Voigtlander(フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 X-mount の実写レビューです。
NOKTON 35mm F1.2 X-mount はコンパクトでシンプルなデザインで、Voigtlander(フォクトレンダー)のクラシックな写りとFUJIFILMのフィルムライクな画作りの双方を活かせる画期的なレンズです。
写真を写す事を存分に楽しめるXマウントの大口径標準レンズを実写レビューを中心にご紹介します。
Voigtlander(フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 X-mount の一つ目の特徴は電気接点を持ったFUJIFILM Xマウントのマニュアルフォーカスレンズだという事です。
これまでXマウントのサードパーティー製レンズは、オートフォーカスではZeissが、マニュアルフォーカスでは七工匠などのアジアンメーカーが幾つかラインナップしていましたが、マニュアルフォーカスで電気接点までもった、本格的なカメラとの連動が可能なメーカーは殆どありませんでした。
そんな中、個性的な写りのレンズを数多くラインナップするVoigtlander(フォクトレンダー)が、フィルムライクな写りを身上とするFUJIFILM X-mount レンズに本格的に参入した事を嬉しく思います。
二つ目の特徴は開放F1.2の大口径レンズだという事です。
APS-Cサイズセンサーはフルサイズ機と比べて同じ画角なら焦点距離が短くなってしまい、ボケが小さくなってしまいがちですが、標準でF1.2の大口径レンズがそれを補ってくれます。Voigtlander(フォクトレンダー)らしい開放時と絞った際の写りの変化も健在で、まるでオールドレンズを使っているような使いこなしの楽しさを感じられるでしょう。
開放F1.2の大口径レンズでありながら重量196g、全長39.8mm、フィルター径46mmとコンパクトにデザインされているところも秀逸です。
操作性は他のVoigtlander(フォクトレンダー)レンズと同様に滑らかで扱いやすいものです。
電気接点を持ったレンズなので、テストボディに使ったX-Pro3ではフォーカスリングの動きに連動したピントの拡大、Exif情報の記録、撮影距離連動表示、パララックス補正などが連動し、マウントアダプターを使ってMFレンズを使う際の多くの不便さから開放されました(対応機種あり)。
又、アポランターを除く多くのVoigtlander(フォクトレンダー)レンズが、FUJIFILMのカメラと組み合わせた際、酷いフリンジの発生がありましたが、NOKTON 35mm F1.2 X-mountについてはフリンジの発生もわずかでした。
フィルター径 | 46mm | 最短撮影距離 | 0.3m |
---|---|---|---|
最小絞り | F16 | 絞り羽根 | 12枚 |
マウント | X-mount | 長さ | 39.8mm |
重量 | 196g |
Voigtlander(フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 X-mount の写りの上での最大の特徴は美しいボケ味にあると言えるでしょう。
F1.2の大口径により作り出される大きく美しく個性的なボケ味はVoigtlander(フォクトレンダー)ならではのもので、現代のレンズでありながら、まるでオールドレンズを使っているような面白さが味わえます。
今回テスト機として使ったX-Pro3は、ファインダーを覗いて撮ることを愉しむカメラですが、EVFに映し出された画を見た瞬間にボケの美しさを感じられるインパクトがありました。
NOKTON 35mm F1.2 X-mount のボケ味は美しいだけではありません。現代のレンズでありながらオールドレンズで撮っているような個性を発揮してくれるのです。
作例では、車止めの金属製の柵に反射した光にハレーションが発生しており、ノスタルジックな印象の表現が出来ました。
APO-LANTHARを除くVoigtlander(フォクトレンダー)のレンズを、マウントアダプターを使ってXマウントのカメラに使った際にありがちなフリンジの発生も少なく、電気接点付きレンズのメリットを写りの上でも感じられます。
開放でボケの美しさや個性を引き出す代償として、開放では眠目の描写となるNOKTON 35mm F1.2 X-mountですが、F2.8まで絞る事で同じレンズで撮っているとは思えない程シャープに画が立ち上がって来ます。
作例3はF2.8まで絞って撮影していますが、まるで同社のAPO-LANTHARシリーズのレンズで撮影しているような、高い解像感とコントラスを持った画に生まれ変わります。
このように、1本のレンズで2つの面を持っている事もNOKTON 35mm F1.2 X-mount の大きな特徴の一つです。
フジヤカメラのブログでピントの何処にも合っていない写真を載せるのは恐らく初めての試みだと思います。ファインダーを覗いて、さあピントを合わせようと思った矢先、ファインダーの中の画がとても綺麗に感じてピントを合わせずにシャッターを切りました。
偶然ですが口径食の発生が良くわかる写真となったと思います。
開放F1.2で撮影していますが、周辺部で一気に口径食が大きくなる特性のようで、全体を見るとグルグルボケが目立たないのは好感が持てます。
NOKTON 35mm F1.2 X-mount は、開放F1.2では眠くなるレンズの特性を逆手に取って、シンプルで抽象的な表現も得意とするレンズです。
なんという事はないモミジの葉ですが、絞り開放でやや眠い描写とする事、背景を暗く落としシンプルな構図にする事、フィルムシミュレーションにクラシッククロームを使って彩度を低めにする事、グレインエフェクトを使う事で、印象的な写真になったと思います。
Voigtlander(フォクトレンダー)レンズとFUJIFILMカメラは、それぞれの長所がそれぞれを引き立てあってくれる最高の組み合わせだと思います。
条件によってはトイレンズのような個性を発揮するNOKTON 35mm F1.2 X-mount は、フィルムシミュレーション、クラシッククロームとの相性抜群のレンズです。
白鳥の周りに発生したハレーションと眠目の描写、クラシッククロームのノスタルジックなカラーバランスのおかげで、古いフィルムコンパクトカメラで写した写真のような味わいになりました。
一日通してこの組み合わせだけで撮ってみたくなる、日常風景が非日常に変わる魅力的な組み合わせです。
開放F1.2の大口径レンズなので、被写体との距離がある程度あっても背景を大きくボカす事が出来ます。
順光線ではハレーションも起きず眠さも目立たなくなる上、人の目はボケた部分との対比でピントが合った部分を錯覚するので、意外とシャープに見えます。
コントラストを上げてレンズの個性を弱める為に、フィルムシミュレーションをPROVIAやVelviaに設定するのもポイントです。
明暗差の激しい被写体でも粘り強く諧調が残る印象です。開放ではややコントラストが落ち気味な事も要因の一つなのかもしれません。
フィルムシミュレーションは自然なコントラストの調整がやりやすいので、どのシミュレーションを選ぶかも重要な要因になりそうです。
いずれにしても、レンズとカメラの個性をどう使うか、常に意識しながら撮るのがとても楽しいレンズでした。
開放とF2.8以上に絞った時で、違うレンズで撮ったのかと思うほど描写のイメージが変わるレンズなのでF1.2とF2.8の作例をそれぞれ拡大して画質を見てみます。
ハレーションの起きた眠い画です。
一般的には感心しない画質かもしれませんが、この眠さのおかげで開放での美しいボケや個性的な表現が可能となっているので、一概に悪いとは言えません。そしてNOKTON 35mm F1.2 X-mount がレンズとして優れているのはF2.8まで絞っただけで見違えるほど画像が立ち上がって来る事です。
F2.8まで絞った作例3の画像を拡大して画質を見てみます。
同じレンズで撮影されたとは思えない程シャープで高いコントラストを持っています。
おしべの先端部分まで詳細に再現されているのは驚くべきで、APO-LANTHARの画を見ているようです。
まるで絵筆のように絞りを使って描写の変化を表現に活かせる、Voigtlander(フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 X-mount はそんな楽しさのあるレンズだと思います。
残念ながら条件によってはフリンジやゴーストが発生する事があります。
今回のテストでは夏の暑さに負けて70カットほどの撮影にとどまりましたが、フリンジが気になるほど発生したカットは2カット、ゴーストが発生したカットは1カットでした。
以下の作例はその中でもフリンジ、ゴーストともに最も多く発生したカットです。以前Voigtlander(フォクトレンダー)のレンズをXマウントのカメラに装着した際は、今回の5倍以上フリンジが発生したので、電気接点付きのメリットも大きいのか、フリンジの発生は少なかったと言えるでしょう。
完全逆光の条件ですが、画面真ん中上部の明暗差の大きい部分にパープルフリンジが、画面上部に半円形のゴーストが発生しています。
» 詳細を見る
Photo & Text by フジヤカメラ 北原