TAMRON (タムロン) SP 35mm F/1.4 Di USD (Model F045) の実写レビューです。
どの世界にも宿命のライバルがあるものです。読売ジャイアンツと阪神タイガース、アラン・プロストとアイルトン・セナ、アムロ・レイとシャア・アズナブル・・・そしてSIGMAとTAMRON。
SIGMAがArtの35mm f1.4を発売したのが7年前の2012年、高性能な定番と言っていいレンズとなっています。ライバルメーカーのTAMRONが、同じ土俵に新製品をぶつけて来ました。
冗談はさておき、優れたレンズメーカー同士がしのぎを削るのは、より良い製品の登場につながりますので、ユーザーとしては嬉しい限りです。
今回もTAMRONがライバルの性能について意識していないはずがありませんので、楽しみなテストになりそうです。
今回のテストボディはNikon Z7、Nikon史上最高画質をメーカーが公言するミラーレス一眼カメラです。
TAMRON (タムロン) SP 35mm F/1.4 Di USD (Model F045) は一眼レフ用のレンズですので、純正のマウントアダプターFTZを使ってカメラに装着しました。
Nikon Zシリーズ発売当初は、マッチングの不具合が報告されたTAMRONですが、SP 35mm F/1.4 Di USDはZシリーズとの対応も問題ない旨アナウンスされており、今回のテストでも動作不良などの不具合も無く、AFスピードなど良好な操作感でした。
折角のシーズンですので、あじさいまつりが開かれているお寺に、今回は潔く「紫陽花」狙いで撮影に出かけました。
SP 35mm F/1.4 Di USD を装着したZ7のファインダーを覗いた瞬間、レンズの「凄味」が伝わって来る気がしました。高性能である事がファインダー越しにもわかります。
前後のボケが非常に綺麗だという事も、要因の一つでしょう。
「紫陽花と~」という写真を撮るのに、お寺はとてもいいシチュエーションです。背景に五重塔を入れて撮りました。光を透かして、花だけでなく、葉のグリーンもみずみずしく綺麗です。
例えばポートレートで使う場合も、35mmという画角は、背景を広く取り込む事が出来ますので、撮影したシチュエーションを伝えやすい画角だと思います。
以前コンタックスのDistagon 35mm f1.4 を使っていた事があり、ボケる広角として、好きなレンズでした。
少し変わった形の紫陽花です。丸いおわん型のガクに、可愛らしい印象を受けます。
紫陽花は、様々な種類があり、見飽きません。背景に階段を入れたり、五重塔を入れたりと、工夫しながらイメージを膨らませて撮影が進められました。
準広角レンズの画角と、開放f1.4による大きな背景ボケは、画面を整理しやすく、単焦点レンズでありながら、多くの状況に対応出来る、という意味でもとても使い易かったです。
紫陽花ばかりだと、撮る方も飽きて来ます。せっかくお寺に来たので、別の被写体も撮りました。
山門の天井に取り付けてあった飾り(?)です。細かい彫刻と黄金で装飾されていて綺麗です。
背景を黒く落ち込ませて、被写体が引き立つ様に撮りましたが、よ~く見るとうっすらと天井の格子模様が見て取れます(モニターによっては見えないかもしれません)。
レンズのテストですが併せてZ7の優秀さに驚かされます。拡大して解像感を見てみます。
驚くべき解像感です。そして、解像感以上に、その質感の再現性に舌を巻きました。タムロンのレンズは柔らかい、と言われる事も多いですが、少なくとも SP 35mm F/1.4 Di USD については「柔らかい」というよりも、シャープで立体感に富み、質感描写に優れたレンズという印象です。
Nikon Z7 は、フルサイズミラーレスの中でもトップクラスの性能を持ったカメラですが、TAMRON (タムロン) SP 35mm F/1.4 Di USD なら、その性能を余すことなく活かせるでしょう。
凄いです。
山門の仁王像です。
手前の金網から覗いて撮りましたが、あえて金網が写るように、レンズから少し離して撮影しました。六角形の模様が不思議な効果を生んで、ちょっと面白い写真になりました。
開放f1.4だと、こんな工夫も出来て、楽しいですね。
先ほどの仁王像の手が印象的だったのでアップで撮りました。
グッと力を込めたこぶしが、やわらかい光につつまれて印象的です。ちょっとした光の加減で、見るものの印象が大きく変わるので、写真は面白いです。
木の質感や、こぶしの丸みが見事に再現されています。TAMRON (タムロン) SP 35mm F/1.4 Di USD は、こういった有機的なものの再現性も非常に高いレベルでこなします。
さて、紫陽花の写真に戻って来ました。
前後とも、ボケがとても綺麗なレンズなので、ボケを活かした写真を撮りたくなります。ボケの美しさで有名な、90mm F/2.8マクロと同様の設計思想でつくられている、というのも頷けます。
画面に入る色と合焦部分を少なくして被写体を引き立てる、そんな小技を利かせつつ撮影を進めます。
SP 35mm F/1.4 Di USD の最短撮影距離は0.3mです。特にマクロに強いというわけではなく、一般的な値ですが、今回の撮影で近接に不満が残る事はありませんでした。
近接でも素晴らしいボケ味は健在で、ファインダーを覗いていると楽しくなって来ます。
良いレンズは、ファインダーを覗いているだけでワクワクと楽しい気分になって、撮影にも熱がはいります。レンズが「道具」としての価値だけでなく「気持ち」にも作用するのを感じる瞬間です。
夕暮れが近づき、もみじの若葉が夕日に輝いていました。背景が黒っぽい寺院だったのと、f1.4で背景を大きくボカせた事で、緑の葉がより引き立つ写真に出来ました。
久しぶりに「超」高性能な単焦点レンズで撮影を行い、凄味すら感じる性能の高さに、とても満足なテスト撮影となりました。
撮影地に寺院を選んだので、ビールを飲むのも憚られ、残念ながら今日はしらふのまま撤収です。
メーカーが言うとおり「SP (Superior Performance)シリーズ40周年の節目に発売されるにふさわしい、最上級の描写力を持ったレンズ」でした。
年々デジタルカメラの性能が向上する中、その時その時で「最上級」も変化し続けています。5,000万画素近いモンスター級のデジタル一眼カメラが多数存在する中、確かに現時点での「最上級」を実現したレンズだと感じました。
TAMRON (タムロン) SP 35mm F/1.4 Di USD (Model F045) は、非常にシャープで高解像力なレンズですが、質感を忠実に再現する諧調、写真全体を美しく見せるボケ味の良さは、逆に2,000万画素クラスのミドルグレード機でも、このレンズの高い実力を活かせるアドバンテージと言えるでしょう。
何よりファインダーを覗いた瞬間から「いいレンズ」を使っている実感を味わえ、写真を撮るモチベーションがとても上がるレンズでした。
>>> TAMRON(タムロン)SP 35mm F/1.4 Di USD