5月16日に開催されたX-SummitでX-T50などと同時に発表された「XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR」を早速テストする機会に恵まれました。
ズーム操作時にレンズ全長変化が無いインナーズーム方式を採用し、フォーカス駆動用のアクチュエータにリニアモーターを搭載。さらに小型のフォーカスレンズ群を駆動させることで高速なAFを実現したとアピールされています。
レンズ名称からも分かるとおり、絞りリング搭載を表す「R」、上述の通りリニアモーター搭載の「LM」、防塵・防滴・マイナス10℃の耐低温構造を表す「WR」仕様となっています。
それでいて重量約240g(レンズ単体)に抑えられ、最大径65mm x 全長71.4mm(フード装着状態で全長約100mm)、フィルターサイズはΦ58mmのコンパクトサイズに仕立てられていることに、APS-C専用設計のメリットが存分に発揮されていることが伺えます。
ただし、光学手ブレ補正(OIS)を搭載していません。X-Processor 5を搭載する最新機種ボディは2024年5月時点では全てIBIS(ボディ内手ブレ補正)を持っていますので心配ありませんが、従来機ユーザーで、例えばIBISを搭載しないX-Pro3やX-E4などと組み合わせたい場合には少しだけ注意が必要です。
ズームにより開放F値は可変となりますが、最小絞りはどの焦点距離でもF22となります。
各焦点距離ごとの開放F値を別表にまとめています。
約240g(XFレンズのズームレンズとして最軽量)というスペック通り、手にした感想は「小さい!軽い!!」でした。それでいて剛性感・操作感は良く、フード剛性感と着脱性についても上々。
コンパクトなX-T50と組み合わせて机の上に置いた場合でもレンズ鏡筒が先にヒットすることはありませんでしたので、三脚使用時に台座にレンズが先に当たって操作性が悪化する、といったこともなさそうです。
富士フイルムX-T50・XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR・40.8mm(35mm判換算61mm)で撮影・絞りF5.6・1/240秒・ISO250・WBオート・フィルムシミュレーション:PROVIA / スタンダード
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40.8mm時の開放F値はF4.3となります。画面右側のコンクリート部分にAFさせている都合で、F5.6まで(0.7段強)絞っています。周辺部まで見事な結像性能に驚かされます。
今回組み合わせたカメラは筆者所有のX-T5と、先日のレビューでも登場したX-T50。
私ごとではありますが、筆者は普段X-T5(約560g)にSmallRigのL型グリップ(約80g)とXF16-55mmF2.8 R LM WR(約660g)を組み合わせて運用しています。この組み合わせで合計約1.3キロになります。これでもストレスを感じない重量・サイズ感であることが気に入っていますが、今回のXF16-50mmとの組み合わせではグリップありの状況でも900g弱と1キロを下回り、かなりの軽快感。試しにグリップを外して運用もしてみましたが、レンズが軽量・コンパクトなのでボディ単体でのグリップ性に、手の大きな筆者(手袋のサイズはLL〜3L)ではありますが、不満は全くありませんでした。
X-T50との組み合わせでは約700g程度と、日常的に持ち歩いても負担にならないサイズ感を実現しているので、心にグッと来るものがあり、バランス感も「ベストマッチ」と言って良い仕上がりです。
X-T50のレビューでも触れていますが、今回のX-T50は製品版ではなかった事が影響しているのかAF動作に不安がありましたので、使用感の報告はX-T5での感触となります。
公式でアピールされている通り、非常に迅速かつ高レスポンスなAFが快適。至近側から遠方にAFさせた場合でも手計測出来ない速度で合焦します。XF16-55mmF2.8R LM WRと比べても体感でワンテンポ早く動作しました。
AFの動作音もほぼなく、またOISを持たないのでレンズ側から手ブレ補正の駆動音が発生しないこともあり、静粛性はかなり高い印象でした。
天気の都合で快晴での強い逆光条件の検証は出来ませんでしたが、逆光耐性は申し分なく、筆者基準でゴースト・フレアが気になるシーンはありませんでした。
描写性能についても、遠景から至近側まであらゆる条件で撮影しましたが画面の隅々まで非常にシャープ。強いて言えば至近端かつ開放絞りでのみ僅かに滲みました。とはいえ、フィルムシミュレーションの選択や設定によっては、滲みはほぼ気にならないと思われます。試しに硬調設定で撮影してみましたが、そうした設定でもボケ味は自然で悪くありません。
富士フイルムX-T5・XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR・50mm(35mm判換算75mm)で撮影・絞りF4.8・1/680秒・ISO250・WBオート・フィルムシミュレーション:PROVIA / スタンダード
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ピント位置は驚くべきシャープネス。直接比べたワケではありませんが、XF16-80mmF4 R OIS WRよりも描写性は上、という感触です。テストめいた撮り方になりますが、繰り返しAFさせて撮影しても、ピント精度は安定していました。
富士フイルムX-T5・XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR・50mm(35mm判換算75mm)で撮影・絞りF4.8・1/850秒・ISO640・WBオート・フィルムシミュレーション:PRO Neg.Std
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至近端かつ開放絞りで撮影しました。画面の右上にワザと写り込みを入れて色収差などをチェックしています。僅かに滲みがある程度で素晴らしい描写力だと感じました。XF16-55mmF2.8 R LM WRよりも至近時のAF精度は正確だと思います。
富士フイルムX-T5・XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR・50mm(35mm判換算75mm)で撮影・絞りF4.8・1/680秒・ISO250・WBオート・フィルムシミュレーション:PRO Neg.Std
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撮影距離は約50m弱で、ビルの壁面を撮影しました。素晴らしい、の一言です。
富士フイルムX-T50・XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR・16mm(35mm判換算24mm)で撮影・絞りF5.6・1/3000秒・ISO250・WBオート・フィルムシミュレーション:ETERNA ブリーチバイパス
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硬調なフィルムシミュレーションとの組み合わせも良い。キレのあるとても気持ちの良い写りです。
富士フイルムX-T50・XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR・42mm(35mm判換算63mm)で撮影・絞りF4.4・1/120秒・ISO500・WBオート・フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ
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単焦点レンズくらいのサイズ感で持ち歩けるので、スナップ撮影が捗ります。プログラムオートで淡々と写し撮りたい場合には、むしろこのくらいの開放F値の方が都合が良い場合もあります。
富士フイルムX-T50・XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR・50mm(35mm判換算75mm)で撮影・絞りF5・1/640秒・ISO250・WBオート・フィルムシミュレーション:PROVIA / スタンダード
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画面下部中央付近の建物まで約250m、背景の鉄塔は約600mの距離となります。遠景シーンでは大気状態が与える影響を無視できませんが、比較的良い条件で撮れていることもあり、かなりの細部再現性となっています。
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小さく、軽く、高い描写性能と自然なボケ味に加えて卓越したAF性能を持つ万能レンズである、が筆者の評価です。
標準域のズームレンズには実力派やサイズバランスに特化したレンズなど、魅力的なレンズが数多くありますが、その中でも注目に値する性能があり、このサイズと重量で実現したことに驚きを禁じえません。
さらに、このレンズの印象を良くしているのが取り回しの良さに影響するズーム全域での最短撮影距離24cmという実力です。フード先端からで言えば約12cmまで被写体に迫る事ができますので、「あと少し寄れたら!」と悔しい思いをする頻度はそれほど無いのでは、と思います。
富士フイルムX-T5・XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR・50mm(35mm判換算75mm)で撮影・絞りF5.6・1/3000秒・ISO250・WBオート・フィルムシミュレーション:ETERNA ブリーチバイパス
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最後は趣味に走って撮影した1枚。想いのままに撮れるレンズという感想でした。
希望小売価格は税込み121,000円。既にXユーザーである人たちにとっては、高価な設定ではありますがサイズバランスと性能を考慮すれば”悪くない選択肢である”という見解を披露してもある程度の賛同を得られるでしょう。実際に筆者もクラっと来ていますし、スルメイカの「噛めば噛むほど」のように、使えば使うほど軽さと写りに感心させられました。
感心した理由の中には、少しシビアな話になりますが、AF制御の分解能がより精密になっていると感じられたことも含まれます。例えば、1mを100cmと表現するか1000mmと表現するかで、分解能のイメージができるかと思います。本レンズはmm単位で制御できているので、仮にカメラの指示から僅かなズレが生じたとしても誤差は僅少です。ピントが精度良く合焦しているとシャープに見えますので、画質的にも好印象に繋がります。
これからXシリーズを検討するという前提の場合はネガティブな話になります。何より、同じ予算でフルサイズ機が手に入りますので、Xシリーズの訴求力は限定的です。
そのうえで、スペック的に見栄えのしない標準ズームが12万円というのは、人を冷静にさせます。「このレンズで撮りたい!」と情熱に訴えかけてくることも、機材選びでは重要な要素です。情熱に頼れない場合には触れてみて良さを体感してもらうことが重要ですが、「使えばわかる」というのは「使わなければわからない」と同義です。現状では、入手性含め良さを体験してもらう機会が限定的であることが、Xシリーズの弱点となっています。
Photo & Text by 豊田慶記(とよた・よしき)