はじめに
配信用カメラとして完璧なパフォーマンス
コロナ禍の困難な時期に大活躍してくれたfp
高画素化、AF性能の大幅改善を実現したfp L
fpシリーズの「色」に魅了された
掌に乗るサイズ感が醍醐味
動きモノを撮影する時は注意が必要
神レンズ、65mm F2 DG DN
使える!カラーモード。微調整できる点も◎
ライカMレンズとの相性も抜群
作例に使用したカメラ
SIGMA fp L / fp
作例に使用したレンズ
24mm F3.5 DG DN/35mm F2 DG DN/65mm F2 DG DN | Contemporary(L-mount)
【 静止画編 】まとめ
1961年山形県米沢市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ、報道写真を経験。同社退職後、スタジオモノクロームを設立。フリーランスとして、ポートレートを中心に活動。2003年より写真のワークショップを始める。写真展、写真集、書籍多数。現在、YouTubeで「2BChannel」を開設し写真に関わるコンテンツを配信中。
http://www.satorw.com/index.html
fpシリーズの意味はフォルテッシモ、ピアニシモ。何もアクセサリーをつけない素の状態がピアニシモ。シグマfp L+24mm F3.5 DG DN。
シグマの会社創立は1961年で、僕が生まれた年と同じ。30年前くらいは、シグマのレンズと言えば「ダブルズームキット」で、純正1本の値段で2本買えるというのが売りだった。性能を売りにするというより安さを売りにしていたメーカーだった。
ところがここ最近は「シグマのレンズだからいい」というユーザーの声も多くなり、受け止め方が変わってきた。Art(アート)ラインやI(アイ)シリーズといった各種ラインナップを矢継ぎ早にリリースしている。
その中でカメラ事業にも乗り出し、Foveon(フォビオン)X3センサー搭載のdpシリーズと、ベイヤーセンサー搭載のfp、fp Lを発売している。現在dpシリーズのほとんどが生産中止になっていて(dp1 Quattroのみ現行)、優れた動画性能と静止画高画素機の両方の顔を持つfpシリーズがカメラ事業のメインになっている。
実は僕もfpを2022年に購入し、それからは最も使用頻度の高いカメラになっている。というのも、fpは配信用のカメラとしては完璧なパフォーマンスを持っているからだ。
2022年にコロナが蔓延すると、僕らカメラマンの仕事は激減することになった。1年間の撮影予定がほぼなくなってしまうという事態に、急速な対処を求められることになってしまった。
2019年からYouTube上に「2BChannel」を開設していた僕は、その配信を主な事業にすることで困難な時期を乗り切ることができた。そのときに大活躍してくれたのがfp。USBケーブルでPCに接続して配信できる機能は、現在では一般的だが、当時はfpにのみ搭載されていた。配信事業やzoom会議が当たり前になる中で、fpを使うことでハイクオリティなものを届けることができた。
カメラ映像の美しさは、そのまま受け手側の信用になる部分がある。なので2022年に大手量販店の月間売り上げのミラーレス部門でfpがキヤノンやソニーを抜いて1位になるという現象が起きたくらいだった。
fpに続いて発表されたfp Lは画素数を2460万画素から6100万画素へと大幅アップ。現在35mmフルサイズでもっとも高画素になっている。また位相差内蔵センサー搭載のため、fpで問題だったAF性能が大幅に改善されている。
SDカードとバッテリー込みで427グラム。215グラムのシグマ45mm F2.8 DG DNと組み合わせると超高画素のカメラを700グラム以下で使えることになる。
そしてfpもfp Lも、発色がニュートラルで実に使いやすい。友人の写真家数人と有名な映画監督がやはりfp Lのユーザーで、何が気にいって使っているかというと全員「色」と答える。シグマのカメラと言えば、それまでフォビオンセンサー搭載のdpの「はまればすごいが、色のコントロールが難しい」といったイメージが強い。
それゆえ誤解されている人が多いが、fp、fp Lの発色は他のメーカーに比べてあきらかに良いと感じている。先ほど、もっとも使用頻度が高いカメラという話をしたが、それは発色の良さによる部分が大きい。
「fp L」のLはLeap(超える)の頭文字から来ているそうだ。ボディデザインはそのまま、6100万画素センサーを搭載している。
シグマfp・65mm F2 DG DN
絞りF2開放・1/1000秒・ISO100・RAW
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発色がニュートラルだというのは、白の部分を見ればわかると思う。マゼンダやシアンに転ぶことなく再現されている。65mm F2のレンズは、ほぼ万能と言ってよく、基本的に開放で使うことが多い。
シグマfp・65mm F2 DG DN
絞りF2開放・1/1000秒・ISO100・RAW
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ニュートラルなグレーの中に赤の発色が際立っている。色調整はまったくしていない。シャドーとハイライトをほんの少し変えているだけ。背景のボケもまったく崩れていないのがわかる。
いいことづくめのようなことを書いてきたが、小型軽量のためにファインダー機能をなくしてしまっているのは、動画メインで使うならほとんど問題ないが、静止画で使おうとすると困ることが出てくる。
1枚1枚の構図を考えた場合に、日中の明るい日射しの元では、モニターが光ってしまいがち。その問題を解決するためにfp Lの発表時、外付けの電子ビューファインダーが発売された。0.5型、約368万ドットあるためクリアで実用上問題ない性能だが、僕は数回使っただけで、あとは機材庫にしまったままになっている。
理由はせっかくのコンパクトさがなくなってしまうから。fpもfp Lもコンパクトで高性能というところが愛すべきところだ。大きくて重くて高性能なカメラは他にもある。あの掌に載るサイズ感がfp、fp Lの醍醐味だと言える。
ちなみに皆さんはfpの名前の由来をご存じだろうか。fpは「フォルテッシモ、ピアニッシモ」の略。音楽用語で「フォルテッシモとは一番強く、ピアニッシモは一番弱く」という意味になる。これはボディの拡張性をあらわしていて、動画時には様々なアクセサリーをドッキングさせることで多機能性をもたせ、静止画で使う場合は最小限の機材で軽快に撮影できるというコンセプトに基づいている。
なので、僕は外で液晶画面が光るような場合はラバーフードを愛用している。シグマ専用のファインダールーペもあるが、あれは大きくて重いのでおすすめしない。2000円くらいのラバーフードを首から提げて使うのがfp、fp Lを外で使う場合にはもっとも適していると思っている。
ハクバ製のラバーフード。軽くて柔らかい素材のため液晶を傷つけることもないし、とても重宝している。難点は視度の調整ができないこと。
シグマfp・65mm F2 DG DN
絞りF7.1・1/125秒・ISO100・RAW
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わざとゴーストが出るように角度を変えながら撮影してみた。それにも関わらず、中心や周辺の解像度がまったく落ちていない。コンパクトカメラに見えるボディサイズなので、スナップのときに周りを意識しなくていい。
それと静止画で使う場合に注意したいのは、fp、fp Lとも物理シャッターがなく、電子シャッターのみの機種のため、どうしても「ローリングシャッター」現象を避けられない。とくに動いているものを撮った場合などは、まれに画面が歪むことがある。避けたいのは連写。歪む確率が上がる気がしている。シングルモードで撮影する限りは頻繁に起きることはない。
静止画でのAFに関しては位相差センサー内蔵のfp Lを使えば何の問題もない。fpに関してもアップデートごとによくなっているので、fpユーザーは小まめなアップデートをおすすめする。
シグマfp L・65mm F2DG DN
絞りF2.2・1/5000秒・ISO100・RAW
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fp Lで動く被写体を撮影してみた。位相差AFのおかげで、悪くない追従性だったが、最新のミラーレス機には見劣りする。この場合はうまく合ってくれたが、fp Lは止まっている被写体を撮ったほうがストレスはない。
僕は最近、外に持ち出すのはもっぱらfpではなくfp Lになっている。やはり高画素の魅力は大きい。とくにIシリーズのシグマ65mm F2 DG DNは現在所有しているレンズの中で最も好きな1本となっている。
このレンズにフレアという概念はないようだ。どんな光の状況でも、たとえ画面ギリギリに太陽があったとしても、一筋のフレアも出てこない。強くて真っ直ぐな光が好きな僕にとってはぴったりのレンズになっている。
このレンズで撮った写真を横幅180センチのプリントで展示したことがある。作例としてあげておくけど、画面に網戸が写っているのだが、中心部分の網戸のマス目の形と、周辺の網戸のマス目の形がまったく同じだった。
これには実際に展示を見に来てくれた人も驚いていた。Twitterなどでその話が広まると、わざわざそれを見に訪れた人も多くいたほどだった。
もっとも愛用しているシグマレンズ2本。35mm F2 DG DN(右)と65mm F2 DG DN(左)。この2本があれば何でも撮れるという気にさせてくれる。とんでもない性能の割には価格が安い。この2本は買って損がない。
シグマfp L・65mm F2DG DN
絞りF2,2・1/250秒・ISO100・RAW
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窓には網戸が貼られているのだが、真ん中の部分と周辺がまったく変わらずに解像している。シグマレンズの中で、この65mm F2 DG DNは買って損はない1本だと断言できる。
撮影記録設定はRAW+JPEGにしている。SDカードの容量は食うが、カメラ内生成されるJPEGの色合いも捨てがたい。
fpシリーズにはともに現在11種類の「カラーモード」が搭載されていて、あわい雰囲気が出せるので女性ポートレートに使われることが多い「パウダーブルー」、人肌の色味が鮮やかに出る「ティールアンドオレンジ」、クラシック映画の雰囲気が出る「シネマ」、新緑が鮮やかに再現される「フォレストグリーン」などがあり、素晴らしいのはその効き具合がプラス、マイナスで微調整することができるため、好みの色を自分で作ることができる。
僕の配信用には「ティールアンドオレンジ」でマイナス2にしているが、視聴者からの評判はとてもいい。静止画ではニュートラルな色合いが好きなのでRAWデータからシャドー、ハイライト、明瞭度の調整を行うのみのことが多い。
(上)カラーモード「スタンダード」
シグマfp L・24mm F3.5 DG DN
絞りF3.5・1/160秒・ISO1600・JPEG
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(下)カラーモード「シネマ」
シグマfp L・24mm F3.5 DG DN
絞りF3.5・1/160秒・ISO1600・JPEG
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11種類のカラーモードの中で「シネマ」を使ってみた。不自然な感じがなく、レトロな雰囲気が出る。日中よりも夕暮れ時に使う方が似合っている気がする。
シグマfp・65mm F2 DG DN
絞りF2開放・1/125秒・ISO2500・RAW
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感度はISO2500までは問題ない。まったく暗所で撮影することはないので、ISOを2500まであげれば十分なシャッタースピードを得ることができる。ただしボディ内手ブレ補正がないので注意が必要。
シグマfp 65mm F2 DG DN
絞りF2開放・1/5000秒・ISO400・RAW
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ほぼ逆光のシーンだが、敷いてある白砂がレフ板がわりとなっている。手前側がつぶれることなくディティールを残している。
シグマfpシリーズは、Lマウントアライアンスのおかげでパナソニック、ライカなどのLレンズを選ぶことができるが、Mマウントレンズアダプターをつけても相性がいい。ライカレンズが高画素で楽しめる。
シグマfp L・ライカズミルックス50mm F1,4 第2世代・SHOTEN L.M-L.SLアダプター
絞りF1.4開放・1/1000秒・ISO100・JPEG
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コンパクトなfp Lのボディにライカのレンズを組み合わせてみる。本家ライカM型デジタルよりも軽く、しかも曇り空でも発色もよく出てくれる。
シグマfp L・ライカズミルックス50mm F1,4 第2世代・SHOTEN L.M-L.SLアダプター
絞りF1.4開放・1/1600秒・ISO100・JPEG
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fpシリーズは、画面アスペクト比を7種類から選ぶことができる。16:9のハイビジョンサイズにするだけで、画面に広がりが生まれる。他には1:1の正方形や21:9のシネサイズなども試してみると面白い。
シグマfp Lは6100万画素のハイスペックモデルでありながらコンパクト。もっとも気に入っている点はカラーモードの細かい調整とトーンカーブの設定で、後処理がほぼ必要なくなること。AFは動体撮影以外の静止画であればまったく問題ないレベルだと思う。
Photo & Text by 渡部さとる(わたなべ・さとる)