Leica M2 実写レビュー × 写真家 内田ユキオ|気負わずスナップに徹せられる「じゃないほうのLeica」の魅力

目次
M3かM2のどちらを選ぶかは、人生を左右する決断だった
自分なりのこだわりと美学を持つほうが楽しい
M3からM2に持ち替えたときに感じた、解放感
シンプルこそがM2の魅力
頭で考えるより先に、一歩前へ出られるカメラ
M3かM2のどちらを選ぶかは、人生を左右する決断だった
好きな服と似合う服、どちらを着るのが幸せなのか悩んだことがあるでしょうか? 僕にとっては50mmが好きな服で、35mmが似合う服。Leica M3が好きな服で、Leica M2が似合う服だったのかもしれません。
初めてLeicaを買おうと思ったとき———1990年ごろだと思いますがインターネットがなくてムック本の類も少なく、M型Leicaにどんな種類があるかも知らずにお金だけを握りしめて店に行きました。Leicaが欲しかったというよりは、真剣に写真に取り組むために後戻りできないカメラが欲しいと思ったからです。
Leica M3を選んだのは、それがM型Leicaの最高傑作だという評判を知っていたからではなく、店にあるいちばん安いM型Leicaだったから。傷だらけだったせいでしょう。普通ならLeica M2やLeica M4-Pが安いはずですから出会いとして運命的。
Leica M2・Summaron 35/2.8・絞りF4・1/30秒
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Leicaは威圧感がないから人に近づきやすい、というのは過去のこと。シャッター音もデジタルなら皆無と言っていい。それでもこの距離で撮った写真を見ると「Leicaならでは」と思う。
スナップを撮っていると、「あっちの道を選んでいたら、あるいは別の街に行っていたら、まったく別の出会いがあったはずだ」と考えることがあります。流行りの言葉で言うなら「初めてのLeicaとしてLeica M2を選んでいた世界線」を想像する。
Leica M3かLeica M2のどちらを選ぶか、昔は人生を左右する決断だとされていたそうです。大袈裟だとは思いません。そのころの僕は、自分がどんな写真を撮りたいのか、自分に合ったレンズの画角も知らないわけです。うまく撮れなくて写真が嫌いになったり、自信を失ったりしても不思議ない。ボディは慣れていくことができても、レンズの画角は相性があると思います。
Leica M2・Summaron 35/2.8・絞りF4・1/60秒
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1950-60年代の写真家のポストカードに憧れがあり、トーンまで含めて真似してみたもの。カラーだったら名作になっていたかもしれない。
自分なりのこだわりと美学を持つほうが楽しい
念のため書いておくと、これはLeica M3のポテンシャルを最大限に活かせるのは50mm、Leica M2なら35mmという前提です。メガネをしている人、左目を開けて撮るのが苦手な人など、Leica M3に50mmだと見え方が窮屈すぎて、Leica M2以降のファインダー倍率で50mmを使うほうが楽という人もたくさんいます。「Leica M3だと50mm専用機っぽいけどLeica M2なら35mmも50mmも使えるからそっちがいい」という人もいます。
けれどもここをルーズにしていくと「M型Leicaは使えるレンズが限られているけれど一眼は便利だからそっちがいい」となるわけで、時代がそれを示しています。どこかに譲れないラインを設け、自分なりのこだわりと美学、哲学のようなものを持つほうがLeicaとの付き合いは楽しくなると思います。
そんなわけで偶然に手に入れた50mmで自分のスタイルを探していくことになるのですが、写真の先生として最高のレンズでした。
視野に近い35mmと視線に近い50mmと言われることがあるように、被写体を見つめる感覚がすごく自然で、主題があって背景を脇役として取り込むような撮り方を覚えるのに最適。極端にボケるわけでもなく、被写界深度のコントロールを身につけ、モノクロしか撮らなかったことで世界を濃淡で見る習慣ができ、光を読むこともできるようになります。
Leica M2・Summaron 35/2.8・絞りF8・1/60秒
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声をかけてコミュニケーションを取ったとき、相手を待たせるのはよくないと思っている。50mmだとつい構図を整えすぎるので、35mmで「細かいことはいいや」というくらいの気持ちがいい。
Leica M2・Summaron 35/2・絞りF2・1/30秒
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ズマロンでは難しかったけれどズミクロンなら撮れる。
M3からM2に持ち替えたときに感じた、解放感
ちょっと前置きが長くなりました。ここから本題のLeica M2です。
Leica M3に不満はなかったもののサブ機が必要になります。ある有名な写真家がボディは二台でレンズは一本で撮影すると本で読みました。普通は逆ですよね。フィルム交換に時間がかかるLeicaならでは。Leica M3をもう一台買うか迷いましたが、あのとき選ばなかったLeica M2と35mmにしてみました。
愛機である前期型M2とSummaron 35mm F2.8。
Leica M3はデリケートなカメラで、強い衝撃を与えて当たりどころが悪いとファインダーブロックが落ちて(外れて)しまうことがあります。僕も経験があってLeica M3が入っているバッグを床に置いたらゴツッと嫌な音がして、慌ててファインダーを覗いたら…… お先真っ暗、なんてそのときはジョークを言う余裕がなかった。修理に十数万円かかりました。その経験もあって操作感が似ていてタフなLeica M2を選んだわけです。
出っ張りが少ない———短いレンズをつけた時の姿がとくに好きで、撮影もアクティブになれる気がする。
見栄えを良くするためにデザインしたのではなく、扱いやすさと丈夫さを求めて機能を追求したものが美しく見えるのは究極。
Leica M3をメインにサブ機としてLeica M2を使う時期が数年ほど続きます。『Leicaとモノクロの日々』という本を出したとき、かなり反響がありました。
SNSがない時代ですから郵便で感想を送ってくださる人もいて、意外だったのはLeica M2で撮った写真がとくに好きですという声が多かったこと。Leica M3と50mmが自分にとって最強の組み合わせで、ほとんどはそれで撮っているつもりでした。
当時よく言われていたのが、望遠レンズはセンスがあれば撮れる、だから写真が下手になりがちなので広角レンズを使って足で撮ることを覚えろ、と。50mmは厳格なところがあって、足だけでもセンスだけでも撮れません。雑に撮るとほんとうにつまらない写真になりがち。
一眼レフ+大口径の組み合わせなら寄ってボケが使えますが、Leica M3に付けていた初期型ズミクロンは最短撮影距離1mで開放F2。そこで写真に華を添えること———ファッション写真のようにスタイリッシュな構図で撮ることを覚えました。映画が好きなのでその影響もあったと思います。
この感覚を持ったまま35mmを使うと、写真に熱のようなものが加わって、人間らしさや勢いが感じられるようになります。ちょっとルーズになったフレームに周囲のものを取り込み、被写体となる人たちと関わりを持つことで温もりが生まれるからです。
Leica M2・Summaron 35/2.8・絞りF4・1/125秒
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50mmで撮っていた写真をどこまで35mmに置き換えられるか模索していた時期。レンズが少し新しい分だけ画像はクリア。
Leica M2・Summaron 35/2.8・絞りF8・1/125秒
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これが50mmを使い込んだ感覚のまま撮った35mm。
いつもスーツばかりだけれどカジュアルな服のほうが似合っていていいね、と言われたら意識してしまいますよね。35mmのこと、そしてLeica M2のことを急に意識するようになります。それもこれもLeica M3と50mmだけで過ごした時期が長かったからで、今回の記事の多くをLeica M3に割いた理由でもあります。
暗闇でも歩きながらでもフィルム交換できるほどLeica M3が手に馴染み、ファインダーを覗かなくても50mmの距離に立てる、それで35mmのついたLeica M2を持ち替えたときの戸惑いと解放感。極端に言えば、帰りのチケットを持たずに旅に出るくらいの自由さがあります。
Leica M2・Summaron 35/2.8・絞りF4・1/30秒
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50mmのほうが楽に撮れるけれど、この「ちょっとルーズな空気感」が出ない。
シンプルこそがM2の魅力
Leica M3には前期と後期、さらに厳密には中期もあるとされ、いわゆるシングルストロークとダブルストロークが有名で好みもはっきり分かれます。シングルストロークを二回で巻くのが好きとか、それをやるとメカに良くないとか、いろんなこだわりを聞いてきました。
Leica M2にも前期と後期があって、機能としてはほとんど同じですが内ギザと呼ばれる前期のモデルが好きです。Leica M2の魅力はなんと言ってもシンプルなところ。過剰だったLeica M3から余計なものを省いていって実用に徹したところにあると思っていて、初期型のほうがLeica M3の面影が感じられる気がします。
Leica M3の過剰とも思える装飾と比較してLeica M2はスッキリしていてシンプル。それでもこの時代のLeicaならではの作りの良さと気品が感じられる。
前期型にも違いがあって、これはフィルム巻き戻しがボタンのもの。
細かいことを言うと、このダイヤルのわずかな出っ張りが素晴らしい。指一本で確実に動かせるのに誤作動がない。
後期のモデルは出番が少なかったため高橋七宝でブラックにしてもらいました。好きなほうをブラックにしてもらえばよかった、そうすればヴィンテージに負けない味が出たかもしれないのに、と後悔しています。
たまにしか使わなかったのにこれだけ育ったのだから、出番の多い前期型にすればよかった。カメラは実用品で大事にしない主義だけれど、一台くらいは眺めて楽しむものが欲しかった。
巻き上げレバーにスッと入っている金色の筋がいい。ダイヤルの赤文字がアクセントになっていて美しい。ブラッククロームとは違う。
頭で考えるより先に、一歩前へ出られるカメラ
最後に組み合わせるレンズについて。50mmを付けてみたこともありますし、八枚玉のズミクロンやズミルックスも所有してみて、最初に選んだズマロン35mm F2.8がいちばん好きです。
Leica M2は誤解を恐れずに言うなら「じゃないほうのLeica」です。偉大なLeica M3の存在を抜きに語れない。レンズでいえばズミクロンという華やかなスターがいて、それじゃないほうのズマロンがLeica M2には合う気がします。
傷だらけということもあって当時はかなり安く買えた。Summicronじゃないほうで、F3.5じゃないほう。
こっちの角度もいいじゃないか、と親バカ的な気持ちになってしまう。小さな前玉でも光らせると存在感がある。
気負いなく欲も出さずに撮るのがLeica M2の楽しさで、ボケがどうとかF4の魔法だとか、そういうことはいったん忘れたい。どこにでも持って行って、ぶつけたり擦ったりしても気にせず、頭で考えるより先に一歩だけ前に出ている感じが好きです。
Leica M2・Summaron 35/2.8・絞りF11・1/125秒
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アメリカン・ニュードキュメンツと呼ばれる写真家たちの影響を受け、日常に潜む… といったテイストを意識するようになった頃。写真は優しく距離感は近い。これぞ35mm。
Leica M2・Summaron 35/2.8・絞りF2.8・1/30秒
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関わりを持って写真を撮るとき、50mmだと声をかけてから少し離れることになる。その一瞬の間を嫌って35mmを多用するようになった。
Leica M2・Summaron 35/2.8・絞りF11・1/60秒
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背景と奥行きが35mm的な… というのは置いておいて、スナップには時代が残るところがいい。ストリートフォトという言葉は苦手で、やっぱりスナップが好きだ。
Photo & Text by 内田ユキオ(うちだ・ゆきお)

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