Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2 Aspherical VMのカメラ専門店スタッフによる実写レビューです。フォクトレンダーらしい性能とクラシカルなデザインが魅力の単焦点レンズをスナップ作例とともに紹介します。
Vintage Line のレンズという事で、クラシカルで美しいデザインになっており、持っているだけで楽しくなります。同時に発売される COLOR-SKOPAR 21mm F3.5 Aspherical VM と、デザイン、大きさはほぼ同じで、コンパクトなレンズです。
クラシカルなデザインを採用するVintage Lineのレンズらしく、パーツの仕上がりも美しく、往年の名レンズを手に入れたような満足感を得られるでしょう。と言ったら少々大袈裟かもしれませんが、フォクトレンダーらしい作りのいいレンズです。
LEICA などの高級機にも見劣りしない、高級感のあるデザインとなっています。勿論意識して作っていると思いますが、このデザインが意外と、現代のミラーレス一眼にもマッチするから不思議です。
そうは言ってもやはりLEICAに装着するのが一番しっくり来るようですね。
35mmという、画角を活かして、街中のスナップを撮影しました。MFレンズのテストという事で、カメラはファインダーの見やすさを重視、EVFとしてはトップクラスの見やすさを誇る「Nikon Z7」を使いました。又、Nikon のミラーレス一眼 Zシリーズは、オールドレンズとの相性がいいというのも今回Z7をテスト機に選んだ理由のひとつです。
以前であれば、フルサイズのミラーレスというばSONY一択でしたが、今はCanon、Nikonを合わせた3社があり、選択の幅が大きく広がったと思います。ULTRON Vintage Line 35mm F2 Aspherical VM はMマウントを採用している為、マウントアダプターを利用して、Canon、Nikon、勿論SONYのフルサイズミラーレス一眼にも装着出来、便利です。マウントアダプターは焦点工房製です。
早朝の飲み屋街を散歩しながら撮影しました。閑散とした、うらぶれた飲み屋街が、冬のやわらかな光に照らされて、疲れ切った、それでいて優しい表情を見せてくれます。
フォクトレンダー ULTRON Vintage Line 35mm F2 Aspherical VM は、周辺光量の落ちる、少しクラシックな雰囲気な写り方ですが、ピントの合った部分は現代のレンズらしいシャープな描写をみせます。
年季の入ったトタンの壁が時代を感じさせます。AFレンズであればピピ!の一瞬で合焦、シャッターを切るまでは数秒です。しかし、Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mm F2 Aspherical VM は、マニュアルフォーカスのレンズです。EVFを拡大モードにして慎重にピントを合わせ、フレーミングを整えてシャッターを切る。ゆっくりとしたプロセスを楽しみながらの撮影です。解像感を見る為に拡大してみます。
テストカメラは4575万画素のNikon Z7です。いつもと同じピクセル数で切り出すと、かなりの部分拡大となりますが、シャープな描写です。設計にあたり、メーカーではコンパクトさと性能のバランスを重視したそうですが、看板に偽り無しの非常に優秀な描写性能と言えるでしょう。
細い路地の奥に真っ赤な「ニ」の文字。「ニ」はカタカナでも、漢数字でも、反対側から読んでも「ニ」です。お客の気を引く為に色々と考えるものです。昼でも薄暗い飲み屋街の路地に真っ赤な「ニ」が燦然と輝いていました。
「東京の空は狭い」地方から昔、上京した人はそう言ったそうですが、狭い空でも空は空。あの小さな窓から、狭い空を眺めていた人がいたんでしょうか?
Z7 と ULTRON Vintage Line 35mm F2 Aspherical VM の組み合わせが、窓に反射した空の青さを、雰囲気だけで表現してくれました。フォクトレンダー ULTRON Vintage Line 35mm F2 Aspherical VM は、不思議とクラシックな写りをするレンズだと感じました。ボケの感じが古いレンズ的なのかもしれません。
路地を抜けて、繁華街の裏通りを散歩していたら、昭和な感じのコインランドリーがありました。ホワイトバランスを定常光に固定して、日陰での撮影だった為、青かぶりして褪色してしまったような、モノトーンに近い色になりました。
今回の撮影では、レンズ補正を全てOFFにして撮影しましたが、フォクトレンダー ULTRON Vintage Line 35mm F2 Aspherical VM は、レンズ由来の自然な周辺光量落ちを表現に活かしたくなりレンズです。
古い石段に木漏れ日が落ちていました。氷や雪無しに、写真で冬の雰囲気を出すのはちょっと難しいですが、柔らかい光と、枯れ葉のおかげで、冬っぽい写真が撮れたような気がします。
フォクトレンダーのレンズのボケは個性的な物が多く、このレンズも独特の雰囲気があると感じます。個人的にはドイツのレンズ、例えばヤシカコンタックス時代のツァイスのレンズと方向性が似ている気がします。
ボケた部分に何があるかを何となく伝えてくれるボケ味だと感じます。
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フォクトレンダーらしい性能のいいレンズですが、今回感心したのはそこではありません。一言で言うなら
「雰囲気」
フォクトレンダー ULTRON Vintage Line 35mm F2 Aspherical VM は、雰囲気のとてもいいレンズだと感じました。
クラシカルなデザインに感情が引っ張られてしまったのかな?周辺光量落ちに騙されているのかな?とも考えましたが、それだけでは無いようです。
高画素のミラーレス一眼にも対応出来る、トップクラスの性能を持ちながら、オールドレンズのような、個性的な雰囲気をまとったレンズだと思います。
私はせっかちな方なので、普段はAFで手早く撮る事を好みますが、ゆっくり慎重にピントを合わせて、露出補正値を決め、シャッターを切る。その場で画像を確認しピントの位置を確認する。
そんな一連の動作を楽しめる、雰囲気のあるレンズでした。