50mm標準レンズくらいにしか見えません。
ここでふとアタマを過ぎるのは、小型軽量化のために、どこか光学設計に無理をしてはいないのかという疑念をどうしても持ってしまいます。筆者も、もうすぐ高齢者ですから保守的かつ疑い深く、過去の経験からみて、そうした事例がなかったわけではありません。
でも今回は先に結論を言ってしまうと、え、マジかよ、ってくらいAPO-ULTRON 90mmF2 VMはよく写ります。
「アポ」とはアポクロマート設計のレンズを示します。RGBの軸上色収差を限りなく補正する試みをしたレンズであります。デジタル時代を迎えてから、色収差が悪さをする色づれはフィルム時代よりも気になるようになり、各社ともにその補正にかなり力を入れています。色収差は収差の味わいとしてあまり評価されないからでしょう。
フード装着時。なかなかキレイなフォルムでフードも実用性高いですね。光学ファインダー時のケラれは僅かです。それでも気になる人はビソフレックスをお使いになった方が正確なフレーミングが可能です。
現在コシナ、Voigtlanderブランドのアポクロマート設計のレンズは現行のVMレンズで5本もあります。
ちなみにコシナからはすでに APO-SKOPAR 90mm F2.8 VMが発売されこれも好評です。本レンズはこのレンズよりも1段明るい、大口径タイプという設定です。
ソニーα7CRに焦点工房から発売されているTECHART LM-EA9 MarkIIを使いAPO ULTRON 90mm F2 VMを装着してAF化を試みました。撮影距離や被写体、光線状態によっては合焦しづらい場合もありましたが、顔認識、瞳認識も機能します。有用かつ効率の良い撮影をすることができます。
同じ90mmという焦点距離のレンズですし、どちらを選択するかは悩ましいですが、90mmという焦点距離のレンズはポートレートや風景などにもよく使われるレンズですし、ご自身の使用目的と、予算に合わせて選択するべきでしょう。
Leica各種とのデザイン的な相性も抜群です。どことなく既視感があるデザインながらも、オリジナリティがあるという最高のイメージですね。フォーカスリングのローレットの刻み、トルク感の心地よさ、絞り環のクリック感においてもツッコミどころがないのです。最短撮影距離は0.9mになっています。
実際の描写性能はどうでしょうか。今回はカメラボディをLeica M11-Pとソニー α7Rを使用していますが、いずれのカメラとも相性がよく、開放からギンギンな写りをします。絞りの設定による描写の変化は被写界深度くらいですし、しかも撮影距離で描写が変化する印象もないわけです。
SONY α7 CR・フォクトレンダー APO-ULTRON 90mm F2 VM
絞りF2・AE(1/250秒)・ISO800・WBオート
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最短撮影距離、絞り開放で撮影していますが、前ボケもクセがなく、合焦点の再現性も立派です。とても品の良い描写です。
SONY α7 CR・フォクトレンダー APO-ULTRON 90mm F2 VM
絞りF2・AE(1/125秒)・ISO800・WBオート
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行きつけの珈琲屋さんのご主人。男性ポートレートではよくモデルになっていただいてます。アベイラブルライトフォト撮影。照明は蛍光灯ですが、問題ない再現。肌の調子も綺麗です。
Leica M11-P・フォクトレンダー APO-ULTRON 90mm F2 VM
絞りF2.8・AE(1/320秒)・ISO1600・WBオート
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居酒屋のウィンドウの光景。リフレクションが良い感じで撮影してみました。合焦点のシャープネスや階調の繋がりも素晴らしいレンズです。
Leica M11-P・フォクトレンダー APO-ULTRON 90mm F2 VM
絞りF2.8・AE(1/640秒)・ISO1600・WBオート
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背景の複雑なボケをどう再現するか見てみたくて撮影しました。点光源ボケもいいし、柱なども、軟らかく再現します。
Leica M11-P・フォクトレンダー APO-ULTRON 90mm F2 VM
絞りF5.6・AE(1/1600秒)・ISO400・WBオート
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絞りこむとどうなるか見てみました。均質性の高い画像で素晴らしくヌケ感もよくて、驚きました。
Leica M11-Pでは絞り開放値近辺の設定では、ビソフレックス2を使用して、フォーカスを確実に追い込みました。後者ではTECHARTの「LM-EA9 MarkII」を併用して、AF化による撮影も試してみましたが、問題なく動作することも確認できました。顔認識や瞳AFも機能してしまうのはびっくりします。フォーカシングに神経質になるのは本レンズの性能が高いためで、筆者の予想よりも被写界深度が浅くみえるため、そのポテンシャルを引き出すには、こちらもそれなりの用意をする必要があると考えたからです。
Mマウント互換レンズはいまやユニバーサルマウントとしても認識されていますから、使用にあたってはフレキシブルに、かつ合理的に考えたほうが、撮れ高は確実に上がると思います。
描写のクリアな感じや、色再現など、「アポクロマートが効いてる」ということを実感することができます。至近距離でも線が細く、コントラストが高いことに驚かされます。
さらに素晴らしいのはボケ味にクセがないことです。背景に高周波域のものがあっても、さほど問題なく自然にボケてくれます。とても使いやすい中望遠レンズであることがわかります。
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Photo & Text by 赤城耕一(あかぎ・こういち)