Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 Aspherical III のレビューです。Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 Aspherical III は、VMマウントのコンパクトな広角レンズで、開放f1.2という非常に明るいf値を実現していながら、コンパクトなデザインなのが特徴です。光学設計は、前型のタイプIIから一新されています。
VMマウントを採用している事で、多くのミラーレス一眼カメラにサードパーティー製のマウントアダプターを利用して取り付けが可能で、汎用性の高い一本となっています。
クラシックでコンパクトなデザインは、思いのほか最新型のデジタルカメラとのデザイン的な相性も良く、使用するカメラを選ばない強みもあります。
VMマウント採用という事で、マウントアダプターを使って、様々なカメラのユーザーが利用可能なので、今回はSONY α7RIV、FUJIFILM X-T3、SIGMA fp と、3種類のカメラでテスト撮影をしました。
個人的な感想ですが、Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 Aspherical III は、カメラによって相性の良し悪しを感じるレンズで、今回のテストでは SONY α7RIV → FUJIFILM X-T3 → SIGMA fp の順に相性がいいように感じました。
SONY α7RIV + Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 Aspherical III
春分の日を過ぎて、太陽の位置がどんどん高くなっている為、昼間の撮影では物の陰影をつけるのが難しくなって来ました。それでも9時台はまだ斜めから当たった光が、物の形をはっきりと浮き上がらせてくれます。Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 Aspherical III の最大の特徴は、ボケがこの焦点距離としては非常に大きく取れる事です。よってテストは基本的に開放で撮影を行いました。
Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 Aspherical III の描写は、一言で言えば クラシック な写りです。描写のそこかしこにレンズを感じさせる写り方は、フィルム時代のレンズを装着しているような感覚で、横並びになってしまったレンズ性能に、個性という一石を投じるような、Voigtlander (フォクトレンダー) の主張を感じます。
SONY E マウント用の超高性能レンズとして展開する APO-LANTHAR とは、真逆と言っていい写り方で、同じメーカーの中で、ここまで主張の違うレンズを展開するメーカーは珍しいと思います。
開放f1.2では、はっきりと周辺光量が低下します。周辺光量落ちは、レンズ性能という意味では短所と言えますが、条件によっては自然な周辺光量落ちはノスタルジックなイメージ作りに役立つので、事前にレンズ特性を把握している事がポイントだと思います。ちなみに、画像の中心部分だけを使うAPS-Cサイズセンサーカメラでは、周辺光量落ちはほとんど出ませんので、周辺光量落ちが欲しい方は注意して下さい。
ここ数日暖かい日が続き、公園の新芽も徐々に芽吹き初めました。暖かい太陽の光を浴びながらの撮影はとても気持ちが良く、数人のカメラマンの方とすれ違いました。それぞれOLYMPUSとFUJIFILMのカメラを持っていた事を、瞬時に観察してしまうのは職業病でしょうか。
このカットのような、大きなボケを使った表現は Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 Aspherical III の得意とするところで、開放f1.2の、広角レンズとしては破格と言っていい大きなボケが、最大限活かされました。
ちなみに晴天時の日中、開放を使おうと思うと、シャッタースピード1/8000でも足りなくなるので、レンズの特徴を最大限活かそうと思ったら、NDフィルターは必須です。
桜の木を、背景に大きく画面に入れながら、ここまで大きなボケを取れるのはf1.2ならではで、他に代えがたいものがあります。先に書いたとおり Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 Aspherical III は、描写のそこかしこにレンズを感じさせる写りで、このカットでは背景の電線に偽色が出てしまっています。致命的に見えますが、Adobe Lightroomがあれば、意外と簡単に補正出来ます。
Lightroom のレンズ→色収差を除去にチェック + フリンジ軽減→フリンジセレクターを使って、偽色部分をクリック、補正がかかります。自然に、フリンジ部分を除去してくれます。Voigtlander (フォクトレンダー) のレンズは、SONY Eマウント用の APO-LANTHARシリーズを除けば、色収差由来と思われるフリンジがのる事があるので、この機能を使えるようにしておくと便利です。
先に書いたように、SONY α7RIV と Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 Aspherical III は、やや相性が悪い組み合わせだと感じました。最高クラスの解像感、シャープネスを持ったカメラは、レンズの味わいを短所として再現してしまい、偽色の発生などが写真の質を損なってしまう結果となりました。
FUJIFILM X-T3 + Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 Aspherical III
次に、FUJIFILM X-T3で試してみます。
35mmの画角は、フルサイズカメラなら準広角、APS-Cサイズセンサーのカメラなら標準レンズとなるので、APS-Cサイズセンサーで人気のFUJIFILMをテストボディに選びました。FUJIFILMのカメラは、デフォルトで、レンズが装着されていないと(マニュアルレンズは電子接点が無い為、カメラにレンズが装着されたと認識されない)シャッターが切れないようになっています。
そこで、MENU→セットアップ(スパナのマーク)→操作ボタン・ダイヤル設定→2/3→レンズなしレリーズ と進んでレンズなしレリーズをONにするとシャッターが切れるようになります。
FUJIFILM X-T3 はAPS-Cサイズセンサーを採用したカメラなので、35mmは標準レンズとなります。このカットではフィルムシミュレーションにVelviaを選択しました。桜の色が実物よりも濃いピンク色に再現され、背景の青空の青も深みを増し、記憶色を再現するというのが納得できる、美しい色合いに再現されました。
Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 Aspherical III の大きなボケと、Velviaカラーが鮮やかに満開の桜を表現してくれました。
ソメイヨシノはよく幹からちょろっと枝が出て花が咲くことがあり、よく被写体にされるところです。
Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 Aspherical III は、Leica Mマウントの設計の為、最短撮影距離は50cmと、近接には弱いレンズとなっています。 今回のようにミラーレス一眼カメラで使うなら、KIPONなどから発売されている、中間リングを兼ねたマウントアダプターを使う事で、最短撮影距離を長くしておくといいと思います。
裏路地の風化したポスターの群れを、真上からの強い光が照らして、強いコントラストを作り出していました。少し古臭い感じを出したかったのと、あまりに強いコントラストを打ち消したかったので、フィルムシミュレーションはPRO Neg.Stdを選択しました。
APO-LANTHAR とは違う、やや甘さの残るクラシックな写りの Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 Aspherical III の写りがイメージと合いまいした。
意外な事ですが、東京の都市部でも、探すと井戸が結構たくさん残っています。井戸の金属が錆た質感と、丸みを帯びた形状を、Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 Aspherical III の美しいボケと、PRO Neg.Stdの豊かな諧調が、うまく表現してくれました。NOKTON 35mm F1.2 Aspherical III は、APS-Cサイズセンサーカメラの標準レンズとして使っても面白そうです。
SIGMA fp + Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 Aspherical III
最後に SIGMA fp でテストしました。
意外だったのですが、今回テストした3機種の中で、一番相性がいいと感じたのが SIGMA fp でした。特に カラーモード T&O(ティール&オレンジ) との相性が良く、クラシックで少しノスタルジックな表現が、とても綺麗だと感じました。
日が長くなった春の夕方、まだ生暖かい空気を感じながら、花見をしながら撮影しました。夕方のイメージに SIGMA のカラーモード「ティール&オレンジ」が良く合うような気がして、テスト撮影の多くを、T&Oで行いました。
フルサイズセンサーの SIGMA fp では Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 Aspherical III の周辺光量落ちが全て写し取られ、T&Oモード独特な色合いと併せて、クラシックなレンズの写りがより強調される結果になったと思います。
丁度通り過ぎた中央線を背景に桜の花をフレーミングしました。ティールな空をバックにオレンジの中央線が引き立ちます。Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 Aspherical III の周辺光量落ちのせいで、空が白~青のグラデーションで再現されたのも、写真の雰囲気を出すのに一役買っています。
実は、明暗差のある被写体では、先のSONY α7RIV 同様、偽色が発生していますが、T&Oモードだと色の中に埋没して目立たなくなる事も、T&Oモードを使う利点の一つです。
少し枯れた椿の花です。枯れた雰囲気が、Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 Aspherical III のクラシックな描写、SIGMA fp のT&O の独特なカラーバランス、夕方の暖かい光、全てが写真を表現する要素としてプラスに働いてくれたと思います。カメラとレンズの個性を活かそうと、いつもとは違うスタンスでの撮影が新鮮でした。
ピントを背景の空に合わせて、アンダー気味の露出で雲をメイン被写体として撮影しました。Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 Aspherical III のボケ味は、綺麗、と一言で言うのも少し違う、オールドレンズの様な独特の味わいがあります。
この組み合わせだと、フィルムカメラで撮影したような雰囲気の写真となる事が多いので、それを狙って撮影するのも面白いと思います。
実は結構細かいところまで写っています。写真全体としてはオールドレンズのようなアバウトさを感じるのに、不思議な感じです。
柔らかい描写ですが、細かい部分まで良く分解しています。テスト機が6100万画素のα7RIVな事を考えると、なかなかの描写性能です。
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Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 Aspherical III は、ホームランか三振か、というむらっけのあるレンズでした。偽色は確かにレンズの大きな短所ですが、周辺光量の落ちるクラシックな写りは、他に代えがたい魅力があります。個性の強い、芸術家肌のレンズなので、おおらかなカメラと付き合わせてやりたいところです。
今回テストした3機種の中では、SIGMA fp が最も相性が良いと感じましたが、SIGMAも個性の強い芸術家肌のカメラでした。個性派どおし気が合うのかもしれません。写真を撮るほどに、レンズの個性が理解できるほどに、愛着が湧いてくるレンズだと感じました。