Nikon Z50 は、昨年ベストセラーと言える売れ行きを見せた、APS-Cサイズセンサーを採用した人気のミラーレス一眼カメラです。私も昨年秋の発売後しばらくして、試写をしましたが、写りの良さに感心した覚えがあります。
又、コンパクトなズームレンズ2本が同時に発売となり、こちらも人気で、2本のレンズが付いたダブルズームレンズキットで購入された方も多かったんではないかと思います。
しかし!Z50 のような高性能な機種を、ズームレンズだけで使うのは、少し勿体なくないですか?!
というわけで、今回は、フルサイズ用のレンズ明るい単焦点レンズ NIKKOR Z 35mm f/1.8 S を Z50 に装着して、撮影してみました。
35mm の焦点距離は、APS-Cサイズセンサーを採用する Z50 では、標準レンズ約50mmの画角となります。
1本だけ持つには少し画角が狭い、と感じる方もいると思いますが、自然な遠近感や、画角が微妙に狭い事で構図を整理し易く、使い易い一本です。
ダブルズームレンズキットの標準ズームレンズ NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR と NIKKOR Z 35mm f/1.8 S を比較した際の、大きな違いの一つにボケ味の大きさがあります。Sラインの単焦点レンズらしい、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S の、美しく大きなボケは、勿論 Z50 で使っても健在で、ズームレンズでは得られない魅力があります。
真っ赤なボケの花です。
f2.8まで絞って撮影していますが、Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR は焦点距離35mmを選択した際のf値はf5.3くらいなので、まだ1絞り以上明るい事になります。
Nikon Z50 のような、焦点距離が短くなりがちな、センサーサイズの小さいカメラにこそ、f値の明るい単焦点レンズが威力を発揮し、背景に大きなボケを得られました。
性能も流石の一言なので、少し拡大してみます。
おしべの立体感が凄いです。
Sラインは、Nikon Zシリーズ用の最高クラスのレンズシリーズなので、性能的にも非常に高いレベルにあります。
にじむような美しいボケと、シャープにピントが合った部分とのコントラストも非常に美しく、さすが、ボケの美しさとシャープさの両立を掲げる Nikon Zシリーズ用のSラインのレンズです。
池に写った雲に、微妙なさざ波がたち、印象派の絵画のような写真にしてくれました。
Nikon Z50 は流石の描写力で、ガラスのような水面の滑らかさを、見事に再現してくれました。
こういった、何処を切り取ってもいい写真だと、画角が限定される単焦点レンズは、逆にフレーミングし易く感じます。画角を変えられないという制約が、逆に自由な創作を生み出す原動力になるのかもしれません。
花を一輪だけ撮る際には、大きなボケは力強い武器になります。
つい、花全体にピントを合わせたくなって少し絞って撮るケースも多いと思いますが、このカットは、ピントは花びらの先端だけにして、背景のボケを大きくとる事に重きを置きました。
NIKKOR Z 35mm f/1.8 S は、さすがSラインのレンズで、透明な空気感まで伝わる描写性能は、標準ズームが悪いというわけではありませんが、格の違いを感じます。
NIKKOR Z 35mm f/1.8 S のボケは本当に美しく、単焦点レンズの良さを味わい尽くせるレンズです。
Nikon のレンズというと、シャープで硬いイメージがあるのですが、時代の流れに合わせて、シャープさはトップクラスでありながら、ボケにも並々ならぬ拘りを見せるあたり、老舗光学メーカーの底力を感じます。
このカットは開放での写真なので、拡大して描写を見てみます。
同じ事を何度も言って申し訳ないのですが、流石の描写力です。
開放f1.8と少し絞ったf2.8の描写性能がほとんど違わないのも、高級レンズらしい特性です。
いいレンズを使うと、画質がUPするという事は、Nikon Z50 にはまだまだ標準ズームだけでは引き出せていないポテンシャルがある、という事だと思います。
開放f1.8を使って、ボケの中から花が浮き上がってくるように撮りました。
中野のお店の近くを散歩しながら撮ったカットですが、大きなボケのおかげで、綺麗な写真になったと思います。
ちなみにこのカットをf5.6(Z50用の標準ズームレンズ Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR の35mm時のだいたいのf値)で撮るとどうなるでしょうか?
ボケていて欲しい部分にもピントが来てしまい、ゴチャゴチャとして、いま一つだと思います。
同じ画角ならフルサイズセンサーカメラよりも焦点距離が短くなってしまう、Z50 のようなAPS-Cサイズセンサーを採用したカメラこそ、明るい単焦点レンズは大きな威力を発揮します。
ボケの大きさで写真が変わる例をもう一枚出してみたいと思います。
白い花の花壇を撮ったカットですが、背景のボケに少し違和感を感じないでしょうか?
何だか碁盤の目のようになっているような・・・
同じカットをf5.6で撮ったカットです。
はい、網でした(笑)
被写体として、マイナスとなるポイントを、f値が明るい、ボケを大きく取れるレンズの特性を利用して、写真の外に追い出しました。
ボケの量をコントロール出来る幅が大きい、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S のような明るい単焦点レンズは、表現の幅を大きく取れるレンズと言えると思います。
あ!猫だ!と思って撮りましたが、もう少し寄って猫を大きく撮りたかったところです。画角を変えられない単焦点レンズではこれが精いっぱいで、標準ズームレンズなら解決出来た問題です。
一瞬の状況変化に対応出来ないのは、画角を変えられない単焦点レンズの、如何ともしがたい部分です。
もう少し大きく撮ろうと、カメラを近づけたら、猫は逃げてしまいました。
もう一つの短所は、大きく、重く、高額である事です。
見ての通り NIKKOR Z 35mm f/1.8 S は Z50 用の標準ズームレンズの3倍以上の大きさがあり、持ち運びに少し不便で、特に私のようなおじさんには、体力的に少し不利になります(重いものを持って歩く事で体を鍛えよう、というポジティブな考え方もありますが・・・)。
重さも Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR:約135g、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S:約370g、と3倍近く、カメラのコンパクトさをやや損なう格好になります。
ただ、Nikon Z50 はグリップがいいカメラなので、レンズが大きく重いことによりホールディングしにくくなる、という事はありませんでした。
実際に使ってみて、Z50 のポテンシャルの高さに驚きました。レンズを変えるだけで、まだまだ写りが良くなったり、表現の幅が大きくなったりするので、やはりダブルズームレンズだけで使うのは、少し勿体ないと感じました。
今回テストで使った NIKKOR Z 35mm f/1.8 S は、フルサイズ用のレンズとしては比較的低価格なモデルですが、さすがSラインのレンズだけあって、描写力は高いレベルにありますから、1本持っていると撮影の幅が大きく広がり、出来上がる写真についても満足度が大きく向上すると思います。
美味い酒には美味いつまみが欲しくなるように、いいカメラにはやはりいいレンズを付けて撮りたくなります。
>>> Nikon NIKKOR Z 35mm f/1.8 S