Nikon (ニコン) AI AF Nikkor 85mm f/1.4D IFの実写レビューです。
まだまだデジタル一眼レフカメラが一般的ではなかった1995年12月に発売されたAI AF Nikkor 85mm f/1.4D IFは、2015年くらいまで、およそ20年に渡ってラインナップされ続けていたロングセラーレンズです。
フィルム時代からデジタル一眼レフカメラ全盛期を通して愛用され続けた大口径中望遠レンズを、実際に使用した実写レビューを中心にご紹介します。
目次
特長/操作性
Nikonらしいしっかりとした造り
古いタイプの操作性にはメリットも
高い互換性を持つマウント
実写レビュー
開放では味わい深く柔らかな描写
絞り込む事で解像感が増す
人間が一点を注視した時の見え方に近く、部分的に切り取る構図を得意とする中望遠レンズ
素直な前ボケ・後ボケ描写
画質
まとめ
Nikon (ニコン) AI AF Nikkor 85mm f/1.4D IFを手にして最初に感じたのは、Nikonらしい質実剛健さを感じるしっかりとした作りだという事です。発売は1995年なので、外観のデザインは昨今の製品とは異なるテイストですが、カメラ店スタッフにも好評な真面目で堅牢性の高い作りは20年前の製品でも変わりません。
ざらざらとした梨地加工が施された外装はプラスチック製ですが、現行製品と比べて一回り小さいサイズのレンズはずっしりと重く、高級感を感じます。
20年以上前に設計されたレンズという事で、現行モデルとは操作性に異なる部分もあります。
その一つはAF/MFを切り替えるフォーカス切替リングが鏡筒中心部に設置されている事で、回転方向にリングを回す操作は味気ないスイッチの現行モデルより使い易いかもしれません。オートフォーカスの信頼性が今ほど高く無かった時代のレンズなので、フォーカスの切替の頻度や重要度が今より高かったのかもしれません。
付随して、マニュアルフォーカス時のピントリングの操作には適度のテンションあり、操作感はとても良好です。
絞りリングと電気接点を持つレンズである事から、多くのFマウントカメラに対応出来る互換性の高さもAI AF Nikkor 85mm f/1.4D IFの長所の一つと言えるでしょう。
レンズ内モーター内蔵ではないので、下位グレードの機種やマウントアダプターを使用してのZマウントカメラでの利用はあまり現実的ではありませんが、それ以外の一眼レフカメラであれば、例えばF3やFM2のようなマニュアルフォーカス時代のフィルムカメラまで使えて便利です。
Zマウントの登場まで、長らくFマウントにこだわり続けたNikonらしい特長と言えるかもしれません。
フィルター径 | 77mm | 最短撮影距離/最大撮影倍率 | 0.85m/1:8.8 |
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最小絞り | F16 | 絞り羽根 | 9枚(円形絞り) |
長さ | 72.5mm | 重量 | 約550g |
テストボディにはデジタル一眼レフカメラのNikon(ニコン)D850を選択しました。
共通設定として、ピクチャーコントロールはスタンダード、ホワイトバランスはオート0、各種レンズ補正はオフにしています。よく晴れた秋空の下、街中を散策しながらスナップ撮影をしました。
絞り開放での画質は昨今のレンズのように素晴らしくシャープというものではありませんが、柔らかく味わい深い描写です。
開放では周辺部で口径食が見られますが、素直なレモン型なのであまり気にならないでしょう。
見慣れた街並みが、まるでヨーロッパで撮影したような雰囲気に撮れました。レンズの良さは勿論、D850の優れたカラーバランスにも助けられたと思います。
古いレンズに良くある事ですが、絞り込む事で解像感が増していく、わかりやすく扱いやすい特性です。
絞る事で解像感は増しますがカリカリに硬くなる事は無く、自然な質感描写がとても心地良く感じます。
作例の車の表面の艶やかな色の質感、滑らかな形の再現など、レンズ設計の古さを感じさせないシャープな描写だと感じました。
人間が一点を注視した時の見え方に近いと言われる85mmという焦点距離は、自然な圧縮効果と適度に狭い画角で、一部分を切り取り印象的な構図にしやすいと思います。
ビル街でふと空を見上げてみると、歪んだような造形が目に付きました。色と形だけを写すシンプルな構図で、85mmの画角を活かせたと思います。
広角レンズを使って遠近感を誇張した構図も面白いシーンでしたが、今回は圧縮効果を利用して中身の詰まった写真にする事にしました。
極端でない自然な圧縮効果で遠くのものが僅かに近くに見えるのも85mmという焦点距離の魅力です。
標準レンズには無い圧縮効果は背景が目で見るより狭く写るので、構図を整理し易く前ボケを活かした写真を撮り易いというメリットもあります。
作例では画質と中望遠らしいボケの大きさバランスをとって、F4まで絞って撮影しました。
勿論望遠レンズなので、遠くの被写体を大きく撮る能力もあります。
動くカモメの群れは簡単ではない被写体ですが、AFモードを3Dトラッキングに変えて撮影を試みました。
AF性能は組み合わせるボディによって左右されますが、一眼レフとしては新しい世代のD850であれば、古いレンズでもある程度の「打率」は期待できそうです。
Nikon (ニコン) AI AF Nikkor 85mm f/1.4D IFは大口径の中望遠レンズらしくボケ味についても良好なレンズです。
古い設計なので、最近のレンズとは少し違った素直で自然なボケ味には好感が持てます。
今回はスナップ撮影での作例ですが、一般的に85mmレンズがよく使われる人物ポートレートでも安心して使えるでしょう。
設計はフィルムメインの時代となる20年以上前のレンズですが、ある程度絞る事で性能的にもデジタル一眼レフカメラでも使えるレベルに達します。
開放から3段階絞った作例5の写真を拡大して、解像感を見てみましょう。
かなり細かい部分まで見事に描写されていてシャープです。
若干の眠さが無い訳ではありませんが、現代のレンズにも匹敵する高い解像感だと思います。正直に言って高画素機のD850での撮影ではもう少し粗が出ると思っていたのですが、作例ではフリンジの発生もほとんど見られず、かなり優秀だと言えるでしょう。大口径レンズという事で絞り込んだ作例は撮りませんでしたが、F8程度まで絞ってレンズの最高性能がどのあたりにあるかを探ってみても面白かったかもしれません。
Photo & Text by フジヤカメラ 浅葉