シネマカメラは一眼デジタルとは違った多くの特性を持っています。特にカラーグレーディングに対する耐性はトップクラスの一眼デジタルカメラを上回り、映像表現に大きな可能性を与えてくれるでしょう。映像表現を突き詰めればカラーグレーディングは必須となるので、シネマカメラの必要性が大きくなって来るのです。
今回は一眼デジタルカメラでは叶わない、より高いレベルの映像表現が可能となるシネマカメラについて紹介したいと思います。
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シネマカメラの特徴
ここ数年、アマチュアユーザーでも手の届く価格帯のデジタルシネマカメラが多く発売されて来ました。
しかし、一眼デジタルカメラの動画機能が高性能になったおかげで、シネマカメラを定義するのが難しくなったとも言えます。一眼デジタルカメラの中には、シネマカメラに近い高性能な機種も存在するからです。
とは言え幾つかの部分でシネマカメラは一眼デジタルを上回る特徴があるので、以下にまとめてみました。これら全て持ってるシネマカメラは少ないと思いますが、逆に一眼デジタルカメラでは出来ない機種が殆どなので、シネマカメラならではの特徴と言えると思います。
高いグレーディング耐性
シネマカメラが作り出す映像の特徴の一つとして先ず挙がるのが、高いカラーグレーディング耐性だと思います。
映像を作る際の雰囲気は、明るさやカラーバランス、コントラストの高低で大きく変化しますが、カラーグレーディングを施す事で、制作者の思ったイメージに近づける事が可能となるのです。
このカラーグレーディングを行う際、元となるデータの情報量が少ないと画が破綻してしまいます。多くのシネマカメラはlogやRAWといった、情報量が多くグレーディングしても画が破綻しずらい記録形式に対応し、又、そういった記録が可能となるよう、高い転送ビットレートを持っているのが普通です。例えば4:2:2 10bit と言った、情報用の多い記録形式に対応している1眼デジタルカメラは極少数です。
RAW記録
先ほど紹介した、カラーグレーディング耐性が高いデータ形式にRAWがあります。写真ではお馴染みのRAWですが、1秒間に30枚といった大容量のデータを扱う動画では、シネマカメラの中でも対応する機種は少数です。
RAW形式にはメーカーごとに幾つかの種類がありますが、現在使われる動画用のRAWで一般的なものに「シネマDNG RAW」「REDCODE RAW RAW」「ブラックマジックRAW」などがありますます。
最近のハイエンドのパソコンには、8コア16スレッドといった、高性能なCPUを搭載したモデルもあるので、アマチュアでも4K RAWといった大容量のデータを扱えるようになって来ました。
NDフィルター
動画では高速シャッターを切るとパラパラ漫画のような不自然な画になってしまう為、露出をISO感度で調整する事が多くなります。
背景が大きくボケたシネマチックな映像を撮ろうと思うと、F値の明るいレンズを使う事になりますが、例えば日中F1.4のレンズを使うと、最低感度でも足りなくなってしまう事がしばしばです。
そこでNDフィルターを使って露出を調整する事になります。頻繁に行われるフィルターのレンズへの付け外しの手間を省くため、シネマカメラではNDフィルターをカメラに内蔵している機種があります。全ての機種という訳ではありませんが、動画ならではの使用方法なので、シネマカメラの特徴の一つと位置付けられるでしょう。
操作性
先の露出についてもそうですが、本格的な動画撮影では、写真とは違った操作の優先順位が求められます。そんな動画撮影に特化したシネマカメラは、写真用のカメラとは違った操作性を持っているのが普通です。
メニュー画面の違いは勿論、頻繁に操作する部分の大きさ、アイリス(写真で言う絞りの事)と言った用語が違う場合もあります。
余談になりますが、絞りについて写真ではF値(=絞りの理論値)を使うのが普通ですが、動画ではT値(=絞りの実行値)を使うのが普通です。絞りの値がTで表記されていたら、それはシネレンズ(動画用レンズ)かそれに準ずるものであるケースが多いです。
インターフェース
写真の場合、カメラに外付けで装着するパーツはレンズやストロボ程度で多くありませんが、動画の場合多くの外付けパーツを装着する事になります。
例えばバッテリーや外部モニター、マイクなどですが、こういった外部機器とカメラを取り付ける為の多くのインターフェースを備えているのもシネマカメラの特徴と言えるでしょう。
又、多くのケーブルで接続される外部機器が外れるなどのトラブルを避ける為、ロック機構を設けている場合が多いのも、プロの現場で使われる道具である事の特徴と言えるかもしれません。
おすすめのシネマカメラ7選
ワンオペで撮影する事が多いアマチュアカメラマンでも扱える比較的コンパクトな機種で、個人でも所有出来る15~80万円前後で購入出来るデジタルシネマカメラを、7機種選んでみました。
最近発売された機種も多く、この価格帯にRAWを記録出来るカメラや、ハリウッドでも使われるRED(レッド)のカメラが入るのは凄い事だと思います。
Panasonic(パナソニック)DC-BGH1
RAW記録 |
ー |
Log |
V-log L |
ダイナミックレンジ |
13ストップ |
記録サイズ |
4096×2160(Cinema 4K) 60p 4:2:0 10bit(30p 4:2:2 10bit) |
マウント |
マイクロフォーサーズマウント |
NDフィルター |
ー |
シネマカメラと一眼デジタルカメラの丁度中間点に位置するような、新しいコンセプトのカメラです。
一言で言えば、ボックススタイルのGH5Sですが、プロの現場で多用されるSDI端子やタイムコード/Genlock(BNC端子)といったインターフェースの搭載はシネマカメラに近いものです。
それでいて一眼デジタルカメラでも定評のあるオートフォーカスや、優れた高感度特性を得る事が出来るデュアルネイティブISOテクノロジーなど、これから本格的な映像表現に携わりたいユーザーにも受け入れやすいかもしれません。
Panasonic(パナソニック)DC-BGH1
Blackmagic(ブラックマジック) Pocket Cinema Camera 4K
RAW記録 |
Blackmagic RAW |
Log |
ー |
ダイナミックレンジ |
13ストップ |
記録サイズ |
4096×2160(4K DCI) 60p 12-bit RAW |
マウント |
マイクロフォーサーズマウント |
NDフィルター |
ー |
Blackmagic RAWによるシネマカメラの画質を、16万円を下回る価格で提供した革新的なカメラです。
グリップのある横長なデザインは一眼カメラのようですが内容は完全な動画カメラで、5incのFull HDスクリーンを使った操作は、上位機種URSA Mini Proと同じくBlackmagic OSを使った動画撮影に特化したものになります。
フルサイズのHDMI端子や外部マイク用のXLR端子の搭載なども、シネマカメラらしい特徴です。
オートフォーカスについては一応出来る程度なので、フォーカスの操作は出来ればマニュアルフォーカスで。映画のような美しいピント移動にチャレンジしてみましょう。
Blackmagic(ブラックマジック) Pocket Cinema Camera 4K
Blackmagic(ブラックマジック) Pocket Cinema Camera 6K
RAW記録 |
Blackmagic RAW |
Log |
ー |
ダイナミックレンジ |
13ストップ |
記録サイズ |
6144×3456(6K) 50fps 12-bit RAW |
マウント/センサーサイズ |
Canon(キヤノン)EFマウント/スーパー35mm |
NDフィルター |
ー |
Pocket Cinema Camera 4Kとの大きな違いは、6K(6144×3456)サイズでの記録が可能な事、センサーがスーパー35mm(APS-C)サイズだという事、マウントがCanon(キヤノン)EFマウントだという事です。
4Kと比較して倍以上の価格はネックですが、6K記録による高画質化、トリミングの自由度の向上以外にも、センサーサイズが大きくなった事による高感度時の性能アップや、多くのユーザーを持ちフィルム時代からの歴史があるCanon EFレンズマウントによる、レンズ選択肢の増加など、6Kならではの良さも多くあります。
Blackmagic(ブラックマジック) Pocket Cinema Camera 6K
Panasonic(パナソニック) EVA1
RAW記録 |
ー |
Log |
V-Log |
ダイナミックレンジ |
14ストップ |
記録サイズ |
4096×2160(4KDCI:5.7Kからのダウンサンプル) 30p(4:2:2 10bit)、60p(4:2:0 10bit) |
マウント/センサーサイズ |
Canon(キヤノン)EFマウント/スーパー35mm |
NDフィルター |
CLEAR、0.6ND、1.2ND、1.8ND |
マウントはCanon(キヤノン)EF、センサーサイズはスーパー35mmを採用した、コンパクトなデジタルシネマカメラです(コンパクトとは言え重量1.2kgなので、シネマカメラとしてはという事ですが)。
多彩なインターフェースや内蔵NDフィルターなどプロフェッショナルユースのカメラとしてはコンパクトな部類に入ります。インターフェースはHDMI A、SDI画像出力、XLRオーディオ入力、タイムコード入力を備えたプロのニーズにこたえるものです。
デュアルネイティブISOテクノロジーや電子手ぶれ補正など、1眼デジタルカメラに通ずる機能も用意されており、一眼デジタルカメラGH5と業務用のシネマカメラVARICAMの間に立つ機種と言えます。
Panasonic(パナソニック) EVA1
Canon(キヤノン) EOS C70
RAW記録 |
ー |
Log |
Canon log2/3 |
ダイナミックレンジ |
16+ストップ |
記録サイズ |
4096×2160(4KDCI)60p(4:2:2 10bit) |
マウント/センサーサイズ |
Canon(キヤノン)RFマウント/スーパー35mm |
NDフィルター |
ー |
見た目は写真用カメラっぽい形のEOS C70は、今後広く普及するであろうCanon(キヤノン)のフルサイズミラーレス用マウント、RFマウントを採用したシネマカメラです。
スーパー35mmは、フルサイズセンサーと比較して画角が狭くなってしまいますが、C70は焦点距離が0.71倍となり明るさが1段明るくなるEF-RFマウントアダプターが別売で用意されており、カメラの総合メーカーらしい利便性があります。
最新機種らしく4K 120p記録のハイフレームレートに対応しているのも特筆すべき点です。
Canon(キヤノン) EOS C70
SONY(ソニー) FX6
RAW記録 |
ー |
Log |
S-log2/3 |
ダイナミックレンジ |
15+ストップ(S-Log3撮影時) |
記録サイズ |
4096×2160(DCI 4K)60p(4:2:2 10bit) |
マウント/センサーサイズ |
SONY(ソニー)E/35mmフルサイズ |
NDフィルター |
電子式可変NDフィルター(1/4~1/128) |
1kgを切る軽量コンパクトなボディながら、4K 60p 4:2:2 10bit撮影、NDフィルター内蔵、多彩なインターフェースを持ったシネマカメラです。
有効画素数1026万画素のフルサイズセンサーは、写真カメラからの移行でもレンズの焦点距離と画角のイメージが合致しやすく、高感度に非常に強いので夜間など低輝度下の撮影でも威力を発揮します。SONY(ソニー)の特徴である高速で優れたオートフォーカス、ファストハイブリッドAFが使えるのも、初めてのシネマカメラとしてハードルを下げてくれる一因となりそうです。
ミラーレス一眼カメラのメーカーとして歴史あるSONY Eマウントは、レンズメーカー製まで含めて高性能なレンズが多くラインナップされているのも魅力の一つです。
SONY(ソニー) FX6
RED(レッド) KOMODO 6K
RAW記録 |
REDCODE RAW |
Log |
ー |
ダイナミックレンジ |
16+ストップ |
記録サイズ |
6144×3240(DCI 4K) |
マウント/センサーサイズ |
Canon(キヤノン)RF/スーパー35mm |
NDフィルター |
ー |
ハリウッド映画で使われる、正真正銘のデジタルシネマカメラのメーカーであるRED(レッド)の中にあって、KOMODOはギリギリアマチュアでも手が届く価格で人気の商品です。
レンズやバッテリー、ハンドルなどのパーツを併せて購入しなければならないので、本体価格プラスαのコストがかかりますが、REDが100万円以下で買えると考えれば、選択肢に加えるユーザーも少なくないと思います。4Kのデータがサクサク扱えるレベルのパソコンであれば、REDCODE RAWの扱いもそれ程ハードルの高いものでは無いようです。
オートフォーカスが現バージョンでもそこそこ使えるので、アップデートでRFレンズのオートフォーカスでの使用が出来るようになれば、価格以外は多くのユーザーが使えるマルチなカメラになるかもしれません。
RED(レッド) KOMODO 6K
まとめ
各メーカーから魅力的な機種が出そろいつつあるシネマカメラについて、特徴とおすすめ機種をまとめてみました。
1眼デジタルカメラやビデオカメラでは性能的に満足出来なくなった映像制作にこだわりたいユーザーなら、高いグレーディング耐性や使い勝手の良さを考え、やはりシネマカメラを選択したいところです。
一部の機種を除けば、まだまだ高額ではありますが、比較的コンパクトな機種が増えて来た事で、アマチュアでも、今後シネマカメラを使うユーザーが増えてくるのかもしれません。
Photo & Text by フジヤカメラ 北原