レンズを通る光の量を調整する為の絞りは、併せて被写界深度を変化させる役割を持ち、写真表現の重要な手段となる装置です。
ピントの合う場所や範囲を変化させる事で、写真のイメージが大きく変わります。
今回は、この絞りを使った表現方法やレンズとの関係について解説したいと思います。
◇目次◇
絞りとは絞りは、レンズの間や後ろにあって、穴の大きさを変える事でレンズを通る光の量を調整する装置です。
写真用のレンズでは通常F値という数値で表され、F値が小さくなるとレンズを通る光の量は多くなります(小さくなると多くなるのでややこしい)。
レンズを通る光が最も多くなる状態を開放と言い、レンズにはこの開放F値が品名として記載されているのが普通です。
この開放F値が小さいレンズを、光を沢山取り込めるレンズという意味で「明るいレンズ」と言ったりします。
たまに誤解されるのですが、明るいレンズ(開放F値が小さいレンズ)で撮ると、写真が明るくなる訳ではありません。
写真の明るさを決める「露出」は3つの要素の組み合わせで決まるので、F値だけを明るくしても写真は明るくならないのです。
上の写真のように、絞りだけを変えて光を多くしても、シャッタースピードやISO感度がオートになっていると、カメラは写真が同じ明るさになるようにオートで調整してしまいます。
露出を決める3つの要素の組み合わせを調整する事で、写真の明るさを変える機能が、露出補正です。
このように、絞りが露出に与える影響は1/3しかないので、最近は絞り=被写界深度を調整する装置と考える方が大半だと思います。
初心者が絞りを難しく感じる原因に、絞りの数値の変化が一定ではない事が挙げられます。
一般的に使われる絞り値(1段ごと)
F1.0→F1.4→F2→F2.8→F4→F5.6→F8→F11→f16→F22→F32
これは絞りが平方根で表記されるからなのですが、理屈より覚えてしまった方が早いと思います。
絞りにはレンズを通る光の量を調整する以外に、ピントの合う範囲「被写界深度」を調整する機能を持ちます。
基本的にF値が小さくなるほど被写界深度は狭くなり、よってボケる量が大きくなります。
最近はレンズが明るいという事に、こちらの要素を重視する方が多いと思います。
よく、単焦点レンズを使ってボケを大きくするといった事を聞くと思いますが、これは一般的にズームレンズよりも単焦点レンズの方が開放F値が小さい事によります。
さて、露出と同じように、被写界深度を決める要素も3つあります。
「F値(開放F値)」「焦点距離」「被写体との距離」です。
被写体との距離はより近い方が、焦点距離はより長い方がボケは大きくなり、50mm f1.4よりも300mm f4の方がボケる(被写界深度が狭い)といった事が起きます。
上の写真は、30mm f1.4と180mm f4(APS-Cサイズセンサーカメラ)で被写体が同じ大きさになるように撮影した例ですが、F値が小さく、被写体との距離も近い30mmで撮った写真の方がボケが小さいのがわかります。
焦点距離が長い事による被写界深度の狭さが、明るさ、被写体との距離による被写界深度の狭さを超えているという事です。
上の写真は逆にボカしずらいと言われる超広角レンズで、F値を小さく、被写体との距離を短くして撮影した例です。
24mmという超広角レンズでも、かなり大きく背景がボケた写真になっています。
このように、被写界深度も3つの要素の組み合わせで決まる為、F値が小さければボケる、というように単純にはいきません。
被写体との距離が近くなるマクロ撮影では、被写界深度も極端に狭くなります。
特に等倍に近い撮影では、F11やF16といった、通常撮影ならパンフォーカス(全体にピントが合った写真の事)になるようなF値も使うようになります。
背景が大きくボケたマクロの写真を見て、F1.4といった明るいレンズで撮ったんだと思われる事がありますが、実際にはF5.6以上に絞ってある事も多いのです。
マクロ撮影では、レンズとセンサー(やフィルム)との距離が、通常よりも遠くなります。
これにより、本来のF値が変化してしまい、例えば開放F2.8のレンズでも、等倍で撮影する際には2段近く暗くなっているのが普通で、これにより変化する光の量を補正する値を露出倍数と言います。
レンズを通した光を測光する一眼カメラでは露出倍数を気にする必要はありませんが、少なくなった光を補う為にシャッタースピードが遅くなる為、手ぶれには注意しましょう。
余談ですが、この変化したF値(実行F値=T値)をカメラに表示するメーカーと、表示しないメーカーがあります。
前者の代表がNikon(ニコン)で、絞り開放にセットしてあっても、近接になるに従ってカメラの絞り表示が変化して行くのが確認出来ます。
絞りの操作はカメラによって違いますが、大雑把に言ってコマンドダイヤルを使うカメラと、レンズの絞りリングを使うカメラがあります。
どちらがいいかは撮影者の好みですが、一気に絞りを大きく操作するなら、絞りリングのほうが直感的で速いと思います。
又、絞りリングには露出との関係がわかりやすいように、1段や1/3段ごとにクリックがあるのが普通です。
が、高級タイプのレンズでは、このクリックをキャンセル出来る機能があるものがあり、動画の撮影や、ボケの量を微妙に調整したいマクロ撮影時に便利です。
通常絞りは、何枚かの羽根(絞り羽根と言う)を組み合わせて、多角形や丸い穴を作り、穴の大きさを変化させる事で調整しています。
最近では、少しでも描写を良くする為にこの絞り羽根の枚数にまでこだわり、又、絞り羽根の形を工夫する事で、出来るだけ円形に近づける「円形絞り」を採用したレンズを多く見かけます。
街灯や車のヘッドライトなどの点光源は絞りの穴の形にボケるので、美しい丸にしたいなら、絞りの形にまでこだわる必要があるのです。
絞り込んで(F値を大きくして)太陽などの強い光源を撮影すると、光源を中心に放射状の線が発生します。
これが光芒です。
光芒の周りの線は基本的に絞り羽根が描いた多角形の角の数になるので、絞りの枚数により線の数が違います。
レンズによっては、最小絞りが多角形にならず、光芒が出ないケースもあるので注意
フィルム時代には、レンズは絞り込む事で性能が良くなると言われるのが普通でした。
又、大判カメラ用のレンズは、ある程度絞り込んで使う事を前提に作ってあったようです。
しかし、デジタルカメラの時代となり、レンズ性能についてよりシビアに言われるようになると、「回折現象」により絞り込み過ぎると画質が悪くなる事が言われるようになりました。
絞るごとに良くなっていった画質が、どこかで頂点を迎え、それ以上絞り込むと徐々に画質が低下してしまいます。
上のカットはレンズの性能が最も高くなるF5.6と最小絞りのF16での画質比較(拡大画像)ですが、F5.6で撮影した左側の画像の方が、シャープでコントラストも高いようです。
絞りは、露出を決める要素の一つと言うだけでなく、写真の表現や画質を決める重要な要素です。
今回、絞りについて、少しマニアックな事まで解説してみました。
レンズによって絞りの個性は違うので、絞り込んだり開けたり色々な絞り値を選択する事ではじめて、レンズを使いこなしている事になり、レンズ沼もより深く楽しいものになるでしょう。
余談ですが、開放絞りしばりなど、逆に絞り値を一定に保って撮影するのも、それに合った被写体や構図を探しながらの撮影となって面白いです。
Photo & Text by フジヤカメラ 北原