はじめに
ブラックのトップカバーはアルミ製に。でもやっぱりLeicaは真鍮が……
背面LCDはサファイアガラスに。内蔵メモリーは増量
省略されたLeica伝統のお作法
「トリプルレゾリューションテクノロジー」を採用
露出の精度は向上している印象。一方で挙動のタイムラグには慣れも必要
Leica M11-P作例
まとめ
作例に使用したカメラ
Leica Mシリーズは、4年おきにフルモデルチェンジ、2年ごとにマイナーチェンジをするサイクルがあるようです。
フルモデルチェンジされた時はLeica赤バッジが前面に貼られます。筆者はこのバッジの存在が少々苦手なのですが、大好きなユーザーも少なからずいらっしゃるようです。もちろん個人の好みですから、良し悪しをとやかくいう問題ではありません。
Leica M9以降はマイナーチェンジされるとネーミングに「P」名が入り、軍艦部にLeicaのロゴがエングレーブされ、前面の赤バッジが外され、そこにマイナスネジがつけられます。
外観から赤色がなくなるので目立たないモデルとなるわけですね。
このサイクルはルーティーン化しているように思いますが、そういえばフィルムM型Leicaにおいても、ライカアラカルトで注文しますと「赤バッジ外し」することは可能でした。
Pとはすなわち「Professional」の意味とされていますが、ノーマルのモデルでも、十分に高価、性能面でも大きく変わることはありませんから、十分にプロフェッショナルモデルですよね、だからあまり強い意味を持ってはいないのではないでしょうか。見た目と雰囲気重視ということになります。
Pになるとあまり目立たないからスナップに役立つみたいなことを言う人もいますが、これも、あまり説得力はないかと思いますし、昨今の街中でのスナップショットでは、堂々とカメラを目立たせ「自分は写真を撮る人である」ことを周囲に認識させて撮るほうが、つまらないトラブルの発生は少なくなるものです。「Leicaを使ってきちんと街と対峙している人」というイメージは大事なわけです。
筆記体のLeicaロゴがエングレーブされています。「WETZLAR GERMANY」の表記は、マイナーチェンジモデル、すなわちPモデルの楽しみですね。これほど生産国、会社所在地に対して熱い思いの多い人がいるカメラブランドも他にはありません。
Leica M11-P・Leica ズミクロンM f2/35mm ASPH.・絞りF2.8・1/500秒・ISO400・AWB
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レンジファインダーLeicaは警戒されづらいのがいいと思います。とても良い描写なのはレンズとカメラの相互作用でしょうか。
先に述べましたように、ごくわずかな、パーツの形状の違いとか容姿の違いで、Leicaユーザーは大騒ぎしてしまいます。
撮影には関係ない、出来上がる写真には影響することのない、どうでもいいようなことが気になる。これこそがM型Leicaの特徴のひとつなのです。
意味がない、バカバカしいと言ってしまえばそれで話は終了してしまいますが、いまやカメラの連写性能や「写り」に対して大騒ぎするよりもカメラの容姿の違いを論議したほうが筆者は健全な感じすらします。もっともLeicaに限っては昔からかもしれませんが、もはやカメラそのものを購入することにおいてその意味を問われる時代ですからなおさらです。
筆者は赤バッジのついたLeicaを入手した時はバッジのところにパーマセルテープを貼っていました。正直、個人的に赤色が苦手だからです。
Leica M11そしてLeica M11-Pはブラックのみトップカバーはアルミ製で、軽量化が計られています。
これは斬新というか実用的な考え方ですね。ブラックなんだから剥げた時は真鍮の色が顔を出さないと嫌という人も少なからずいることは承知しておりますが、それでも軽量化を追求したのは、年配者への配慮なのでしょうか。
シルバーボディはLeicaの伝統素材である真鍮の外装を使用していますが質量は当然のことながら、かなり増すことになります。
これは実際にシルバーメッキのノリの問題もあるようですね。Leica M6の初代モデルが登場した時に亜鉛ダイキャストにメッキしたものが出たのですが、メッキのノリがいまひとつで、個体によっては泡が浮いたようになり、メッキが汚く剥がれた個体をみた記憶があります。シルバーなのにありえないですね。
この理屈でいうと、復刻されたLeica M6もカバーは真鍮製になったのだから、シルバーメッキのモデルを出すべきだと思うのですがどうなんでしょうか。
少し話が逸れました。Leica M11-P、筆者が選んだのはシルバーモデルです。やはりLeicaは真鍮じゃないとなあ。
でもね、あれほど重たいカメラはダメだ、軽いのが正義であると日々大騒ぎしている筆者なのですが、齢を重ねて、還暦を過ぎたあたりから、ブラックよりもシルバークロームのLeicaのほうが好きになってきたからであります。
これは不思議なものですね。でもLeicaはあいかわらずブラック人気なので、リセールバリューを考えると、ブラックを選んだほうがいいのかもしれないですね。でもどうでもいいです好きな方を選べば。大いに悩むか、両方とも購入してください。
M型Leicaの伝統美って、意外にカメラを寝かしたところにあるのではと思っています。外観の眺めを楽しむことができるのもM型Leicaならではのものでしょう。
Leica M11とLeica M11-Pの仕様の違いは背面LCDがサファイアガラス製になり、擦り傷に強くなったこと、内蔵メモリーが64GBから256GBに増量したことです。
モニターがサファイアになっても、ダイジダイジなLeicaですから、実際はモニターの保護シートなどを貼っていらっしゃる方が多いのではないかと思いますが、どうでしょうか。
筆者が個人的に重要と感じているのは、Leica M11-PのメディアスロットはSDカードのシングルなんですが、内蔵メモリーに同時書き込みが可能になっていることであります。
このためシングルスロットであることの不安は解消され、ダブルスロットでなければ高級カメラではないと必要以上に大騒ぎするディープLeicaユーザーに配慮しています。
もちろん内蔵メモリーに記録された画像を一括でSDカードにコピーすることも可能になっています。
筆者はこれに助けられました。先日Leica M11-Pを携えて、田舎に撮影に出かけたのはいいのですが、SDカードを忘れまして、内蔵メモリー記録に世話になり助かりました。コンビニで高くて遅いヘンなカードを購入しなくて済んだわけです。
Leica M11-Pの背面です。とてもシンプルなボタン、ダイヤルのレイアウトです。日本のミラーレス機では、入手してから手放すまで、一度も使用しない機能って、かなりありますよね。シンプルな操作性は誤操作も防ぎます。
Leica M11-P、カメラまわりですが、筆者は不満がないわけではなく、ネガな話を最初にしておきましょうか。まず外観上ではまずベースプレート(底蓋)が省略されてしまったことがどうしても気になります。
これはね、筆者はLeica歴がそれなりに長いおじいさんなんで仕方ないですよね。Leica M11-Pもまったく同じ仕様です。無駄なものは省略してしまえという若者思想なのかもしれないですがどうなんでしょう。
M型Leica初のデジタルLeica M8からそれはギミックと言われようともベースプレートは採用され、Leica M10-Pまで続いてきました。Leicaのお作法、儀式、様式美というふうに考えたいのですが、もうどうでもいいのでしょうか。
フィルムを交換する時のように、ベースプレートを外し、メモリーカードを挿入、あるいは交換するという一連のワークフローでリズムを刻む人もいたかもしれません。これが失われたのですが、冷静に考えてしまうと面白くないんですよね。
逆にメモリーカードを挿入する際にベースプレートをどこに置くか、あるいは収納するのか、というフィルムLeicaからの伝統ともいえるかなり大きな問題はデジタルMになっても続いていたのですが、Leica M11以降は、お尻のポケットに入れたベースプレートをうっかりケツ圧で曲げてしまうような事故もなくなったわけですね。
それにしても、なぜM型Leicaは裏蓋の蝶番式を採用せず、ずっとベースプレート方式を採用していたかが謎でしたが、これを完全に省略してしまうということは想像できませんでした。Leicaを使用する実用派の写真表現者はLeica M11からベースプレートが省略されたことを歓迎していることでしょう。
ベースプレートが省略されているので、バッテリーの形状が工夫され、蓋代わりになっています。Leica M11と共通です。バッテリー容量が大きく、ビゾフレックスでの使用やライブビュー撮影を多用する場合でも安心感があります。
Leica M11-Pのキーデバイスは35mmフルサイズCMOSセンサー。Leica M11と同じ6,000万画素です。
面白いのは記録サイズを約6,000万画素/約3,600万画素 / 約1,800万画素の3通りから選べる「トリプルレゾリューションテクノロジー」を採用しています。さらにWi-Fi/Bluetoothと、USB Type-Cを装備しました。Leica Q3、Leica SL3と同じ形式を採用しています。M型Leicaにケーブルを差し込む感じは、なんか、デザインがレトロなEV車に充電するような感じで、筆者などはケーブルの位置関係を考慮して、Leica M11-Pを逆さまにおいて充電しております。見苦しいです(笑)
今回はすべて6,000万画素設定で撮影してみました。これは鮮鋭性至上主義によるものではなくて、画素数が多い画像のほうが、後処理でのトリミングに余裕があってよいのではないかという、デジタルならではの考え方であります。
筆者の中でノートリミングが至上であるこだわりというのは、仕事のデジタル化と共になくなってしまいました。
M型Leicaではレンジファインダーで撮影しますと、視野率は低いわけですから、意図しない余分なものが写ったりするわけです。
昨今の考え方では気に入らないものが画面内にあれば、サクッと切ってしまえという考え方をするようになりました。今回の作例はレビューの目的も兼ねていますから、トリミングはしておりませんが、仔細にみますと切ってしまったほうがいいんじゃね、というコマはなきにしもあらずですね。え、全部切っていい?はい。そうならないように気をつけたいです。
Leica M10から採用されたISO感度ダイヤル。Leica M3、Leica M2のフィルム巻き戻しノブのギミックですね。ISO感度オートの「A」や、メニュー画面からのISO感度設定のため「M」ポジションを備えていますから不満はありません。
Leica M11から測光は像面を測光する方式に変更されたので、電源スイッチを入れるとメカシャッターが開いて、“コトリ” と小さな音がして、測光を開始します。
ここにタイムラグが生じてしまうのはLeica M11-Pを使い始めたころ少々気になりました。
電源を入れた時から一拍置いたような感じもあるので、撮影者個人の生理的な問題に加えて、速写性を重要視する人には少々違和感があったのかもしれません。これまでのM型Leicaにはないシーケンスであることは確かです。一連の挙動は撮影者側としても理解しておく必要があります。筆者もスナップはよく撮影しますからタイムラグは気になるほうですが、それもしばらくするうちに受け入れることができました。やはり慣れの問題は大きいのではないかと思います。
像面測光になったので、マウント内部の測光用センサーの突起部がなくなり、Leica デュアルレンジ ズミクロン 50mm F2のように、これまではデジタルM型Leicaに共通した装着不能レンズも装着することができるようです。「ようです」と書いたのは、これはLeica社の公式アナウンスではないからです。したがって後玉が飛び出した怪しいレンズを装着する場合は自己責任でお願いいたします。
露出の精度は筆者の認識ではLeica M10系のカメラよりもLeica M11-Pの方が向上している印象です。やはりセンサーでの測光のためでしょうか。
メカシャッターのほかに電子シャッターに切り替えればサイレント撮影も可能です。
ただし、電子シャッターはローリングシャッター現象による像の歪みが大きく、撮影にはコツが必要ですし、モチーフによっては絶望的な結果になることがあります。撮影条件やモチーフによって、電子シャッターによる撮影は向き不向きがあるので、使用にあたっては十分に注意した方がいいでしょう。
Leica M11-P・Leica ズマリットM f2.5/35mm・F5.6・1/3000秒・ISO400・AWB
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確かにタイムラグのあるLeica M11-Pですが、これを少し意識しながら使用すると、街中での出会いのイメージも拾いやすくなるようです。
Leica M11-P・Leica ズマリットM f2.5/35mm・絞りF5.6・1/1000秒・ISO400・AWB
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こうした地味でまったく色気のない被写体こそ、強い描写力が求められる案件です。使用レンズはMマウント純正でも廉価な存在ですが、写りは抜群です。
Leica M11-P・Leica ズミクロンM f2/35mm ASPH.・絞りF2.8・1/800秒・ISO400・AWB
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まもなく雨が降りそうな、光の鈍い条件でした。古い雑貨店の店頭です。それでもキューピーの肌色が冴えていました。あえて“華美”すぎないことも重要ですよね。
Leica M11-P・Leica ズミクロンM f2/35mm ASPH.・絞りF11・1/500秒・ISO400・AWB
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冬の青空、たしかに肉眼でも気持ちの良い陽気で、空気のヌケの良い条件でしたが、肉眼よりもコントラストが高く、透明感が強くて優れた描写になりました。
Leica M11-P・Leica ノクティルックスM f1.2/50mm・絞りF1.2・1/250秒・ISO400・AWB・モデル:ひぃな
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球面レンズだけの古いノクティルックスですが前機種のF1.2のモデルよりこちらのほうが合焦点の描写は優れていると思います。周辺光量落ちはそれなりにありますが、これは作画に応用すべきでしょう。
Leica M11-P・Leica ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.・絞りF5.6・1/125秒・ISO6400・AWB
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至近距離に余裕が生まれたのは新しいLeica ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.の大きな特性です。球面収差の影響もあるのでしょう。絞り開放では軟らかく、少し絞るだけでギンギンの描写になります。いわゆる絞りが“効く”描写です。
Leica M11-P・Leica ズマリットM f2.5/35mm・F8・1/1500秒・ISO400・AWB
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絞る時は絞って使うという、割り切りで撮影することも多いですね。絞り開放時のレンズの味わいだけを求めてLeicaを使うわけではありませんので、ここぞという時は思い切り絞ります。
Leica M11-P・Leica ズマリットM f2.5/35mm・F2.8・1/2500秒・ISO400・AWB
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日陰の描写もかなりいいので驚いています。大人しいという意味ではなくて、あえて華美に走らない色再現も個人的には好みです。
Leica M11-P・Leica ズミクロンM f2/35mm ASPH.・絞りF8・1/500秒・ISO400・AWB
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古い建物ですが、思い切り上を見あげてみました。明暗差が大きな被写体でも自然な雰囲気に描写されています。
Leica M11-Pの実際の使い心地はLeica M11と変わるところはほとんどありません。
もちろんデザインの違いで気分は上がるということは当然ありますし、筆者もこれは重要なことであると考えています。先に述べたタイムラグの違和感だけ克服すれば問題はないのではないかと思います。
なおLeica M11-Pと同時にビゾフレックス2も同時に使い始めました。少し大型化したものの、表示画像は見やすく、レンジファインダー連動範囲外の至近距離で撮影するとき、コサイン誤差が気になる大口径レンズを使用する場合、距離計の基線長が不安になる長焦点レンズを使用する時などは、たいへん重宝します。
装着した姿は美しくはないのですが、これはやむをえないところです。実用派のLeica使いは用意した方がいいアイテムだと思います。
ビゾフレックス2(着脱式EVF)をLeica M11-Pに装着してみます。切った羊羹を頭に載せたような感じでM11-Pの美観を著しく損ねますが、大口径レンズや長焦点レンズ使用時に高精度のフォーカシングを行いたい場合には必然のアイテムです。
ビゾフレックスはチルトできますのでローアングル撮影も体に負担なく、楽々です。最近のLeica純正レンズは距離計連動範囲を超えて近距離撮影できるようになっているものも多いのですが、ポテンシャルを発揮させるためにもやはりビゾは必要です。
Leica M11-P・Leica ズマリットM f2.5/35mm・絞りF13・1/500秒・ISO400・AWB
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ビゾフレックス2を装着して、ウエストレベルファインダーのポジションで撮影しています。体に負担にならないのはいいですね。
おそらくLeica M12登場の前には、Leica M11やLeica M11-Pをベースにした限定モデルや記念モデルが続々と出てくるでしょうから、どのように強い趣味性を打ち出してくるのか楽しみです。
もちろんLeica実用派の筆者は、記念モデルはさらなる高価になるはずですから、自分とは関係のない世界ではあるのですが。意外とベースプレートもどきのものが復活したりして…。これはわかりません。
Leica M11-Pは撮影者、撮影日、機種、編集の有無の履歴を記録する「Leica Content Credentials」を搭載した世界初のデジタルカメラということで画像の真正性を証明することが可能な世界初のカメラでもあります。このことを強く打ち出しているのは、AI時代のアナログな操作方法を可能にしたM型Leicaのあり方を示そうとしているのかもしれませんね。
Photo & Text by 赤城耕一(あかぎ・こういち)
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