美しい四季を持つ日本の自然風景は、鉄道写真との相性がとても良く、中でも収穫の秋は素敵な写真が撮れる良い季節です。
今回のプロフェッショナルレビューでは、フォトグラファー山下大祐さんに、秋を感じさせる被写体を絡めた鉄道写真のコツを解説していただきます。まるで俳句の季語のように巧みに秋らしい被写体をフレーミングする筆者のテクニックと作例は必見です!
又、各作例には、撮影した路線名と区間が記入してありますので、参考にしてみて下さい。
「秋にひろう」
ススキ
稲
はさがけ
花
コスモス
ヒガンバナ
コラム「鉄道の日」
果実
霧
おまけ「瀬戸大橋」
鉄道を主役として撮ってはいるが、その他のモチーフにこそ作者の感性や発想があらわれる
山下大祐さんの撮影機材
SONY(ソニー)
Nikon(ニコン)
OM SYSTEM(オーエムシステム)
まとめ
収穫の秋。自然風景との相性がいい鉄道写真にも、素敵な作品が生まれるいい季節になってきた。
山間を彩る紅葉はこの時期筆頭の被写体だが、色づいた木々の燃えるような紅葉のイメージは、実は北日本や標高の高いエリアのほうが色づきの条件がよく、全国的に見るとどうしても地域格差が生じてしまうものである。また見ごろの時期についても地域で大きく異なるため、各地で紅葉だけ撮るには好都合であるが、地元で撮るには紅葉以外の秋も見つけておきたい。
そこで今回は、比較的鉄道と絡みやすい秋の被写体を提案していきたい。
日本全国どこでも見ることができ、秋を物語るのがススキ。線路端に自生していることもあり鉄道とも絡みやすい被写体だ。群生のススキ草原であれば広めに、ボリュームが少なければススキにレンズを寄せてあげるといいだろう。朝夕の斜光線を活かして透過光で撮るようにすると印象的な絵を撮ることができるだろう。
【山形鉄道 蚕桑〜鮎貝】
ススキは透過光でみると美しい。大胆な切り方でその迫力をクローズアップしてもいいだろう。
【山陽本線 瀬戸〜上道】
流し撮りを合わせた作例。ススキの穂は毛が生えると、向こうの景色にベールがかかったように透過して見えるので、流し撮りを合わせてやるとさらに透き通ったベールになる。列車をあえて重ねてもいいだろう。
【日高本線 浜田浦駅】
北海道の日高本線浜田浦駅での朝のシーン。たった一人の乗客を通学列車がひろう。ここではその場を盛り上げているのがススキの存在。黒く潰れる地面をうまく埋めてくれている。
秋に限らず田んぼは四季を映す代表的な被写体で、鉄道写真では一年中その彩りを借景として活用している。田植えのタイミングが早いところでは8月ごろから穂が大きくなる。深い緑の葉よりも目立つようになってくると、田んぼ全体の色は黄味掛かっていき秋の印象が強くなっていく。稲刈り前の葉も金色になるころが最も印象が強いが、稲刈りが始まると1日で状況が一変してしまうので撮れるあいだに撮っておくべきだ。農家さんに会うチャンスがあれば、作業の邪魔にならない程度に交流を図り、情報を得ておくことも大切な活動の一環。言わずもがな田んぼの中に侵入したり耕作地を乱したりする行為はしないように気をつけたい。
田んぼと鉄道のベーシックな撮り方は、田んぼのフチからワイドで左右一杯に稲穂を入れ、その奥に列車を配置する構図。この構図を作ることのできる条件としては、列車を小さく扱えるだけの広角画角でねらったときに左右一杯まで田んぼの広さが足りること、上下左右方向への画角の広がりに対して、架空線や目立つ建物など余計なものが入らないこと、がある。
【山形新幹線 福島〜米沢】
空に表情がない時はカメラを下に振って稲穂の占める面積を多くしてあげてもいいだろう。
【山形鉄道 羽前成田〜白兎】
イメージ写真として稲穂を取り入れた作例。浅い被写界深度で稲をナメて撮り、奥行きを出した。逆光の透過光で稲を見せることで秋色の鮮やかさが強調された。車両のラッピングが季節違いの「あやめ」なのはご愛嬌。
【上越線 五日町〜浦佐】
穂のディテールを見せつつ鉄道と絡めてみた。農道沿いで誰でも近づくことのできる稲の中から背の高い穂を見つけて撮る必要があるので、条件に合う穂を探すのにかなり時間をかけた。その上でメインとなる穂に視線が行きやすいように、フラッシュを活用して背景との露出差をつくっているのが小手先のワザである。
稲刈りが終わって田んぼに色がなくなってからも、稲はまだ秋を楽しませてくれる。それが刈り取った稲を干す“はさがけ”と呼ばれる行程である。稲刈りをコンバインで行う田んぼでは、籾だけを収穫するので、はさがけはしないことが多い。したがってはさがけが見られる田んぼは限られてくるのだが、それでもまだまだ全国で見ることができる。
【湖西線 北小松〜近江高島】
滋賀県で出会ったはさがけ。全国的に広く見られるのがこのようなスタイルのかけ方だ。架台を金属のパイプで組んでいるが、これが木製であると撮影者としてはうれしい。鉄道風景写真として見せるためピントは列車におき、被写界深度を確保して撮影した。
【山形新幹線 福島〜米沢】こちらは、はさがけとともに山形新幹線つばさを撮った。背景がモノトーンなので列車がよく目立つと読み、絞りを開放にして、はさにピントをおいて列車はボカした。東北地方ではこのような一本の棒を支えるかけ方が見られる。地域によってかけ方に個性がみられるのも面白いところ。
春ほどは華やかでないものの、秋の風物詩といえる花々との競演も見逃せない。主に地面に咲き、広く全国各地で見ることのできる花々をご紹介しよう。いずれも9月から10月初めにかけて咲くため秋が深まる頃にはすでに見ごろを終えているので、涼しくなったと思ったらすぐ動きたい。
秋の桜と書いてコスモス。しかし早いものだと夏頃から咲いている。河川敷などで自生することも多く、ピンク色で品種によって濃淡が違う。形がよく似た花でオレンジ系のキバナコスモスという品種も多い。花と花の距離が遠くやや散漫に咲くので、少しでも花が多く集まっているところをレンズの近くに置いてあげたほうがボリューム感を出せるだろう。線路際よりも少し線路から距離があったほうが纏めやすい。
【西武秩父線 芦ヶ久保〜横瀬】
花が点景に見えるのではなく、レンズの近いところにも置いてやることでコスモスであることの説明にもなり、また強弱がつくことで奥行きも出る。
鮮鋭な赤色が特徴のヒガンバナ。またの名を曼珠沙華。お彼岸の時期に咲くこともあり、死者を連想させる異名が各地にあるが、繊細で個性的な形が美しい花だ。北海道や北日本以外の地域で見られ一箇所にまとまって咲いていることが多い。
【山陰本線 黄波戸〜長門古市】
作例では、線路沿いにいくつかの群生を発見したので、前ボケにも後ボケにもヒガンバナを配置した。列車はアウトフォーカスになってしまうが、むしろヘッドライトの描写が強調されるので良い効果が出た。
鉄道と秋といえば、まったく別の意味でも縁がある。
1872(明治5)年の秋、10月14日に新橋〜横浜間で開業したのが日本の鉄道史の始まりと言われている。毎年その日は「鉄道の日」とされ鉄道事業者主催のイベントなども多く行われている。
さて、今ではコンクリートジャングルとなった東京都心のオフィス街に、開業当時の新橋停車場の遺構が眠っているのをご存知だろうか。旧新橋停車場は今の新橋駅とはちがい汐留エリアにあったが、時代と共にその姿は失われ正確な場所すらもわからなくなっていた。それが平成の再開発に合わせた発掘調査で停車場の遺構が発掘されたのだ。現在は遺構と同じ位置に停車場外観を復元した建物が建ち、往時の姿を今に伝えている。
また復元した建物の周辺には地面が切り取られ柵で囲まれている箇所があり、そこから覗くと実物のプラットホームの一部や、石段の一部が露出しているのを目視することができる。今の地上レベルとの高低差に驚くと同時に、150年の歳月を経てもこうして立派に形が残っていることに感慨深くもある。
ちなみに近年、高輪エリアで発見されて話題となった「高輪築堤跡」は、この停車場から横浜方面に伸びた線路の軌道敷跡ということになる。
発掘されたのは石積みの下部のみで上物は残っていなかったが、当時の写真などから特徴的な西洋建築を忠実に再現した旧新橋停車場跡
ガラスの囲いからは発掘された実物の遺構が見える。写真は石積みのプラットホームの側面部分だ。
かきやりんごの実が収穫時期を迎え、たわわに実った様子も捨てがたい秋のシーン。梨やりんごは春に花を咲かせるのでそれも美しい。春に撮ったら秋にも撮れる2度美味しい被写体でもある。生産者の方の迷惑とならないように配慮した撮影をこころがけよう。
【山形新幹線 福島〜米沢】
福島市内を走る山形新幹線とりんごのカット。木のスケールに比べて実はそれほど大きなものではないので、りんごはやはりカメラの近いところに置いて、列車を奥に小さく見せてあげるのがベターだ。ここでは上部に入る吾妻連邦にも気を配りながら構図を決めた。
【上越新幹線 高崎〜上毛高原】
群馬県の月夜野付近の小高い場所から、果樹園越しに上越新幹線をシュート。本当は背景にそびえる谷川岳も入れたかったが、あまりロングショットにするとリンゴがわからなくなると思ってアップを選択。
【磐越東(ばんえつとう)線 江田〜小川郷】
山影が迫る渓谷でかろうじて西日が差している柿の木が印象的だった。浮かび上がらせるような背景との露出差も生じて被写体を引き立てていた。列車を小さく写すには不向きな場所だったのでスローシャッターでブラして撮った。加速するディーゼルカーの排煙も理想通りで印象に残る一枚だ。
寒暖差の大きくなる秋は、盆地などで濃い霧が立ち込めることがある。その霧を使って印象的な鉄道写真が狙えるのもこの季節の魅力だ。もちろん流動的な自然現象である霧を撮影の味方につけるには運も必要だが、ある程度傾向を把握して望むことで運を手繰り寄せることができるはずだ。
秋に深い霧が期待できる条件は次の通り。
1.前日は気温が高く湿度も高い状態であること
2.当日は快晴で深夜の放射冷却で気温が大幅に低くなる予報であること
3.風が弱いこと
上記の条件に当てはまる時を狙って、日の出前からスタンバイし、明け方から午前8時ごろまでは撮影できるようにしておきたい。
【播但(ばんたん)線 青倉〜竹田】
兵庫県の竹田城は雲海に浮かぶ姿が有名である。城山のふもとには播但線が走っており、霧が晴れてきたタイミングと列車の時間が合えば、鉄道風景写真を狙うことも可能だ。ただやはり低い場所を走る鉄道は霧自体が邪魔をして姿を見せないため難しい条件ではある。
【中央本線 鳥沢〜猿橋】
中央本線の新桂川橋梁での撮影。こちらも日の出前に現地に着き、だんだんと晴れてくる霧と列車のタイミングが合って撮ることができた。明け方の時点では周囲が真っ白で何も見えないくらい霧が深かったが、天気予報が快晴ならば必ず霧は晴れてくるので諦めずに待つことだ。
瀬戸大橋を構成する橋の中で最も南側の南備讃瀬戸大橋に対して、太陽がほぼ真横に沈むのが10月中旬である。太陽をフレームに入れつつ列車のシルエットをスッキリ見せるのに最適な時期と言える。香川県坂出市の乃生岬へ向かう県道16号線から同橋をほぼ真横に見ることができる。列車と重なるような夕日が拝めるのは気象条件にも左右されるため確率が低いが、太陽を画面のどこかに入れるだけでも素敵な写真になるので天気が良い時は気負わず挑戦したい。
【本四備讃(ほんしびさん)線 児島〜宇多津】
35mm判換算1800mmの超望遠レンズで見た瀬戸大橋と列車のシルエット。このような超望遠レンズでなくても200mmくらいあれば撮影を楽しめる。
俳句で言えばいわゆる季語、それに相当するような風物詩はなにも自然の草花に限らない。たとえば運動会やお祭りも秋にひらかれるものが多い。風景的な鉄道写真では鉄道を主役として撮ってはいるが、実は副題となるその他のモチーフにこそ作者の感性や発想があらわれる。それゆえ同じ写真にならないし難しいのもまた事実。鉄道を撮るということはその他のモチーフを知ることにもつながっていくのである。
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・秋は自然風景との相性がいい鉄道写真にも、素敵な作品が生まれる季節
・ススキは線路端に自生していることもあり鉄道とも絡みやすい被写体
・稲は稲刈り前の葉も金色になるころが最も印象が強い
・刈り取った稲を干す“はさがけ”も季節感の出る被写体
・コスモスやヒガンバナなど、秋の風物詩といえる花々との競演も見逃せない
・10月14日は「鉄道の日」
・かきやりんごの実が収穫時期を迎え、たわわに実った様子も捨てがたい秋のシーン
・霧を使って印象的な鉄道写真が狙えるのも秋の魅力
・風景的な鉄道写真では副題となる鉄道以外のモチーフにこそ作者の感性や発想があらわれる