プロカメラマンの鋭い視点でカメラ、レンズのレポートをする「プロフェッショナルレビュー」。
第二回は、Nikonのフルサイズミラーレスカメラのフラッグシップ機「Nikon Z 9」の後編です。
発売から4ヵ月ではやくもリリースされたアップデート。追加された機能を中心に、今回もプロカメラマンによる豊富な作例でご紹介します!
発売から4カ月、早くも大幅なアップデートを敢行!
「Z 9」用ファームウェアVer.2.00での主な進化点
もっとも気になるプリキャプチャ機能(正式名称は「ハイスピードフレームキャプチャ撮影時のプリキャプチャ機能」)の詳細をチェック
思いのほか手軽に「決定的瞬間、およびその前後の連続撮影」ができる
撮影済み画像を合成編集する「比較動合成」にハマる。
まとめ
一眼レフに近い”重厚感”を備えた魅力的なミラーレス機 ニコン「Z 9」が早くも大幅なアップデートを敢行した。まだまだ納品待ちのユーザーが数多くいそうな今、待ちに待ち焦がれているZ 9だけがどんどん機能アップしているのを見るに、自分を置いてカメラだけが先に行ってしまいそうな焦燥感に駆られている「待ち組」もいそうな気がするのだが、なぁに心配することはない。将来、アナタの手元にやってくるZ 9は、ちゃーんとその時点での最新ファームウエアで完全武装してますから。
え?そんなアタリマエなことは分かってるから、とにかく早くモノを寄こせって? ですよねー。欲しいカメラが手元に来るまで数カ月待ちを余儀なくされるツラさ、痛いほどわかります。「買う!」となったら「即ポチ即ゲット」、あるいは店舗で「即お持ち帰り!!」が基本ですものね。今さら言うまでもなく、カメラやレンズを買うのには勢いってもんが大切。将来に不安を感じる前に買ったもん勝ちですわー(無責任発言)。自分に反省する隙を与えぬように、ね・・・(本質を突く独り言)。
というワケで、先ごろ2022年4月20日にリリースの新ファームウエア「Ver.2.00」を適用したZ 9をさっそく使ってみた。っていうか、
コチラ
に掲載の前編の段階で、使用したZ 9はすでに「Ver.2.00」だった(アップデートしてから今回の試用を開始した)。基本的な使用感に変わりはなくとも、複数の魅力的な機能追加が行われる今回のファームアップ。実際に使ってみたら、Z 9の魅力が激増しだ。Ver.2.00で実装された新機能が欲しいからZ 9を手に入れることにした!という新たな流れも必ずや見られるようになるであろう魅惑的な進化がそこにはあるのだ。
「ハイスピードフレームキャプチャ+」で静止画を撮影する際、シャッターを押してから最大1秒間まで遡って記録する「プリキャプチャ機能」をフルサイズミラーレスカメラとして初めて採用。例えば、シャッターボタンを半押しした状態でバッターがボールを打った瞬間を確認してからシャッターボタンを全押ししても、バットがボールを捉える瞬間を撮影できる。また、「ハイスピードフレームキャプチャ+」の撮影時の画面表示を改善し、「撮影タイミング表示」機能を追加。シャッタータイミングが視覚的にわかるようになり、さらに撮影した画像を再生する際、連続撮影した一連の画像は、各画像の先頭にジャンプできるように変更。
「ニコンD6」(2020年6月発売)で好評の17種類の「グループエリアAF」を、新たに「カスタムワイドエリアAF」として搭載。静止画で20種類、動画は12種類から選択可能で、幅広いシーンで主要被写体を確実に捉えることができる。被写体検出にも対応しているため、例えば障害物が被写体の手前にくるハードル走でも、AFエリアを上側に配置することで、アスリートにフォーカスの合った決定的瞬間が撮影できる。アルゴリズムも見直し、AF性能の安定性、追従性、低輝度時における被写体検出性能を改善。
12bitで、N-RAWとProRes RAW HQの2種類のRAW動画フォーマットで内部記録が可能に。新フォーマットであるニコン独自のN-RAWは、ProRes Raw HQの1/2のファイルサイズで撮影ができ、ProRes Raw HQよりも長時間の記録ができる。N-RAWでのFXベースの動画フォーマット撮影時は、8.3K/60p、4.1K/120pまで対応。
動画記録中は、ファインダーおよび画像モニターに赤枠を表示させ、動画撮影時の録画ボタンの押し忘れを防ぐ。また、オーディオ設定の情報などを一画面で確認できる「動画情報表示」機能を追加。さらに、被写体のどの部分がどの程度明るいかが分かる「ウェーブフォームモニター」表示ができるようになった。Mモード時の動画撮影では、1/6段で露出を調整でき、必要以上に感度を上げずに明るさの調整が可能。
連続撮影で撮影した動体の一連の動きを編集ソフトを使用せずに、カメラ内で1枚の静止画に合成する「比較動合成」に対応。
動画再生一時停止時に、表示しているフレームから指定した秒数の範囲のフレームを一括して切り出し、JPEG画像として保存する「一括フレーム保存」機能を搭載。
※ニコンホームページから抜粋
個人的に一番ビビビッときたのは、12ビットRAW、クロップなしの8.3K/60P動画のカメラ内記録ができるようになったこと・・・ではなく、プリキャプチャ機能の追加だ。これは、シャッターを押す前段階の画像を記録できる機能で、そもそも他社をグルリと見回しても装備するモデルは少なく、フルサイズ機(プリキャプチャ機能使用時に2000万画素以上の画素数で記録できるもの)としては初の実装だという。
具体的には、最大1秒間の遡り記録が可能になっている。つまり、撮りたい瞬間を認識してからシャッターボタンを押していたのでは撮れなかったもの(シャッタータイムラグもそうだが、それ以前に人間=撮影者自身の反応速度が足枷になって撮れなかったもの)が簡単に撮れるようになった。「撮るっ!」と思った時点の1秒前から、実はすでに撮影は行われている、そんな機能だ。
Z 9における同機能の正式な名称は「ハイスピードフレームキャプチャ撮影時のプリキャプチャ機能」となる。「ハイスピードフレームキャプチャ撮影(ハイスピードフレームキャプチャ+)」というのは、Z 9に当初から搭載されていた超高速連続撮影の機能で、30コマ/秒(C30)、もしくは120コマ/秒(C120)の撮影がAF、AE追従で行えるというもの。レリーズモードのひとつとして存在するものの、実際に使う場合はクイック設定ポジションからのセットが必要であるなど、「1コマ撮影」「低速連続撮影」「高速連続撮影」「セルフタイマー撮影」とちょっぴり違う扱いになっているのは、使用に際し一定の制限が存在するからだろう。
例えば、使えるシャッタースピードはC30が1/32000~1/60秒、C120は1/32000~1/125秒。撮像範囲はC30がFXとDXの両フォーマットが選べるところ、C120はFXのみになる。また、画質モードは両者「JPEGのNORMAL」のみ、画像サイズはC30が「サイズL」固定、C120が「サイズS」固定、露出補正はプラスマイナス5段まで設定できても実際の補正はプラマイ3段まで・・・など、細かな線引きと違いがあるのだ。プリキャプチャもこれらの条件に従い撮影、記録が成されることになるのだが、まず気をつけるべきなのは画像サイズだろうか。C120では、フルの画素数では撮れないからだ(Sサイズ=約11MPのみ)。
プリキャプチャ機能の設定は、カスタムメニューに追加されたd4「C30/C120記録設定」で行う。ここで設定するのは、まずは「プリ記録時間」。シャッターボタン全押し後に遡る時間を「なし」「0.3秒」「0.5秒」「1.0秒」から選択する。ここで「なし」を選ぶとプリキャプチャは行われず普通のハイスピードフレームキャプチャ撮影になる。もうひとつの設定項目は「レリーズ後記録時間」。これは、シャッターボタン全押し後に撮影を継続する時間をあらかじめ設定しておくもので「1秒」「2秒」「3秒」「最大」が選択肢。「最大」設定では、最長約4秒間の記録が行われているとされている。
プリキャプチャは、シャッターボタンの半押しでバックグラウンドでの記録が始まる。EVFの表示が若干カクカクするようになるのが通常撮影時とのわずかな違いだ。設定に関しては、撮影すべき瞬間(シャッターボタンを全押しすべき瞬間)を今か今かと真剣に待っている状態が維持できている限りは、プリ記録時間「1秒」はちょっと長すぎる感じだった。仕上がりを見ると、実際にその瞬間が訪れるまでの前フリ(遡ったコマ数)が無駄に多い。もちろん、撮るもの、撮り方、必要とするカットによってこのあたりの判断は異なるだろうから一概には言い切れないものの、個人的には待機中(シャッターボタン半押しを継続しての事前記録中)に全集中の態勢を維持できるのであれば「0.3秒」、リラックスしながら待つ場合は「1秒」という使いわけがしっくりきた。そして、ツブシが効くのが「0.5秒」。思いのほか気楽に「決定的瞬間」が撮れちゃう感じだ。ただし、C120ではどの設定でも「撮れすぎ」になりがちなので、C120を活用する必要性の判定には、画像サイズが「S」に限定されることを含め熟慮が必要だろう。
一方、レリーズ後記録は、最初は「最大」にしていたところ、そんなに長時間(多くのコマ数)の記録を"事後"に必要とすることはないことに気づき、すぐ「1秒」に変更。さらに、この設定にかかわらず、全押し後すぐにシャッターボタンを開放すれば、その瞬間にレリーズ後記録は止められるので、「最大」+「自分でストップ」のスタイルで突き進むのも悪くなさそうだ。
ともあれ、Z 9のプリキャプチャ機能は想像以上に扱いやすく、思いのほか手軽に「決定的瞬間、およびその前後の連続撮影」ができてしまうところにハートを射抜かれてしまった。今後の課題をあえて挙げるとするならば、レリーズ後のピント追従だろうか。動きを追っている被写体が見かけ上ファインダー内の同じピント位置に居続けてくれれば問題はないのだが、前後方向の動きが伴う場合は、時間経過(位置の変化)とともにどうしてもピントを外すことになってしまう。これは、MFでの対応は困難、AFでの正確な追従も、今回撮影したものに限れば、ほぼ期待薄な手応えだった。さらに仕上がりの完成度を高めうる進化に期待したいところだ。
もうひとつ、個人的にはボディ内画像編集に追加された「比較動合成」にもハマってしまった。比較明合成の「動体版」とでも言うべき合成機能で、撮影中に並行して行われる処理ではなく、撮影済み画像をピックアップして合成編集する手順となる。
想像力に乏しい私には、今のところ面白写真を作ることしか思いつかない比較動合成なのだけど、コチラも徹底してお手軽だ。選択できるコマ数は5~20コマ。つまり、それが合成できる数になるわけなのだけど、最低コマ数が5コマなのがチョイとナゾ。面白写真は2コマ合成で成り立つこともままあるワケでして・・・。まぁ、面白写真を作るための編集機能じゃないのでしょうけれど。
ほかにも、ハイスピードフレームキャプチャ撮影時にも撮影タイミング表示ができるようになったり、AFエリアモードに「ワイドエリアAF(C1)」「ワイドエリアAF(C2)」が追加など、Ver.2.00には利便性を向上させる機能追加が多数ある。その中で「フォーカス/コントロールリング入れ換え」機能は、Ver.2.00公開当初、「NIKKOR Z 70-200mmF2.8 VR S」のみが対応レンズだったところ、約1週間後には「NIKKOR Z 24-120mmF4S」と「NIKKOR Z 100-400mmF4.5-5.6 VR S」両レンズの新ファームウエアが公開され、双方ともフォーカス/コントロールリング入れ換えへの対応を実現。Z 9の機能強化をフォローする態勢に抜け目はなさそうだ。
Z 9はどこまで進化し続けるのか。派生モデルの誕生はあり得るのか。さまざまな観点から今後も目が離せそうにない「Z」のフラッグシップ機。ニコンユーザーにとっては、いよいよ一眼レフからの買い換えタイミングの到来である。
NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S・400mmで撮影・絞りF9・1/2000秒・ISO1250・+1EV露出補正
ハイスピードフレームキャプチャ撮影時のプリキャプチャ機能を使っての撮影。通常撮影でも十分に撮れる瞬間ではあるのだが、事後にベストな瞬間をセレクトする作業において、「適切な瞬間含む複数のカットが無駄なく捉えられている」ことの価値が大きいのも事実。上手に使い分けたい。
(共通データ)NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S・400mmで撮影・絞りF6.3・1/4000秒・ISO1400・+0.7EV露出補正
カラスはイケてもスズメはムリ。これこそがハイスピードフレームキャプチャ撮影時のプリキャプチャ機能でなければ撮れない瞬間である。心の中でしつこく「飛べ、早く飛べ! とっとと飛べ!!」と念じながら待つってのは、人間として正直どうかとは思いましたが(笑)。
AF-S NIKKOR 500mmF5.6E PF ED VR・マウントアダプター FTZ II・500mmで撮影・絞りF5.6・1/8000秒・ISO2800
ハイスピードフレームキャプチャ撮影時のプリキャプチャ機能のC30(30コマ/秒)だと、バットがボールを打つ瞬間というのは、実はなかなか撮りにくいものであることを実感。ベストなタイミングがコマ間に紛れてしまうことが意外なほど多いのだ。遡りや連写速度に100%頼り切るのではなく、気持ちは「一発必中」で望む必要アリということなのだろう。
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
(共通データ)NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S・400mmで撮影・絞りF11・1/8000秒・ISO9000・+0.3EV露出補正
これは人力じゃムリ、かな。テントウムシの飛び立ちって、案外先読みができるものだったりするのだけど、効率を考えるならばハイスピードフレームキャプチャ撮影時のプリキャプチャ機能に頼るのが得策。このときもシャッターチャンスは一度きり。でも、一発でOKだった。それにしても、テントウムシの羽根ってシステマチックな動作をするのね。それを余すところなく捉えるZ 9。さすがです。
⇩
(共通データ)NIKKOR Z 24-120mm f/4 S・24mmで撮影・絞りF11・1/4000秒・ISO3200・比較動合成
比較動合成の一例。カメラを固定すること、合成する被写体が重ならないようにすることなどに留意すれば、撮影&事後作業は極めて簡単。写っている機体の数が示すとおり、これは6枚合成。
NIKKOR Z 24-120mm f/4 S・46mmで撮影・絞りF11・1/4000秒・ISO2000・比較動合成
最低でも5枚の合成が必要な比較動合成。でも、2枚合成で完結したいこともある。そんなときは、飛行機が写り込んでいない「風景のみ」のカットを3枚撮っておいて、そいつを合成に加えちまえばZ 9にはバレないで済む。ってな手順で「飛行機を2機だけ登場させた」比較動合成カット。
NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S・70mmで撮影・絞りF8・1/400秒・ISO100・-0.7EV露出補正
通常撮影時約20コマ/秒の連写能力は、動きの分解やシャッターチャンスを逃さず撮るための助けになるだけではなく、極めて迅速に行うブラケティング撮影にも役立つ。スナップのみならず、風景撮影などでも有効性が感じられるはずだ。
NIKKOR Z 24-120mm f/4 S・24mmで撮影・絞りF8・1/80秒・ISO100・+0.7EV露出補正
肉眼ではほとんどグレーに見えていた夕暮れの空も、仕上がりには薄暮のブルーがしっかり残る。このとき、Z 9のファインダーは、シャッターをきる前にそれを正しく伝えてくれていた。ファインダーを覗いた途端、空が淡くブルーに色づく、そんな感じだ。Z 9のEVFが持つ豊かな表現力を目のあたりにした瞬間である。
画像にマウスを合わせると拡大表示します
画像をスワイプすると拡大表示します
NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S・400mmで撮影・絞りF5.6・1/8000秒・ISO25600・+0.7EV露出補正
1/8000秒のシャッター速度を譲れぬ設定としたところ、撮像感度は常用上限のISO25600に。ノイズ感はそこそこも、ディテールの損失が少ない上質な仕上がりであることがわかる。繊細な色再現にも好印象だ。
・ニコン「Z 9」が早くも大幅なアップデートを敢行
・思いのほか手軽に「決定的瞬間、およびその前後の連続撮影」ができる「ハイスピードフレームキャプシャ機能のプリ連写」の魅力がきわめて大
・プリ記録時間は「0.5秒」のバランスが良好。ツブシが効く
・「レリーズ後記録時間」はシャッターボタンの開放で短縮可能
・撮影済み画像の「動いていた部分」を合成する「比較動合成」が楽しい