OM SYSTEM OM-1開発者インタビューの前編では、OM-1の誕生秘話や全面的に見直されたイメージセンサーなどOM-1の魅力についてフォトグラファー荻窪 圭氏にたっぷりとレビューいただきました。
後編では、OM-1に似合うレンズを広角から望遠・マクロレンズまで作例と共にご紹介します。
前編はこちら
OM SYSTEM OM-1に似合うレンズは?
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO
M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO
M.ZUIKO DIGITAL ED 100−400mm F5.0−6.3 IS
M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
M.ZUIKO DIGITAL 9−18mm F4.0−5.6
OMDSとして今後の展開は期待できそうか
アートフィルターの「ネオノスタルジー」
まとめ
老舗のデジタル系フリーライター。1995年発売のカシオQV-10からデジタルカメラの記事を手がけ、各メディアでカメラやスマートフォンのカメラレビューやコラム、猫写真の連載などを手がけている。最新刊「古地図と地形図で発見!鎌倉街道伝承を歩く」(山川出版社)絶賛発売中。
OMデジタルソリューションズ(以下OMDS)のOM SYSTEM OM-1(以下OM-1)開発者インタビューの前編は、フラッグシップ機であるOM-1の強みについて教えてもらった。
後編はレンズやOMDSになって開発の現場はどうなったかという点について聞いてみたい。
東アジア地区統括 国内営業 田村憲治氏(国内営業東日本マネージャー)
東アジア地区統括 国内営業 酒井秀太氏(フジヤカメラ担当)
グローバルマーケティング マーケティングストラテジー 小山弘樹氏(カメラ商品企画担当)
研究開発 製品開発 製品開発1 西原芳樹氏(OM-1のプロジェクトリーダー)
開発部門 ELシステム ELシステム開発2 一寸木(ますぎ)達郎氏(OM-1のファームウェアのリーダー)
開発部門 ELシステム ELシステム開発3 濱田 敬氏(AEやAFなどカメラ機能開発の取りまとめ役)
フジヤカメラ 営業本部 北原
フジヤカメラ 商品部 内野
OM-1の発売から約半年。OM-1にはボディ単体とM.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROのレンズキットの2つの販売形態が用意されているがどちらが売れているのだろう。
というところから、レンズの話である。
田村氏は「現時点ではレンズキットよりボディ単体の方が多い」という。
特にハイエンド機の発売初期は旧機種からの買い換えユーザーが多く、すでにレンズは持っているため、ボディ単体の予約が中心になるのだそうな。
そして、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROはM.ZUIKO DIGITALレンズ最大のヒットレンズで既に多くの人が持っていたのではないかと思う。わたしも発売されてすぐこのレンズを購入した初期からのユーザーであり、OM-1もボディ単体での購入だ。
フジヤカメラでも、交換レンズの中で過去20年のトップがこのM.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROで、爆発的に売れたのでそうとう行き渡っているのではないかということだ。
かつて、広角から望遠まで1本で撮れる高倍率ズームは利便性とコスト重視でクオリティでは及ばないと考えられていたが、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROはF4通しとはいえPROシリーズに相応しいズーム全域での高画質を実現したのだ。だから、これ1本でたいてい賄えちゃうじゃないかという意味で「神レンズ」さらに口が悪い人には「悪魔のレンズ」や「人間を堕落させるレンズ」などと褒められたのである。買い換えユーザーならすでに持っていても不思議はない。
ディテールの描写力が高い上にある程度寄れるので、これ1本で一通りの撮影ができてしまう。汎用ズームとして12-100mm F4を1本持ち、それに加えて、自分がもっとも撮りたい被写体に特化したレンズを何本か揃えるのが幸せかと思う。
OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12−100mm F4.0 IS PRO・100mm(35mm判換算200mm)で撮影
絞りF4・1/320秒・ISO200・WBオート・JPEG
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12-100mm F4のテレ端で塀の上の猫を。写りがシャープでさすが神レンズ。
では、その神レンズ以外ではどうか。
小山氏は「OM-1は野鳥を撮る方にすごく支持をいただいているのもあり、超望遠レンズが多く出ています」という。
営業の現場からも「OM-1発売以降、如実に望遠系のレンズをお求めいただいているという印象で、特にM.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mmF4.5 TC1.25× IS PROに関しては供給が間に合わず、ご迷惑をおかけしている状況」(田村氏)
という声がある。
「M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO」や「M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO」といった手持ちで撮れる超望遠レンズはOM-1のAI被写体認識AFや超高速連写と相性が良く、野鳥撮影に欠かせないのだろう。
OM-D E-M1X・M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO・300mm(35mm判換算600mm)で撮影
絞りF4・1/125秒・ISO1000・WBオート・JPEG
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300mm F4で撮影したカワセミ。手持ちでカワセミが撮りやすい角度になるのを待って撮影(OM-D E-M1Xで)。
廉価な超望遠ズーム「M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS」も供給がスムーズにいかなかったという。
このレンズはテレ端がF6.3と本格的に使うにはちょっと暗めだが、OM-1は高感度時の画質がぐんと上がっているのでISO感度を上げちゃえばいいのだ。
AI被写体認識AFとプロキャプチャーモードを組み合わせれば、最強の野鳥撮影システムといっていい。ただし、シャッターを半押しにしたまま焦らずに最高のタイミングを待つ集中力は必要だ。
そこまでの望遠はいらないのなら、M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROもおすすめ。F2.8通しなのでテレコンバーターと組み合わせて1〜2段下がっても十分使える。
OM-D E-M1 MarkⅢ・M.ZUIKO DIGITAL ED 100−400mm F5.0−6.3 IS・400mm(35mm判換算800mm)で撮影
絞りF6.3・1/125秒・−1EV補正・ISO1600・WBオート・JPEG
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100-400mmで撮影した雨のキンクロハジロ(OM-D E-M1 MarkⅢで撮影)。
昨年のCP+で展示予定だった幻の分解展示。OMDS本社の受付に展示されている。
また、マクロレンズもOM-1の発売と同時に動いており、『野鳥と昆虫に強いOM-1』と言ってよさそうだ。
「M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro」は中望遠マクロとしてOM-D発売当初からのロングセラーで、OM-1で昆虫を撮る人には欠かせないレンズだろう。
わたしも発売当初に購入した口だ。細くてスラッとしているデザインやスライド式のレンズフードが印象的で、マクロレンズとしても中望遠の単焦点レンズとしても長く使っている。特にフォーカスエリアを限定するダイヤルやだいたいのフォーカス位置が図示されるなど、使い勝手もいい。寿命の長いロングセラーレンズというのもうなずける1本だ。
OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro・60mm(35mm判換算120mm)で撮影
絞りF2.8・1/12800秒・−0.3EV補正・ISO1000・WBオート・JPEG
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60mmマクロでカマキリと至近距離にらめっこしてみた。
標準ズームレンズでもかなり寄れるので、ハーフマクロ的に使うこともできる。
手ブレ補正を活かしてスローシャッターで撮るか、高感度への強さを活かして被写体ブレを防ぐかをケースバイケースで決められるのもいい。
OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12−40mm F2.8 PROⅡ・17mm(35mm判換算34mm)で撮影
絞りF2.8・1/60秒・−0.3EV補正・ISO5000・WBオート・JPEG
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暗い公園の灯りのみで蝉の羽化を狙ってみた。もちろん手持ち。
望遠以外での注目は2021年発売の「M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO」。
超広角から標準までフォローするレンズで、標準ズーム的にも使えるし、OM-1のナイトビューや星空AFとの相性が良く星景写真を撮るのにもいい。
小山氏は「M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PROは動画にもちょうどいいレンズではないかと思うので、動画を撮るお客様にも使っていただきたい」という。
「OM-1は4Kの60fpsに対応しています。防塵防滴や手ブレ補正性能を考えると自然の中で手持ちで高品質な映像を撮れるのが我々の強みですし、他社の外部モニターをつなぐとProResやRaw形式での記録もできるので、システムとしての動画の使いやすさを提供したい」(小山氏)という。
確かに8mmスタートという超広角は映像作品にも向いているし、VLOGにもいい。日常や行動を記録するにはその超広角から標準というレンジが役立つはずだ。
静止画を撮るときも標準的なズームレンズ(12-40mm F2.8 PROや12-100mm F4 PRO)を使っていて広角側がもうちょっと欲しいというとき、このレンズがあればまず困らない。
気になる今後のレンズ展開については最新のロードマップ以上のことは言えないということだったが、そのロードマップでいえば、90mmの望遠マクロレンズ、さらに望遠ズームレンズが待っている。
個人的には防塵防滴がしっかりしたハイエンドのレンズはひととおり揃ってきたので、今度はカジュアルなズームレンズやパンケーキレンズ、M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mmF3.5-5.6 EZやM.ZUIKO DIGITAL ED 9-18mmF4.0-5.6といった古いエントリー向けレンズのリニューアルあたりも期待したいと思っている。
発売からかなり時間が経っているからね。特に9-18mmはカジュアルで軽量な超広角ズームとして便利なので最新の設計とデザインでリニューアルして欲しい。
OM-D E-M1 MarkⅡ・M.ZUIKO DIGITAL 9−18mm F4.0−5.6・9mm(35mm判換算18mm)で撮影
絞りF4・1/2000秒・ISO200・WBオート・JPEG
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カジュアルな超広角ズームとして重宝する9−18mmでモノレールをダイナミックに(OM-D E-M1 MarkⅡで)。
最後になってしまったが、ユーザーとして気になるのは、オリンパスから独立したOMDSになって開発体制や今後のラインアップはどうなったのかということ。マイクロフォーサーズの未来はどうなのかという話だ。
開発体制に関しては従来とまったく変わらず、小型化を求めて、高画質をおさえて、独創的な機能を盛り込んでいこうという設計の考え方も同じだという。
「会社の規模としては以前より小さくはなったのですが、その分、部署と部署の垣根が低くなったなど、小さいなりのいい面もすごく出ているのかなと思います」(小山氏)
という点では安心して良さそうだ。
今後の計画について具体的には教えて貰えなかったが、
「コンピュテーショナルフォトグラフィー(※1)と呼んでいますが、そういうライブコンポジットなどの画像合成の技術をもっと有効に複合的に使ってより撮影を楽しんで頂けるようにがんばりたい」(濱田氏)
「Vlogをはじめとする動画を楽しむお客様が増えているのは認識しているので、小型のボディや強力な手ブレ補正といった使いやすさという価値と、アートフィルターのような自分なりの表現を簡単に実現できる商品を提供して楽しんでいただきたいというのはありますね。言いたくても言えない部分があるのですが、OM-1を使って感じるワクワクする気持ちや、このカメラで週末にどう過ごそうか考えるような撮る瞬間以外の楽しみを、OM-1以外の幅広いお客様にも提供していきたいと思っています」(小山氏)
というので楽しみである。
OM SYSTEM OM-1・M.ZUIKO DIGITAL ED 12−100mm F4.0 IS PRO・100mm(35mm判換算200mm)で撮影
絞りF4・1/1250秒・−0.3EV補正・ISO200・WBオート・アートフィルター ネオノスタルジー・JPEG
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アートフィルターの「ネオノスタルジー」で撮影した田園風景。目にした瞬間、「これはネオノスタルジーが似合う」と感じたのだ。
個人的にはPENシリーズのVlog向けモデルやセカンドカメラあるいはエントリー機としてのより小型軽量なモデルはありなんじゃないかなと考えている。
OM-1の最新のセンサーを下位モデルにも搭載するのはコスト的に難しいかもしれないが、あのセンサーの画を見てしまうと、ぜひ幅広く展開して欲しいと思わざるをえないのだ。
同時に、OM-1は買い換えユーザーが多いという話だが、今までもOM SYSTEMを使っていなかったユーザーへの訴求も必要なところだ。
酒井氏はダブルマウント(※2)を勧める。
「今までOM SYSTEMを使ってなかったお客様でも、まずはサブ機でいいので2つめのマウントとしてOM SYSTEMのカメラを手にしていただき、OM SYSTEMの特性を活かしたOM SYSTEMでないと撮れない領域に気づいていただきたいと思っています」という。
田村氏は「営業の現場としては、コロナ禍が終わったら他社のカメラを使っている方などにも触って体感してもらう機会を作りたい。他社の機材がメインのお客様に対しても、OM SYSTEMは軽いし雨の中でも使えるし、いかがですか、という形で知っていただきたいと考えています」
ということだ。
OM-1はOMDSになってもきちんと最新技術をOMという個性に活かしたフラッグシップ機を開発できることを証明した。その結果がタフな現場で手持ちのスローシャッターから秒120コマの超高速連写まで幅広く使え、マイクロフォーサーズとは思えない高画質や高感度も実現した。
フラッグシップ機がしっかりしていれば、ユーザーは安心してレンズ資産を増やすこともできるし、フラッグシップ機の技術を活かしたミドルクラスやカジュアルなボディへの展開も期待できる。
乞うご期待という感じである。
※1 従来PCを使うなど後処理で実現していた合成技術
※2 2つの異なるカメラマウントシステムを所有すること
※パワーバッテリーホルダーHLD-10は、IP53対応 防塵・防滴・耐低温設計。カメラ本体とHLD-10で計2個の電池を併用する場合は、約1000枚(CIPA試験基準)の撮影が可能。
OM SYSTEM
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO
◉発売:2016年11月18日
OM SYSTEM
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO
◉発売:2021年1月22日
OM SYSTEM
M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO
◉発売:2016年2月26日
OM SYSTEM
M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mmF5.0-6.3 IS
◉発売:2020年9月11日
OM SYSTEM
M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
◉発売:41187
OM SYSTEM
M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO
◉発売:44372
OM SYSTEM
M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 EZ ブラック
◉発売:41698
OM SYSTEM
M.ZUIKO DIGITAL ED 9-18mm F4.0-5.6
◉発売:40291
Photo & Text by 荻窪 圭(おぎくぼ・けい)