はじめに
ファースト動画カメラはPanasonic LUMIX GH4
SIGMA fp は仕上がりのクオリティがあからさまに違う!
静止画と動画の切り替えスイッチが肝
動画においても高画素のメリットは絶大
「Cinema DNG」(RAW)撮影ができる
編集時のカラーグレーディングをカメラ内でできる感覚
fp Lで撮影した動画作品4本を公開
作例に使用したカメラ
作例に使用したレンズ
[動画編]まとめ
1961年山形県米沢市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ、報道写真を経験。同社退職後、スタジオモノクロームを設立。フリーランスとして、ポートレートを中心に活動。2003年より写真のワークショップを始める。写真展、写真集、書籍多数。現在、YouTubeで「2BChannel」を開設し写真に関わるコンテンツを配信中。
http://www.satorw.com/index.html
https://www.youtube.com/channel/UCfaR0r_x5jN3gOXYYBjNkkQ?app=desktop
スモールリグのゲージの上にFEELWORLDの7型外部モニター、ゼンハイザーMKE400Ⅱのマイク、ZOOMF2の音声レコーダーを取り付けたフォルテッシモスタイル。レンズはシグマ18-50mmF2.8 DC DN。APS-C専用レンズを使うことでより小型軽量化できる。このセットで主にインタビューを収録している。
2019年に僕はYouTube を始めた。「2BChannel」という写真系のコンテンツで、カメラ機材紹介というよりも、写真集を読み解いたり、田中長徳さんや、ハービー・山口さんをはじめとした多くの写真家のインタビュー、そして週1回のライブ配信を中心に、3年以上続けている。最近では「予算10万円で買うはじめてのカメラ」や「日大芸術学部の学生は何を撮っているのか」といったコンテンツもアップしている。
さて、僕自身はずっとフィルムを使ってかなりクラシックなスタイルの写真を撮り続けていた。もちろんデジタルカメラも使うが、意識的にはフィルムカメラの延長上で考えていたところがあった。しかし写真専用に作られたカメラでは、たとえ動画機能があったとしても、かなり使いづらいことが、YouTubeをやってみて初めて実感できた。
なので、「2BChannel」をスタートさせるに当たって最初に購入したのは、動画をメインに設計されたとされるパナソニック「LUMIX GH4」。発熱量の小さいマイクロフォーサーズセンサーのメリットを活かして、長時間連続録画ができバッテリーの持ちもよく、交換レンズの値段もフルサイズ機にくらべて安いと、いいことづくめだった。僕はこの「LUMIX GH4」を2台購入して、初期の「2BChannel」動画を作っていた。しかしながら、「LUMIX GH4」は良いカメラだし、十分なパフォーマンスはあったが、2014年発売のモデルのために、徐々にその画質的に物足りなさを感じてしまった。
コロナストレスもあり、新しいカメラが欲しくなったときに「小型・フルサイズ・静止画と動画の切り替えがワンタッチ」という謳い文句に引きつけられて「シグマfp」とシグマ45mm F2.8 DG DNも一緒に購入して使ってみることにした。
すると。視聴者から「今までより全然絵がきれい」、「カメラは何を使っているんですか?」という質問が殺到した。実は僕自身も編集しながら、仕上がりのクオリティがあからさまに違うことに驚いていた。そして2021年発売のfp Lも手に入れて、現在ではfp Lのほうを主に使っている。
僕はソニーも動画機として使っているが、色はシグマのほうが断然好みだ。ソニーの優位性は圧倒的なAFの速さだが、fp Lも像面位相差センサーを使っているので、ファームアップごとに速くなっている印象がある。ただし、ソニーのそれはもはや異次元に達しているので比べてはいけない(笑)
ここで簡単にfp Lの特徴を紹介しておくと、まず特徴的なのはボディ上面に「CINE」と「STILL」の切り替えスイッチがあることだ。ソニーだとα7 Ⅳ以降の機種にもつけられているが、この切り替えスイッチこそがfpシリーズたるゆえんと言えるもの。動画と静止画の2つのインターフェースを呼び出すことができる。動画が静止画のおまけの存在ではなく、かといって静止画をおろそかにすることもなく共存できている。
fp Lのボディサイズはfpと同じで、重量はfpよりも5グラムだけ重い427グラム(SDカード、バッテリー込み)。フルサイズ機では世界最小最軽量と言ってもいい。
交換レンズはLマウントアライアンスによってパナソニック、ライカのフルサイズ機と互換性がある。
有効画素数は6100万と現在のフルサイズの中ではもっとも高画素。これが動画にもメリットをおよぼしてくれる。
動画ではFHD(2K)収録の場合の使用画素数は約200万画素、4Kだと800万画素になる。6100万画素は動画を撮るにはあきらかにオーバースペックになる。そのため6100万画素のfp Lは静止画用と思われがちだが、実は動画でも大きなメリットがある。
それは大きな画素数があることで、解像度を落とすことなく動画でのデジタルズームが使えることだ。FHD(2K)で収録する場合では、なんと1倍から連続的に最大5倍ズームが可能になる。ということは24mmの単焦点レンズを使うと120mmまでのズームレンズとして使えることになる。動画においてズームレンズは不要になるのだ。
動画撮影においてはジンバルと呼ばれるカメラを安定させるスタビライザーを使うことが多いが、ジンバルはセッティングに微妙なバランスを求められるので、伸びたり縮んだりするズームレンズは使えない。ズームレンズなのに、どこか1点、焦点距離を決めなければならない。それがfp Lでは単焦点レンズでデジタルズームが可能になるのでジンバル向きだと言える。ソニーでも最近は超解像ズームという機能があるが、α7Ⅳだとズーム比は約2倍しかなくfp Lの5倍には及ばない。
ただ残念なのは、収録中にズームできないのだ。焦点距離を変えるには一旦収録を止める必要がある。これはかなりもったいない。なんとかファームアップで対応してもらえないかずっと心待ちにしている。
またfpシリーズ両機種とも「Cinema DNG」(RAW)撮影が可能となっている。これは動画の業務用機でもなかなかついていない。最近では「Lut」と呼ばれる低コントラスト低彩度で記録して、編集時に調整する方法が出てきているが、「Lut」はあくまで写真で言えばJPEGで撮っているようなものなので、色深度やダイナミックレンジはRAWデータのほうが広い。ただし転送処理と保存のために、動画RAW撮影の場合は外部ストレージとしてポータブルSSDを使う必要がある。
実際に使ってみると、フォルダの中に1枚約800万画素の画像が写真データのように記録されていて驚いた。ためしにその1枚をフォトショップで開いてみたら、十分写真として使用できるものだった。
もっとも実際の運用では、RAW撮影は後処理に時間と手間がかかるので通常は2Kもしくは4KのMOV形式で記録することになる。
スペック的に物足りないと感じるのはスローモーションで、2Kだと120p(外部出力時)を選べるが、4Kでは30pにしか対応していない。
他には動画時のみ電子手ブレ補正(画角は1.24倍にクロップ)が使えるが、さほど効きはよくない。
バッテリーはボディサイズを小さくするためか、容量が小さいものが使われていて、2K収録時は1時間が目安になる。
fpシリーズは外部SSDを使うと、動画撮影のフォーマットでRAWを選択できる。そのフォルダの中には1枚約800万画素の静止画像がずらっと並んでいる。フォトショップなどで1枚の写真として開くことができる。
静止画同様に外付けの電子ビューファインダーよりもラバーフードの方が使いやすく、本格的に撮影するなら5型から7型くらいの外部モニターを接続するのがいい。
fpもfp Lもソリッドな箱形のボディデザインで、静止画では問題ないが、動画ではそのままではグリップしづらいのでリグと呼ばれる鉄製のフレームを取り付けることが多い。リグにはたくさんのねじ穴が開いていて、モニター、外部マイク、外部バッテリーを取り付けるのに使っている。
静止画同様、11種類のカラーモードで撮影することができる。細かい設定もできるので編集時のカラーグレーディングをカメラ内設定で行えるような感じだ。
fpシリーズは「フォルテッシモ(もっとも大きく)、ピアニッシモ(もっとも小さく)」の頭文字からとったネーミングだそうだが、文字通りフォルテッシモの場合はボディ本体に様々なアクセサリーを取り付けて本格的な業務用機として使うこともできる。そしてピアニッシモとしてボディ単体にレンズ1本という使い方もまたfp Lには似合っている。
外部マイクとしておすすめなのがゼンハイザーMKE400Ⅱ。指向性が高く狙った音だけを録ることができる。単4形電池2本使用。
シグマfp Lは静止画の延長で撮影することができる。コンパクトなボディにAPS-C用のレンズの組み合わせはかなり使いやすかった。フルサイズレンズ使用時と画質は変わらないので、今後動画では積極的にAPS-C用のレンズを使っていこうと思う。
Photo & Text by 渡部さとる(わたなべ・さとる)