はじめに
Nikon Z 8の特徴
サイズ感
外観
スペック
Z 8の新機能
AF性能
手ブレ補正
暗所撮影での便利機能
動画性能
まとめ
Nikon Z 8作例
作例に使用したカメラ
Nikon Z 8
作例に使用したレンズ
Nikon NIKKOR Z 24-120mm f/4 S ・ NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S ・NIKKOR Z 20mm f/1.8 S ・ NIKKOR Z 50mm f/1.8 S ・ NIKKOR Z 85mm f/1.2 S
フォトグラファー/映像作家。米国サンフランシスコに留学し,写真と映像を学び,CMやドキュメンタリーを撮影。
帰国後,写真家塙真一氏のアシスタントを経て,フォトグラファー,映像作家として活動開始。新しい技術をいち早く取り入れ,写真や映像表現に活かしている。2014年頃からはドローンを取り入れた撮影も行っている。
現在は,雑誌,広告を中心に,ライフワークとして世界中の街や風景を撮影。講演や執筆活動も行っている。YouTubeチャンネル「写真家夫婦 上田家」でカメラや旅について情報を発信中。ニコンカレッジ講師、LUMIXアカデミー講師、Hasselbladアンバサダー2015、プロフォトトレーナー。
2023年5月26日に発売されたNikon Z 8は、非常に注目されているカメラだ。筆者も発売前から動画撮影や静止画撮影など様々な撮影を行ってきたので、その経験を元にインプレッション&Z 8の基本的な部分を紹介していきたいと思う。
はじめにZ 8はどのようなカメラかと簡単に表現すると「小型なZ 9」というのが相応しいだろう。Nikon Z 9のDNAをほぼ全て引き継ぎ進化を遂げている。小型ながら最高の性能を持つモンスターカメラだ。
Z 8の魅力のひとつはサイズと重量だ。サイズは約144×118.5×83mmとなっており、Z 9と比べると30%も小型化を実現。質量はZ 9が1340gだったのに対して910gとなっており430gも軽い。持ってみるとすぐに感じられるが、Z 9をヘビーユースしている筆者からすると驚くほど機動力があるように感じる。
また、高さも縦位置グリップ部分の3cmほどがないのでとてもコンパクトだ。筆者の場合、車移動の撮影も多いが、海外取材なども多くカメラのサイズと重量は機材選びとして重要な要素だ。
LCC(格安航空会社)などの飛行機に乗ろうものならば数十グラムでの重さ調整が必要になるので、430g軽いのはとても大きい。ちなみに430gを具体的に例えるとレンズだとNIKKOR Z 17-28mm f/2.8が450gなので広角一本増やすこともできる。
Z 9にくらべZ 8は高さが低くなっているためカメラバックも一回り小さな物が使用でき、取材セット自体もコンパクトになり軽量になる。カメラ本体、バック、予備バッテリーの重量などトータルで考えると1kgほど軽くなるので凄いメリットだ。
またユーザーの多いD850と比べると質量は95gほど軽量化され横幅と厚みが薄くなっているのでコンパクトに感じられる。
ちなみにD850とは100gくらいしか質量は変わらないが、24-70mm F2.8のレンズを付けて比較してみるとD850はFマウントのレンズが重いこともありトータルで2075gになり、Z 8とZマウントの24-70mm F2.8と組み合わせると1715gと、360gも全体で軽くなるので、現在D850をお使いの方はレンズとの組み合わせで重量を考えると良いだろう。
次に外観を見てみよう。外観は縦位置グリップ部分のないZ 9という感じだが、レリーズモードダイヤルが無くなっているのでスッキリしている印象。10ピンターミナルはあるが、シンクロ端子は搭載されていない。
液晶モニターはZ 9と同じ4軸チルト式を採用。横位置でも縦位置でも楽な姿勢で撮影できる。個人的な感想ではあるが、チルト式液晶の方がバリアングル液晶に比べ速写性も高く、光軸から液晶モニターの位置がズレないので水平、垂直がとりやすく便利だと感じている。
HDMIはタイプAになり安心感がある。USB-C端子は2つ搭載しており、充電・給電用とデータ通信用が分かれている。MC-N10などのアクセサリーを使用する際に給電もできるので便利だ。
また、メモリーカードはSDカード(UHS-II対応)とCFexpress/XQDスロットのダブルスロットを搭載。CFexpressはボディー内での物理フォーマットにも対応している。
EVFはZ 9でも定評のある像の消失がないReal-Live Viewfinderを搭載。輝度も高く3000cd/㎡と非常に明るいのでHEIF画像も確認することができる。
バッテリーはZ 6シリーズやZ 7シリーズ、D850などと同じ、EN-EL15cを採用。また、センサー前にはセンサーシールドを備えているので、レンズ交換も安心だ。ただし、センサーシールドは初期設定では閉じない設定になっているので、セットアップメニューから設定しておこう。
スペック面ではほとんどの機能をZ 9から引き継いでいる印象だ。まず、センサーはZ 9でも定評のある積層型CMOSセンサーを採用。完全メカニカルシャッターレスなので耐久性はもちろん、1/32000秒のシャッタースピードに対応するなど非常に高性能なセンサーになる。
ローリングシャッターひずみも最小限で飛行機のプロペラなども撮影してもほぼ歪まない。有効画素数は4571万画素となっておりZ レンズの持つ性能をグッと引き出すことができる。
ISO感度は常用感度としてISO64からISO25600の間で設定可能。画像処理エンジンはEXPEED 7を採用し、EXPEED 6の10倍もの高速処理が可能なためReal-Live Viewfinderの実現、120コマ/秒のハイスピードキャプチャー+を実現している。
もちろん、最大で1秒前まで遡って記録できるプリキャプチャーも搭載している。動体撮影に慣れていないユーザーもプリキャプチャーを使用すれば決定的瞬間を逃さないに違いない。
また、高速なCFexpress Type Bを使用すると約20コマ/秒の高速連写時に1000コマ以上の連続撮影もZ 8では実現している。多くの連続撮影をした場合でもグループとしての管理もできるので撮影した後も鑑賞や管理、削除も可能だ。
ニコン Z 8・NIKKOR Z 24-120mm f/4 S・120mm
絞りF4・1/4000秒・ISO500・WBオート・JPEG
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プリキャプチャーとハイスピードキャプチャー+60Cで鳥が飛び立つ瞬間を撮影。あまり鳥などを撮影しない筆者でも簡単に決定的瞬間を捉えることができた。
・美肌効果
Z 8にはZ 9に搭載されていない機能もある。人物の肌を滑らかに描写する美肌効果だ。
美肌効果は肌の調子を保ちながら整えてくれる機能でとても自然だ。効果は3段階から選択でき、弱め、標準、強めから選択できる。もちろん、効果をOFFにすることも可能だ。
画面内に複数人人物がいる場合でも美肌効果は効くが、4人以上になると効果がOFFになるので注意しよう。
実際に使用してみると、驚くほど自然に仕上げてくれる。画像処理の中には人肌がスベスベになりすぎ、実際とはかけ離れてしまう調整も存在するが、本機能はとても自然で好印象だ。
また、人物の色相や明るさのバランス調整ができる人物印象調整も搭載されており、細かな色調整が効くようになっているので、ポートレート撮影する人にはかなり便利と言えるだろう。ちなみに、動画撮影においても静止画と同じように使用可能だ。
ニコン Z 8・NIKKOR Z 85mm f/1.2 S
絞りF1.3・1/3200秒・ISO100・WBマニュアル・JPEG
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美肌効果を強にしてモデル撮影した。肌も自然に滑らかになっておりとても好印象だ。また、より望遠効果を得るためにDXクロップも使用して背景を整理して撮影している。
・HDR画像を撮影可能
Z 8はHEIF形式での画像を撮影できる。10bitのHLGガンマで撮影できるのでSDRにくらべ圧倒的なダイナミックレンジで撮影することが可能だ。
Z 8のEVFは3000cd/㎡と900cd/㎡の高輝度LCDを採用しているので、HDRでどのように見えるのかを確認しながら撮影も可能だ。
HEIF画像は通常のモニターでは確認できないが、HDR(HLG)対応のテレビやタブレット、HDR対応モニターなどで鑑賞することができる。NX Studioを使用すればHEIF画像の調整や鑑賞もできる。
AF性能に関してはZ 9から性能をしっかりと引き継いでおり、画面に対して3%の小さな人物の顔も認識してくれるようになった。
ポートレートで画面に対して3%のサイズで撮影することは少ないと思うが、筆者はストリートフォトグラフィーを撮影しているので、非常に助かった。精度も高く的確にピント合わせができる。3D-トラッキングももちろん搭載しており、被写体認識と組み合わせると非常に精度高く撮影できるようになっている。
ここからは個人的な感覚ではあるが、暗所でのスナップにおいてのAF精度はZ 9を上回るほどの感覚だ。
また、被写体検出も進化を遂げており、乗り物から飛行機が独立していて、より精度の高い撮影が可能になっている。民間機に加え、戦闘機などの精度も上がっているようだ。
3D-トラッキングと被写体認識を活用したストリートフォトグラフィー撮影中の画面を録画した。いかに精度高くAFが食いついているのかが分かるだろう。
手ブレ補正は5軸のボディー内VRを搭載し、手持ち撮影や望遠レンズでの撮影をサポートしてくれる。
シンクロVRと組み合わせることで最大で6.0段分の補正効果を得られるのも大きいだろう。シンクロVRは、対応のレンズと組み合わせることでボディー内VRとレンズVRを連動させることで効果を発揮する手ブレ補正のことだ。
筆者はストリートフォトグラフィー撮影で、スロー撮影を行うことが多いが、1/8秒であればほぼ100%手ブレを制御でき1秒でもかなり精度高く撮影することができた。
ニコン Z 8・NIKKOR Z 85mm f/1.2 S
絞りF2.5・1/8秒・ISO100・WBマニュアル・JPEG
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手持ちで1/8秒でスナップ撮影した。1/8秒での手ブレはほぼ100%止められるので安心してブレを活かしたスナップ撮影ができる。
Z 9でも定評のあった暗所での撮影で役立つスターライトビューはもちろん、暗所で目に優しい赤色画面表示はもちろん搭載している。
ちなみにスターライトビューは低輝度側のAF検出範囲が-9EVまで拡張されるのでいままで不可能だった暗所でのAF撮影も可能にしてくれる。使用するレンズにもよるが月明かりに照らされる山並みなどにもピントを合わせることができる。
また、バルブやタイム撮影でも露光時間のカウントを行ってくれるので、濃度の濃いNDフィルターを使用する際などでも的確な露光時間で撮影することができ、非常にありがたい。
今回は静止画メインの記事ではあるが、動画性能にも触れておこう。
Z 8はEN-EL15cというバッテリーを採用しているにもかかわらず、Z 9と同等の動画性能を誇るモンスターカメラ。RAW動画も内部収録が可能になっており、スタンドアロンでの使用が可能になっている。
N-RAW 8.3K 60PやProRes RAW HQなどハイスペックなRAW動画に加え汎用性の高いProRes 422 HQ 10bitの4K 60P収録やH.265 10bit/8bit 8K 30Pの収録など非常にハイスペックだ。もちろんFHDにはなるが、H.264の収録もできる。8Kの収録も使用する環境にもよるが十分こなせる。
筆者もH.265 10bitの8K 30Pを多用しているので、テストしてみたが、室温26℃、ProGrade社製のCobalt 325GBを使用して55分ほど撮影することができた。
ホットカード(メディア高温警告)の点灯はZ 9を使用している時よりも早く点灯したが、ホットカードの後、ホットカメラのイエローが出るまでに約20分、レッドになるまでに15分、停止するまでにさらに10分くらい回すことができた。一度の撮影で55分も回すことはほとんどないので安心して使えそうだ。
ニコン Z 8・NIKKOR Z 85mm f/1.2 S
絞りF1.8・1/125秒・ISO900・WBマニュアル・JPEG
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4軸チルト式の液晶モニターのお陰でローポジション撮影も楽々。縦位置でも光軸上に液晶が動くため水たまりを活かしたリフレクション撮影も非常に撮影しやすい。Z 8の絵作りはクリアでヌケがよくシャープに表現できるので都市スナップとの相性は抜群だ。
ニコン Z 8・NIKKOR Z 24-120mm f/4 S・30mm
絞りF11・15秒・ISO64・WBマニュアル・JPEG
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15秒の長秒露光で香港の上環を撮影した。NIKKOR Z 24-120mm f/4 Sとの相性は抜群で高輝度の街灯があるシーンでもしっかりと撮影することができた。ダイナミックレンジも広くシャドウからハイライトまでしっかりと粘っており、ディテールまでしっかりと表現できている印象だ。
ニコン Z 8・NIKKOR Z 20mm f/1.8 S
絞りF8・4秒・ISO64・WBマニュアル・JPEG
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20mm F1.8 Sのレンズで金融街の高層ビルを撮影。ライトでビルのフチが囲われている難しい被写体ではあるが、性能の良いZレンズと組み合わせると収差もしっかりと抑えられており偽色なども発生していない印象だ。
ニコン Z 8・NIKKOR Z 85mm f/1.2 S
絞りF1.8・1/200秒・ISO64・WBマニュアル・JPEG
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クリエイティブピクチャーコントロールのトイで街スナップした。
雨の日はどのようなトーンで撮影するか悩むがクリエイティブピクチャーコントロールのトイとアジアの雰囲気はマッチするのでよく使用する。適用度を調整できるのもクリエイティブピクチャーコントロールの魅力だ。
また、NIKKOR Z 85mm f/1.8 SとZ 8の組み合わせはバランスがよく旅には最適だ。
ニコン Z 8・NIKKOR Z 50mm f/1.8 S
絞りF1.8・1/50秒・ISO200・WBマニュアル・JPEG
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NIKKOR Z 50mm f/1.8 Sでお寺の提灯を撮影した。機動力のあるレンズとFXならではの大きなボケ感を手軽に楽しめるのでZ 8と是非組み合わせてほしい。
ニコン Z 8・NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S・36mm
絞りF8・1/80秒・ISO64・WBオート・JPEG
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香港で有名なインスタグラムスポットのアパートを撮影。ディテールまでしっかりと表現できており立体感が感じられるだろう。
ニコン Z 8・NIKKOR Z 85mm f/1.2 S
絞りF1.8・1/125秒・ISO2000・WBマニュアル・JPEG
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感度自動制御を使い、低速限界速度を1/125秒で夜スナップした。ISO感度はISO2000になっているが、ノイズも少なく躊躇することなく高感度域を使用してスナップができる。
» 詳細を見る
Photo & Text by 上田晃司(うえだ・こうじ)