はじめに
高速機の草分け
積層型センサー搭載機の草分け α9
元祖の爆速機 α9 Ⅱ
α9 Ⅱでの強化点・他のフルサイズミラーレスαシリーズとの相違点など
α9 Ⅱを作例と共にご紹介
検出被写体の種類は少なくてもAF測距や追従は優秀
大口径レンズのボケを自在に活かしたポートレートが容易に
トラッキングAFと高速連写をペット撮影に活かす
急に現れる被写体に対するAF適応力は?
被写体に合わせてより細かなカスタマイズが可能なAFの特性
秒速20fpsは今となっては遅い?それともじゅうぶん?
24MPの画力はいかに?
テレコンバーターやAPS-Cクロップとの相性
まとめ
作例に使用したカメラ
SONY α9 Ⅱ / α7 Ⅳ
作例に使用したレンズ
SONY FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS / FE 24-105mm F4 G OSS / FE 85mm F1.4 GM / FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS
1966年、東京都出身。日本大学芸術学部写真学科卒業後、専門誌、広告代理店を経て独立。水中から陸上のあらゆる被写体、天空のオーロラまで幅広いフィールド・分野を撮影。全天球360度カメラからハイエンドデジタルカメラと守備範囲が広い。カメラ雑誌・Web媒体等で新製品機材インプレやHow to記事等も執筆。2010年よりカメラグランプリ外部選考委員。
Instagram:
https://www.instagram.com/usa3ken/
主要メーカーのミラーレス一眼上位機種には当たり前の仕様になりつつある積層型センサー。高性能な画像処理エンジン、さらにAIとの組み合わせにより被写体を検出し、高速・高精度なAF/AE制御で驚異的なコマ速の連続撮影を可能という魅力的な機種が多くなりました。
そんな積層型センサー搭載機の草分けは2017年5月に発売されたソニーα9。レリーズ時の像消失が無いブラックアウトフリーと歪みのないアンチディストーションの電子シャッターを実現。
そして24MPフルサイズ高画素センサーでAF/AE追従20fpsの高速連写機能という革新技術をひっさげたデビューは「動きモノは無理」というミラーレス機のレッテルを吹き飛ばす衝撃的なものでした。
α9には多種類の被写体検出機能はまだ無いものの、位相差693点+コントラスト425点の4DファストハイブリッドAFシステムでは、人物と動物(犬・猫)の瞳検出とその移動を画面の隅まで追従するリアルタイム瞳トラッキングAFが可能に。
これによりポ―トレートやスポーツシーン、アクティブなペットの姿など各分野の撮影スタイルを変え、動体撮影においては他社製ミラーレス一眼を大きくリードしていました。
そして発売開始から僅か2年で撮像素子の仕様はそのままに、最新メカシャッターユニット搭載と操作系や機能面の一部を強化したモデルチェンジを行ったのがα9 Ⅱです。
α9 Ⅱの発売開始は人類がCOVID-19の脅威を知る2か月ほど前のこと。だいぶ端折りますが、翌年お披露目の場だったCP+2020だけでなく、本来このα9 Ⅱが活躍するべきだったスポーツイベントの多くも中止されるなど不遇な船出だったと言えるでしょう。
その後コロナ禍を経て現在に至るまでの間にライバルメーカーの放った追手となる機種や、同じαシリーズにはフラッグシップ機α1も登場。AI技術を駆使した先進のAFシステム搭載機種も増えた今では、影が少々薄くなってしまった感は否めません。今回はそんな元祖の爆速機α9 Ⅱにいま一度注目してみたいと思います。
初期モデルα9から踏襲した主要な性能は概ね先述していますので、それ以外のα9 Ⅱにおける進化点を挙げてみましょう。
左がα9 Ⅱ、右が初代のα9正面から。外見はぱっと見ほとんど同じですが右手グリップ部分の拡張とシャッターボタンや電子ダイヤル設置位置・角度が変更されています。
【主な進化点】
左がα9 Ⅱで右は共用アクセサリーのバッテリーグリップVG-C4EMを装着したα7 Ⅳ。現在は右のメニュー画面レイアウトがフルサイズαシリーズの標準仕様となりました。
多種の被写体を検出するAFシステムを搭載した最新機種に比べると、α9 Ⅱは人物と動物(犬猫)の2種類と少ないですが、一度食いついた被写体が画面内を激しく移動しても最大で60回/秒の演算によるAF/AE追随するトラッキングAFが被写体を捉え続けます。まずは人物スポーツシーンでのα9 Ⅱの顔検出の具合を試してみました。
フォーカスエリアは「トラッキング:ゾーン」で被写体の上半身をカバーするポジションに置き、人物の顔認識と瞳検出をONにてAF-Cで追随し連写で撮影。
被写体の少年は長い前髪が瞳を隠しがちで瞳検出には少々キビシイ条件です。撮影中のファインダー像は、瞳を検出したことを示す枠が出たり消えたりといった状況でしたが、顔(頭部)はきちんと捉え続けていました。
望遠域での撮影ですが、全身が入る構図では頭部(顔)にピントが合えば瞳もほぼ被写界深度内のため、瞳の検出がされなくても結果的には全く問題ありません。
画面内に複数の人が絡む試合のようなシーンとは違うこともありますが、終始ピントを大きく外すようなことはなく、思い通りに躍動シーンが撮れました。他のスポーツや動きのあるレジャーやアクティビティなど、人物絡みの動体撮影ではリアルタイム瞳トラッキングAFがかなりの威力を発揮してくれることでしょう。
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(全コマ共通)FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS・シャッター優先1/1000秒
AE(F5.6)・ISO400 ・AWB・JPEGエクストラファイン
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ドリブルでの接近からトラッキングAFを追随させ、ゴール前でシュートを決めるまでの一連の動作を100-400mmズームで正面方向から連続撮影。距離が近くなるにつれ僅かにズーム操作もして画角を広げていますがAFは的確に頭部を捉え続けています。
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(全コマ共通)FE 24-105mm F4 G OSS・シャッター優先1/1600秒
AE(F4.0)・ISO200 ・AWB・JPEGエクストラファイン
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フリーキックを想定したシーン。近距離で迫力を出したかったので24-105mmズームのおよそ60mm付近の画角で撮影。セットしたボールから数メートル程度の近距離のローポジションで連続撮影。
EF 85mm F1.4 GM
F2.0・1/2500秒・ISO250・AWB・JPGエクストラファイン
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「紙一重のピント」と例えられる大口径の単焦点中望遠レンズを用いたポートレート撮影では瞳検出が大活躍。開放F値周辺の極めて浅い被写界深度でも難無く瞳に合わせて大きなボケ味を活かした撮影が行えます。
FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS・1/1600秒
F6.3・ISO2500・AWB・JPEGエクストラファイン
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動物の瞳検出に関しては、メーカーwebサイトにはヒグマの作例写真もあるくらいなので犬や猫以外の四足歩行の哺乳類動物にも検出可能な動物がいるようです。とはいえ、たとえば顔の長い馬や、形状が特殊な象などは対象外。
また同じ種類の動物でも体格から顔の形状までは多種多様なため、全てに対応できるわけではありません。これは検出対象の犬や猫にも言えることで、今回の作例で登場してくれた黒い体毛に黒い瞳の犬種は条件的には厳しいようです。肉眼でみても「瞳はどこ?」となるくらいなので当然のことかもしれません。
結果としては、想定はしていましたが、お座りをしている最中でも瞳の検出はできませんでした。
今回の撮影目的は全力で駆ける犬の脚が地面から離れてまるで飛んでいるように見えるアレです。一瞬のタイミングを超望遠レンズで背景をぼかして撮影するため動体へのAF合焦精度が最も重要です。
そこで駆け出す前の静止状態のうちに狭いフォーカスエリア「トラッキング:スポットS」で頭部にトラッキングAFを食いつかせておき、合図で飼い主さんに向かって走り出すワンコを狙う方法で撮影をしました。
狙い通りのピントが得られているかを見るためにあえて絞りは開放に設定しています。掲載した2点はどちらもズーム望遠端の600mm。被写体検出に頼らず通常のトラッキングAF撮影でしたが、上々の撮影結果と言ってよいでしょう。
FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS・1/1600秒
F6.3・ISO2500 ・AWB・JPEGエクストラファイン
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背景のヌケを良くするため自分も地面に腹ばいになりローポジションで撮影しています。正面から全力でかけてくる姿をバッチリ写しとめています。
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(共通データ)FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS・1/250秒
F6.3・ISO AUTO(125)・AWB・JPEGエクストラファイン
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もしかして「鳥瞳AF」を謳うにはメーカーの基準をクリアしていないものの、実際は瞳にピントを合わせにいっているのでは?と思いたくなる程度に良いAF結果は得られています。
FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS・1/1600秒
F5.6・ISO500 ・AWB・JPEGエクストラファイン
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ここまでの作例は被写体を予め捕捉していた状態からの動体撮影でしたが、つぎは「撮りたい!」と思った瞬間に対するAFの適応力を試すため、魅力的な被写体が多くこういった撮影にはうってつけのスポット「鴨川シーワールド」にお邪魔して、シャチのジャンプをピントの合焦の良否が判別しやすい望遠ズームで撮影してみました。
パフォーマンスの流れなので、次の演技でジャンプがくる予測はできても、そのタイミングや場所は出たとこ勝負的な撮影です。カメラを水平に構えた状態スタンバイ。ジャンプする姿が見え始めたタイミングで急いでフレーミングとAF測距して撮影するスタイルです。
FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS・1/1600秒
F5.6・ISO400 ・AWB・JPEGエクストラファイン
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アングルによっては背景に客席が入るため、ピントを人物に持って行かれないようフォーカスメニュー「AF時の顔/瞳AF」はオフの設定に。フォーカスエリアはトラッキング無しのワイドを選択しています。
撮影結果からは位相差AFと高精度なコントラストAFを併用するファストハイブリッドAFシステムの威力を実感。巨体が舞う迫力の一瞬をシャープなピントで撮影できました。
FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS・1/1600秒
F5.6・ISO250・AWB・JPEGエクストラファイン
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パフォーマンスの見せ場の一つがこのWジャンプ。撮影開始の1コマ目はフレーミングに失敗しましたが、ブラックアウトフリーEVFのおかげですぐに修正でき、その後のコマはα9 Ⅱの高速AFが盛大な水飛沫やトレーナーの表情までハッキリと捉えています。
ブラックアウトフリーEVFでの撮影はレリーズの瞬間をつぶさに確認でき、手応えが得られるのも醍醐味と言えます。
ソニーはwebサイト上で一般的な動体撮影の推奨設定の他に、多岐にわたるスポーツ競技種目や想定シーン、撮影目的などに合わせた細かなフォーカス設定ガイドを公開しています。
これには被写体検出の対象にはない電車や野鳥、航空機などの被写体項目も含まれるので初期設定での撮影だけでなく自分の撮影スタイルに合いそうな設定は積極的に試す価値が大いにあります。
メーカーページ(フォーカス設定について)
前にも書きましたがα9 Ⅱのフルサイズ24メガフルサイズセンサーでの20fpsの高速連続撮影はデビュー当時衝撃的でした。しかし連写番長的な立場はすでに2倍強の約50MPで30fpsの旗艦機α1に譲り、α9 Ⅱとほぼ同じ画素数で30fpsを叩き出すライバル機種も登場した今となっては、けっして「爆速」でないことは確かです。
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吊り下げられたボールをシャチがテールで叩くジャンプを20fpsで連続撮影した画像を並べました。27コマのうち20コマが1秒間。
連写撮影のコマ数をどこまで必要とするかはユーザー自身の撮影目的次第。連写した画像中から決定的瞬間の1枚だけが必要という考えなら、それをセレクトしたあとに該当カット以外は全て削除することでストレージの圧迫を防げます。
一方、被写体の一連の動作やフォルムの変化を分解記録することが目的ならば、全ての画像が保存対象となるわけです。撮影画像を並べてみると正直なところ20fpsってこんなもの?と感じてしまったのですが、それはこの1~2年でα1をはじめ30fpsの画像チェックに慣れてしまったからかもしれません。
何にしてもα9 Ⅱでは20fps以上のコマ速で撮影することはできないので、それ以上を求めるならば上位機種に行くしか選択肢はありません。
ちなみにα9 Ⅱで20fps撮影を行うには設定の条件があり、大雑把に並べると「ドライブモードH」「シャッター速度1/125秒以上」「電子シャッター使用」です。他にも一部非対応のレンズなどもありますし、非圧縮RAW撮影の場合は最高12fpsになるなどのお約束ごともあります。
こちらもwebサイトにα9 Ⅱ専用の詳細ガイドが用意されています。撮影で20fpsをマストで使用したい場合はチェックが必要です。
メーカーページ(連続撮影について)
結構気になる人も多いと思われる画質について。α9 Ⅱに積まれているのはフルサイズ24MP積層型センサーですが、積層型という構造が共通のセンサーを採用しているのは旗艦機のα1のみ。こちらは有効画素数が5010万画素あり比較するまでもない存在です。
そこで、積層型という構造ではありませんが、単純に有効画素数が近い機種ということでα7 Ⅳの33MPセンサーと比較撮影をしてみました。
使用レンズ、および露出モードや撮影の設定は基本的に同じく撮影しています。
α9 Ⅱで撮影
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α7 Ⅳで撮影
(共通データ)FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS・1/400秒
F8.0・ISO100・AWB・JPEGエクストラファイン
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α9 Ⅱのセンサーはα9と同じため、発売開始のタイミングで計算してもα7 Ⅳとはほぼ丸5年の開きがあります。同じ撮影設定と条件で撮影していますがα9 Ⅱのほうが1/3段ほど露出がオーバー目の値となったため、画像もそのぶん明るいだけで画質という面では大きな差を感じることはできません。
他に数パターン比較撮影をしてみましたが、結果は同じ印象です。画素数にして約600万の差はピクセル寸法の違いとして現れますが、「Beyond Basic 次代の、新基準へ」がキャッチコピーのα7 Ⅳに対して見劣りするようなことは無いと感じました。
次にやはり興味をお持ちの人が多いはずのテレコンバーターとAPS-Cクロップ機能を利用した際の画質についてです。
ソニーが誇るGマスターレンズ群にはFE 600mm F4 GM OSSという最高峰な超望遠単焦点レンズがありますが、これまでの作例撮影にも使用している幾分リーズナブルなFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSの作例でお見せしたいと思います。
600mm×1.4倍テレコンバーター
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FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSに1.4倍テレコンバーターを装着するとテレ端では840mm相当(35mm判換算)での撮影が可能です。
テレコンバーターを装着したことによりレンズの開放絞り値は一段暗いF9.0になります。枝にとまったセグロセキレイが飛び立つ様子はありませんでしたが、被写体ブレを防ぐ1/500秒が使えるよう感度をISO1000まで上げました。羽毛の質感はかろうじて再現できていますし、テレコンバーター装着による描写力への影響も軽微と思います。
600mm×1.4倍テレコンバーター、さらにAPS-Cクロップ撮影
(共通データ)1/500・F9.0・ISO1000・AWB・JPEGエクストラファイン
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更に望遠効果を稼ぎたい時にもう一つの手段として使えるのがAPS-Cクロップ機能です。画像ファイルの寸法は3936×2624pix(1030万画素相当)になりますが、焦点距離は840mmの1.5倍で1260mm相当(35mm換算)で撮影できます。またクロップ機能では開放絞り値への影響はありません。
APS-Cクロップを利用した場合、画素数的に大伸ばしプリントには不向きになりますが、webページでの公開やSNSに投稿、シェアする画像としてはじゅうぶん使用に耐えるクオリティと思います。
Photo & Text by 宇佐見 健(KEN USAMI)