フォトグラファー山下大祐氏が冬の鉄道写真を背景がポイントとなる編成写真、霜や雪の景色にフォーカスした作例と共に冬のアウトドアワークへの備えまで解説します。
自然が作り出す圧巻の冬景色をどうぞお楽しみください。
はじめに
編成写真は背景を熟考
東海道新幹線 静岡〜掛川
東海道新幹線 静岡〜掛川
近鉄大阪線 俊徳道〜長瀬
雪煙の誘惑
石北本線 安足間〜上川
石北本線 東旭川〜桜岡
宗谷本線 比布〜蘭留
霜にフォーカス
青い森鉄道 上北町〜乙供
石北本線 白滝〜丸瀬布
綺麗な雪景色とは
山形新幹線 福島〜米沢
秋田内陸縦貫鉄道 奥阿仁〜比立内
磐越西線 野沢〜上野尻
山形新幹線 福島〜米沢
小海線 佐久広瀬〜佐久海ノ口
基本的な冬での備え
雪をつかったイメージの世界
秋田新幹線 雫石〜田沢湖
山形新幹線 村山〜大石田
おわりに
作例に使用したSONYのカメラ・レンズ
α7R Ⅳ/α7R Ⅲ/α7C
FE 16-35mm F2.8 GM/FE 24-70mm F2.8 GM/FE 70-200mm F2.8 GM OSS/FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS
作例に使用したOLYMPUS/OM SYSTEMのカメラ・レンズ
OM-D E-M1 MarkⅡ/OM-D E-M1 MarkⅢ
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO/ED 40-150mm F2.8 PRO/ED 300mm F4.0 IS PRO/1.4×Teleconverter MC-14
まとめ
1987年、兵庫県出身。日本大学芸術学部写真学科卒業。鉄道を制作活動の舞台としてスチル、ムービー問わず作品作りに注力する。広告、鉄道誌、カメラ誌等で活動している。日本鉄道写真作家協会(JRPS)会員。2018年 個展「SL保存場」富士フォトギャラリー銀座、2021年 個展「描く鉄道。」オリンパスギャラリー東京・南森町アートギャラリー。
ウェブサイト:
http://www.daisuke-yamashita.com
、SNS:
https://www.instagram.com/yamadai1987/
鉄道写真はアウトドアワーク。冬ももちろんオンシーズンである。
寒風にさらされながら何時間も列車を待つのは、忍耐が問われる苦行とも思われるが、その先に傑作が撮れたなら、そんな苦労もすべて報われるというもの。もちろんそんな苦行をしなくても、要点を抑えた狙いさえ持てば、比較的容易に撮ることもできる。いずれにしても、よく撮った!と自己肯定感に包まれた冬を過ごしたいものだ。
車両が主役となるような写真の場合は、春夏のようにはいかないのが実情で、木々の葉は落ち地面の緑もない。自然植物に冬の雰囲気を出さないように求めるのは無理だ。やはり明るい緑のシーズンの方が気持ちよく車両も生き生きするもので、どうしても冬に撮るというのなら、その褐色をできるだけ見せないようにする工夫が必要になる。例えばカメラの位置を下げて空ばかりが背景になるように撮れば、明らかな季節感というものは避けられるし、それができなくとも常緑樹が背景になるようにすれば多少は枯れた印象を避けることができる。
OMデジタルソリューションズ OM-D E-M1 MarkⅢ・M.ZUIKO DIGITAL ED 12−40mm F2.8 PRO・17mm(35mm判換算34mm)で撮影
絞りF3.5・1/1000秒・ISO400・WB晴天
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このような列車大きめの写真(いわゆる編成写真など)を秋〜冬に狙う場合は、比較的空が多く入る構図を選択するのがベターだ。地面や背景の自然はできる限り見せないように、見えても常緑樹が入るようにこだわりたい。
SONY α7R Ⅳ・FE 24−70mm F2.8 GM[SEL2470GM]・70mmで撮影
絞りF8.0・1/4000秒・ISO800・WBオート
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SONY α7R Ⅳ・FE 70−200mm F2.8 GM OSS[SEL70200GM]・70mmで撮影
絞りF5.0・1/6400秒・ISO400・WBオート
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7月初旬に撮った上の写真に比べて、下の写真は10月下旬撮影。まだ冬とも言い切れないが、すでに風景の色が変化しているのがわかるだろう。やはり発色鮮やかな緑色で撮ってあげたいものだ。
SONY α7R Ⅳ・FE 24−70mm F2.8 GM[SEL2470GM]・60mmで撮影
絞りF6.3・1/4000秒・ISO800・WBオート
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冬枯れの風景を入れない方法として、街の中で撮るというのもひとつの手だ。特に比較的都会を走る大手私鉄関係の電車は、計らずともこうなることが多いので、季節に左右されることが少ない。
では雪が降ったらどうだろう。当然、利用しない手はない。というより、今度はやっと冬らしさを画面全体で表現する時だ。
雪国と言われる地域であれば年が明ける頃には地面は一面で真っ白になり、それが春まで続く。幹線道路には一日中除雪車が走っていることだろう。何から撮っていいかわからない時は、まずは車両メインで編成写真を撮ってみてほしい。周辺に建物が密集していないひらけたエリアの踏切なら線路に近づきやすい。遠くから近づいてくる列車にはいつもと違うオーラを感じるだろう。積もった雪のつぶが列車の走行風で舞い上がり雪煙を巻き起こす。それが列車の後方を隠し疾走感を強烈に演出してくれるのだ。
SONY α7R Ⅲ・FE 100−400mm F4.5-5.6 GM OSS[SEL100400GM]・271mmで撮影
絞りF8.0・1/1250秒・ISO320・WB晴天
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北海道の石北本線を疾走する特急「大雪」。まずは編成写真を撮るつもりで線路側から狙う。雪煙を強調するためには標準レンズの広い画角よりは、中望遠から望遠レンズで狙ってあげるのが良い。雪煙が列車後方(この写真でいう右側)に広がることを想定し、編成の長さに関わらず少し余裕のあるフレーミングにしておきたい。
SONY α7R Ⅲ・FE 100−400mm F4.5-5.6 GM OSS[SEL100400GM]・367mmで撮影
絞りF7.1・1/1250秒・ISO800・WB晴天
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こちらも石北本線の特急「オホーツク」。北海道の冬のように日中も気温が低い地域であれば、列車が通るたび何度も雪煙が上がるので心配ないが、気温が高くなるほど積もった雪が固まって舞いづらくなってしまうので、やはり朝早い時間がおすすめである。ちなみにこの特急「オホーツク」「大雪」とも同じ国鉄型車両が使われているが、2023年春で引退が決まっている。撮るならこの冬がラストチャンスだ。
OLYMPUS OM-D E-M1 MarkⅡ・M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO+1.4×Teleconverter MC-14・420mm(35mm判換算840mm)で撮影
絞りF8.0・1/1000秒・ISO200・WBオート
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こちらは1両単行で走る宗谷本線の列車を遠い距離から超望遠レンズで撮影したものである。単行列車でも盛大に雪が舞い上がっているように見えるのは、非常に長い直線区間であることと望遠画角の圧縮効果がもたらすものである。さらに幸いしたのが逆光の光。雪煙は光を透過するため、逆光で見る方が輝きが増すのである。
雪の描写に一生懸命になりがちな冬の撮影でも、よく辺りを見回して観察すれば寒さに関連したモチーフがあるものだ。その代表例が霜。特に木の枝に付着した樹霜は、ある程度のスケールで霜を見せることができる便利なモチーフだ。北海道のような極寒まで行かなくても、朝の気温が氷点下5度程度になるエリアであれば平地でも見ることができるため鉄道と絡みやすい。
OLYMPUS OM-D E-M1 MarkⅡ・M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO・150mm(35mm判換算300mm)で撮影
絞りF16.0・1/50秒・ISO200・WB晴天
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青森県の乙供駅付近で朝一番に撮った写真。木の枝を白く見せているのが樹霜。氷点下でも凍らない過冷却状態の水分が、枝に接触して凍ることでできる。地面におりる霜と成り立ちは同じだ。列車の存在により目立たなくなってしまうので、スローシャッターで列車をブラし樹霜にフォーカスすることを選択した。
OLYMPUS OM-D E-M1 MarkⅡ・M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO・300mm(35mm判換算600mm)で撮影
絞りF4.0・1/640秒・ISO400・WB晴天
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冬は緑なき北海道。しかし枯れた植物にも霜がつくと不思議とシズルを帯びる。厳冬の荒野に列車の灯りはいくばくかの温もりを届ける。
ここで私が雪景色撮影で基準にしていることを話しておきたい。
雪がたくさん降って地面が一面雪に覆われればそれはそれで雪景色と呼べるが、それだけで綺麗かというとそうでもない。重要なのは地面の雪よりも木々に積もる(枝に引っかかる)雪のほうである。
下に二枚の写真がある。
SONY α7R Ⅲ・FE 70−200mm F2.8 GM OSS[SEL70200GM]・113mmで撮影
絞りF8.0・1/1000秒・ISO800・WBオート
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SONY α7R Ⅲ・FE 24−70mm F2.8 GM[SEL2470GM]・70mmで撮影
絞りF5.0・1/1000秒・ISO1000・WBオート
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上は山形新幹線、下は秋田内陸線をどちらも降雪があった翌日に同じような構図で撮影した写真である。それぞれ雪景色の中をゆく列車が表現されてはいるが、木の枝についた雪の量は下の秋田内陸線の写真の方が圧倒的に多く画面全体が白く見えるのに対して、上の山形新幹線の写真は枝の黒色が目立っている。雪の着雪がいまひとつだったか、もう落ちてしまった後なのだ。しかしまだこれだけあれば御の字で、もしまったく枝に雪がついていなければ目も当てられないほど黒色ばかりの写真になってしまっただろう。地面に十分な雪が積もっていても、木々についた雪がなければ綺麗さからはかけ離れていくのである。
ではどのような日が撮影に適しているか。
木々の雪は降雪が止んでからどんどん落下していってしまう。新たに降雪があるまでは当然雪がつくことはない。つまり雪が止んだ直後が一番状態が良いということだ。欲を言えばそれが天気の変わり目で、直後に日差しが差せば、より気持ちのいい雪景色に出会えることだろう。風も重要だ。海沿いや高原など風が強い場所ではそもそも木々に雪がつかないこともある。そんな時は海をテーマに切り替えるか、木々が入らない雪原で撮影したほうが賢明である。
SONY α7C・FE 16−35mm F2.8 GM[SEL1635GM]・18mmで撮影
絞りF10.0・1/2000秒・ISO400・WBオート
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木に雪がついていないので山深いアングルは避け、地面の雪を見せられるような場所で撮影した。ただこれも降雪の合間の晴天がなければ撮り得ない写真である。
SONY α7R Ⅲ・FE 70−200mm F2.8 GM OSS[SEL70200GM]・200mmで撮影
絞りF11.0・1/1000秒・ISO2500・WB晴天
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木に雪がなく美しくなかったので、黒々した木々を生かしてチラチラ降る雪にピントを合わせた。雪景色からは狙いを大きく変えたことがわかる。
SONY α7R Ⅳ・FE 24−70mm F2.8 GM[SEL2470GM]・67mmで撮影
絞りF11.0・1/320秒・ISO100・WBオート
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降雪の翌日が晴天予報となっていたので、日の出前から準備して明るくなるのを待った。木々への着雪と晴天で見る八ヶ岳。何年も狙っていた雪景色が撮影できた会心の瞬間だった。
写真を撮ることだけが撮影のノウハウではなく、出先からケガなく帰ってくることも最重要であることを忘れてはならない。特に冬は寒さへの備えを怠ると、しもやけや凍傷といった危険が待っている。ちょっとしたことでそれを防ぐことができ、むしろ快適な撮影にもつながるので、ぜひ取り入れてもらいたい。
単純ではあるが、最大のポイントは身体の末端を濡らさないことだ。皮膚が水分に接し続けるとその部分の体温は気化熱によってより多く奪われることになる。血行不良が起こると、しもやけ、さらに氷点下になると細胞組織の凍結、つまり凍傷の恐れも出てくる。だからグローブやブーツなどは防水性と透湿性に優れたそれなりのものを用意しておきたい。またスパッツなどを使用してブーツの履き口から雪が侵入するのも防いでおく。もしブーツ内に雪が入ってしまうようなことがあったら、面倒でも溶ける前に取り除いたほうがいい。手足の末端をしっかり守るだけでも撮影の安全性は高まると言えるだろう。合わせて上下のアウターも断熱性より防風・防水性を優先したほうがいい。寒さに対してはその下に着るもので調節するのである。
雪中行軍で汗をかくことを見越して、肌着の着替えをカメラバッグに一着入れておくのも有効だ。濡れた肌着は撮影の待ち時間にみるみる体温を奪っていくので、場合によっては大変危険。そんな時に乾いた肌着に着替えると天国に感じるだろう。
積雪地帯に行く時はスノーブーツを持参する。少し嵩張っても降雪地での必需品である。またグローブも防水性の高い素材のものを選び、内側を濡らさないように気をつけている。
水分から末端を守っても、気温の低さから逃れることはできない。つま先用のカイロも決して侮れない必携アイテムである。
雪は普段の景色を一変させるものであるが、写真的に考えたら明暗逆転のファクターでもある。どういうことかというと、鉄道車両を基準に考えた場合、その周りを取り巻くものは車両の露出よりも暗いものがほとんどである。地面に撒かれた砂利(バラスト)も鉄道車両ほどの光沢はなく、光を反射しにくいため暗い。コンクリートなどの壁面も同様に暗いものが多い。多少は明るい構造物がないわけではないが、これも背景になるほどの面積には足りないのである。
しかし雪がしっかりと積もるとどうだろう。これら暗いものすべてを真っ白の中に隠してくれるわけだ。圧倒的に露出の高い白の中に車両が存在するという場面は、他にはない檜舞台ということだ。その白を背景に写真を撮れば、いつもとは全くちがった写真になるだろう。
OLYMPUS OM-D E-M1 MarkⅡ・M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO+1.4×Teleconverter MC-14・420mm(35mm判換算840mm)で撮影
絞りF13.0・1/4秒・ISO200・WB晴天
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沿線においてこのように白だけを背景にできるのは、雪が積もった場所以外にはない。雪を雪として見せるのではなく、スタジオのバック紙として利用するような感覚である。
OLYMPUS OM-D E-M1 MarkⅡ・M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO・40mm(35mm判換算80mm)で撮影
絞りF3.2・1/1600秒・ISO200・WB晴天
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隈なき雪原の中をゆく山形新幹線。遠方に霧があった関係で空と雪との明るさがほとんど同じという状態に。まるで無地のキャンバスに新幹線と山を描き入れたような作品になった。
鉄道写真はアウトドアワークという真意がわかっていただけただろうか。自然が作り出す美しい冬景色を撮ることや、雪を利用して異空間に見せて撮ることなど、冬を生かした鉄道写真のアプローチは、他の季節にないものが多分にある。今年もどれだけそんな瞬間を写していけるか。はやる気持ちでそのときを待っている。
OLYMPUS/OM SYSTEM
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO
◉発売:2013年11月29日
OLYMPUS/OM SYSTEM
M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
◉発売:2014年11月29日
OLYMPUS/OM SYSTEM
M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO
◉発売:2016年2月26日
OLYMPUS/OM SYSTEM
M.ZUIKO DIGITAL 1.4×Teleconverter MC-14
◉発売:2014年11月29日
Photo & Text by 山下大祐 (やました・だいすけ)