特徴/操作性
広角側開放F2による大きく美しいボケ味
ポートレートにマッチする唯一無二のズーム域
コンパクトで扱いやすいサイズと滑らかな操作性
実写レビュー
ポートレートだけじゃない使い勝手のいい焦点域
複数の単焦点レンズを持っているような感覚
シャープだが硬くない描写性能
オートフォーカスは速くはないが実用的
画質
解像感
周辺部画質
フリンジ
フレア・ゴースト
比較
Nikon NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR Sとの比較
NIKKOR Z 85mm f/1.8 Sとの比較
おすすめユーザー
単焦点レンズのような使い勝手が楽しい
やや高額なのがデメリット
表現を重視したいユーザーにおすすめ
作例に使用したカメラ
作例に使用したレンズ
まとめ
TAMRON 35-150mm F/2-2.8 Di III VXD ニコンZ A058の開放F値はF2~2.8です。
通常大口径ズームと呼ばれるレンズでも開放F値は2.8通しなのが普通ですので、ズームレンズの中ではかなり明るい部類に入ります。一眼レフ時代には殆ど無かった開放F2.8を超えるズームレンズをちらほらと見かけるようになったのは、ショートフランジバックで設計できるミラーレスの恩恵かもしれません。
明るさから来る大きく美しいボケやポートレートを意識した硬すぎない描写はこのレンズの美点と言っていいでしょう。
大口径ズームでは、標準は24mm~70mm、望遠は70mm~200mmくらいのズーム域を採用するのが一般的なようです。
35-150mmという標準と望遠の一部をカバーするような独特なズーム域は、TAMRON 35-150mm F/2-2.8 Di III VXD ニコンZ A058がポートレート撮影を多分に意識しているからです。
とは言え、標準と望遠ズームの使用頻度の高い部分だけを取り出しているという見方もでき、実際に使ってみるとポートレート用と言うのは勿体ない汎用性の高さを感じました。
非常にコンパクトにデザインされているのも特徴です。
ミラーレス用とは言え、開放F2の大口径で、ズーム比4倍を超えるレンズでありながらこのサイズで設計できたという事には驚かされました。
外観はプラスチックで高級感はそれほどでは無いもののガタの無いしっかりとした作りで、各部の動作、特にズームの動きは最近のTAMRONレンズに共通する滑らかなものです。
作例1:F8 1/100 ISO800 露出補正+0.3 焦点距離:95mm
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個人的にはこのレンズをポートレートズームと呼ぶ事に反対です。
広角から中望遠までをカバーするズーム域は、焦点を絞った写真を撮りやすくもっと幅広い被写体やシチュエーションで使って欲しいからです。風景写真で有名な故竹内敏信先生が「1本だけ持って風景を撮るなら35-135mm(EFレンズ)にする」とおっしゃっていた事があり、風景写真にも使いやすそうな画角だなと思いました。
今回のテスト撮影は街中のスナップにしましたが、違和感が無いどころかいつも以上に使いやすさを感じながら撮影をすすめる事ができました。
作例2:F2.8 1/4000 ISO400 露出補正-1.3 焦点距離:150mm
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人も多く標準レンズで近づいて撮るのははばかられる場面でしたが、150mmの中望遠があるので少し離れた位置から人が途切れた瞬間にシャッターを切りました。
人が入った方が良いといった議論はさておき、周囲に迷惑がかからないよう気を使いながらの撮影では、標準ズームより使い勝手が良い事は事実だと思います。
望遠ズームよりもコンパクトで目立たない事も、街中のスナップではプラスにはたらくでしょう。
作例3:F2.7 1/8000 ISO320 露出補正-0.3 焦点距離:107mm
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以前、同じレンズのSONY用を試した時にも感じたのですが、撮影中の感覚が単焦点レンズを使っているのに近いと感じます。
F2からというスペックに引きずられているのも事実だと思いますが、大きく美しいボケ味がそう感じさせてくれている事も大きいようです。
ズームレンズでありながら単焦点レンズ並の表現力を持っている事は、TAMRON 35-150mm F/2-2.8 Di III VXDの特徴のひとつと言えるでしょう。
作例4:F2.8 1/280 ISO280 露出補正-1.0 焦点距離:150mm
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テスト撮影のように1本のレンズを付けっぱなしで撮るのならいいのですが、実際の撮影では複数のレンズを交換しながら使うので、単焦点レンズは相応に面倒です。
面倒なレンズ交換をせずに単焦点レンズのような表現力を活かした撮影がしたい。TAMRON 35-150mm F/2-2.8 Di III VXD ニコンZ A058はそんなユーザーにピッタリのレンズではないでしょうか。
今回のテスト撮影でも、いつもより多めにコマ数が稼げたのは、そんな対応力の良さが原因な気がします。
作例5:F2 1/8000 ISO720 露出補正±0 焦点距離:35mm
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描写性能も非常に高いレベルにあるレンズですが、それでいて硬くなりすぎていないところも魅力です。
拡大表示してみるとどこかレンズ由来の甘さがあり、ホッとしました。
こういった点はレンズの開発コンセプトがポートレートズームという事に由来すると思いますが、あまりに高性能過ぎるレンズに少し食傷気味な身としては、レンズが写真に与える影響がある事に好感をもってしまいます。
作例6:F2.8 1/3200 ISO400 露出補正-0.3 焦点距離:131mm
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とは言え、解像感という意味では開放から非常に高いレベルにあり、テスト機に選んだ4575万画素のZ 7IIをもってしてもややオーバーサンプリング気味になっているようです。
さらに絞る事でシャープネスが増すので、風景などで使うならF5.6以上に絞って使うのも良いと思います。
極端に解像感が増すことはありませんが、少し絞る事で写真に締まりが出るように感じました。
作例7:F2.8 1/8000 ISO3600 露出補正-0.3 焦点距離:150mm
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オートフォーカスのスピードはややもっさりとしていて高速とは言えないレベルです。
テスト撮影前は、明るさと解像感の高さを利用して、Z 50などの高速なAPS-Cサイズセンサーカメラに装着してライブ撮影などにも向いているのでは?と思っていたのですが、少し厳しそうです。
勿論、スナップやポートレートならば実用的で問題にはならないレベルだと思います。
作例8:F2.8 1/8000 ISO280 露出補正-0.3 焦点距離:150mm
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AFが遅いように書いてしまいましたが、スナップであればふいのシャッターチャンスに十分対応できる程度の速さは持っています。
精度も高く、描写性能の高さを損なう事もありません。
久しぶりのテスト撮影という事もあって、スナップを満喫できる楽しいテスト撮影となりました。
焦点距離:35mm
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焦点距離:85mm
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焦点距離:150mm
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いずれの焦点距離でも開放から非常に高い解像感を持っており、それでいて硬いという印象は受けないので、描写の感じにも単焦点レンズっぽさを感じます。
開放F2となるワイド端が最も画質が低下しているようですが、それでも解像感という意味では実用上十分と言えるレベルでしょう。
テスト撮影では私の好みでビネットコントロールをオフにしてある為、開放では大きく周辺光量落ちしています。ビネットコントロールを使った周辺光量の強弱を付けながらの撮影も楽しそうです。
焦点距離:35mm
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焦点距離:85mm
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焦点距離:150mm
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開放では画面周辺でわずかに眠さが感じられます。
特に最広角となる35mmで顕著なので、広角で画面の均一性を気にするなら少し絞って使うのが良いでしょう。
全体的に高い描写性能を持ったレンズである事も、ポートレートだけでなく幅広い被写体におすすめしたくなる理由のひとつです。
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カメラの色収差補正をオンにして使った事もあってか、フリンジを感じるシーンはほぼありませんでした。
逆光のかなり明暗差の大きな被写体も撮ってみたのですが、被写体の縁に色がのる事はありません。
ボディ内補正が優秀だという事もあると思いますが、逆光で安心して使えるのは大きなメリットです。
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かなり無理してゴーストを出そうと努力する事で、なんとかゴーストが写った写真を撮ることができました。
逆光耐性はかなり高いので、逆光での撮影が多くなる風景写真などでも安心して使う事ができるでしょう。
強い逆光では美しいフレアが発生する点も、個人的にはプラスな要素だと感じました。
同じような焦点域を持ったレンズが無いので、比較するレンズに困るところですが、ここでは純正の大口径望遠ズームを取り上げてみます。
非常に高性能かつ、ナノクリスタルコート採用で逆光耐性が極端に強い事が特徴のレンズですが、大きく重く高額な事が短所です。
対するTAMRON 35-150mm F/2-2.8 Di III VXD ニコンZ A058は非常にコンパクトなサイズと性能の割には比較的買いやすい価格なのがメリットと言えるでしょう。
あまりに比較対象が無いので、単焦点の中望遠レンズを選んでみました。
単焦点レンズとは言えSラインのレンズなので価格は相応に高価で、1つの焦点距離でしか使えない事を考えるとTAMRON 35-150mm F/2-2.8 Di III VXDが割安に感じます。
ちょっと無理のある比較ですが、単焦点レンズの代わりにTAMRON 35-150mm F/2-2.8 Di III VXDをおすすめするという、ひとつの提案としてライバルレンズの1本に選んでみました。
なんども同じ事を言って申し訳ないのですが、焦点距離が変えられる単焦点のような使い勝手で、個人的にはかなり撮影が楽しいレンズでした。
テスト撮影という事でレンズ単体での使用でしたが、ソフトやPLといったフィルターとの相性も良さそうです。
キットレンズに飽きて、もう少し表現力の高いレンズをといった意向で単焦点レンズを考えている初心者の選択肢にも加えて欲しいレンズです。
良いレンズが高額になるのは致し方ない事ですが、それでも少々高額なのがデメリットです。
色々と事情もあると思いますが、同じレンズのSONY用と比較して1割ほど割高なのもなんとなく釈然としません。
せめてSONY用と同じ価格なら・・・と思ってしまいます。
TAMRON 35-150mm F/2-2.8 Di III VXD ニコンZ A058の魅力はズームとは思えない表現力の豊かさです。
先にも述べましたが、ポートレートズームという二つ名には断固反対で、もっと幅広い用途に対応できる可能性を秘めたレンズだと思います。
ベテランの方は勿論、単焦点レンズを検討する初心者の方にもおすすめしたい、表現力豊かなレンズです。
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Photo & Text by フジヤカメラ 北原