紅葉の季節は写真を撮るのが最も楽しい季節のひとつです。そんな紅葉は誰が撮ってもそこそこ綺麗に撮れますが、ちょっとしたコツで人に見せても綺麗と思ってもらえる、ワンランク上の写真になります。
今回のプロフェッショナルレビューでは、風景写真をライフワークとするフォトグラファー横田裕市さんに実際に紅葉の撮影スポットを巡りながら撮り方のコツを伝授していただきます。
美しい作例がどのように生まれたのか、そこに隠されたプロカメラマンの意図や撮影方法を知れば、あなたの写真がワンランクレベルアップする事は間違いないでしょう。
【はじめに】
高画素ミラーレス一眼+ズームレンズの組み合わせが主体
自分が感じた「いいな」という直感を大切に
【撮影スポットを巡りながら撮り方のコツを解説】1.京都の紅葉散歩
紅葉はまず逆光を狙おう
朝の半逆光に照らされる紅葉の海を撮る
地面の落葉は1枚を主役にローキーで
頭上の紅葉はボケを挟みハイキーで
【撮影スポットを巡りながら撮り方のコツを解説】2.北海道釧路市阿寒湖周辺
軽量と描写力を兼ね備えた万能ズームレンズが撮りやすい
順光で撮る風景を楽しむ
逆光時の光に透けた紅葉を撮ろう
その場を広々と写し取る超広角レンズの嗜み
【撮影スポットを巡りながら撮り方のコツを解説】3.秋田県湯沢市小安峡
温泉地でより色彩豊かな紅葉を撮る
【撮影スポットを巡りながら撮り方のコツを解説】4.神奈川県箱根 千条の滝
水辺の紅葉は長時間露光で動きを表現する
三脚は軽量かつ使いやすいLeofoto(レオフォト)を使用
NiSi(ニシ)のCPLフィルター+NDフィルターを使用
【撮影スポットを巡りながら撮り方のコツを解説】5.群馬県 渋峠から望む芳ヶ平湿原
望遠レンズで主題を明確に切り取る
湿原の紅葉と伝う雲を併せて幻想的な1枚に
横田裕市さんの撮影機材
まとめ
風景写真家の横田裕市と申します。
今回は紅葉撮影について、私の機材選びや撮影で意識していることを述べる。第一部では、京都の紅葉などの定番エリアや徒歩や車でのアクセスが容易なスポットの作例を交えながら紹介する。
私は高画素機にズームレンズの組み合わせを主体として機材を構成し撮影している。メイン機種+望遠ズームレンズ、サブ機+広角ズームもしくは広角単焦点という組み合わせが多い。
高画素機はシンプルに画素数の「大は小を兼ねる」という点で私はSONYのα7Rシリーズを使用している。後からトリミングを行う際も十分に画素数があるため構図調整や媒体別の構図変更を安心して行うことができる。
単焦点レンズの描写力も非常に魅力的ではあるが、昨今はズームレンズでも描写力がある程度高く使い勝手が良い機材が多い。その場で意図した画角で撮影することに重点の置いているためこのようなスタイルとなっている。
私は最小限しか機材を持たない主義のため、現在の愛用機材は、ソニーα7R IV、α 7R III、FE 14mm F1.8 GM、FE 24-105mm F4 G OSS、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS。
私自身、自分がその場で良いと感じた直感に従ってシャッターを切っている。定番スポットや人気スポットの作例は今やSNSを見ればいくらでも作例が見つかる時代だが、この「いいな」と感じる直感が人それぞれ違うからこそ、その時撮った写真にはその人の個性が強く宿ると考えている。その切り取った瞬間を整える(構図や露出など)ことを意識すれば、写真がグッと良くなるのではないだろうか。
以下で紅葉の撮影方法について述べるが、自分自身が「綺麗だ」「いいな」と感じたその瞬間を撮ることを何より大切にしてほしい。
SONY(ソニー) α7R IV・CarlZeiss(カールツァイス)Batis(バティス) 2.8/18 ・18mmで撮影
絞りF6.3・1/125秒・ISO100
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紅葉シーズンは瑠璃光院が大人気ではあるがそこから少し外れにある蓮華寺の紅葉もまた見事だ。逆光で光に透けた紅葉は非常に色彩豊かに撮影できる。積極的に逆光で輝く紅葉に目を向けよう。金色に輝く紅葉をかぶった鳥居はぜひ日の丸構図でシンプルに切り取る。
SONY(ソニー) α7R IV・CarlZeiss(カールツァイス)Batis(バティス) 2.8/18 ・18mmで撮影
絞りF8・1/320秒・ISO400
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東福寺臥雲橋。奈良線東福寺駅から徒歩8分ほど。早朝散歩がてら臥雲橋から真東に当たる通天橋を囲む紅葉の海を撮影した。南東方面(画面右側)に太陽が昇り、半逆光が差し込むことで手前から奥にかけて立体感を出すことができた。日が昇りすぎて順光になるほど正面から紅葉に太陽光が当たり、葉の照り返しや光がかたくなってしまう。なるべく午前中のうちにこの紅葉の広がりを広角レンズでおさめたい。
SONY(ソニー) α7R IV・SONY(ソニー) FE 24-70mm F2.8 GM・70mmで撮影
絞りF6.3・1/125秒・ISO100
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紅葉の季節は落ち葉も最高の被写体のひとつ。苔の緑に紅葉の赤が映える。地面を探してみると興味を惹く1枚が見つかるはず。落葉は露出を控えめ(ローキー)で撮ることで落ち着きのある静けさを纏う写真になる。
SONY(ソニー) α7R IV・SONY(ソニー) FE 24-70mm F2.8 GM・46mmで撮影
絞りF2.8・1/100秒・ISO400
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頭上の紅葉は空を背景に撮ることが多いが、京都ならではの暗い色の屋根瓦を背景にすることで紅葉の色がしまってより映える写真になる。露出を明るめ(ハイキー)にすることで華やかな1枚に仕上がる。
釧路市阿寒湖周辺も紅葉シーズンは非常に見応えがある色彩豊かな自然が広がっている。阿寒では主力レンズにTAMRON(タムロン)28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD (Model A071)を使用した。広角域から望遠域までこれ1本で済むという非常に魅力的なレンズだ。
紅葉撮影においても単焦点レンズよりまずは中望遠域をカバーしたズームレンズで撮影してみよう。
私はなるべく機材重量を減らすことと、センサーへのゴミの付着を極力防ぐため屋外でのレンズ交換をしないよう努めている。超広角域まで欲張らなければ、このレンズ1本で作品撮りが完結できる便利さと許容できる描写がある。
阿寒湖温泉街には、眼前の阿寒湖と周辺の森林を満喫できる湖畔遊歩道がある。日中の散策は非常に気持ちが良いのでおすすめだ。運が良ければ蝦夷鹿やエゾリスにも遭遇できる。
SONY(ソニー) α7R IV・TAMRON(タムロン)28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD (Model A071)・28mmで撮影
絞りF8・1/640秒・ISO200
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太陽が昇った気持ちが良い日中は、順光で雄阿寒岳の山肌を伝う雲の影が写真に奥行きを生む。紅葉に染まる雄阿寒岳と湖面で釣りをする人々を撮影した。
冬は凍った阿寒湖面でのワカサギ釣りだが、秋はアメマスやニジマスなどのトラウトが釣れるシーズンのため多くの釣り人で賑わっている。雄大な阿寒の自然と人の営みを切り取る。
SONY(ソニー) α7R IV・TAMRON(タムロン)28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD (Model A071)・125mmで撮影
絞りF8・1/640秒・ISO200
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雲の切れ間から太陽が差し込んだことで紅葉の色づきが強調された1枚。雲の流れがある日はこういった光と影のコントラストを意識して探して撮影してみると良い。
SONY(ソニー) α7RIII・CarlZeiss(カールツァイス)Batis(バティス) 2.8/18 ・18mmで撮影
絞りF9・1/200秒・ISO500
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光に透けた紅葉の輝きは美しい。逆光時には、色づいた葉が透過光を帯びて輝いているのでドラマチックな紅葉シーンを撮影しやすい。森の内側から積極的に逆光を意識し、広角レンズで葉っぱ部分を多めに構図に取り入れシャッターを切ってみよう。
これは私個人の好みといえることだが、特に広く撮影できる超広角レンズが好きだ。私が使用するレンズはSONY FE 12-24mmF4 G、CarlZeiss Batis 2.8/18を経て、現在はSONY FE 14mm F1.8 GMに落ち着いている。
CarlZeissのBatisシリーズはSONYのEマウント用に設計された単焦点レンズ群で小型軽量で描写力も高く非常に優れており筆者もお気に入りの製品だ。
小安峡温泉でも有名な小安峡は紅葉の名所としても名高い渓谷。湧き出る温泉の湯気が立ち込める渓谷と紅葉の組み合わせを撮影できる。
一般的に昼と夜の寒暖の差がある方が、きれいな紅葉ができる。小安峡では温泉の熱い蒸気が木々の熱を奪うことで、よりはっきりとした寒暖差が生じるためより一層紅葉が美しいスポットとなる。
小安峡にかかる川原湯橋の上から撮影する渓谷の紅葉は格別だ。
渓谷を中央で分割するように左右に色濃い紅葉が広がる構図で撮影。
SONY(ソニー) α7R III・CarlZeiss(カールツァイス)Batis(バティス) 2.8/18 ・18mmで撮影
絞りF6.3・1/125秒・ISO500
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この見事な色合いを生み出す蒸気を背景に望遠レンズで切り取る。
SONY(ソニー) α7R III・SONY(ソニー)FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS ・253mmで撮影
絞りF8・1/250秒・ISO800
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バスや車でアクセスしやすいのもあり箱根でも人気の千条の滝。箱根登山鉄道「小涌谷駅」から徒歩20分ほどでもアクセスできる。
せっかくの紅葉シーズン、滝に加えて水面に揺れる紅葉も長時間露光で表現した。人間の目ではあまり動きが無いような水辺でも写真にしてみるとしっかりと紅葉が動いているのが分かる。
SONY(ソニー) α7R III・CarlZeiss(カールツァイス)Batis(バティス) 2.8/18 ・18mmで撮影
絞りF9・180秒・ISO100
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メインの滝以外にも周辺を散策すれば、水流と紅葉の組み合わせを楽しめる場所が多くあるのでおすすめだ。
SONY(ソニー) α7R IV・SONY(ソニー) FE 24-105mm F4 G OSS ・57mmで撮影
絞りF9・360秒・ISO100
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写真や映像を仕事とするメンバーで三脚を持ち寄る会を実施したのだが、その時に評判だったLS-224C+LH25 カーボン三脚+自由雲台のセット。後日、注文し私も愛用するようになった。コンパクトなサイズと堅牢さを兼ね備えた上で重量900gという軽量さの素晴らしい三脚だ。
紅葉や空の色をしっかり出したい時にはNiSiのCPLフィルターを使用している。以前は丸型フィルターを使用していたが、角型に慣れてからはこれ一択となった(V5 100mm角型ホルダーシステム)。ガラス製品のため管理には気を遣うが、欠かせないサポート製品だ(万が一に備えて携行品保険に加入しておくと安心だ)。
渋峠は長野県と群馬県の境にある峠。日本国道の最高地点でもあるこの場所は国道292号が通り、標高は2172mにもなる。峠の駐車場から歩いてすぐの場所から広大な芳ヶ平湿原を見渡すことができる。なだらかな山肌を伝う木々と湿原が織りなす幻想的な風景は息を呑むほどに美しい。
芳ヶ平湿原は非常に広大で広角レンズで撮影すると主題が「湿原全景」に偏ってしまうため、主題の紅葉の印象を強く出すため望遠レンズでフレーミングし撮影しよう。
SONY(ソニー) α7R III・SONY(ソニー)FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS・137mmで撮影
絞りF8・1/200秒・ISO320
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10月半ばの早朝、徐々に雲が立ち込めてきた湿原を峠から撮影した。構図としては芳ヶ平ヒュッテの屋根の赤色をアクセントに雲を副題として上部に添えて秋の芳ヶ平湿原をおさめた。
あいにく雲が多く朝陽には恵まれない早朝ではあったが、曇天の時ほどドラマチックな光景に出合えることも多いので結果オーライとした。
以下は比較対象として掲載する広角レンズで撮影した例、構図として上半分が空、左右も紅葉が弱いため紅葉写真としては印象が薄い1枚になってしまった。
SONY(ソニー) α7R II・SONY(ソニー) FE 12-24mm F4 G・24mmで撮影
絞りF4.5・1/50秒・ISO640
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この時使用したFE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSSは、SONYが誇る描写力の高い超望遠ズームレンズ。400mmまでの画角は日常ではそこまで使用しないが、ここぞという風景撮影に持ち出すレンズだ。
レンズ重量が気になる場合は、描写力とのトレードオフではあるがTAMRON(タムロン)から発売している超望遠ズームレンズ70-300mm F/4.5-6.3 Di III RXD (Model A047)が重さ545g と世界最小・最軽量のソニーE マウント用望遠ズームレンズとして非常に使い勝手が良いのでおすすめしたい。
今回5つのロケーションと共に、私の紅葉撮影について紹介した。今シーズンの参考にしていただければ幸いである。
SONY(ソニー)α7R IV[ILCE-7RM4A] ◉発売=2021年6月4日
SONY(ソニー)α7R III[ILCE-7RM3A] ◉発売=2017年11月25日
SONY(ソニー)α7R II[ILCE-7RM2]※生産完了品 ◉発売=2015年8月7日
SONY(ソニー) FE 12-24mm F4 G [SEL1224G] ◉発売=2017年7月7日
SONY(ソニー) FE 24-70mm F2.8 GM [SEL2470GM] ◉発売=2016年4月28日
SONY(ソニー) FE 24-105mm F4 G OSS [SEL24105G] ◉発売=2017年11月25日
SONY(ソニー)FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS [SEL100400GM] ◉発売=2017年7月28日
CarlZeiss(カールツァイス)Batis 2.8/18 ◉発売=2016年5月20日
TAMRON(タムロン)28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD [Model A071] ◉発売=2020年6月25日
TAMRON(タムロン)70-300mm F/4.5-6.3 Di III RXD [Model A047] ◉発売=2020年6月25日
SONY(ソニー) FE 12-24mm F4 G [SEL1224G]
SONY(ソニー) FE 24-70mm F2.8 GM [SEL2470GM]
SONY(ソニー) FE 24-105mm F4 G OSS [SEL24105G]
SONY(ソニー)FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS [SEL100400GM]
CarlZeiss(カールツァイス)Batis 2.8/18
TAMRON(タムロン)28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD [Model A071]
TAMRON(タムロン)70-300mm F/4.5-6.3 Di III RXD [Model A047]
Leofoto(レオフォト)カーボン三脚 レンジャーシリーズ「LS-224C+LH-25」自由雲台セット ◉発売=2017年12月5日
NiSi nis-v7-tcpl [V7 Holder kit(TRUE COLOR NC CPL)] ◉発売=2021年12月13日
・機材は高画素機にズームレンズの組み合わせを主体として構成
・その場で意図した画角で撮影することに重点の置いてズームレンズを使用
・自分自身が「綺麗だ」「いいな」と感じたその瞬間を撮ることを何より大切にしてほしい
・紅葉の季節は落ち葉も最高の被写体のひとつ
・まずは中望遠域をカバーしたズームレンズで撮影してみよう
・雲の流れがある日は光と影のコントラストを意識して探して撮影してみると良い
・逆光時には、色づいた葉が透過光を帯びて輝いているのでドラマチックな紅葉シーンを撮影しやすい
・Leofoto LS-224C+LH25 カーボン三脚+自由雲台のセットはコンパクトさと堅牢さを兼ね備えた上、900gと軽量でおすすめ
・曇天の時ほどドラマチックな光景に出合えることも多い